かうむ)” の例文
将門つゝしまをす。貴誨きくわいかうむらずして、星霜多く改まる、渇望の至り、造次ざうじいかでかまをさん。伏して高察を賜はらば、恩幸なり恩幸なり。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「恐れ入りますが親分さん、私は此處で御免をかうむります——明るいうちに歸らないと、婆アが心配をいたしますので。へ、へ、へ」
「可けない! 那処あすこに居て下さらなければ可けませんな。何、御免をかうむる? ——可けない! お手間は取せませんから、どうぞ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
正直をもて商売するものに不正の損失をかうむらせ、真面目に道を歩むものに突当りて荷を損ずるやうの事、やうやく多くなれりと覚ゆ。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
今異數の拔擢ばつてきかうむつてゐる十太夫は、心底の知れぬものなので、若し右の第二に當るものではなからうかと、三人は朝夕目を附けてゐた。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
群馬栃木両県の間を通ずる渡良瀬川沿岸の各郡村に年々巨万の損害を被らしめ、田畑は勿論飲用水を害し、堤防草木に至るまで其害をかうむ
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
かうむり度此上は我々共御家來のすゑに召し出さるれば身命をなげうつて守護仕しゆごつかまつるべし御心安く思し召さるべし然れども我々は是迄これまで惡逆あくぎやく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
返忠かへりちゆうの者といはれん事口惜しく候、又申さぬ時は、重恩をかうむり候主君へ弓を引くべし、此旨を存じ、我名を隠してくの如し
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さうした調法な機械が発明された為めに人間の労力と技術がどれほど侮蔑ぶべつかうむつてゐるかを私は少しもまだ感ずるだけの頭はなかつたのである。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
もつと書きたい事もないではないが、何しろ原稿を受け取りに来た人が、玄関に待つてゐる始末しまつだから、今度はまづこのへん御免ごめんかうむる事にする。
西洋画のやうな日本画 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
參詣人さんけいにんへも愛想あいそよく門前もんぜん花屋はなや口惡くちわかゝ兎角とかく蔭口かげぐちはぬをれば、ふるしの浴衣ゆかた總菜そうざいのおのこりなどおのずからの御恩ごおんかうむるなるべし
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まるで悪名をかうむつたかのやうに、頑固に黙りこんでゐたから、治療をうけに通はせるやうに説き伏せるのに骨を折つた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
左樣さやうさ、一旦いつたん無事ぶじ本國ほんごくかへつてたが、法律ほふりつと、社會しやくわい制裁せいさいとはゆるさない、嚴罰げんばつかうむつて、ひどつて、何處いづくへか失奔しつぽんしてしまいましたよ。
はじめは人皆ひとみな懊惱うるさゝへずして、渠等かれらのゝしらせしに、あらそはずして一旦いつたんれども、翌日よくじつおどろ報怨しかへしかうむりてよりのちは、す/\米錢べいせんうばはれけり。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
日本植物圖鑑ではすいばと云ふのが普通の名稱として認められてゐる。今はさう云ふ事が億劫おくくふであるから、此植物に關する本草學ほんざうがく的の詮索は御免をかうむる。
すかんぽ (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
とき幾多いくた民家みんか猶且やつぱり非常ひじやう慘害さんがいかうむつて、村落むらすべては自分じぶんしのぎがやつとのことであつたので、ほとんど無用むようであるれう再建さいこんかへりみるものはなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「どうも堪らん暑さですな。さ、主人あるじの私から御免をかうむつて着物を脱ぎましたから、貴方もお取りになつたらうです、暑い折には何よりこれですからね。」
よしや一の「モルヒ子」になぬためしありとも月夜つきよかまかれぬ工風くふうめぐらしべしとも、当世たうせい小説せうせつ功徳くどくさづかりすこしも其利益りやくかうむらぬ事かつるべしや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
折角だけど、ごめんかうむるわ。あんたは、さうもいかないだらう、なんかの義理があるんだらうから——なんて、いぢめるんぢやないよ。本音を吐け、本音を……。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
われ君侯二代に仕へ、その恩寵おんちようかうむることすこぶるふかし。願はくば、死せむ後も、太守が江戸表参覲の節には、御行列を地下にて拝し、御武運を護らんと思ふなれ。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身に染み込んだ罪業ざいごふから、又梟に生れるぢゃ。かくごとくにして百しゃう、二百生、乃至ないしこふをもわたるまで、この梟身を免れぬのぢゃ。つまびらかに諸の患難をかうむりて又尽くることなし。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
三十七ねんげつ大雪おほゆきがいと、その七月しちぐわつ疫疾えきしつために、牛馬ぎうばそのなかばうしなひたるの災厄さいやくあり。其他そのた天災てんさい人害じんがい蝟集ゐしふきたり、損害そんがいかうむことおびたゞしく、こゝろなやましたることじつすくなからざるなり。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
これ皆様みなさま御案内ごあんないのことでござりますが、其時そのとき豊公ほうこう御寵愛ごちようあいかうむりました、鞘師さやし曾呂利新左衛門そろりしんざゑもんといふ人が、此事このこといて、わたくしも一つやつて見たうござる、とふので
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
赤痢病の襲来をかうむつた山間やまなか荒村あれむらの、重い恐怖と心痛そこびえに充ち満ちた、目もあてられぬ、そして、不愉快な状態ありさまは、一度その境を実見したんで無ければ、とても想像も及ぶまい。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
