かみ)” の例文
旧字:
「ほんとうにかみながくおなりだこと。せめてもう二、三ねん長生ながいきをして、あなたのすっかり大人おとなになったところをたかった。」
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
あなたの言葉は田舎いなかの女学生丸出しだし、かみはまるで、老嬢ろうじょうのような、ひっつめでしたが、それさえ、なにか微笑ほほえましい魅力でした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
かれは、このはなしをきくと、なんとなくからだじゅうが、ぞっとしました。おんな姿すがたると、ながくろかみむすばずに、うしろにれていました。
山へ帰りゆく父 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「その金は、いったいどこに使うのです?」と、マイダーノフは、平べったいかみを後ろへはらいながら、鼻の穴をひろげていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
先に立ちたるは、かち色のかみのそそけたるをいとはず、幅広き襟飾えりかざりななめに結びたるさま、が目にも、ところの美術諸生しょせいと見ゆるなるべし。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
浴衣ゆかたかみの白い老人ろうじんであった。その着こなしも風采ふうさい恩給おんきゅうでもとっている古い役人やくにんという風だった。ふきいずみひたしていたのだ。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
とせい/\、かたゆすぶると、ひゞきか、ふるへながら、をんな真黒まつくろかみなかに、大理石だいりせきのやうなしろかほ押据おしすえて、前途ゆくさきたゞじつみまもる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
花嫁は、王子の黒いかみの毛をなでました。そして、花嫁と花婿は手に手をとって、りっぱなテントの中にはいって、やすみました。
目、鼻、口、それから頭のかみの毛までそっくりついて、怪塔王の顔の皮はまるで、豆の皮をぐようにくるくると剥がれたのであった。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
くろかみと、淡紅色ときいろのリボンと、それから黄色い縮緬ちりめんの帯が、一時いちじに風に吹かれてくうに流れるさまを、あざやかにあたまなかに刻み込んでゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おんなにもしてみたいほどのいろしろで、やさしいまゆ、すこしひらいたくちびるみじかいうぶのままのかみ子供こどもらしいおでこ——すべてあいらしかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すがすがしい初日はつひの光りがうしろからさして、ひっつめたかみらすのが、まるで頭のまわりに光りのをかけたように見えた。
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
しかも、涼霄りょうしょうの花も恥ずらん色なまめかしいよそおいだった。かみにおやかに、黄金きん兜巾簪ときんかんざしでくくり締め、びんには一つい翡翠ひすいせみを止めている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのしぶとさが余計胸の中に来ると、僕は彼女のかみをひきつかんで、まるで、泥魚のように、地べたに引きずって帰って来た。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
おばあさんは、はらだちまぎれに、ラプンツェルの美しいかみをひっつかむと、それを二巻ふたま三巻みまき左の手にまきつけました。
とう寝椅子ねいすに一人の淡青色たんせいしょくのハアフ・コオトを着て、ふっさりとかみかたへ垂らした少女が物憂ものうげにもたれかかっているのを認め、のみならず
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
言葉でもろくに通じないくらいだのに、男は烏帽子えぼしもかぶらず女はかみもさげず、はだしで山川を歩くさまはまるでけもののようではありませんか。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
夫にしたがって毎日沖に出ている漁師の妻は、女とは思えぬほど陽にやけた顔をし、潮風しおかぜにさらされてかみの毛は赤茶けてぼうぼうとしていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
かみを長くしてみたり、赤い着物で外出したり、一本歯の下駄をいたりすることは、馬鹿でもやり得ることで、心の独立をあがめる値いはない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ふん、もの値打ねうちのわからねえやつにゃかなわねえの。おんな身体からだについてるもんで、ねん年中ねんじゅうやすみなしにびてるもなァ、かみつめだけだぜ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
さわやかにもたげた頭からは黄金のかみが肩までれて左の手を帯刀おはかせのつかに置いてきっとしたすがたで町を見下しています。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
大久保おほくぼが、奈美子なみこうつくしいかみを、剃刀かみそりはさみでぢよき/\根元ねもとからまつたつてしまつたことは、大分だいぶたつてからつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
女神はまず急いでかみをといて、男まげにおゆいになり、両方のびんと両方のうでとに、八尺やさか曲玉まがたまというりっぱな玉のかざりをおつけになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
其妾と云うかみみだした女は、都の女等をくさげににらんで居た。彼等は先住の出で去るを待って、畑の枯草の上にいこうた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
つやつやしたかみを七三にわけて、青白いひたいにたらし、きちんと背広を着こんだところは、どう見ても小都会のサラリーマンとしか思えなかった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
