難儀なんぎ)” の例文
もつと衣服きものいでわたるほどの大事おほごとなのではないが、本街道ほんかいだうには難儀なんぎぎて、なか/\うまなどが歩行あるかれるわけのものではないので。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
無論むろんふたはしてるが往來わうらい飛出とびだされても難儀なんぎ至極しごくなり、夫等それらおもふと入院にふゐんさせやうともおもふがなにかふびんらしくてこゝろひとつにはさだめかねるて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その時分にいろいろ難儀なんぎした話やら私がネパールに居った時の話やらがよく私と合いますので、いつもその話を聞きましたが
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この子家鴨こあひるくるしいふゆあいだ出遭であった様々さまざま難儀なんぎをすっかりおはなししたには、それはずいぶんかなしい物語ものがたりになるでしょう。
「何があんまりだ。僕の知ったこっちゃない。ひどい難儀なんぎをしてあるんだ。旅費さえ返せばそれでよかろう。さあ持って行け。帰れ、帰れ。」
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「種々御忠言は深謝しんしゃつかまつるが、拙者には、いま申したような用がござる。妻や弟の難儀なんぎなぞ、致し方ないと諦めるばかりだ」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それから最初さいしよのうちは、めてはるのは難儀なんぎだから線香せんかうてゝ、それで時間じかんはかつて、すこづゝやすんだらからうとやう注意ちゆういもしてれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あにはいつもならわけのないことだとおもいました。しかし、今日きょう特別とくべつおもをつけてきたので、このうえ人間にんげんせるということは難儀なんぎでした。
村の兄弟 (新字新仮名) / 小川未明(著)
當に行先々の氣配りに難儀なんぎ艱難辛苦かんなんしんくともいはん方なき事どもなり漸々にして三州岡崎迄はきたれどももとより手薄てうすの其上に旅の日數も重なれば手當の金子かね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのときには、巨男おおおとこも種々難儀なんぎをして、大理石の部落に着いていました。部落の人びとは、たいへん親切でしたので、大理石をいくらでもくれました。
巨男の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
これだから菊村宮内きくむらくないも、このしょうのあわないふたりを、一つのじぶんの手にすくって、難儀なんぎをしているところなのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その上に為朝ためとも悪口わるくちることいことたくさんにならべて、どうか一にちはや為朝ためともをつかまえて、九州きゅうしゅう人民じんみん難儀なんぎをおすくくださいともうげました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
およそ十月よりとしえて四月のはじめまでは、むなしくやしなひおくのみ也。これ暖国だんこくにはなき難儀なんぎの一ツ也。
「悪かったというだけではすまないじゃないか、みんながこんなに難儀なんぎするようになったのも、おまえが悪かったからだ、こんなはなれ島にみんなを……」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そうして途中かなりの難儀なんぎをして、たっぷり四昼夜かかって、やっと津軽の生家に着いた。生家では皆、笑顔をもって迎えてくれた。私のおぜんには、お酒もついた。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
「せっかく、たすけて頂いたようなものの、行先の覚束おぼつかなさ、途中とちゅう難儀なんぎ、もう一足も踏み出す勇気はございません。いっそこの川へ身を投げて死にとうございます」
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
というは、旅はつらい、難儀なんぎである、可愛かわいい子にはこの辛苦しんくめさせ、鍛錬たんれんさせよとの意味である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それどころか、犬はみんなどこかへいってしまって、こうしてこの国の難儀なんぎがすくわれたのです。
そのほか言葉ことばにつくせぬ数々かずかず難儀なんぎなこと、危険きけんなことにわれましたそうで、歳月つきひつとともに、そのくわしい記憶きおく次第しだいうすれてはっても、そのときむねにしみんだ
「きょうは、きのうのゆきのために、道がひどいぬかるみになっていて、えらい難儀なんぎでしたよ」
もし歴史がうしろに控えていなかったら、あの簡単に見える草履ぞうり一つだって作るのに難儀なんぎをするでありましょう。一枚の紙だとて、どうして作るか、途方とほうにくれるでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そしてなり速い足どりで歩いて行きました。それが実際また、あまり速かったので、パーシウスは足早あしばやの友達クイックシルヴァについて行くのが、少し難儀なんぎになって来ました。
さもなくば、このおそろしい懷劒くわいけん難儀なんぎ瀬戸際せどぎは行司ぎゃうじにして、としこう智慧ちえちから如何どうともうせぬ女一人をんなひとり面目めんもくいまこゝで裁決とりさばかす、くだされ。さ、はやなんとなとうてくだされ。
茂兵衛もへゑの四人の手で銀に換へさせ、飢饉続きのために難儀なんぎする人民にほどこすのだと云つて、安堂寺町あんだうじまち五丁目の本屋会所ほんやくわいしよで、親類や門下生に縁故のあるおよそ三十三町村のもの一万軒に
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そう云われたッてはらも立てないような年になって、こんなことを云い出しちゃあ可笑いが、難儀なんぎをした旅行たびはなしと同じことで、今のことじゃあ無いからなにもかも笑ってむというものだ。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
だが、こいつ等をこの儘じゃあ、後の難儀なんぎが思いやられる。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
基康 (考える)どうもわしの身に難儀なんぎがかかりそうだ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
