なが)” の例文
伊弉諾神いざなぎのかみながい間戸口にじっと待っていらっしゃいました。しかし、女神は、それなり、いつまでたっても出ていらっしゃいません。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
ただそれだけのために往々、ごく親しくしてる母と子とが、兄と弟とが、友と友とが、たがいにながく他人となってしまうことがある。
その優しい魂は「新世界ニユー・ワールドシンフォニー」と共に、「ユモレスク」と共に、ながく全世界の人の心に美と愛と光明とをもたらすであろう。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
さうして愛情あいじやう結果けつくわが、ひんのためにくづされて、ながうちとらへること出來できなくなつたのを殘念ざんねんがつた。御米およねはひたすらいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
何万年のながい間には処々ところどころ水面すいめんから顔を出したりまた引っんだり、火山灰や粘土が上につもったりまたそれがけずられたりしていたのです。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
先日のやうに目前の眺めが英文の新たな材料として目に映らず、ながの年月自分を押し籠めた牢屋の壁か何かのやうに侘しく見えた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
とにかく私は私の家が何屋さんで父は何をしているのか、屋根の亀は何んのまじないであるかについてもながい間全く無意識だった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
ちょうどそれは日のながい汗の出る季節でもあったゆえに、たびたび少しずつの休憩をしないと、かえってちからぱいの働きができなかった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
どう大動搖だいどうえうはじめた。はやなかたいからである。けれどもなが密閉みつぺいせられてある岩窟がんくつ内部ないぶには、惡瓦斯あくぐわす發生はつせいしてるに相違さうゐない。
その声は、変に破れて浮ずったような喉声で、ながくきいているとひとりでに心が荒みながら沈んでゆくような気がするのである。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そこにはながい年月かれが君臨くんりんした広々とした領地がある。かれの部下は王を失って、いまはその谷間の奥深おくふかげていったことであろう。
わたくしなが幽界生活中ゆうかいせいかつちゅうにもお客様きゃくさま水杯みずさかずきかさねたのは、たしかこのときりのようで、おもすと自分じぶんながら可笑おかしくかんぜられます。
ことながあひだ野田のだ身上しんしやうつて近所きんじよくら親方おやかたをしてるのが郷里きやうりちかくからたので自然しぜん知合しりあひであつたが、それが卯平うへい引退いんたいすゝめた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ながいあいだ薬餌やくじをとってもらった生命いのち恩人おんじん——それはわすれてもいいにしろ、いきなり大人おとなをつかまえて頭から、大将! とは。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これまでも妖気もののけがもとでおりおりおわずらいになることはあっても、こんなに続いてながく御容態のすぐれぬようなことはなかったのであるから
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
女衣服おんなぎを着せたのは、ながの病気に、重きはえられまじ、少しでも軽くしてやろうと、偶然にもその日それを着せたのである。
取り交ぜて (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
こよみのうえでは九月といっても、ながい休みのあとだけに暑さは暑さ以上にこたえ、女先生の小さなからだは少しやせて、顔色もよくなかった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
二十餘年の御恩の程は申すもおろかなれども、何れのがれ得ぬ因果の道と御諦おんあきらめありて、なが御暇おんいとまを給はらんこと、時頼が今生こんじやうの願に候
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
その外妾となれるこの婦人も定めてこの情を知りつらんとの嫌疑を受けつ、既に一年有余のながき日をばいたずらに未決監に送り来れる者なりとよ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
元来利秋は農兵を忌みきらって、兵は士族に限るものと考えた人であった。これが干城と利秋とのながの別れであったともいう。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
勘定奉行平川半治ひらかわはんじはこの議にあずからなかった。平川は後に藩士がことごとく津軽にうつるに及んで、独りながいとまを願って、深川ふかがわ米店こめみせを開いた人である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ままならぬ世に候えば、何も不運と存じたれも恨み申さずこのままに身は土と朽ち果て候うともたまなが御側おんそばに付き添い——
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
一生他人たるまじと契りたる村越欣弥は、ついに幽明を隔てて、ながく恩人と相見るべからざるを憂いて、宣告の夕べ寓居ぐうきょの二階に自殺してけり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほんとうにめすにはあれくらいの傑作でなくちゃ役に立たぬでな。その点君の功労はながく記念しておくだろう。しかし
ポン/\とすそをはたいて縁側へお上りになりますとき、ながのお出入で晋齋先生のお気に入りでげすから、勝五郎はずか/\とおくへまいりまして
わたしの仕事しごともこれで出来上できあがったのだから、この上ながく、むさくるしい人間にんげんの中にんでいようとはおもわない。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
べつ自分じぶんがそれについて弱味よわみつてないにしてもさ、ながあひだにはなんだか不安ふあんを感じてさうな氣持きもちがするね。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
