此頃このごろ)” の例文
御前様おんまへさまには追々おひおひあつさに向ひ候へば、いつも夏まけにて御悩み被成候事なされさふらふこととて、此頃このごろ如何いか御暮おんくら被遊候あそばされさふらふやと、一入ひとしほ御案おんあん申上参まをしあげまゐらせ候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
なになんでも望遠鏡ばうゑんきやうのやうにまれてはたまらない!ちよツはじめさへわかればもうめたものだ』此頃このごろではにふりかゝる種々いろ/\難事なんじ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「お父つぁんはいるよ。でもね、此頃このごろ機嫌が悪いから、気をつけるがいいよ。まあ兎に角、そんな所に立っていないで、お上りな」
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大方の冬木立は赤裸あかはだかになった今日此頃このごろでも、もみの林のみは常磐ときわの緑を誇って、一丈に余る高い梢は灰色の空をしのいで矗々すくすくそびえていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
またかや此頃このごろをりふしのお宿とまり、水曜會すゐようくわいのお人達ひとたちや、倶樂部ぐらぶのお仲間なかまにいたづらな御方おかたおほければれにかれておのづと身持みもちわるたま
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
商売は其の日の運不運だから、それはまあよいとして、此頃このごろ頻りに手詰まって来た金の運転には暗い気持の中に嫌なおびえさえ感じられた。
とと屋禅譚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
まゐりましたところ堺町さかひちやうでうきたまちといふ、大層たいそうづかしい町名ちやうめいでございまして、里見さとみちうらうといふ此頃このごろ新築しんちくをした立派りつぱうち
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
如何どうかんがへても聖書バイブルよりは小説せうせつはう面白おもしろいにはちがひなく、教師けうしぬすんでは「よくッてよ」小説せうせつうつゝかすは此頃このごろ女生徒ぢよせいと気質かたぎなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
此頃このごろからだがだるいとえておなまけさんになんなすつたよ、いゝえまるおろかなのではございません、なんでもちやんと心得こゝろえります。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その鰹船かつをぶねひとづゝこの器械きかいそなけるやうになつたら、莫大ばくだい利益りえきだつてふんで、此頃このごろ夢中むちゆうになつて其方そのはうばつかりにかゝつてゐるやうですよ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
這麼事こんなことを考へながら茸を味つてゐると、今日此頃このごろついぞ物を味ひしめるといふ程の余裕ゆとりが無くなつてゐたのに気が付いた。
茸の香 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
此頃このごろおい日本地震學界につぽんぢしんがつかい解散かいさんむなきにいたつたが、あらたにわが政府事業せいふじぎようとしておこされた震災豫防調査會しんさいよぼうちようさかいこれかはつた。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
さうしてかれ此頃このごろたり、いたりしたことかんがへやうとおもふたが、如何どうしたものか猶且やはり、ミハイル、アウエリヤヌヰチがあたまからはなれぬのでつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
此頃このごろ空癖そらくせで空は低く鼠色ねずみいろくもり、あたりの樹木じゆもくからは虫噛むしばんだ青いまゝの木葉このはが絶え間なく落ちる。からすにはとり啼声なきごゑはと羽音はおとさはやかに力強くきこえる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いま本島ほんとう主人公しゆじんこうなる櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさ健康けんこうまでもなく、此頃このごろではほとん終日しうじつ終夜しうやを、秘密造船所ひみつぞうせんじよなかおくつてる。
髪を洗はせて瓦斯ガスの火力であふられて乾かし、そしてぐ髪を結はせる人もある。自分は此頃このごろマガザンで毛網を買つて来て独りで結ふ事が多くなつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
記者パイク「そうかなあ。しかし僕はユダヤ人組合——“影”の委員会の実力をそんなに下算したくない。大統領は、此頃このごろすこし頭がどうかしているね」
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ねえ、此頃このごろはどうしたものか、だれもこの立派なおヒゲをほめなくなつたが、一体、どうしたもんだらう。」
風邪をひいたお猫さん (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
めっきり此頃このごろ、衰弱なさったそうだ。いつ、どんな事になるか、わかりやしませんよ。その時、このままの関係でいたんじゃ、まずい。事がめんどうですよ。
帰去来 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この次に、「淡海路あふみぢ鳥籠とこの山なるいさや川此頃このごろは恋ひつつもあらむ」(巻四・四八七)という歌があり、上半は序詞だが、やはり古調で佳い歌である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
して居るに長兵衞は長八に向ひ此頃このごろ此方こつちの娘がさつぱり見えぬが風にても引しかと問ければ長八は今のうはさ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「えつ! おつかあにさ。おつかあは此頃このごろ、すこし病氣びやうきしてゐるんだ」とはつたものの、こゝろなかでは「すまない、すまない」とをあはせるばかりでありました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
おさやんは手紙などをちつとも書かない人ですからどうして此頃このごろは居るのか私は知りません。もう堺には居ないのでせうか、気のい遊び相手だつたおさやん。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
それがややもすれば幽婉ゆうえんの天地と同化して情熱の高潮に達し易い此頃このごろの人の心を表わしているようだ。
釜沢行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
