夕方ゆふがた)” の例文
母親のおとよ長吉ちやうきち初袷はつあはせ薄着うすぎをしたまゝ、千束町せんぞくまち近辺きんぺん出水でみづの混雑を見にと夕方ゆふがたから夜おそくまで、泥水どろみづの中を歩き𢌞まはつために
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
『ああまだ膝小僧ひざこぞうにもとゞいてないよ。さうさな、やすみなしの直行ちよくかう夕方ゆふがたまでにはけるだらう。これからが大飛行だいひこうになるんだ。』
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
ぢいやは御飯ごはんときでも、なんでも、草鞋わらぢばきの土足どそくのまゝで片隅かたすみあしれましたが、夕方ゆふがた仕事しごところから草鞋わらぢをぬぎました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
みそはぎそばには茶碗ちやわんへ一ぱいみづまれた。夕方ゆふがたちかつてから三にん雨戸あまどしめて、のない提灯ちやうちんつて田圃たんぼえて墓地ぼちつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
今夜こんや御誘おさそまをしますから、これから夕方ゆふがたまでしつかり御坐おすわりなさいまし」と眞面目まじめすゝめたとき、宗助そうすけまた一種いつしゆ責任せきにんかんじた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私達わたしたちはその日一にち歩きまはつた。夕方ゆふがたには、自分達じぶんたちの歩いてゐる所は一たいどこなのだらうと思ふほどもう三半器官はんきくわんつかれてゐた。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
多緒子は、その日の夕方ゆふがた幸子さちこと共に夫につれられて病院に行つた。夫のたかしは別室に入つて醫者としばらく話をしてゐた。
(旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
たとへばわれ/\の時代じだいには、ゆふづくならば、ほんとうに夕方ゆふがたのおつきさまがてゐるとかんじるだけで滿足まんぞくするのに、このひとうたでは、むかし習慣しゆうかんしたがつて
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
つてるぞ夕方ゆふがたべつしてかぜさむそのうへにかぜでもかば芳之助よしのすけたいしてもむまいぞやといふことばいておたかおそる/\かほをあげ御病氣ごびやうきといふことを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
見兼ての深切しんせつ先年の恩報おんがへしなりとて一昨日をとゝひ夕方ゆふがたに廿五兩と云金子を調達てうだつして持參致されし譯ゆゑ何も別に不審ふしんに思はるゝ事は是なしと金の出所を白地あからさまはなすを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
で、身體からだひどこゞえてしまつたので、詮方せんかたなく、夕方ゆふがたになるのをつて、こツそりと自分じぶんへやにはしのたものゝ、夜明よあけまで身動みうごきもせず、へや眞中まんなかつてゐた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しかも、その暗記あんき仕方しかたといふのが、日光につくわうなかで、つぎくもつぎ夕方ゆふがたつぎ電燈でんとう結局けつきよく最後さいご蝋燭らふそくひかりなかでといふふう明暗めいあん順序じゆんじよつてらしながら研究けんきう暗記あんき
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
夕方ゆふがたになつて、ひよろながかげがさして、薄暗うすぐら鼠色ねづみいろ立姿たちすがたにでもなると、ます/\占治茸しめぢで、づゝととほい/\ところまでひとならびに、十人も三十人も、ちひさいのだの、おほきいのだの、みぢかいのだの
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
夕方ゆふがたになると、最早もはや畢世ひつせい勇氣ゆうきふるつても、とてもくちれるこゝろぬ。
望蜀生ばうしよくせい採集さいしふからかへつてた。それは三十六ねん十一ぐわつ三十にち夕方ゆふがた
そのくらゐですからえだもおそろしくしげりひろがつてゐてあさ杵島岳きしまだけかくし、夕方ゆふがた阿蘇山あそさんおほつて、あたりはひるも、ほのぐらく、九州きゆうしゆう半分程はんぶんほど日蔭ひかげとなり、百姓ひやくしようこまいてゐたといひますが
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
そしてそれは夕方ゆふがたかぜすゞしくなるころまでつづきました。
お母さん達 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
夕方ゆふがただし、ほかに人間はゐないし、まつた