亀岡氏は、師匠生前ながの歳月を丹精して集められたもの故、自分はこれを神仏へのお賽銭さいせんに使用するつもりである。
怪物くわいぶつといふものがあるならば、この軍艇ぐんていこそたしか地球ちきゆう表面ひやうめんおいて、もつとおそるべき大怪物だいくわいぶつとして、なが歐米諸國をうべいしよこく海軍社會かいぐんしやくわい記臆きおくとゞまるであらう。
ふやせしは何か存じ寄にても有ての事なるや又山口惣右衞門は何故有てながいとま申付られしや當時かれ三河みかは町に浪宅を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
だが、自分がここにしるそうとするのは、権兵衛さんの面影おもかげではなく、同じくその往来の出来事でながく心に残って忘れられない白馬はくばに乗った人の事なのである。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「ああきっと、ながあいださけをくれたのだが、もうくれなくなったのだろう。」と、おじいさんはおもいました。
こまどりと酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
にんじん——とうさん、僕、今までながい間、いいだせずにいたんだけど、いいかげんにかたをつけちゃおう。僕、ほんとをいうと、もう、母さんが嫌いになったよ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
さはれ我は諸子に向つて強ひて反省せよとはいはず。反省する者は反省せよ。立つ者は立て。行く者は行け。もし心つかまなこ眠たき者はながき夜のねむりむさぼるにかず。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
本来ならば主人の死去と同時にながいとまともなるべき筈であるが、かれの腹から跡取りの若殿を生んでいるので、妾とはいえ当主の生母である以上、屋敷の方でも
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おくからのこえは、このはるまで十五ねんながあいだ番町ばんちょう武家屋敷ぶけやしき奉公ほうこうあがっていた。春信はるのぶいもうと梶女かじじょだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
『あァ!それで甚公じんこう煙突えんとつりてたんだわ?』とあいちやんは獨語ひとりごとつて、『オヤ、みんなが甚公じんこううへなにんでるわ!わたしなが甚公じんこうところにはまい。 ...
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
むかしむかし夫婦者ふうふものがあって、ながあいだ小児こどもしい、しい、といいくらしておりましたが、やっとおかみさんののぞみがかなって、神様かみさまねがいをきいてくださいました。
おぢさんはながいこと、いつも、きみたちにいいほんをこしらへてあげたいとおもつてゐた。けれど貧乏びんぼふではほんけない。今度こんどやつとのことで、このほんをつくることができた。
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
しかしながら、ながくわがくに慣用くわんようされた歴史れきしのあるわが國語こくごは、充分じうぶんにこれを尊重そんてうせねばならぬ。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
この一句を「法身偈ほっしんげ」または「縁起偈えんぎげ」などといっていますが、彼はこの言葉を聞くなり、決然として、ながい間、自分の生命いのちとも頼んでおった、婆羅ばら門の教えをふり捨てて
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
思い断ち得てしかして得るところは何ぞ、われにも君にもながくいやし難き心の傷なるべし。しかしてわがいわゆる天職なるもの果たして全く遂げらるべきや。ああ愚かなる。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
其はりにお房に手をにぎる資格のあるものとして、果してお房が手を握らせて呉れるかどうかといふ氣懸だ。無論むろん臆病おくびやうな氣懸である。雖然彼はながい間此の氣懸に惱まされてゐた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
とんと小説は見せなかつたのであります、ところが十三号の発刊はつかんのぞんで、硯友社けんいうしやためながわするべからざる一大変事いちだいへんじおこつた、それは社の元老げんらうたる山田美妙やまだびめう脱走だつそうしたのです、いや
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二人ふたり大泣おほなきにきました。いへものどもゝ、かほかたちがうつくしいばかりでなく、上品じようひんこゝろだてのやさしいひめに、今更いまさらながのおわかれをするのがかなしくて、湯水ゆみづのどとほりませんでした。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
ながひとやつながれし人間ひとの、急に社会このよへ出でし心地して、足も空に金眸きんぼうほらきたれば。金眸は折しも最愛の、照射ともしといへる侍妾そばめの鹿を、ほとり近くまねきよせて、酒宴に余念なかりけるが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
フロツクコオトを着て山高ぼうかぶつた姿は固陋ころうな在所の人を驚かした。再び法衣を着たことは着たが、ながの留守中放題はうだいに荒れた我寺わがてらさまは気にも掛けず格別修繕しようともせぬ。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
それを見なければならぬ葉子はたまらなかった。どうかした拍子ひょうしに、葉子は飛び上がりそうに心が責められた。これで貞世が死んでしまったなら、どうして生きながらえていられよう。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
お美夜ちゃんとチョビ安の、二人のかあいい者とも、これがながの別れになる——。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
此日このひ此地このち此有様このありさまなが描写べうしやとゞまりて、後年こうねんいかなる大業たいげふ種子たねとやならん、つどへる人を見て一種いつしゆたのもしき心地こゝちおこりたり、此一行このいつかう此後こののち消息せうそく社員しやゐん横川氏よこかはしが通信にくはしければ
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)