此頃このごろは談話の校正をさせて貰う約束をしても、ほとんど全くその約束が履行せられないことになって来ました。話には順序や語気があって、それで意味が変って来ます。
Resignation の説 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
此頃このごろになって、おれの踏んで来た道が、つくづく間違って居るのでは無いかと思われて仕様が無い……おれの脈管には、猿や熊と一緒になって、山から山、谷から谷と飛び廻った
判官三郎の正体 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
あれ程ありし雪も大抵はきえ仕舞しまいました、此頃このごろの天気のさ、旅路もさのみ苦しゅうはなし其道そのみち勉強のために諸国行脚あんぎゃなさるゝ身で、今の時候にくすぶりてばかり居らるるは損という者
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
此頃このごろは実に不快な天候が続く。重苦しく蒸熱くいやに湿り気をおんだ、強い南風だ。
大雨の前日 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
けふ此頃このごろとりまちまゐりて、エンギを申候まうじそろものにこの意義いぎありや、この愛敬あいきやうありや。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
此頃このごろの六月のの薄明りの、めたような色の光線にも、また翌日の朝焼けまでかすかに光りまない、空想的な、不思議に優しい調子の、薄色の夕日の景色にも、また暴風あらしの来そうな
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
女は向側にすわって、男の様子を見ている。心持ちは割合に落ち着いている。ただ気の毒だという、軽い同情がある。男の顔は如何いかにも青い。それに此頃このごろめっきり更けて見えるようになった。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
彼にはこれから入梅へかけての間が、一年中での一番へ難い季節になつてゐた。彼は此頃このごろの気候の圧迫を軽くしよう為めに、例年のやうに、午後からそこらを出歩くことにしようと思つた。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
はらか。はらいが此頃このごろ天氣てんきじやアうんざりするナア』
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
其所に近きほとりの友人いうじん此頃このごろの事とてさきのとし物がたりせり。
わたし此頃このごろ計画けいくわくしつゝある画室ぐわしつことなどはなしてるであらう。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
麻刈れと夕日此頃このごろ斜なる
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
彼は喉元で自分をしかつた。宗右衛門にとつては最早もは此頃このごろの二人の娘は妄鬼であつた。離れ家はまさしく妄者の棲家すみかであつた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
角川の家ではだ眠らなかった。市郎の傷もようやえて、此頃このごろは床の上に起き直られるようになったので、看病の冬子は一旦わが家へ帰った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
此頃このごろ無闇むやみ金子かねくなつてやうがいから、これ/\ふ事にしてた、これたれが取るとふのがチヤンとわかるね。
何分なにぶん此頃このごろ飛出とびだしがはじまつてわしなどは勿論もちろん太吉たきちくら二人ふたりぐらゐのちからでは到底たうていひきとめられぬはたらきをやるからの、萬一まんいち井戸ゐどへでもかゝられてはとおもつて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此關係このかんけい關東大地震かんとうだいぢしん但馬地震たじまぢしん丹後地震たんごぢしんおいて、此頃このごろ證據立しようこだてられたところであつて、別段べつだん説明せつめいようしない事實じじつである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
あゝ、泉君いづみくんですか。……先生せんせいからうかゞつてぞんじてります。うもうらしいとおもひました。ぼく柳川やながはふものです。此頃このごろからまゐつてります。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此頃このごろ巴里パリイはよく深い霧が降る。倫敦ロンドンの霧は陰鬱だと聞くが、冬曇ふゆぐもりの続く巴里パリイではかへつてこの霧が変化を添へて好い。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そうしてかれ此頃このごろたり、いたりしたことをかんがえようとおもうたが、どうしたものかやはり、ミハイル、アウエリヤヌイチがあたまからはなれぬのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
息子むすこ嗜好すき色々いろ/\もの御馳走ごちさうして「さて、せがれや、おまへ此頃このごろはどうしておいでだえ。矢張やはりわるしわざあらためませんのかえ。」となみだながらにいさめかけると
此頃このごろ室中しつちゆうきたつて、うも妄想まうざうおこつて不可いけないなどうつたへるものがあるが」ときふ入室者にふしつしや不熱心ふねつしんいましめしたので、宗助そうすけおぼえずぎくりとした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
熟々つら/\かんがふるにてんとんびありて油揚あぶらげをさらひ土鼠もぐらもちありて蚯蚓みゝずくら目出度めでたなか人間にんげん一日いちにちあくせくとはたらきてひかぬるが今日けふ此頃このごろ世智辛せちがら生涯しやうがいなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
漣山人さゞなみさんじん此頃このごろ入社したので、かね一六翁いちろくおう三男さんなん其人そのひと有りとは聞いてたが、顔を見た事も無かつたのであつた所、社員のうち山人さんじんる者が有つて
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼は虚勢きょせいを張って、快活らしく答えるのであった。此頃このごろでは、何につけても虚勢が彼の習慣になっていた。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
道夫も此頃このごろ受験準備で、可哀想かあいそうな位つかれているね。すぐ寝かしてやったとは、お前にしちゃ大出来おおできだ。
新学期行進曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)