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
とうさんの田舍ゐなかでは、夕方ゆふがたになると夜鷹よたかといふとりそらびました。その夜鷹よたか時分じぶんには、蝙蝠かうもりまでが一しよしました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その一本は殆んどかつて、うへの方には丸裸まるはだか骨許ほねばかり残つた所に、夕方ゆふがたになると烏が沢山集まつて鳴いてゐた。隣にはわか画家ゑかきんでゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かれ悲慘みじめせま小屋こやには藥鑵やくわん茶碗ちやわんとそれから火事くわじ夕方ゆふがたとなり主人しゆじんがよこしたあたらしい手桶てをけとのみで、よるよこたへるのに一まい蒲團ふとんもなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
夕方ゆふがたそらには、いつぱいくもみだれてゐて、あちらこちらにはやまはつてゐるとききおろす山風やまかぜが、あら/\しくいてゐる。そのにもみゝにも、すさまじい景色けしき
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
つれなくへされなば甲斐かひもなきこと、兎角とかく甚之助殿じんのすけどの便たよきたしとまちけるが、其日そのひ夕方ゆふがた人形にんぎやうちて例日いつよりもうれしげに、おまへうたゆゑ首尾しゆびよくかち
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
始終しじふ支拂しはらひにらずちな月末つきずゑまでにもう十とないあき夕方ゆふがただつた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
空には朝も昼過ひるすぎも夕方ゆふがたも、いつでも雲が多くなつた。雲はかさなり合つて絶えず動いてゐるので、時としてはわづかに間々あひだ/\殊更ことさららしく色のい青空の残りを見せて置きながら、そら一面におほかぶさる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
殺したる者手にいりたり只今其者白状の趣き夫にて承まはれと申渡され又勘太郎にむかはれ其方米屋の女隱居いんきよを殺し金百兩奪ひ取たる手續てつゞき委曲くはしく申せと云はれしかば勘太郎其儀は私し事夕方ゆふがた馬喰町馬場のわき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ひながら、とうさんは蝙蝠かうもりと一しよになつてあるいたものです。どうかすると狐火きつねびといふものがえるのも、むら夕方ゆふがたでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
三四郎は其夕方ゆふがた野々宮さんの所へ出掛けたが、時間がまだ少し早過はやすぎるので、散歩かた/″\四丁目迄て、襯衣シヤツを買ひに大きな唐物とうぶつ屋へはいつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しろはねにはとりが五六、がり/\とつめつちいてはくちばしでそこをつゝいてまたがり/\とつちいては餘念よねんもなく夕方ゆふがた飼料ゑさもとめつゝ田圃たんぼからはやしかへりつゝある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
本所ほんじよも同じやうに所々しよ/\出水しゆつすゐしたさうで、蘿月らげつはおとよの住む今戸いまど近辺きんぺんはどうであつたかと、二三日ぎてから、所用しよゝうの帰りの夕方ゆふがた見舞みまひに来て見ると、出水でみづはうは無事であつたかはりに、それよりも
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「先生、将棋はうです」抔と持ち掛けた。夕方ゆふがたにはにはに水をつた。二人ふたり跣足はだしになつて、手桶を一杯づゝつて、無分別に其所等そこいららしてあるいた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其時平岡は漸やく三千代の言葉に一種の意味をみとめた。すると夕方ゆふがたになつて、門野が代助から出した手紙の返事をきにわざ/\小石川迄つてた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
此間このあひだからくつてつてることつてるのよ。だけど、にいさんもあさ夕方ゆふがたかへるんでせう。かへると草臥くたびれちまつて、御湯おゆくのも大儀たいぎさうなんですもの。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
消化こなれないかた團子だんごとゞこうつてゐるやう不安ふあんむねいだいて、わがへやかへつてた。さうしてまた線香せんかういてはりした。其癖そのくせ夕方ゆふがたまですわつゞけられなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)