宛然まるで)” の例文
とお前様まへさまかせまをはなしは、これからぢやが、最初さいしよまをとほみちがいかにもわるい、宛然まるでひとかよひさうでないうへに、おそろしいのは、へびで。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『へえ——学校にも居られなくなる、社会からも放逐される、と言へば君、非常なことだ。それでは宛然まるで死刑を宣告されるも同じだ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
と少年は大喜びで、どんどん兎の飛ぶように駆け歩くと、その身体は宛然まるで浅草の操人形を見るようにくらくらして首を振りながら、やっている。
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
所が、動機らしいものを持った人物が一人もいない始末だが、その代り、どれもこれも、一目で強烈な印象をうける——宛然まるで仮面舞踏会なんだよ。
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
あいちやんは宛然まるできつねつままれたやうながしました。帽子屋ばうしやつたことなになんだかわけわかりませんでした、しかしそれはそれでもたしかに英語えいごでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
水車すいしゃの叔父さんに背負おぶさって、家に着いたのは最早もうトボトボ頃であった。お母さんは乃公を抱占だきしめて涙を流した。宛然まるで十年も別れていたようである。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
脳天をあぶりつける太陽が宛然まるで火の様で、そよとの風も吹かぬから、木といふ木は皆死にかかつた様に其葉を垂れてゐた。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
細い路次ろじを通つて、うちの前まで來ると、表の戸は一昨日おとゝひ締めて行つたまゝである。何處をほつき𢌞つてゐたのか、宛然まるで夢中で、自分にも明瞭はつきりおぼへがない。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
なに那樣そんなよろこぶのかわたくしにはわけわかりません。』と、院長ゐんちやうはイワン、デミトリチの樣子やうす宛然まるで芝居しばゐのやうだとおもひながら、また其風そのふうひどつてふた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
と、宛然まるで彼が故意にでもやった様に云うのであった。気の早い隼英吉は疳癪玉かんしゃくだまを破裂さした。
乗合自動車 (新字新仮名) / 川田功(著)
そして、宛然まるで蹲る大獣のように物凄い黒色が仄明るい空を画ると、漸々その極度の暗黒を破って、生みたての卵黄のように、円らかにも美くしい月が現われるのでございます。
C先生への手紙 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
私は棺側に進んで、おしづさんの亡骸なきがらまみえた。おしづさんは病症の所爲せゐとかで、宛然まるで石膏細工のやうな顏や手をして居ました。髮だけは生前私が記憶して居るまゝに、黒く長く枕邊に亂れて居た。
「青白き夢」序 (旧字旧仮名) / 森田草平(著)
腦天をりつける太陽が宛然まるで火の樣で、そよとの風も吹かぬから、木といふ木が皆死にかかつた樣に其葉を垂れてゐた。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「太郎さん、お前は何を那麽そんなにポケットに入れて置くの? 大変ふくらんでるじゃないか。宛然まるでつう懐中ふところのようだよ」
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
山麓さんろくには、紅白こうはくだんだらのまくり、天幕テントり、高等官休憩所かうとうくわんきうけいじよ新聞記者席しんぶんきしやせき參觀人席さんくわんにんせきなど區別くべつしてある。べつ喫茶所きつさじよまうけてある。宛然まるで園遊會場えんいうくわいぢやうだ。
蟋蟀こほろぎでさへ、むしは、宛然まるで夕顏ゆふがほたねひとつこぼれたくらゐちひさくつて、なか/\見着みつかりませんし、……うしてつかまりつこはないさうです……貴女あなたがなさいますやうに
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そう言って私がころがり込んで行った……宛然まるでユスリですネ……どうしても先方さきで逢わない。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ると、宛然まるで空々そら/″\しい無理むり元氣げんきして、ひて高笑たかわらひをしてたり、今日けふ非常ひじやう顏色かほいろいとか、なんとか、ワルシヤワの借金しやくきんはらはぬので、内心ないしんくるしくるのと、はづかしくところから
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「子供のことよ。宛然まるで玩具箱を引っくりかえしたようだわ。今朝は最早もう慣れてしまったけれど、昨日は頭痛がしてよ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
遺骨ゐこつは三四たい合葬がつそうした形跡けいせきがある。其所そこにも此所こゝにも人骨じんこつよこたはつてるが、多年たねん泥水どろみづしたされてたので、れると宛然まるでどろごどく、かたちまつた取上とりあげること出來できぬ。
さつきは雨脚あめあししげくつて、宛然まるで薄墨うすゞみいたやう、堤防どてだの、石垣いしがきだの、蛇籠じやかごだの、中洲なかずくさへたところだのが、点々ぽつちり/\彼方此方あちらこちらくろずんでて、それで湿しめつぽくツて
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……しまひにや山も川も人間の顔もゴチヤ交ぜになつて、胸の中が宛然まるで、火事と洪水と一緒になツた様だ。……僕は一晩泣いたよ、枕にして居た帆綱の束に噛りついて泣いたよ。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「母さん、母さん、母さん——母さんちゃん——ちゃん——ちゃん——ちゃん」宛然まるで、気がちがったような声だ……それは三吉の耳についてしまって、何処に居ても頭脳あたまへ響けるように聞えた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かれ容貌ようばうはぎす/\して、何處どこ百姓染ひやくしやうじみて、※鬚あごひげから、ベツそりしたかみ、ぎごちない不態ぶざま恰好かつかうは、宛然まるで大食たいしよくの、呑※のみぬけの、頑固ぐわんこ街道端かいだうばた料理屋れうりやなんどの主人しゆじんのやうで、素氣無そつけなかほには青筋あをすぢあらは
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼処あすこが好いのさ。そうしてジャリッと粗目ざらめが歯に当るところは何ともいえないと此処の人は言っている。東京のはパク/\していて宛然まるで食パンのようだよ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
