こずゑ)” の例文
にごれるみづいろへて極彩色ごくさいしき金屏風きんびやうぶわたるがごとく、秋草模樣あきくさもやうつゆそでは、たか紫苑しをんこずゑりて、おどろてふとともにたゞよへり。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
滿開の櫻のこずゑに、芝居の書割のやうな月が白々と掛つて、遠い花見の賑ひが、淺ましく淋しく、そしてうとましく響いて來るのでした。
銭形平次捕物控:167 毒酒 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
戸を明くれば、十六日の月桜のこずゑにあり。空色くうしよくあはくしてみどりかすみ、白雲はくうん団々だん/″\、月にちかきは銀の如く光り、遠きは綿の如くやわらかなり。
花月の夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
けれども一体どうしたのかあの温和おとなしい穂吉の形が見えませんでした。風が少し出て来ましたので松のこずゑはみなしづかにゆすれました。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
路傍みちばたの栗のこずゑなぞ、早や、枯れ/″\。柿も一葉を留めない程。水草ばかりは未だ青々として、根を浸すありさまも心地よく見られる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
凝然ぢつとしたしづかなつきいくらかくびかたむけたとおもつたらもみこずゑあひだからすこのぞいて、踊子をどりこかたちづくつての一たんをかつとかるくした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いつやらの暴風に漁船が一艘ね上げられて、松林の松のこずゑに引つかかつてゐたといふ話のある此砂山には、土地のものは恐れて住まない。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
欄干一つへだてた露台の向うには、広い庭園を埋めた針葉樹が、ひつそりと枝を交し合つて、そのこずゑに点々と鬼灯提燈ほほづきぢやうちんの火をかしてゐた。
舞踏会 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
つぼみとおもひしこずゑはな春雨しゆんうだしぬけにこれはこれはとおどろかるヽものなり、時機ときといふものヽ可笑をかしさにはおそのちいさきむねなにかんぜしか
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さまれる物から不二ふじの峯かすかにみえて上野谷中うへのやなかの花のこずゑ又いつかはと心ほそしむつましきかきりは宵よりつとひて舟に乗て送る千しゆと云所いふところにて船を
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
その見上げるばかりのこずゑの梢まで登り尽して、それでまだ満足出来ないと見える——その巻蔓は、空の方へ、身をもだえながらものぐるはしい指のやうに
みんなは、また唾をんだ。みんなの眼には、風のないとき、こずゑからゆつくり落ちる木の葉の様子が浮かんでゐた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
そして松の木も今は皆見事に大きくなり、こずゑの方に赤いはだを見せたりして仰ぎ見るばかりに堂々たるものとなつた。
(新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
松の内とて彼は常より着飾れるに、化粧をさへしたれば、露を帯びたる花のこずゑに月のうつろへるが如く、背後うしろの壁に映れる黒き影さへ香滴にほひこぼるるやうなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
吉野川よしのがはそばにある象山きさやまやまのま、すなはちそらせつしてゐるところのこずゑ見上みあげると、そこには、ひどくたくさんあつまつていてゐるとりこゑ、それがきこえる。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
こらへて居る中すで寅刻なゝつかねも聞え月はこずゑの間にあらはれ木の間/\も現々あり/\茶店さてんの中まで見えすくゆゑ安五郎は不※ふと此方こなた
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
空は何時しか晴れぬ、陰暦の何日いつかなるらん半ば欠けたる月、けやきの巨木、花咲きたらん如き白きこずゑかゝりて、かへりみ勝ちに行く梅子の影を積れる雪の上に見せぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そはわれいばらが、冬の間はかたく恐ろしく見ゆれども、後そのこずゑ薔薇しやうびの花をいたゞくを見 一三三—一三五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
文治元年九月ながつきの末に、かの寂光院へ入らせおはします。道すがらも四方よもこずゑの色々なるを、御覧じ過ごさせ給ふ程に、山陰やまかげなればにや、日もやうやう暮れかかりぬ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
山々の喬木たかききも春二月のころは雪にうづまりたるがこずゑの雪はやゝきえ遠目とほめにも見ゆる也。此時たきゞきるやすければ農人等のうにんらおの/\そりひきて山に入る、或はそりをばふもとおくもあり。
そのへんにも幾つかほこらがあり、種々の神仏しんぶつが祭つてあるらしいが、夜だからよくは分からない。老木のこずゑには時々木兎みみづく蝙蝠かうもりが啼いて、あとはしんとして何の音もしない。
仏法僧鳥 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ロミオ ひめよ、あのむす樹々きゞこずゑ尖々さき/″\をば白銀色しろがねいろいろどってゐるあのつき誓語ちかひけ……
こずゑなどに老若男女ほとんど全村の人を尽したかと思はるゝばかりの人数が、この山中に珍らしい喞筒ポンプの練習を見物する為めに驚くばかり集つて居るので、うまく行つたとては、喝采し
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
