かね)” の例文
新字:
かね此家こゝに居る頃、三七を殺すつもりで仕掛けて置いた、はりの上の鐵砲の火皿に、火をつけた線香を立てて、素知らぬ顏をして歸つた
ときかね校庭かうていやしなはれて、嚮導きやうだうつたいぬの、ぢてみづかころしたともひ、しからずとふのが——こゝにあらはれたのでありました。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そろへ與市にちがひなき由申ければ淡路守殿如何に勘兵衞其方儀かね怪敷あやしきかどこれあるにより取調とりしらべに及びし處海賊の與市に違ひなし眞直まつすぐに舊惡を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
將軍家のお聲懸りの利章を、忠之はどうすることも出來ぬが、かねいだいてゐた惡感情は消えぬのみか、かへつて募るばかりである。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
れから町人ちやうにんいへよりの歸途かへり郵便局いうびんきよくそばで、かね懇意こんい一人ひとり警部けいぶ出遇であつたが警部けいぶかれ握手あくしゆして數歩計すうほばかともあるいた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
よしなき者に心を懸けて、家の譽をも顧みぬほど、無分別の其方そちにてはなかりしに、扨はかねてより人の噂に違はず、横笛とやらの色に迷ひしよな
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
振り起しイザヤ他の酒樓に上りて此の憂悶を散ずべしかねこゝにて大盛宴を開くつもりならずや我輩つかれたりと云へどよく露伴太華の代理として三人分を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
市ヶ谷の殿樣にもかねて御心配をねがつて居りますれば、一應御相談をいたした方がよろしいかも知れませぬ。では、角助。もうよいから、行け、行け。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「どうか、こちらへ」と二人を空室に案内してかねて春三郎から頼んで置いた貸下宿の事を委細話した。それから又下宿屋を始めるに就ての心得も概略話した。
「わたしも、同じやうな事情で、息子と同居してをる婆アさんがやかましいのに困つてをりますので、あなたのこともかねて人ごとには思うてをりませんでした」
此儘此處に一夜でも過して行つたら初めてかねてからの奈智山らしい記憶を胸に殘して行くことが出來るであらう、今朝からのままでは餘りに悲慘である、などと思はれて來た。
熊野奈智山 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
坪井博士つぼゐはかせは、石田學士いしだがくし大野助手等おほのぢよしゆらともに、かね集合しうがふさしてある赤鉢卷あかはちまき人夫にんぷ三十餘名よめいとくして、いよ/\山頂さんちやう大發掘だいはつくつ取掛とりかゝり、また分隊ぶんたいして、瓢箪山西面ひようたんやませいめんに、なかばうづもれたる横穴よこあな
公方樣お聲掛りの家柄だ。この下手人げしゆにんを擧げなきや、土地の御用聞の顏が立たねえ。錢形の親分の引込思案はかねて承知の上だが、其處を
御新姐樣ごしんぞさままへへおあそばしたやうにえましたものでござりますから、かね胸充滿むねいつぱい申譯まをしわけをうか/\喋舌しやべつたでござります。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
經て長庵の家主の手に渡すに何事やらんと驚きつゝ家主は長庵方へ到りけるかくあらんとかねて覺悟の長庵は鉢卷はちまきして藥土瓶くすりどびんなぞ取散とりちら大夜具おほやぐ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
思ひの外なる御驚おんおどろききに定めてうわそらともおぼされんが、此願ひこそは時頼が此座の出來心できごゝろにてはつゆさふらはず、斯かる曉にはとかねてより思決おもひさだめし事に候。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
アウエリヤヌヰチはドクトルの廉潔れんけつで、正直しやうぢきるのはかねてもつてゐたが、しかれにしても、二萬ゑんぐらゐたしか所有もつてゐることゝのみおもふてゐたのに、くといては
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
追立おつたてて見ませうかと云ふ我手を振りて是を願ひ下げこゝにて晝餉をしたゝめしが雨はいよ/\本降となりしゆゑかねて梅花道人奉行となりて新調せしゴム引の合羽かつぱを取りいだし支度だけ凛々敷りゝしく此所こゝを出れば胸を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
その後へ玄龍先生は、かねて湯島にかこつて居た今の内儀の時代を入れ、母親のお市、先妻のお直も承知の上で、改めて女房の披露をした。
遺恨ゐこんに思ひ音信不通ふつうに仕つり其上に昌次郎夫婦をかねねらひ候と相見え柏原と申す所へ夫婦ふうふ罷越まかりこし候跡より付行日ぐれをはかり兩人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ほこらちかところ少年せうねんそうあり。かね聰明そうめいをもつてきこゆ。含春がんしゆん姿すがたて、愛戀あいれんじやうへず、柳氏りうしせい呪願じゆぐわんして、ひそか帝祠ていしたてまつる。ことばいは
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
重景が事、斯くあらんとはかねてより略〻ほぼ察し知りし瀧口なれば、さして騷がず、只〻横笛がことはしなく胸に浮びては、流石さすがに色に忍びかねて、法衣の濡るゝを覺えず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
紀久榮はこの恐ろしい問ひに對しても、かねて覺悟でもしてゐたやうに、たいして取亂した樣子もなく、少しばかりせき込んで受けるのです。
町内第一ちやうないだいいち古老こらうで、こんしろ浴衣ゆかた二枚にまいかさねた禪門ぜんもんかね禪機ぜんき居士こじだとふが、さとりひらいてもまよつても、みなみいて近火きんくわではたまらない。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