かみうるわしく長くこぼれかからせて、添いいるのならば、さぞ釣り合ってよかろうに、年とった女の自分が髪なども散り乱れて、薄鈍うすにびの喪服をつけて
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
と、或朝あるあさはや非常ひじょう興奮こうふんした様子ようすで、真赤まっかかおをし、かみ茫々ぼうぼうとして宿やどかえってた。そうしてなに独語ひとりごとしながら、室内しつないすみからすみへといそいであるく。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
わたしたちが通ったつぎの村で、わたしは美しいかみと、青い目をしたかわいらしい人形をかの女のために買った。
年は十四ぐらいで、からだは大きくアマ色のかみの毛をしていました。この子は、たいして役にもたちませんでした。
かみはひっつめにって、くろかたマントをしていらっしゃる、もうそれだけで、先生せんせいうやま気持きもちがおこると一しょに、先生せんせいがどことなくきになるのです。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
よめはうちゑみつゝしうとめにかくといへば、姑はにはか土産みやげなど取そろへるうちよめかみをゆひなどしてたしなみ衣類いるゐちやくし、綿入わたいれ木綿帽子もめんばうし寒国かんこくならひとて見にくからず
ひかりの中につらつら御気色みけしきを見たてまつるに、あけをそそぎたる竜顔みおもてに、一二八おどろかみひざにかかるまで乱れ、白眼しろきまなこりあげ、あついきをくるしげにつがせ給ふ。
鉄砲玉のようにとびこんできた壮漢そうかん! 雨にうたれた伸びほうだいのかみは、ものすごく顔にへばりつき、ひげは草むらのように乱生し、水玉がたれている
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
たね子はがっかりして本を投げ出し、大きいもみ鏡台きょうだいの前へかみいに立って行った。が、洋食の食べかただけはどうしても気にかかってならなかった。……
たね子の憂鬱 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二番目は菊五郎の「紙治かみじ」これは丸本まるほんの「紙治」を舞台に演ずるやう河竹新七かわたけしんしちのその時あらた書卸かきおろせしものにて一幕目ひとまくめ小春こはるかみすきのにて伊十郎いじゅうろう一中節いっちゅうぶしの小春を
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
紀昌は再び家にもどり、肌着はだぎ縫目ぬいめからしらみを一匹探し出して、これをおのかみの毛をもってつないだ。そうして、それを南向きの窓にけ、終日にららすことにした。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
いつか、きたないなりをして、かみをもじゃもじゃにしたそれはそれは小さな女の子が、よごれた風呂敷ふろしきづつみをぶらさげて、店の前にたっていたことがありました。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
その男は、ガラス窓の外のやみの中から、かみの毛をダランと下にたらし、まっかにのぼせた顔で、さかさまの目で、部屋の中のようすをジロジロとながめています。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
文化文政には正式なかみ丸髷まるまげ島田髷しまだまげとであった。かつ島田髷としてはほとんど文金高髷ぶんきんたかまげに限られた。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
つまは三つになる次男じなんを、さもかわいらしそうにむねきよせ子どものもじゃもじゃしたかみに、白くふっくらした髪をひつけてなんのもない面持おももちに眠っている。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
かみの毛はどうしたのと聞いてみたり、父親ちちおやメルキオルの露骨ろこつ常談じょうだんにおだてられて、禿はげをたたくぞとおどしたりして、いつもそのことでかれをからかってあきなかった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
よく搦手からめてを守りおおさせたいわゆるオカミサンであったのであるし、それに元来が古風実体こふうじっていたちで、身なりかみかたちも余り気にせぬので、まだそれほどの年では無いが
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そこへ追つて来たおくまは岩に片足をかけてねらひさだめてきがねを引くとズドーンとこだましてつゝをはなれた弾丸たま旅人たびゞとかみをかすつてむかうの岩角いはかどにポーンとあたりました。
肩揚かたあげのある羽織はおりには、椿つばき模様もやうがついてゐた。かみはおたばこぼんにゆつてゐたやうにおもはれる。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
近寄って艫をぐ女の姿が見えて来た。いよいよ近く漕ぎ寄って来た。片手を挙げてかみのほつれを掻き上げる仕草が見える。途端とたんに振り上げた顔を月光であらためる。秀江だ。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かみをふりみだし、いきをはずませて、上着うわぎのえりもはだけてしまっている。れいのふるびたシルクハットは、とっくにどこかへすっとんだらしく、頭へのっかっていなかった。
そのころの女はきぬかずきと云う面被おもておおいをつける例であったが、それをぬがせて、諸人に顔を見せた。二十七、八ばかりのほそやかな身体からだつき、かみなども美しいよい女であった。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
くしが引っかかる処を少しちからを入れて引くとゾロゾロゾロゾロと細いかみが抜けて来る。
秋毛 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
血走ちばしったまなこあらかみをふりみだして様子ようすは、ても只事ただごととはおもわれないのでした。
すこし大人気おとなげなかった。が、あの場合、行き掛りもあった。調子に乗って手を伸ばし、ムンズと喬之助のかみにぎってグイ! 力まかせに引っ張り上げたのは、この大迫玄蕃だった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)