)” の例文
あゝ孤獨こどく落魄らくばくこれが僕の運命うんめいだ。僕見たいなものが家庭を組織そしきしたら何うだらう。つまにはなげきをには悲しみをあたへるばかりだ。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
床柱とこばしらけたる払子ほっすの先にはき残るこうの煙りがみ込んで、軸は若冲じゃくちゅう蘆雁ろがんと見える。かりの数は七十三羽、あしもとより数えがたい。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかも、日頃忠実であって、深い信頼をけていた由蔵が、僅々きんきんの時間に、場所もあろうにこんな所に屍骸と化してよこたわっているとは!
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「義さん」と呼吸いきせわしく、お香は一声呼びけて、巡査の胸にひたいうずめわれをも人をも忘れしごとく、ひしとばかりにすがり着きぬ。
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くりけた大根だいこうごかぬほどおだやかなであつた。おしなぶんけば一枚紙いちまいがみがすやうにこゝろよくなることゝ確信かくしんした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いま敵國てきこくふかをかして、邦内はうない騷動さうどうし、士卒しそつさかひ(一七)暴露ばくろす。きみねてせきやすんぜず、くらうてあぢはひあましとせず。百せいめいみなきみかる。
空にかれる太陽は、今にもその身に突き当たる恐るべきものの近寄っている事を知るや知らずや、つねの如くやわらかに輝いている。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
拜殿の欄間らんまには、土佐風とさふうゑがいた三十六歌仙かせんが行儀よくつらねられ、板敷の眞中まんなかには圓座ゑんざが一つ、古びたまゝに損じては居なかつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
請ふ告げよ、人その破れる誓ひの爲、汝等の天秤はかりくるも輕からぬほど他の善をもて汝等にあがなひをなすことをうるや。 一三六—一三八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ヂュリ 誓言せいごんにはおよびませぬ。また誓言せいごんなさるなら、わたしが神樣かみさまともおもふおまへをおけなされ、すればお言葉ことばしんじませう。
陶器の手焙てあぶりのことを、古い人は“びんけ”とよんだり、ただ“夜学”といったりした。夜学の友は、これにまさる物はない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正面壁上に黒リボンをおおうて生けるがごとき故殿下の愛らしき印度王族姿の肖像を掲げ、その肖像の右肩に小さな花輪をけて
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
落日が家の瓦に半分かり、電柱の肌が黄色にそまっている。ぞわぞわがたがたと響きわたる騒音の中に、微かなおとがする。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
青木愛之助が、如何いかに刺戟にかつえていたからとて、又彼がどれ程の賞金をけたとて、金ずくで自由になる事柄ではないのだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ハヽヽヽヽ」と剛造はときは高笑ひ「商売にしてからが、矢ツ張り忠君愛国と言つたやうな流行の看板をけて行くのサ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
跡部は荻野等を呼んで、二にんとらへることを命じた。その手筈てはずはかうである。奉行所に詰めるものは、づ刀をだつして詰所つめしよ刀架かたなかけける。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼はともに腰をけて女と無言の微笑を交わしていたが、ふと眼を舟の左側の水の上にやると一尾の大きななまずが白い腹をかえして死んでいた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
昔は京都ではこの木を獄舎の門にえてあって、罪人の首をってこれにけたことが、『源平盛衰記』その他の軍書に何箇所も見えている。
アテヌキという地名 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
更に薏苡と題する詩の中には、「草木各〻よろしきあり、珍産南荒にならぶ。絳嚢茘枝をけ、雪粉桄榔をく」といふ句がある。
T君は朝鮮飴一切れを出して遍路にやった。遍路はそれを押しいただき、それを食べるかと思うと、胸にけてある袋の中に丁寧ていねいにしまった。
遍路 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
昼間ひるまくしこしらへ、夜だけ落語家はなしかでやつて見ようと、これから広徳寺前くわうとくじまへの○○茶屋ぢややふのがござりまして、其家そのいへ入口いりぐち行燈あんどんけたのです。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
そばにはしろきれせた讀經臺どきやうだいかれ、一ぱうには大主教だいしゆけうがくけてある、またスウャトコルスキイ修道院しうだうゐんがくと、れた花環はなわとがけてある。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
たちま全山ぜんざん高等野次馬かうとうやじうまは、われおくれじと馳付はせつけてると、博士はかせわらひながら、古靴ふるぐつ片足かたあしを、洋杖すてつきさきけてしめされた。
れがあんこのたねなしにつていまからはなにらう、直樣すぐさまかけてはいたけれど中途なかたびきやくことはれない、うしような、と相談そうだんけられて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
けれど、すべてのうつくしい婦人ふじんは、弱々よわよわしかったように、きさきくびのまわりにけられた、あおいし首飾くびかざりのおもみをささえるにえられないほどでした。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