主人が岸へ這ひ上がらうとした時、かねて心得てゐる物置の中から、石突いしづきの附いた物凄いさをを取り出し、思ひきり上から突き落したに違ひない
がかりなくもは、くろかげで、晴天せいてんにむら/\といたとおもふと、颶風はやてだ。貴女あなた。……だれもおばあさんの御馬前ごばぜん討死うちじにする約束やくそくかねいらしい。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
御用ごようおもむきにあらず、其方達そのはうたちかねぞんずるごと豆州づしう御勝手許おかつてもと不如意ふによいにつき、此度このたび御改革ごかいかく相成あひな奉行ぶぎやう我等われら相談さうだんうへにて、もくなんぢ申付まをしつくるぞ
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
鳥冠とりかぶとの根はかねて庭から掘つて用意して居た筈だ。下女のお大がお勝手をあけると、お前はそれをなべはふり込み、自分が一番先に死ぬ氣で二杯も重ねた。
東京とうきやうへば淺草あさくさのやうなところだと、かねいて大須おほす觀音くわんおんまうでて、表門おもてもんからかへればいのを、風俗ふうぞく視察しさつのためだ、とうらへまはつたのが過失あやまちで。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
仔細しさいあつて本郷妻戀坂つまごひざかに別居していらつしやる若旦那のところへ屆けるつもりで、其處まで參りますと、かねてこの品を狙つて居る者の姿を見かけました。
片手業にお燗番かんばん八をかき退けると、かねて用意したらしい、木槌こづちを取つて、船底のせんを横なぐりに叩くのです。
し、なんぢところこゝろかなへり、かねもくをこそとおもひけれ、いまなんぢところによりて、愈々いよ/\かれ人材じんざいたしかめたり、もちゐてくにはしらとせむか、時機じきいまいたらず
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
長崎屋へ始終出入りして居たといふから、あの百味たんすの赤い印の附いたのを拔いて、かねて聞いた恐ろしい毒を少しばかり盜むのは何んでもないことだ
銭形平次捕物控:167 毒酒 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
はだしろこと、あの合歡花ねむのはなをぼかしたいろなのは、かねときのために用意よういされたのかとおもふほどでした。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
平次はかね懷中ふところに用意してゐる四文錢を勘定して、丑松少年のの上にチユウチユウタコカイと突いて見せます。
あき納戸なんど姿すがたを、猛然まうぜん思出おもひだすと、矢張やつぱ鳴留なきやまぬねここゑが、かねての馴染なじみでよくつた。おあき撫擦なでさすつて、可愛かはいがつた、くろ、とねここゑ寸分すんぶんたがはぬ。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「隨分澁つて居ましたが、この間店の床下から、二十兩も掘り出して貰つた、鹽町の上州屋周太郎が大乘氣で、かねて知り合ひの越前屋を口説き落したんで」
名物めいぶつかねく、——まへにも一度いちど神田かんだ叔父をぢと、天王寺てんわうじを、とき相坂あひざかはうからて、今戸いまどあたり𢌞まは途中とちうを、こゝでやすんだことがある。が、う七八ねんにもなつた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「道化の金太ですよ。道具調べの時、かねて盜んで置いた六助の匕首を綱の結び目に挾んだとしか思へませんよ」
今夜こんや……こなたひにく……をんなかげらうと、かねてつけねらうてるによつて、きびし用心ようじんふか謹愼つゝしみをしますやう、こなたつうじて、こゝろづけがしたかつたのぢや。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
曲者——彦徳の源太は、かねて用意したらしい竹竿たけざをを手に取つて、井戸の上から覗きました。中の平次が這ひ上がらうとすれば、一氣に突き落すだけの事です。
それが、ことばつがへた、かね約束やくそく暗號あひづででもあつたごとく、唯吉たゞきちおもはずかほげて、姿すがたた。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それからかね階下したの部屋から持つて來て置いた若旦那の短刀を、自分の膝と膝との間に突つ立て、切つ尖を自分ののどに當てたまゝ、力任せに首を前に下げた
もまだちない。かたち何處どこか、かげえない。かね氣短きみじかなのはつてる。こと御病氣ごびやうきなにかのおなぐさみらうものを、はやく、とおもふが見當みあたらない。蓑蟲みのむしこひしくまよつた。
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
寅藏はお糸にあやつられて、思ふ存分に動いたのだらう——最初の時寅藏は、練馬から飛んで來て、かねてお糸のこしらえて置いたおこのの僞手紙で與三郎をおびき出し
幼君えうくん御機嫌ごきげんうるはしく、「よくぞ心附こゝろづけたる。かねてよりおもはぬにはあらねど、べつしかるべきたはむれもなくてやみぬ。なんぢなんなりとも思附おもひつきあらばまをしてよ。」と打解うちとけてまをさるゝ。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大したことではないと言ふのが六十何兩、この浪人の裕福さは、かねて聞いて居りますが、八文の湯錢に困つたガラツ八は、顎を撫で乍ら平次と顏を見合せます。
晝間ひるまあのおはる納戸なんどいとつて姿すがた猛然まうぜん思出おもひだすと、矢張やつぱ啼留なきやまぬねここゑが、かねての馴染なじみでよくつた、おはる撫擦なでさすつて可愛かはいがつたくろねここゑ寸分すんぶんちがはぬ。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かねて約束があつたものか、稻荷橋下にもやつてゐる一さうの傳馬から、一人の船頭がヌツと身を起しました。
だん洒亞々々しやあ/\としたもので、やつとこな、と湯船ゆぶねまたいで、ぐづ/\/\とけさうにこしはうからくづみつゝ眞直まつすぐ小兒こども抱直だきなほして、片手かたて湯船ゆぶね縁越へりごしに、ソレかねくあらんと
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)