こゝろよ)” の例文
「あつちになけりやつてつたらようござんせう、大豆でえづもこれつたところならつてくとえゝんでがしたがね」おつぎはこゝろよくいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
売薬ばいやくさきりたが立停たちどまつてしきり四辺あたりみまはして様子やうす執念深しふねんぶかなにたくんだか、とこゝろよからずつゞいたが、さてよくると仔細しさいがあるわい。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
田原藤太に尋ねられた時の様子でも分るが、ようございますとも、いつまででも遊んでおいでなさい位の挨拶でこゝろよく置いた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
がすりのあはせに、あかおび竪矢たてや背中せなかうた侍女じぢよが、つぎつかへて、キッパリとみゝこゝろよ江戸言葉えどことばつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
お末は母が可なり手厳しく兄にやられるのを胸の中でこゝろよく思つた事もあつた。さうかと思ふと、母が不憫ふびんで不憫でたまらないやうな事もあつた。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
私は力に左右される——征服される。そしてその力は得も云はれずこゝろよく、私の受けた征服は自分の得るどんな勝利にもまして魅力があるのです。
實際じつさいうんのつかないときたらこれほど憂欝いううつあそびはないし、ぎやくうんなみつて天衣無縫てんいむほうパイあつかへるときほど麻雀マージヤンこゝろよ陶醉たうすゐかんじるときはない。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
全く三右衞門はこの二三日ことの外こゝろよく、時々は廻らぬ舌で物さへ言ふやうになつたので、この樣子で三廻りもすれば、もとの身體にはならなくとも
舟は我熱をさますに宜しからんとおもへば乘りぬ。舟人はさを取りて岸邊を離れ、帆を揚げて風に任せたるに、さゝやかなる端艇はぶねこゝろよく、紅の波をしのぎ行く。
そゞろにおこりし悪心より人を殺した天罰覿面てんばつてきめんかゝる最後をげるというも自業自得じごうじとく我身わがみかえってこゝろよきも、只不憫ふびんな事は娘なり、血縁にあらねば重二郎どの
我口より申すは如何いかゞなものなれども、二十を越えてはや三歳にもなりたれば、家に洒掃の妻なくてはよろづことけてこゝろよからず、幸ひ時頼見定みさだめ置きし女子をなご有れば
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
何有なあに、たかが知れた田舍女ぢやないか!』と、信吾は足の緩んだも氣が附かずに、我と我がひるむ心を嘲つた。人妻となつた清子に顏を合せるのは、流石にこゝろよくない。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
れはこゝろよめいすることが出來できると遺書ゐしよにもあつたとふではないか、れはいさぎよ此世このよおもつたので、おまへことあはせておもつたのでけつして未練みれんのこしてなかつたに
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
令息れいそくこゝろよ出迎でむかへられて、萬事ばんじ便誼べんぎあたへられ、人足にんそくにんさへばれたのであつた。
このうたこゝろよ調子ちようしも、おんかさなつてゐるところからてゐるのであります。けれどもこれは、始終しじゆうくりかへされると、あき/\するものだといふことをかんがへなければなりません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
とあるひくい石垣の上に腰を掛けた九は大きな煙管パイプくはへてこゝろよさう燐寸マツチを擦つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
是がとかくモラルの石に躓き易い近人のこゝろよく此作を読過することを得る所以である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
(少しの雪は土をかけ又は灰をかくればはやくきゆ)そも/\去年冬のはじめより雪のふらざる日もそらくもりてこゝろよはれたるそらを見るはまれにて、雪に家居いへゐ降埋ふりうづめられ手もとさへいとくらし。
日本政府につぽんせいふこゝろよ濱島氏はまじましこゝろざしれ、海軍部内かいぐんぶないでは、特別とくべつ詮議せんぎがあつて、たゞちに松島大佐閣下まつしまたいさかくか回航委員長くわいかうゐゐんちやうにんあたこととなり、いま大佐たいさ本艦々長ほんかん/\ちやう資格しかくをもつて日本につぽん廻航中くわいかうちう濱島氏夫妻はまじましふさい
こう云って、清吉はこゝろよげに笑いながら、娘の顔をのぞき込んだ。
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ふゝゝゝ。」と俊男としをこゝろよげに笑出して、「腹が立ツたかね。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
使者の間へ通しやがて伊賀亮對面たいめんに及びたる此時このとき次右衞門申けるは越前先日せんじつ以來病氣に候處すこしくこゝろよかたにて御座候故今日おして出勤致し候一たい越前守參り以て申上べきの處なれど未だしか全快ぜんくわいも仕つらず候故私しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一寸ちよいとがつて見ませうか」とよし子が、こゝろよく云ふ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