無論この川で家鴨あひる鵞鳥がちょうがその紫の羽や真白な背を浮べてるんですよ。この川に三寸厚サの一枚板で橋がかっている。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
二人は売場を離れて、仕方なしに線路ぞいのさくについて泥溝どぶくさい裏町をしばらく歩いた。ポプラの若葉が風におののいて、雨雲が空にかっていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
清三が火鉢のそばにいると、そばの小路こうじに、わいしょわいしょという騒がしいけ声がして、突然獅子がはいって来た。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そこには虎の皮と狼の皮があって、それを柱にけたり敷いたりしてあったが、他に坐るような腰掛もねだいもなかった。
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
ムシロ内々読マレルヿヲ覚悟シ、期待シテイタノカモ知レナイ。ソレナラバナゼ抽出ニ鍵ヲケタリマタソノ鍵ヲアチラコチラヘ隠シタリシタノカ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ふらふらと歩く姿は、夢遊病患者のようで、やさしい肩から垂れたきぬが、空の光で透き通るほど白く見えました。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこでさかずきかわして、つて、今日までもしずまつておいでになります。これらの歌は神語かむがたりと申す歌曲かきよくです。
あすこのかべけてあるをごらんなさい。のこつてゐた土臺どだいくひから想像そう/″\して湖上住居こじようじゆうきよ小屋こやいたものであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
こうした珠数でも胸の上にけて幻の栖所すみかのように今の生活を思うような心と、夜もられぬほど血のくような心とが、彼には殆ど同時にあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
太陽をける為にあるのである。太陽は何の為にあるか。我々蛙の背中を乾かす為にあるのである。従つて、全大空たいくうは我々蛙の為にあるのではないか。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たれでも左樣さうだが、戰爭いくさ首途かどでとか、旅行たび首途かどですこしでもへんことがあれば、多少たせうけずにはられぬのである。
何か面白いことはないか、と、褒美をけて考え出したのが、この頃の子供達がやる「眼隠し鬼」という、およそ通や粋とは縁の遠い遊びだったのです。
お婆さんの部屋の長押なげしにはその人の肖像が額にしてけてある。私は一言か二言の中にその人のおもかげや生涯が彷彿ほうふつとしてくるような言葉をきくのが好きだ。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
成吉思汗ジンギスカン (独り言のように)長年想いをけた女が来る晩に、いくさなどと、そ、そんな殺風景なことができるか。
朝から晩まで、かまど自在鉤じざいかぎに鍋が一つかっている。冬は、湯がたくさんいるので、この鍋が幾度となく、いっぱいになったり、からっぽになったりする。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
天と地との間にかるところの、その法則の上におのれの魂がつくられているところの、善悪の意識そのものを否定せんとするのは近代人の自殺である。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
御殿の様な奥まった広い座敷のとこへでもこれを立てけておいて御覧なさい、随分ずいぶんいやなかんじのするものだ。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
ついこの間までうららかに秋の光の輝いていたそちらの方の空には、もういつしか、わびしい時雨雲しぐれぐもが古綿をちぎったように夕陽ゆうひを浴びてじっとかっている。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
紀昌は再び家にもどり、肌着はだぎ縫目ぬいめからしらみを一匹探し出して、これをおのかみの毛をもってつないだ。そうして、それを南向きの窓にけ、終日にららすことにした。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
と言い、皆も縫いさした物をまとめて几帳きちょうの上にけたりなどして、そのままそこへうたた寝のふうに横たわってしまった。姫君も少し奥のほうへはいって寝た。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ここで早川の本流と別れて、この沢に沿うてなお深く入り込む、岸が尽きて危うき梯子はしごけたところもある。渓の上にただ一本の木を橋に渡したところもある。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
熔巖の流れ行く先なる葡萄の幹に聖母マドンナの像をけたるものあり。こはその功徳くどくもて熔巖の炎を避けんとのこゝろしらひなるべし。されど熔巖はその方嚮はうかうを改めず。
百姓がときどきこれを真の枝と間違えて土瓶などをけると、もとより柔かい虫のことゆえ、グニャリと曲がり、そのため往々土瓶をってしまうことがあるので
自然界の虚偽 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
終堆石しゅうたいせきつるの切れた半弓を掛けたように、針葉樹帯の上に、鮮明にかっているのみならず、そこから流下した堆石は、累々として、山麓さんろくに土堤を高く築いている。
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
その鳴ると同時、おばアさんからはうらみ抜かれて、そして今息を引きけている嫁の寝ている天井の一方にあたって、鼠ともつかずいたちともつかぬものの足音が響いた。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)