まづ)” の例文
あつくして問るべしまづ第一に天一坊の面部めんぶあらはれしさうは存外の事をくはだつる相にて人を僞るの氣たしかなり又眼中に殺伐さつばつの氣あり是は他人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
風呂場にれば、一箇ひとりの客まづ在りて、燈点ひともさぬ微黯うすくらがり湯槽ゆぶねひたりけるが、何様人のきたるにおどろけるとおぼしく、はなはせはしげに身を起しつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それは唯今詳しい事は申し上げてゐる暇もございませんが、主な話を御耳に入れますと、大体まづかやうな次第なのでございます。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私は博文館で懲り/″\してゐますから早速辯護士を頼んで掛合つて貰ひまづ今日までのところでは別に損害は受けてゐません。
出版屋惣まくり (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
つまはおみつつて、今歳ことし二十になる。なにかとふものゝ、綺緻きりやうまづ不足ふそくのないはうで、からだ発育はついく申分まをしぶんなく、どうや四釣合つりあひほとん理想りさうちかい。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
飛衞ひゑいいにしへるものなり。おなとき紀昌きしやうといふもの、飛衞ひゑいうてしやまなばんとす。をしへいはく、なんぢまづまたゝきせざることをまなんでしかのち可言射しやをいふべし
術三則 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
友はまづわが衣のけがれたるを脱がしめ、わが旅の汗を風呂に流がさしめぬ。われはいかに喜びてその清き風呂に浴し、その厚き待遇に接したりけむ。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
先の石段を下りるや若き女はまづ僕を乘らして後、もやひを解いてひらりと飛び乘り、さも輕々と櫓をあやつりだした。少年こどもながらも僕は此女の擧動ふるまひに驚いた。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
だが父樣はどうして靜夫樣と御知りなすつたのだろふ、かねしつて居て、知ている所か私柄と、いやまて思は思をうんで心經の高ぶつて居今、まづ何事も胸にと
うづみ火 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
『ああ、朱雲からだ!』と自分は思はず声を出す。裏を返せば、『岩手県岩手郡S——村尋常高等小学校内、新田白牛様』とまづ以て真面目な行書である。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
養竹啓。今日は駿河路と奉摟指候。定而さだめて不二は大きからうと奉存候。御上おんかみ益御きげん能奉恐悦候。大木斎兵衛歿す。木挽町まづは居なりの由、路考半分すけ也。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
地気上騰のぼること多ければてん灰色ねずみいろをなして雪ならんとす。くもりたるくも冷際れいさいいたまづ雨となる。此時冷際の寒気雨をこほらすべきちからたらざるゆゑ花粉くわふんしてくだす、これゆき也。
拝見はいけんだけおほけられてくださいましとつて、まづかしらからさきけ、それからふちを見て、目貫めぬきからうも誠におさしごろに、さだめし御中身おなかみ結構けつこうな事でございませう
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
いかさま、まづ第一木彫きぼりの人形か、其次は………イヤ中店なかみせのおもちやを一手買占もできるだらうな。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
召物めしものれますとふを、いゝさまづさせててくれとて氷嚢こほりぶくろくちひらいてみづしぼ手振てぶりの無器用ぶきようさ、ゆきすこしはおわかりか、兄樣にいさんつむりひやしてくださるのですよとて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まづ丹田たんでんに落つけ、ふるふ足を踏しめ、づか/\と青木子の面前にすゝみ出でゝ怪しき目礼すれば、大臣は眼鏡の上よりぢろりと一べつ、むつとしたる顔付にて答礼したまふ。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
心を留むるとにはあらざれど、何としも無く猶見てあるに、やがて月の及ばぬ闇の方に身を入れたれば定かには知れぬながら、此御堂に打向ひて一度はまづ拝み奉り、さて静〻と上り来りぬ。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
吉之助西郷隆盛翁ハ、先日土佐ニ行、老侯山内容堂エツし候所、実ニ同論ニて土老侯も三月十五日までに大坂まで被出候よし、薩侯にも急〻大坂まで参り土老と一所に京方に押入、まづ日州の大本を立候との事
それで時子を杉本さんに任せて、一まづ明けといたうちに帰ることにした。
秋は淋しい (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
たとひ潰倒くわいたうしてもひと生命せいめい危害きがいあたふることはまづないといつてもよい。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
他人に物を云ひかける時にはまづ自分から名を名乗るべきだ。
祖母の教訓 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「いや、まづないな」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ひそめあの御方の儀に付ては一朝一夕いつてういつせきのべがたしまづ斯樣々々かやう/\の御身分の御方なりとてつひに天一坊と赤川大膳だいぜんに引合せすなはち御墨付すみつきと御短刀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
まづかう云ふ考でこの商売に入つたのでありますから、実を申せば、貴方の貸して遣らうと有仰おつしやる資本は欲いが、人間の貴方には用が無いのです
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
まづ第一に何故なぜ大殿様が良秀の娘を御焼き殺しなすつたか、——これは、かなはぬ恋の恨みからなすつたのだと云ふ噂が、一番多うございました。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
おもはず飛上とびあがつて総身そうしんふるひながら大枝おほえだしたを一さんにかけぬけて、はしりながらまづ心覚こゝろおぼえやつだけは夢中むちうでもぎつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あられの如き間投詞かんたうしの互にかはされたる後、すゝぎの水は汲まれ、草鞋わらじがれ、其儘奧のへやに案内せられたるが、我等二人はまづ何を語るべきかを知らざりき。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
