背中せなか)” の例文
そこで一寸法師いっすんぼうしは、ぞう背中せなかへくるりとしゃっちょこ立ちをしました。かと思うとまたまたくるりと起き上がり、行列を見かえって
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
いろんな事をつてやアがる、て/\、ウームアヽ痛いウム、オイおくま躯中からだぢゆうしびれて……こつちへはいつて背中せなかを二ツ三ツたゝいてくれ。
はは背中せなかで、をさました、ちいさなおとうとが、あたまといっしょにからだをゆりうごかしているのにづいて、清吉せいきちは、おとうとのほうをば、ました。
戦争はぼくをおとなにした (新字新仮名) / 小川未明(著)
其時そのとき小犬こいぬほどな鼠色ねづみいろ小坊主こばうずが、ちよこ/\とやつてて、啊呀あなやおもふと、がけからよこちゆうをひよいと、背後うしろから婦人をんな背中せなかへぴつたり。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたしはむかしいつも冬のばんになるとすわったそのいすの上にかけた。わたしはできるだけ小さく見えるように、背中せなかまるくしていた。
しかし、ものをいうと、歯がカチカチ鳴って、みょうに力が背中せなかに集まるような気がした。動くとつめたさがいっそうひどく感じられた。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
すると富田六段は、背中せなか心棒しんぼうにしてくるくるまわり、けっして頭の方へこさせない。そのからだの動かしようのす速さといったらない。
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
おとめはひもをといて、おきさきさまの背中せなかから小さな男の子をおろしました。そして、お妃さまの乳房ちぶさにあてがって、おちちをのませました。
おな不正ふせいくわだてるのならば、百三十六麻雀牌マアジヤンパイ背中せなかたけ木目もくめ暗記あんきするなどは、その努力感どりよくかんだけでもぼくにはむし氣持きもちがいい。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
運慶は頭に小さい烏帽子えぼしのようなものを乗せて、素袍すおうだか何だかわからない大きなそで背中せなかくくっている。その様子がいかにも古くさい。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから乾菓子ひぐわしべました。おほきなとり其味そのあぢわからないとつてこぼす、ちひさなとりせて背中せなかたゝいてもらう、それは/\大騷おほさわぎでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そういえばなるほど、ひらめというおさかなは、目が背中せなかについています。ですからいまでも、おやをにらめると、平目ひらめになるといっているのです。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
婆奴等ばゝめらかまあななんてつけが、えゝから汝等わツらだまつててろ、なんてそれからおれぐうつとあたまふんづかめえて、背中せなかこすつたな
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ヒラヒラと落ちいく手紙へ、思わず口走りながら身をのばしたせつな、竹童のからだまで、あやうく鷲の背中せなかからふりおとされそうになった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
がすりのあはせに、あかおび竪矢たてや背中せなかうた侍女じぢよが、つぎつかへて、キッパリとみゝこゝろよ江戸言葉えどことばつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
みことは、それをもすかさず、階段かいだんの下に追いつめて、手早く背中せなかをひっつかみ、ずぶりとおしりをお突きしになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
くまと自分ははじめと同じ位置いちにもどったわけだ。すみのかべいた背中せなかをこすりつけて、立ったくまは、まるでまねきねこみたいなかっこうだった。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
そうしづかにはちのこつたみづゆかかたむけた。そして「そんならこれでおいとまをいたします」とふやいなや、くるりとりよ背中せなかけて、戸口とぐちはうあるした。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼はそちらに背中せなかを向けると、もう一度人ごみの中へ帰り出した。しかしまだ十歩と歩かないうちに、ふと赤革の手袋を一つ落していることを発見した。
寒さ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ぽんと背中せなかをたたかれて、つづけにかされたのが、柳湯やなぎゆで、金蔵きんぞうがしゃべったという、橘屋たちばなやの一けんであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そしてぼんやり人形をながめていますと、その背中せなかが、むくむくうごきだして、中から、さるびだしてきました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あれとおどろくまもなくその背中せなかでさしずをしていたピエールはいきなりジャンの背中から飛びおりるなり、足早にすたこらと門の反対の方に歩きだしました。
かたわ者 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
婦人まれには小児を背中せなかにむすびつけておすあれども、この小児なくことなきも常とするの不思議ふしぎなり。いはんや此堂押にいさゝかも怪瑕けがをうけたる者むかしより一人もなし。
浦島太郎が、かめ背中せなかから振り落されて、ザブツと水にもぐりました。そして、ふんどしをしたお尻だけが、プクツと水の上に、チヨンまげ頭のやうに浮びました。
プールと犬 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