もちおもりのする番傘ばんがさに、片手腕かたてうでまくりがしたいほど、のほてりに夜風よかぜつめたこゝろよさは、横町よこちやう錢湯せんたうから我家わがやかへおもむきがある。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼の限りない野心やしんこゝろよ微笑ほゝゑみクリスチヤンを俗人から區別し、前者を深く崇め、後者を意のまゝに許すだらう。
さうしてしみ/″\とこゝろよかつた。おしな衣物きものけるとぐと與吉よきち内懷うちふところれた。おしなあとへは下女げぢよ這入はひつたので、おつぎはそのあひだたねばならなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
うちへ働きにまいります媼達ばゞあたちへおまんまア喰わして、和尚様を呼んで、お経でも上げてお寺めえりでもして、それから貴方あなた七日を済まして立って下されば、わたくしも誠にこゝろようございます
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
館の人に見舞はるゝごとに、我はつとめて面をやはらこゝろよげにもてなせども、胸の中の苦しさは譬へんに物無かりき。此間人々は一たびも小尼公アベヂツサの名を我前に唱ふることなかりき。
尤もこの頃は、あのこつ/\と丹念に働く兄の鶴吉の顔にもこゝろよからぬ黒ずんだ影が浮んだ。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
くちもとはちいさからねどしまりたればみにくからず、一つ一つにとりたてゝは美人びじんかゞみとほけれど、ものいふこゑほそすゞしき、ひと愛嬌あいけうあふれて、のこなしの活々いき/\したるはこゝろよものなり
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
先のこゝろよげなる氣色けしきに引きかへて、かうべを垂れて物思ものおもひのていなりしが、やゝありて
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
(少しの雪は土をかけ又は灰をかくればはやくきゆ)そも/\去年冬のはじめより雪のふらざる日もそらくもりてこゝろよはれたるそらを見るはまれにて、雪に家居いへゐ降埋ふりうづめられ手もとさへいとくらし。
あらこゝろよの今の身よ、氷雨降るとも雪降るとも、憂を知らぬ雲の外にうそぶき立てる心地して、浮世の人の厭ふ冬さへ却つてなか/\をかしと見る、此の我が思ひの長閑さは空飛ぶ禽もたゞならず。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
言訖いひをはツて、輕く肩をゆすツて、こゝろよげに冷笑せゝらわらふ。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
配り在りけるが今夜はのお專に委細くはしく相談せんと思ふ故少し風もこゝろよく候へば湯に入りて來らんと湯殿ゆどのの方へ立ち出でければお專はとく縁側えんがはへ立ち出でかたへの座敷ざしきへ連れ行て貴方が湯に入り給はんと申さるゝ故荷物にもつ番に御ぜん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
こゝろようなづいて、北陸地方ほくりくちはう行脚あんぎやせつはいつでもつゑやすめる香取屋かとりやといふのがある、もと一軒いつけん旅店りよてんであつたが、一人女ひとりむすめ評判ひやうばんなのがなくなつてからは看板かんばんはづした
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私は最早美や青春や優雅いうがに對して與へられたあのこゝろよい稱讃を聞くことはないだらう——何故なら他の誰にも私がそんな魅力を持つてゐるとは見えないだらうから。
それでも蕎麥掻そばがき身體からだあたゝまるやうこゝろよかつた。かれはたべたあと茶碗ちやわんたぎつたいではし茶碗ちやわん内側うちがはおとしてまゝたないた。さうしてはかれ毎日まいにち仕事しごとのやうにそとた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
はなしではあるが一月ひとつきのうちに生命せいめいあやふいとかつたさうな、いてるとあまこゝろよくもないに當人たうにんしきりといやがる樣子やうすなり、ま、引移ひきうつりをするがからうとて此處こゝさがさせてはたが
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
大儀ぞの一聲を此上なき譽と人も思ひ我れも誇りし日もありしに、如何に末の世とは言ひながら、露忍ぶ木蔭こかげもなく彷徨さまよひ給へる今の痛はしきに、こゝろよき一夜の宿も得せず、のあたり主をはぢしめて
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
貴僧あなたさぞをかしかつたでござんせうね、)と自分じぶんでもおもしたやうにこゝろよ微笑ほゝゑみながら
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かういつたときに、学校がくかうなんだからないけれど、わたしがものをいつても、こゝろよ返事へんじをおしでなかつたり、ねたやうな、けんどんなやうな、おもしろくないことばをおかけであるのを
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
(にやけたやつぢや、國賊こくぞくちゆう!)とこゝろよげに、小指こゆびさきほどな黒子ほくろのあるひらた小鼻こばなうごめかしたのである。ふまでもないが、のほくろはきはめて僥倖げうかうなかばひげにかくれてるので。
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
奧方おくがたも、こゝろよささうにかれてふ。
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)