もツとのこれからふゆになりましてやま宛然まるでこほつてしまひ、かはがけ不残のこらずゆきになりましても、貴僧あなた行水ぎやうずゐあそばした彼処あすこばかりはみづかくれません、うしていきりがちます。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
自分らの這入はいっていた一室はどうにか壊れずにいるが、部屋の中は宛然まるで玩具箱を引繰り返したように、種々いろいろの道具が何一つとして正しく位置を保っているのはなく、悉く転倒して
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
破壞した跡の燒野には、君、必ず新しい勢のい草が生えるよ。僕はね。宛然まるで自分が革命でも起した樣な氣で、大威張で局へ行ツて、「サカンニヤレ」といふの電報を打ツたんだ。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「この足袋を見給へ、宛然まるで死人しびとが穿いたやうだ。」
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そうして万事御台所みだいどころ本位で御機嫌を取っている。妻め悉皆すっかり増長してしまって宛然まるで女王クイーンだね。大きな目をして婆さん染みたところはトランプの女王クイーンに能く似ているだろう
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
けれどもぶりではたしかにない、あのはらのふくれた様子やうすといつたら、宛然まるで鮟鱇あんかうるので、わたしかげじやあ鮟鱇博士あんかうはかせとさういひますワ。此間このあひだ学校がくかう参観さんくわんたことがある。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
破壊した跡の焼野には、君、必ず新しい勢ひのい草が生えるよ。僕はね。宛然まるで自分が革命でも起した様な気で、大威張で局へ行ツて、「サカンニヤレ」といふの電報を打ツたんだ。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
宛然まるで——この船は幽霊だ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……ゆめなんだか、うつゝなんだか、自分じぶんだか他人たにんだか、宛然まるで弁別わきまへいほどです——前刻さつきからおはな被為なすつたことも、其方そちらではたゞあはあはわらつてらつしやるのが、種々いろ/\ことばつて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
学問があり演説は巧し、おまけに金があると来てるから、宛然まるで火の玉の様に転げ歩いて、熱心な遊説をやつたもんだが、七八万の財産が国会開会以前まへに一文も無くなつたとか云ふ事だつた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ちやるめらを吹く、さゝらをる、ベルを鳴らしたり、小太鼓を打つたり、宛然まるで神楽かぐらのやうなんですがね、うちおおきいから、遠くに聞えて、夜中の、あの魔もののお囃子はやし見たやうよ
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
男は、宛然まるで鷲が黄鳥うぐひすでもつかまへた様に、小さい藤野さんを小脇に抱へ込んでゐたが、美しい顔がグタリと前に垂れて、後には膝から下、雪の様に白い脚が二本、力もなくブラ/\してゐた。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ちやるめらをく、さゝらをる、ベルらしたり、小太鼓こだいこつたり、宛然まるで神樂かぐらのやうなんですがね、うちおほきいから、とほくにきこえて、夜中よなかの、あのもののお囃子はやしたやうよ
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
男は、宛然まるで鷲が黄鳥うぐひすでもつかまへた樣に、小さい藤野さんを小脇に抱へ込んでゐたが、美しい顏がグタリと前に垂れて、後には膝から下、雪の樣に白い脚が二本、力もなくブラ/\してゐた。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
えい、それまたかはつたもんだね。ふね一所いつしよけたものは、きたひとうて、わし安堵あんどをしたでがすが、木彫きぼりだ、とけばなほ魂消たまげる……えれ見事みごとな、宛然まるで生身しやうじんのやうだつけの。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
學問があり演説は巧いし、おまけに金があると來てるから、宛然まるで火の玉の樣に轉げ歩いて、熱心な遊説をやつたもんだが、七八萬の財産が國會開會以前に一文も無くなつたとか云ふ事だつた。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
其までは宛然まるでう、身体からだまつわつて、肩を包むやうにして、侍女こしもとの手だの、袖だの、すそだの、屏風びょうぶだの、ふすまだの、蒲団ふとんだの、ぜんだの、枕だのが、あの、所狭ところせまきまでといふ風であつたのが
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
盛岡の肴町位だとお定の思つた菊坂町は、此處へ來て見ると宛然まるで田舍の樣だ。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
盛岡の肴町位だとお定の思つた菊坂町は、此処へ来て見ると宛然まるで田舎の様だ。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
同じものを、来るみちじじい茶店ちゃみせでも売つて居た。が、其の形は宛然まるで違ふ。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
五十幾つの胸にも火事が始まる。四間に五間の教場は宛然まるで熱火の洪水だ。自分の骨あらはに痩せた拳がはた卓子テイブルを打つ。と、躍り上るものがある、手を振るものがある、万歳と叫ぶものがある。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
……其處そこで、昨日きのふ穿いたどろだらけの高足駄たかあしだ高々たか/″\穿いて、透通すきとほるやうな秋日和あきびよりには宛然まるでつままれたやうなかたちで、カラン/\と戸外おもてた。が、咄嗟とつさにはまぼろしえたやうで一疋ひとつえぬ。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
このえのきしたはこのやうな、ちひさな、番小屋ばんごやてゝ、其処そこ母様おつかさん二人ふたりんでたので、はし粗造そざうな、宛然まるではせといつたやうなこしらかたくいうへいたわたしてたけ欄干らんかんにしたばかりのもので
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
宛然まるで僕の平生の理想が君によつて実行された様な気がしたよ。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ばあさん、風説うわさを知りつゝうやつて一人で来た位だから、打明けて云ひます、見受けたところ、君は何だ、様子が宛然まるで野のぬしとでもいふべきぢやないか、何の馬鹿々々ばかばかしいと思ふだらうが、好事ものずきです
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)