昨夜さくや)” の例文
法師はれいのとおり、寝間ねまの前の、えんがわにいると、昨夜さくやのとおり、おもい足音が裏門うらもんからはいって来て、法師をつれていきました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
むらさめ吹通ふきとほしたかぜに、大火鉢おほひばち貝殼灰かひがらばひ——これは大降おほぶりのあとの昨夜さくやとまりに、なんとなくさみしかつた——それがざかりにもさむかつた。
十和田の夏霧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「おひめさまは、昨夜さくやうみなかしずんでしまわれたのだもの。いくらさがしたってつかるはずがない。」と、人々ひとびとおもっていました。
赤い姫と黒い皇子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
此度錢屋四郎右衞門方へ聖護院宮樣しやうごゐんのみやさま御配下ごはいか天一坊樣御旅舍の儀明家の儀なれば貸申候に昨夜さくや御到着ごたうちやくのち玄關げんくわんへは御紋付きの御幕を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
主「はい/\心得ましたが、昨夜さくやはどうも、あきないにお出でなすって多分のお茶代を戴いて済みません、何卒どうぞ明年も御心配なくなア」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
昨夜さくやも、一昨夜いつさくやも、夕食ゆふしよくてゝのち部室へやまど開放あけはなして、うみからおくすゞしきかぜかれながら、さま/″\の雜談ざつだんふけるのがれいであつた。
昨夜さくやちらしおきたる苧幹をがら寸断ずた/\をれてあり、これひとさんじてのち諸神しよじんこゝにあつまりてをどり玉ふゆゑ、をがらをふみをり玉ふなりといひつたふ。
昨夜さくや村境むらざかいで発見した惨殺死体は、つらの皮をがれているので何者か判らぬ。この男も言語不通であるから何者かだ判らぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
五月十四日、昨夜さくや父がおそく帰って来て、僕を修学旅行にやると云った。母も嬉しそうだったし祖母もいろいろむこうのことを聞いたことを云った。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それから昨夜さくや中央停車場で見かけたのは、大井篤夫おおいあつおじゃなかったのかしらと思った。が、すぐにまた、いや、やはり大井に違いなかったと思い返した。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
場長じょうちょう同僚どうりょうと話をしているのに、声がひくくてよく聞きとれないと、胸騒むなさわぎがする。そのかんにも昨夜さくや考えたことをきれぎれに思いださずにはいられない。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「やあ昨夜さくやは。いま御歸おかへりですか」と氣輕きがるこゑけられたので、宗助そうすけ愛想あいそなくとほぎるわけにもかなくなつて、一寸ちよつと歩調ほてうゆるめながら、帽子ばうしつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
昨夜さくや起ったそのパチノ墓地事件の知らせは、雁金検事からの電話となって、ジリジリとやかましく鳴るベルが、課長のラジオ体操を無遠慮ぶえんりょに中止させてしまった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どりゃ、太陽そのゆるやうなまなこげて今日けふひるなぐさめ、昨夜さくや濕氣しっきかわかまへに、どくあるくさたふとしるはなどもをんで、吾等われらこのかごを一ぱいにせねばならぬ。
なんでも昨夜さくやおそらからかへるものがつたといふがそれぢやれに相違さうゐないだらうといふことがつたへられた。勘次かんじはたけさわぎにりはじめたのをつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
初霜はつしもけて、昨夜さくやえんげられた白菊しらぎくであろう、下葉したはから次第しだいれてゆくはな周囲しゅういを、しずかにっている一ぴきあぶを、ねこしきりにってじゃれるかげが、障子しょうじにくっきりうつっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それは昨夜さくや見たのと寸分違わない、男の手先の大映しになったものでした。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
其中そのうちに日が暮れて又昨夜さくやの様な清らかな月の光りがさし昇りました。
金銀の衣裳 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
旦那さんは昨日きのふからずつとだし、奥さんも、昨夜さくや遅くお出掛けさ。
五月晴れ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
昨夜さくや、酔っぱらって、溝に落ちこみました」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
昨夜さくやおおきに失敬しました」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
昨夜さくやの氷は解けはじめた。
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
と、自在鉤じざいかぎかっている下には、つい昨夜さくや焚火たきびをしたばかりのように新しいはいもり、木のえだえさしがらばっていた。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
彼女かのじょは、昨夜さくやのことをおもしました。ることはできなかったけれども、それは、たしかにあのときの少女しょうじょでありました。
ある冬の晩のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
昨夜さくやちらしおきたる苧幹をがら寸断ずた/\をれてあり、これひとさんじてのち諸神しよじんこゝにあつまりてをどり玉ふゆゑ、をがらをふみをり玉ふなりといひつたふ。
造船所ざうせんじよない一部いちぶ貯藏ちよぞうされてあつたのだが、あゝ、昨夜さくや大海嘯おほつなみではその一個いつこ無事ぶじではるまい、イヤ、けつして無事ぶじはづはありません。
夜が明けると、雨は止んだ。けれども、ふもとでは昨夜さくやの殺人事件の詮議が厳しかろうと推察されるので、彼はただちに山をくだるほどの勇気は無かった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
汽車きしや新橋しんばし昨夜さくや九時半くじはんつて、今夕こんせき敦賀つるがはいらうといふ、名古屋なごやでは正午ひるだつたから、めし一折ひとをりすしかつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
又々あらたあらた立直たてなほ奉行所ぶぎやうしよへ申上て昨夜さくや御成門へいたづら仕りしが南無阿彌陀佛なむあみだぶつと書しは淨土宗じやうどしうのともがらねたみしと相見あひみえ申候如何計申べしや何卒なにとぞ公儀こうぎ威光ゐくわう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その瞬間俊助の頭の中には、昨夜さくや汽車の窓で手巾ハンケチを振っていた大井の姿が、ありありと浮び上って来た。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「いや出來できたてぢやありません」と主人しゆじんまたつた。「じつ昨夜さくやあるところつて、冗談じようだん半分はんぶんめたら、御土産おみやげつてらつしやいとふからもらつてたんです。 ...
