さかひ)” の例文
而も名辞以前の「面白いから面白い」さかひのことは、その面白さを人は人為的に増減することは困難だから茲に宿命性が在ると云へる。
芸術論覚え書 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
いま敵國てきこくふかをかして、邦内はうない騷動さうどうし、士卒しそつさかひ(一七)暴露ばくろす。きみねてせきやすんぜず、くらうてあぢはひあましとせず。百せいめいみなきみかる。
おなとき賈雍將軍かようしやうぐん蒼梧さうごひと豫章よしやう太守たいしゆとしてくにさかひで、夷賊いぞくあだするをたうじてたゝかひたず。つひ蠻軍ばんぐんのためにころされかうべうばはる。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
エニンは昔のエンガンニム、海抜約六百五十フイート、人口二千左右さう小邑せういふ、サマリヤの山尽きしもガリラヤの平原起る所のさかひにあり。
九州きゆうしゆう山陰さんいん山陽地方さんようちほう畿内諸國きないしよこくやまひくいので暖帶林だんたいりん上部界じようぶかい上部じようぶはすべて頂上ちようじようまでこのたいぞくし、四國しこくでは六千五百尺ろくせんごひやくしやくのところをさかひとし
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
レモンを日に焼けぬまじなひに買ひ申しさふらへど、おそらく君いまさぬ日にさるたしなみを続けべしと思はれぬさかひさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
用人の川前市助に案内されて、いきなり庭へ入つて行くと、さかひの塀の切戸を開けて、一歩酒屋の庭へ行つて見ました。
かれの今までの経験は、何ももその「偶然」で解釈された。考へて不思議のさかひに至ると、「これも偶然の事実だ。」と考へて、そして片を附けた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
波浪を蹴つて進んで行く汽船の機関の一呼吸ひとこきふする響毎ひびきごとに、自分の心は其身そのみと共に遠い未知のさかひに運ばれて行く。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
六時をさかひにして昼夜の花に為切しきりがつく、お糸さんは決して六時前にはあちらへ案内をしなかつた。客にむだなおあしを使はせないやうに考へてるからである。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
ひとり探景の詩文のみに就きて云ふにあらず、すべての文章がしんに入ると神に入らざるとは、即ち此さかひにあり。
松島に於て芭蕉翁を読む (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
菩提樹下と訳するときは、幽静なるさかひなるべく思はるれど、この大道かみの如きウンテル、デン、リンデンに来て両辺なる石だゝみの人道を行く隊々くみ/″\の士女を見よ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
これ千年の深林をめつし、人力を以て自然に打克うちかたんが為めに、殊更に無人ぶじんさかひを撰んで作られたのである。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
吾がために教をのこせとあるに、叔座いふ。一三一商鞅しやうあう年少しといへども一三二奇才きさいあり。きみし此の人を用ゐ給はずば、これを殺しても一三三さかひを出すことなかれ。
こやしをのする輴哥そりあり、これをのするほどにちひさく作りたる物なり。二三月のころも地として雪ならざるはなく、渺々びやう/\として田圃たはた是下このしたりて持分もちぶんさかひもさらにわかちがたし。
三四郎は画室へみちびかれた時、かすみなかへ這入つた様な気がした。丸卓まるテーブルひぢたして、此しづかさのまささかひに、はばかりなき精神こゝろを溺れしめた。此しづかさのうちに、美禰子がゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
これが、此の廢殘はいざんさかひにのさばつてもつとも人の目を刺戟しげきする物象ぶつしやうだ………何うしたのか、此の樹のこずえあかいと一筋ひとすじからむで、スーツと大地だいちに落ちかゝツて、フラ/\やはらかい風にゆらいでゐた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
馬籠まごめむらはづれには、すぎえたさはさかひにしまして、べつたうげといふ名前なまへちいさなむらがあります。このたうげに、馬籠まごめに、湯舟澤ゆぶねざはと、それだけのさんそん一緒いつしよにして神坂村みさかむらひました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
併し其のさかひに至るには愛かしやかを體得せねばならぬ、然らざれば三阿僧あそう祗劫ぎごふの間なりとも努力せねばならぬ。愛の道、捨の道を此の册には説いて居らぬ、よつて猶且努力論と題してゐる。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
意富本杼おほほどの王が妹、忍坂おさか大中津おほなかつ比賣の命に娶ひて、生みませる御子、木梨きなしかるの王、次に長田の大郎女おほいらつめ、次にさかひの黒日子の王、次に穴穗あなほの命、次に輕の大郎女、またの御名は衣通そとほしの郎女
飛騨ひだ信濃しなのさかひはし峻嶺しゆんれいを「日本にほんアルプス」などと得意顏とくいがほとなへ、はなはだしきは木曾川きそがはを「日本にほんライン」といひ、さらはなはだしきは、そのある地點ちてんを「日本にほんローレライ」などといつたものがある。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
人このうちに立ちて寥々冥々りようりようめいめいたる四望の間に、いかでの世間あり、社会あり、都あり、町あることを想得べき、九重きゆうちようの天、八際はつさいの地、始めて混沌こんとんさかひでたりといへども、万物いまことごと化生かせいせず
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ぽかりといたら、あさかまへたやうに硝子ガラスそとからわたしのぞいてゐた。ゆめうつゝさかひごろに、ちかくで一ぱつ獵銃れふじうおとひゞいたやうだつけ、そのひゞきで一そうあたりがしづかにされたやうなあさである。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