もっとも衣服きものを脱いで渡るほどの大事なのではないが、本街道にはちと難儀なんぎ過ぎて、なかなか馬などが歩行あるかれるわけのものではないので。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
云るゝや只今たゞいまいとまつかはしたりと申せしくちの下より人代ひとかはりなき中はいださずとは前後ぜんごそろはぬ申でう殊更ことさら夫の難儀なんぎある人代ひとかはりを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おじいさんは、としったから、もうこうしてあるくのは難儀なんぎとなって、しずかに、故郷こきょうはたけでばらのはなつくってらしたいとおもっていたからであります。
金魚売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
寝る訳には行かないし、始終障子のすきから睨めているのもつらいし、どうも、こうも心が落ちつかなくって、これほど難儀なんぎな思いをした事はいまだにない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おおせながら、ひとたび軍旅を遠くはせて、とうげしずたけ険路けんろを、吹雪ふぶきにとじこめられるときは、それこそ腹背ふくはい難儀なんぎ、軍馬はこごえ、兵糧ひょうろうはつづかず
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「イヤそんな事の出来るわけがない、道のない所を難儀なんぎして来た」と話しましたが信じないようでした。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
高橋君のところは去年きょねん旱魃かんばつがいちばんひどかったそうだから今年はずいぶん難儀なんぎするだろう。それへくらべたらうちなんかは半分でもいくらでもれたのだからいい方だ。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
混用こんようしている、たとえかれらがぼくを侮辱したところが、それは小さな私事なのだ。私事のためにかれらに難儀なんぎをかけることはずべきことだ、ぼくは連盟の大統領の職責から命じるのだ
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
さんざん難儀なんぎをして、清盛きよもりのいる京都きょうと六波羅ろくはらのやしきにくと、常磐ときわ
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
御前彫刻などには大抵たいてい刀の進みやすいものを用いて短時間に功をげることとする。なるほど、火、火とのみ云って、火の芸術のみを難儀なんぎのもののように思っていたのは浅はかであったと悟った。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それでなくてさへ隨分ずゐぶん出入でいりものなどをりて、わたしもとまであやしいつかものなどをよこして、ういふ事情じじやうひど難儀なんぎをしてります、此裁判このさいばん判決次第はんけつしだい生死しやうしりますなどゝつて
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
……航路かうろも、おなじやうに難儀なんぎであつた。もしこれをりくにしようか。約六十里やくろくじふりあまつてとほい。肝心かんじんことは、路銀ろぎん高値たかい。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
取らん事思ひもらず今云事のいつはりにもあるまじしうの爲の出來心にて盜みに來りしと正直しやうぢきに云ふ事の憫然あはれなれば此金を汝に與へん間主人しゆじん難儀なんぎすくひ妻を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もし父親ちちおやが、こんなあらしつよばんに、うみをこいでこえってこられたなら、方角ほうがくもわからないので、どんなにか難儀なんぎをなされるだろうと、こうかんがえると、むすめはもはや
ろうそくと貝がら (新字新仮名) / 小川未明(著)
「そら、カン蛙さん。取ってお呉れ。ひどい難儀なんぎをしたよ。大へんな手数をしたよ。命がけで心配したよ。僕はお前のご恩はこれではらったよ。少し払い過ぎた位かしらん。」
蛙のゴム靴 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あくあさ目がめると、外は白いしもだ。文鳥も眼が覚めているだろうが、なかなか起きる気にならない。枕元にある新聞を手に取るさえ難儀なんぎだ。それでも煙草たばこは一本ふかした。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
陣屋陣屋もござりますゆえ、ここを破ってまいるのもひとかたならぬご難儀なんぎかとぞんじまする
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くつを脱いでこの冷たい川を渡るのは難儀なんぎだなあと考えて居りますと、下僕はまず荷物を先に渡しまたこちらに後戻あともどりをして私を渡してくれましたので、その冷たい水へ入らずにみました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
げたのはなおが切れて難儀なんぎしてるのを見てチビ公はてぬぐいをさいてはなおをすげてやったことがある。そのとき肩につかまって片足をチビ公の片足の上にせたことをかれは記憶している。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
世間せけんおやたちの難儀なんぎをおすくくださるようにとおねがもうげました。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
さききてもるかきかれませねばなににてもよしくるまたのみなされてよとにはか足元あしもとおもげになりぬあの此樣こんくるまにおしなさるとかあの此樣こんくるまにと二度にど三度さんどたかかろ點頭うなづきてことばなしれも雪中せつちゆう隨行ずゐかう難儀なんぎをりとてもとむるまゝに言附いひつくるくだんくるまさりとては不似合ふにあひなりにしき上着うはぎにつゞれのはかまつぎあはしたやうなとこゝろ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
幾度いくたび越前街道ゑちぜんかいだう往來ゆききれて、ちんさへあれば、くるまはひとりで驅出かけだすものと心得こゝろえたからである。しかし、上下じやうげには、また隨分ずゐぶん難儀なんぎもした。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つきのいいばんには、往来おうらいするふねも、なんとなく安全あんぜんおもわれますが、うみいかって、くらな、波音なみおとのすさまじいときには、どんなに航海こうかいをするふね難儀なんぎをしたかしれません。
ろうそくと貝がら (新字新仮名) / 小川未明(著)