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
家のひとたちのあてがうものをこころよくみして、なんのこともなく昨夜さくやまでごしてきたところ、けさは何時なんじになっても起きないから、はじめて不審ふしんをおこし
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
どう致しまして昨夜さくやも重三へ申しまするに何ともお礼の申そうようはないが、何うか其の伊皿子とやらのお宅へ参って、しみ/″\お礼を申し上げたいと申して居たのですが
けれどもぼくは昨夜さくやからよくないのでつかれた。書かないでおいたってあんなうつくしい景色けしきわすれない。それからひるは過燐酸かりんさんの工場と五稜郭ごりょうかく。過燐酸石灰せっかい硫酸りゅうさんもつくる。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
隆夫はなにをかんちがいしているのであろうかと、三木はそれからいくどもくりかえして、昨夜さくや姉があばれたり泣いたり、叫んだりして、ほとんど一睡もしなかったことを語り
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
つぎおつたはまたた。おつたは自分じぶん無意識むいしきたねいた昨夜さくやさわぎをつてるはずがないので、昨日きのふごと威勢ゐせいがよかつた。勘次かんじ睡眠すゐみん不足ふそくからさら餘計よけい不快ふくわいしかめた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かあさんは、昨夜さくや物置ものおきまえに、りざおが一ぽんてかけてあり、そのしたに、ちいさなバケツとみみずばこが、いてあるのをごらんになって
お母さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
うなると昨夜さくやあたゝかな「スープ」や、狐色きつねいろの「フライ」や、蒸氣じようきのホカ/\とつてる「チツキンロース」などが、食道しよくだうへんにむかついてる。
八千八谷はつせんやたにながるゝ、圓山川まるやまがはとともに、八千八聲はつせんやこゑとなふる杜鵑ほとゝぎすは、ともに此地このち名物めいぶつである。それも昨夜さくや按摩あんまはなした。其時そのときくち眞似まねたのがこれである。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
昨夜さくや彼が𤢖わろと共に山を降って、七兵衛と闘い、安行をうばったのは、市郎に対する恋のうらみと母の恨とであった。が、そんなことはう忘れてしまったらしい。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夢のような罪人に宣告を下したあとの彼は、すぐ心の調子を入れ代えて、紙入の中から一枚の名刺を出した。その裏に万年筆で、「僕は静養のため昨夜さくやここへ来ました」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのせいでございましょうか、昨夜さくやも御実検下さらぬと聞き、女ながらも無念に存じますと、いつか正気しょうきを失いましたと見え、何やら口走ったように承わっております。
古千屋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なんにも知らぬ新吉が見ても、象はたいへんよろこんでいることがわかりました。昨夜さくや一晩ひとばん、同じ貨車かしゃの中ですごしたので、象は新吉を友だちのように思っているふうなのです。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
雲源うんげんと申十五さいとき出家仕しゆつけつかまつり候へども幼少えうせうよりぬすこゝろあり成人せいじんなすにつけ尚々なほ/\相募あひつのすでに一昨夜さくや伊勢屋いせやしのいりて金五百兩ぬすみ取其隣の金屋かなやとやらんへも忍入しのびいつぬすいたし出る處を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お助けなさるという其のお志というものは、実に尊い神様のようなお方だッて、昨夜さくやもね番頭と貴方のお噂を致しましたなれども、お名前が知れず、誠に心配致しておりましたが
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そうだよ。彼は昨夜さくや十二時、ここへ忍びこんだそうだ。すると、例の恐怖の口笛を聞きつけた。これはいけないと思う途端に、おそろしい悲鳴が聞えた。近づいてみると、痣蟹が自分の服装を
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とこなつのはなは、一昨夜さくや黄色きいろがきたことをかたりました。すると、みつばちは、はなのいうことを半分はんぶんかずに
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そゞろ昨夜さくや憶起おもひおこして、うたた恐怖の念にへず、斯くと知らば日のうちに辞して斯塾を去るべかりし、よしなき好奇心に駆られし身は臆病神の犠牲となれり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「明十五日は、殿の御身おんみに大変があるかも知れませぬ。昨夜さくや天文を見ますと、将星が落ちそうになって居ります。どうか御慎み第一に、御他出なぞなさいませんよう。」
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それほど眞劍しんけんにやるべきものをと、宗助そうすけ昨夜さくやからの自分じぶんが、なんとなくづかしくおもはれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)