うめいて、紫色むらさきいろ雑木林ざふきばやしこずゑが、湿味うるみつたあをそらにスク/\けてえ、やなぎがまだあら初東風はつこちなやまされて時分じぶんは、むやみと三きやく持出もちだして、郊外かうぐわい景色けしきあさつてあるくのであるが
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
あいちやんはやはらかいこずゑけて、其首そのくびみ、半圓はんゑんえがきながらたくみに青葉あをばなかもぐらうとしました、あいちやんは此時このときまで、たゞ頂上てうじやうにのみあるものだとおもつてゐました
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
六里の山道を歩きながら、いくら歩いてもなぎさの尽きない細長い池が、赤いはだの老松の林つゞきの中から見え隠れする途上、こずゑの高い歌ひ声を聞いたりして、日暮れ時分に父と私とはY町に着いた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
南さんの家は薄黄うすきの高い土塀の外を更に高い松の木立がぐるりと囲つて居ました。また庭の中には何蓋松なんがいまつとか云ふ絵に描いたやうな松の木や、花咲く木のこずゑの立ち並んで居るのが外から見えました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
まらうどあるじもともにゑひごこちなるとき、真女子まなごさかづきをあげて、豊雄にむかひ、八八花精妙はなぐはし桜が枝の水に八九うつろひなすおもてに、春吹く風を九〇あやなし、こずゑ九一たちぐくうぐひす九二にほひある声していひ出づるは
うつとして曇天どんてんのしたに動かざりこずゑのさくら散り敷けるさくら
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
待つ人もあらじと思ふ山里のこずゑを見つつなほぞ過ぎうき
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
山なるは森厳にして雲湧けりこずゑかぐろき杉の群立むらだち
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
からすむくこずゑに日は入れど、君は来まさず。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
窓のこずゑに上る若葉かな
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
思ひ亂れて見るこずゑ
北村透谷詩集 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
煤煙ばんえんで枯されたこずゑ
南洋館 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
そのこずゑとも見えざりし
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こずゑのしづく、夕栄ゆふばえも。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
松のこずゑかぜがふく。
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
空を す こずゑ
秋の瞳 (新字旧仮名) / 八木重吉(著)
雪難之碑せつなんのひ。——みねとがつたやうな、其處そこ大木たいぼくすぎこずゑを、睫毛まつげにのせてたふれました。わたしゆきうもれてく………身動みうごきも出來できません。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さうしてはまたまばらな垣根かきねながみじかいによつてとほくのはやしこずゑえた山々やま/\いたゞきでゝる。さわやかなあきくしてからりと展開てんかいした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
小林君が洋傘かうもりで指さしたはうを見ると、成程なるほどもぢやもぢや生え繁つた初夏しよか雑木ざふきこずゑが鷹ヶ峯の左の裾を、鬱陶うつたうしく隠してゐる。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その昆布こんぶのやうな黒いなめらかなこずゑの中では、あの若い声のいゝ砲艦が、次から次といろいろな夢を見てゐるのでした。
烏の北斗七星 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「家の中や庭を搜してもなかつた筈でございます。あの杉のこずゑに、紙鳶絲たこいとで釣り上げてある包みが一つ、葉と葉の間から、僅かに見えて居ります」
今日やうやく一月のなかばを過ぎぬるに、梅林ばいりんの花は二千本のこずゑに咲乱れて、日にうつろへる光は玲瓏れいろうとして人のおもてを照し、みちうづむる幾斗いくと清香せいこうりてむすぶにへたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
就中わけてももろいのは銀杏いてふで、こずゑには最早もう一葉ひとはの黄もとゞめない。丁度其霜葉しもばの舞ひ落ちる光景ありさまを眺め乍ら、廊下の古壁に倚凭よりかゝつて立つて居るのは、お志保であつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
山々の喬木たかききも春二月のころは雪にうづまりたるがこずゑの雪はやゝきえ遠目とほめにも見ゆる也。此時たきゞきるやすければ農人等のうにんらおの/\そりひきて山に入る、或はそりをばふもとおくもあり。
されどはなはだしくたわむにあらねば、こずゑの小鳥その一切のわざを棄つるにいたらず 一三—一五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
はづし給ふとは卑怯ひけふなりと手引袖引萬八樓の棧橋さんばしより家根船に乘込のりこませしが折節揚汐あげしほといひ南風なれば忽ち吾妻橋をも打越え眞乳まつちしづんでこずゑ乘込のりこむ彼端唄かのはうたうたはれたる山谷堀より一同船を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
狂風一陣こずゑをうごかしてきたる気の立つた折には、父様とうさん母様かあさん兄様にいさんも誰れも後生ごしよう顔を見せて下さるな、とて物陰にひそんで泣く、声ははらわたを絞り出すやうにて私が悪う御座りました
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)