それは、行きかへりの旅行もなく、イングラム・莊園パアクへの訪問もないことであつた。確かに隣の州のさかひにある莊園までは二十マイルは隔つてゐる。しかし熱烈な愛人にとつてはそんなこと位何であらう。
かほばせめでたく膚かちいろなる裸裎らていの一童子の、傍に立ちてこれを看るさま、アモオルの神童に彷彿はうふつたり。人の説くを聞くに、このさかひさむさを知らず、數年前祁寒きかんと稱せられしとき、塞暑針は猶八度を指したりといふ。
あかあかとにごれる海と黯湛かぐろくも澄みたる海とさかひをぞする
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
春まさに国のさかひの大き河氷とどろけば冬果てしなり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
去年こぞとやいはむ今年とや年のさかひもみえわかぬ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
なん御覽ごらんじてなんとおうらみなさるべきにやぎしゆき邂逅かいごうふたつなき貞心ていしんうれしきぞとてホロリとしたまひしなみだかほいまさきのこるやうなりさりながらおもこゝろ幽冥ゆうめいさかひにまではつうずまじきにや無情つれなかなしく引止ひきとめられしいのち
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わたづみさかひらす。さればこの日
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
幽渺さかひ窮みなし
天地有情 (旧字旧仮名) / 土井晩翠(著)
田圃たんぼみづうみにならぬが不思議ふしぎで、どう/\とになつて、前途ゆくてに一むらやぶえる、それさかひにしておよそ二ちやうばかりのあひだまるかはぢや。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「さうですな。すつかり感心させられて了ひました。とても、私達にはあのさかひはまだわからない。普通の催眠術などと言ふものよりはもつとぐつと奥ですな。」
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
何故なれば類推なるものは、先に云ふ「面白いから面白いさかひ」にもともとあるものではないから、例へば詩に於ては語が語を生み、行が行を生まなければならぬ。
芸術論覚え書 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
日頃あるにかひなき自分をば慰めいたはり、教へさとしてくれるすべての親しい人達から遠く離れて全く気儘になつた一身をば偶然たま/\かうした静な淋しいさかひに休息させると
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
平次はさう言はれて二軒長屋のさかひの壁を見ました。成程多の市の部屋の柱寄り、丁度疊から五六寸上が、向うからこはされたやうに、ポコリと土が落ちて居るのです。
こやしをのする輴哥そりあり、これをのするほどにちひさく作りたる物なり。二三月のころも地として雪ならざるはなく、渺々びやう/\として田圃たはた是下このしたりて持分もちぶんさかひもさらにわかちがたし。
それおごりをもて治めたる世は、往古いにしへより久しきを見ず。人の守るべきは倹約なれども、一五二過ぐるものは卑吝ひりんつる。されば倹約と卑吝のさかひよくわきまへてつとむべき物にこそ。
其癖そのくせかれ性質せいしつとして、兄夫婦あにふうふごとく、荏苒じんぜんさかひ落付おちついてはゐられなかつたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ややねむりが浅いさかひへ帰つて来た頃、良人をつとたれかとしきりに話して居た。目をいても見たが、良人をつとと並んでむかふ側に黒い人が一人居るのを知つて居た。汽車が徐行しかかつたと思つた時
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
平八郎は格之助のおくがちになるのを叱り励まして、二十二日の午後に大和やまとさかひに入つた。それから日暮に南畑みなみはたで格之助に色々な物を買はせて、身なりを整へて、駅のはづれにある寺に這入はひつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
蛇おほく住める寺ありがくの文字「恩沾無涯おんてんむがい」はくにさかひせず
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
わらべどち憎むさかひ切崖きりがけは陸橋がかかり椿花むら
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
去年こぞとやいはむ今年とや年のさかひもみえわかぬ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
已にサマリヤのさかひに入れるなり。
のぞくと、やまさかひにした廣々ひろ/″\としたにはらしいのが、一面いちめん雜草ざつさうで、とほくにちひさく、こはれた四阿あづまやらしいものの屋根やねえる。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
運不運ではあり、幸不幸ではあるけれども、それ以上に生の力が、盲目の生の力が肯定されてゐるではないか。生死を問題にしてはゐられないさかひがあるではないか。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「氣のついたことがあつたら、皆んな話してくれ。親の敵を討てるか討てないかのさかひぢやないか」
身内みうち拭ひる時、前の窓より外なる波に月光のひたひたと宿れるさまを見さふらふては、さすがに今あるさかひの面白からざるにもあらず、絵の中のおのれかなど月並なる事をも思ふ程にてさふらひき。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
御米およねひさぶり綿わたつたおもいものをてゝ、はだあかれないかる氣持きもちさわやかにかんじた。はるなつさかひをぱつとかざ陽氣やうき日本にほん風物ふうぶつは、さむしい御米およねあたまにも幾分いくぶんかの反響はんきやうあたへた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)