蒙りたるも最前さいぜんまですむにごるか分らざりしが今はわかれど濡衣ぬれぎぬほすよしもなき身の因果いんぐわと思ひ廻せば廻すほど又もなみだの種なるを思ひ返へしてゐるをりから後の方より背中せなか
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私どもが、島だとばかり思っていたのは、ほんとうは、ねむっていた、くじらの背中せなかだったのです。
それでも、背中せなかや胸をいてやるまい、噫木魂精こだまよ、おまへは腕をして勝ち誇る夢を捧げてゐる。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
それからも一人おくれてひどく心配しんぱいそうに背中せなかをかがめて下りていく。斉藤貞一さいとうていいちかな。一寸ちょっとこっちを見たところには栗鼠りすかるさもある。ほんとうに心配なんだ。かあいそう。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
おかみさんは悲鳴ひめいをあげて、にげまどった。いすはおかみさんの背中せなかにぴたっとくっついた。
そうして自分は夢のめたように立ちあがった。背中せなかの着物がぽかぽか暖かくなっていた。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
こゑけました。このうま背中せなか荷物にもつをつけてとうさんのおうちたこともあるうまでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
中村なかむらさんと唐突だしぬけ背中せなかたゝかれてオヤとへれば束髪そくはつの一むれなにてかおむつましいことゝ無遠慮ぶゑんりよの一ごんたれがはなくちびるをもれしことばあと同音どうおんわらごゑ夜風よかぜのこしてはしくを
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
船頭の三吉は、稼業柄にもなく、水に落ちて死んだといふだけのことですが、野幇間のだいこの七平の死骸には、背中せなかから突いた傷が一つ、水にさらされて、凄まじい口を開いて居ります。
「おまえさん、背中せなかたかくしたり、のどをごろつかせたり、したり出来できるかい。」
〔所で〕ややもするとその男が病気とか何とかう時には、男のだいをして水も汲む。朝夕あさゆうの掃除は勿論もちろん、先生が湯に這入はいる時は背中せなかを流したり湯をとったりしてらなければならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
おさない時私はよくかういふ子守唄をきかされた、さうして恐ろしい夜の闇にをびえながら、乳母の背中せなかから手を出して例の首の赤い螢を握りしめた時私はどんなに好奇の心に顫へたであらう。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
いつも滑※こつけい失策しつさくとの本家本元ほんけほんもとで——いまわたくしそばに、威勢ゐせいよくはなし相槌あひづちつて武村兵曹たけむらへいそうは、幾度いくたび軍艦ぐんかん水兵等すいへいらに、背中せなかたゝかれ、たゝかれて、艦中かんちう第一だいいち愛敬者あいけふものとはなつた。
何から何まで皆手掛りでは無いか第一顔の面長いのも一ツの手掛り左の頬にあざの有るのもまた手掛り背中せなかの傷も矢張り手掛り先ず傷が有るからには鋭い刃物はものきったには違い無いすれば差当り刃物を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
振りましたわ。それにあなたつたら未だ背中せなかを向けてらつしやる。
うま背中せなかくらおいて
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
荷物にもつ背中せなかって、薬売くすりうりの少年しょうねんは、今日きょうらぬ他国たこくみちあるいていました。きたまちから行商群ぎょうしょうぐん一人ひとりであったのです。
薬売りの少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ヘリオトロープらしいかおりがぷんとする。香が高いので、小春日に照りつけられた袷羽織あわせばおり背中せなかからしみ込んだような気がした。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたしたちはうまやの戸の前のこしかけにこしをかけて、昼間の太陽のぬくもりのまだのこっているかべに背中せなかをおしつけていた。
すると、すぐさまこん棒がとびだして、上着うわぎといわず、ジャケツといわず、つぎからつぎへと相手の背中せなかをぽかぽかなぐりつけるのでした。
かと思うと、くるりとちゅうがえりを打つようにして、象の背中せなかの三人の少女たちの中へ、すっぽりとのっかってしまいました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
トなだらかな、薄紫うすむらさきがけなりに、さくらかげかすみ被衣かつぎ、ふうわり背中せなかからすそおとして、鼓草たんぽゝすみれ敷満しきみちたいはまへに、美女たをやめたのである。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、ある日、おとうさんは背中せなかをたたきながら、地主じぬしの長者屋敷やしきへ納める小作米こさくまいたわらを、せっせとくらにつけていました。
たにしの出世 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
巨男おおおとこは立ちあがって、背中せなかから白鳥をおろしました。白鳥は、とめようとして、巨男おおおとこの着物のはしを引きました。巨男おおおとこは、白鳥と最後のほおずりをして
巨男の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
ぶん酩酊よつぱらつたあし大股おほまたんで、はだいだ兩方りやうはうをぎつとにぎつて、手拭てぬぐひ背中せなかこするやうなかたちをしてせた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
どやしつけられた、背中せなかいたさもけろりとわすれて、伝吉でんきちは、元結もとゆいからけて足元あしもとらばったのさえ気付きづかずに夢中むちゅう長兵衛ちょうべえほうひざをすりせた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)