国銅を尽して象をとかし、大山を削りて以て堂を構へ、広く法界ほつかいに及ぼして朕が智識ちしきとなす、つひに同じく利益りやくかうむりて共に菩提ぼだいを致さしめん、れ天下の富をつ者は朕なり
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
行親 北條殿の密旨をかうむり、近寄つて討ちたてまつらんと今宵ひそかに伺候したるが、流石さすがは上樣、早くもそれと覺られて、われに油斷を見せたまはねば、無念ながらも仕損じた。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
N君の家は東京の郊外にあるから、これはどうにか損害をかうむらずにゐるらしい。併し親戚しんせき知己は幾人も東京の殷昌いんしやう区域内に住んでゐる。それらの人々は到底駄目だらうといふことを話しあふ。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
べつによい器量きりようでもありませぬから、お使つかひにふことは御免ごめんかうむります」
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
この塵をかうむらざる美の影圖は、その氣高けだかきこと彼「ワチカアノ」なるアポルロンの神の像の如く、儼然げんぜんとして我前に立てり。嗚呼、この影圖よ。今これを知りたるものは、唯だ神と我とのみ。
さぞあの二人も心配して居るであらう、もし自分のうはさが姫子沢へ伝つたら、其為に叔父夫婦は奈何どんな迷惑をかうむるかも知れない、ひよつとしたら彼村あのむらには居られなくなる——奈何どうしたものだらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
〔評〕徳川慶喜よしのぶ公は勤王きんわうの臣たり。幕吏ばくりの要する所となりて朝敵てうてきとなる。猶南洲勤王の臣として終りをくせざるごとし。公はつみゆるし位にじよせらる、南洲は永く反賊はんぞくの名をかうむる、悲しいかな。
……ま、ともかくもわかはうわ、さうぢゃ、はて、はやひとれていといふに。……さてはや、じつ高徳かうとくのあの上人しゃうにんこの市中まちぢゅうもので、一人ひとりひとかげかうむらぬものはないわい。
一旦事あれば鼠糞そふん梁上りやうじやうよりちてだに消魂の種となる、自ら口惜しと思へどせんなし、源氏征討の宣旨せんじかうむりて、遥々はる/″\富士川迄押し寄せたる七万余騎の大軍が、水鳥の羽音に一矢いつしも射らで逃げ帰るとは
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
人間は、何処で、かうした災難をかうむるかも知れないのだ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
トロイア軍にアキリュウス艱難憂苦かうむらす。 525
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
かういふ非難をかうむつたことは一度や二度ではない。
社会劇と印象派 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
「御免かうむらうよ。どうせ山師坊主の興行に極つてゐるやうなものだ。行つて見るとまた飛んだ殺生をすることになるかも知れねエ」
未だ報裁をかうむらず、欝包うつはうの際、今年の夏、同じく平貞盛、将門を召すの官符を奉じて常陸国にいたりぬ。つて国内しきりに将門に牒述てふじゆつす。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
相違つかまつり候ては御役儀もかろ相成あひなり候故私しの内意仕つり候に付私再吟味御免をかうむり其後病氣と披露ひろう仕つり引籠ひきこもちう家來けらい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私は小鹿野をかのの奥の権作ごんさくと申しますもので、長左衛門様には何程どれほど御厚情をかうむりましたとも知れませぬ、——さわぎで旦那様はあゝした御最後——が
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しかしいざ書かうとなると、匇忙そうばうの際でもあり、どうも気乗りがしませんから、この手紙で御免ごめんかうむりたいと思ひます。
参詣人さんけいにんへも愛想よく門前の花屋が口悪るかかもとかくの蔭口かげぐちを言はぬを見れば、着ふるしの裕衣ゆかた総菜そうざいのお残りなどおのづからの御恩もかうむるなるべし
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
五年前いつとせまへの事なりしが、平生ひごろの望足りて、洋行の官命をかうむり、このセイゴンの港までし頃は、目に見るもの、耳に聞くもの、一つとしてあらたならぬはなく
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
さう明らさまに出しはしなかつたが、あんな女を後に入れるやうでは親類づき合ひは御免かうむるとまで言つた。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
との豫言よげんは、偶然ぐうぜんにも其通そのとうりになつて、是等これら寳物たからものがあつたばかりに、昨夜さくや印度洋インドやう惡魔あくまにもおそ大海賊だいかいぞく襲撃しうげきかうむり、ふねしづみ、夫人ふじん行衞ゆくえうしな
閣下の貴誨きくわいかうむるなく、星霜多く改まる。常に渇望の至り、造次ざうじも忘れず、伏して、高察を給へ。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いか御恩ごおんかうむりましたに、いざおいへが、ところには、ろく暑寒見舞しよかんみまひにも御伺おうかゞひいたしません。手前てまへ不都合ふつがふ料簡方れうけんがたと、おいへばちで、體裁ていさいでございます、へい。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「私は画家ゑかきだ、書はほんの道楽に過ぎないんだから、道楽のために閑潰ひまつぶしは御免をかうむる。」
へい/\有難ありがたぞんじます、うも折角せつかくのお厚情なさけでございますから、御遠慮ごゑんりよ申上まうしあげませぬでお言葉ことばしたがつて、御免ごめんかうむります。主「どうもお人品ひとがらなことだ、ちがふのうー……さア/\此方こつちへおはいり。 ...
黄金こがね織作おりなせるうすものにも似たるうるはしき日影をかうむりて、万斛ばんこくの珠を鳴す谷間の清韻を楽みつつ、欄頭らんとうの山を枕に恍惚こうこつとして消ゆらんやうに覚えたりし貫一は、急遽あわただし跫音あしおとの廊下をうごかきたるにおどろかされて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)