親類の顔に美くしきも無ければ見たしと思ふ念もなく、裏屋の友達がもとに今宵約束も御座れば、一まづいとまとしていづれ春永に頂戴ちやうだいの数々は願ひまする、折からお目出度めでたき矢先
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まづのし昆布を出す。浴後昼食をはつて、先当地之産土神うぶすながみ下之御霊しものごりやうへ参詣、(中略)北野天満宮へ参詣、(中略)貝川橋を渡り、平野神社を拝む。境内桜花多く、遊看のともがら男女雑閙ざつたうす
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それとも此様こんなのが実際じつさい幸福かうふくなので、わたしかんがへてゐたことが、ぶんぎたのかもれぬ。が、これで一しやうつゞけばまづ無事ぶじだ。あつくもなくつめたくもなし、此処こゝらが所謂いはゆる平温へいおんなのであらう。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そこでまづ洋服から靴まで、日頃ほしいと思つてゐたものを買ひ揃へて身なりをつくり、毎日働きに行つた先々さき/″\の闇市をあさつて、食べたいものを食べ放題、酒を飮んで見ることもあつた。
羊羹 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
まづ此方こちらへと、鑑定めきゝをしてもらつもりで、自慢じまん掛物かけもの松花堂しやうくわだう醋吸すすひせいを見せるだらう、掛物かけものだ、箱書はこがき小堀こぼりごんらうで、仕立したてたしかつたよ、天地てんち唐物緞子からものどんすなか白茶地しらちやぢ古金襴こきんらんで。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
錢屋方へつかはさる兩人の與力は旅館に到り見るに嚴重げんぢうなる有樣なれば粗忽そこつの事もならずとまづ玄關げんくわんに案内をこひ重役ぢうやくに對面の儀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
が、その自分も無暗に音楽会を聞いて歩いただけで、鑑賞は元より、了解する事もすこぶる怪しかつた。まづ一番よくわかるものは、リストに止めをさしてゐた。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
貫一は彼をて女をぬすみてはしる者ならずや、とまづすいしつつ、ほ如何にやなど、飽かず疑へる間より、たちまち一片の反映はきらめきて、おぼろにも彼の胸のくらきを照せり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その流るゝやうな涼しい光はまづ第一に三峯みつみね絶巓いたゞきとも覚しきあたりの樹立こだちの上をかすめて、それから山の陰にかたよつて流るゝ尾谷の渓流には及ばずに直ちに丘のふもとの村を照し
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
是非お迎ひにとならば老僕おやぢが参らん、まづ待給へと止めらるゝ憎くさ、真実まことは此雪にくこそと賞められたく、是非に我が身行きたければ、其方は知らぬ顔にて居よかしと言ふに
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
次に「清右衞門樣まづはどうやらかうやら江戸に御辛抱の御樣子故御案じ被成間敷候なさるまじくそろ云々しか/″\と云ふ一節がある。此清右衞門と云ふ人の事蹟は、棠園さんの手許でもなほ不明のかどがあるさうである。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
まづもつて、修善寺しゆぜんじくのに夜汽車よぎしや可笑をかしい。其處そこ仔細しさいがある。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
詩は何よりもまづ音楽的ならむことを。ポール、ヴヱルレーヌ
偏奇館吟草 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
ただし、万一しるし洩れも有之候節は、後日再応さいおう書面を以て言上仕る可く、まづは私覚え書斯くの如くに御座候。以上
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
まづ最初に小さい風情ふぜいある渓橋、そのほとりに終日動いて居る水車、婆様ばあさん繰車いとぐるまを回しながら片手間に商売をして居る駄菓子屋、養蚕やうさんの板籠を山のごとく積み重ねた間口の広い家
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
いゝさまづさせて見てくれろとて氷袋の口を開いて水を搾り出す手振りの無器用さ、雪や少しはお解りか、兄樣がつむりを冷して下さるのですよとて、母の親心付れども何の事とも聞分ぬと覺しく
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
(中略)三八は身ごしらへして、娘うちつれ出でにける。名にしおふ難波なには大湊おほみなとまづ此所ここへと心ざし、少しのしるべをたずね、それより茶屋奉公にいだしける。
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
自分の眼にはまづけむりこもつた、いや蒸熱むしあつい空気をとほして、薄暗い古風な大洋燈おほランプの下に、一場のすさまじい光景が幻影まぼろしの如く映つたので、中央の柱の傍に座を占めて居る一人の中老漢ちゆうおやぢ
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
いいさまづさせて見てくれろとて氷袋の口を開いて水をしぼり出す手振りの無器用さ、雪や少しはお解りか、兄様にいさんつむりを冷して下さるのですよとて、母の親心づけれども何の事とも聞分ききわけぬと覚しく
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その障子の方を枕にして、寂然じやくねんと横はつた芭蕉のまはりには、まづ、医者の木節もくせつが、夜具の下から手を入れて、間遠い脈をりながら、浮かない眉をひそめてゐた。
枯野抄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
わが友はこの福島町なる奇應丸きおうぐわん本舖ほんぽ高瀬なにがしの家にとゞまれりと聞くに、町にるやいな、とある家に就きてまづその家の所在を尋ねしに、朴訥ぼくとつなる一人の老爺らうやわざ/\奧より店先まで出で來りて
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
なんとせんさて人妻ひとづまとなりての心得こゝろえむすめときとはことなるものとか御氣おきらばけれどかれなばかなしきことまづそれよりも覺束おぼつかなきはふみ御返事おへんじなり御覽ごらんにはなりたりともそのまゝおしまろめたまひしやらかへりて御機嫌ごきげん
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まづ Durtal と田山花袋氏との滑稽な対照を思ひ出させて、いたづらに我々の冷笑を買ふばかりだつた。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)