いづ)” の例文
南は山影暗くさかしまに映り北と東の平野は月光蒼茫としていづれか陸、何れか水のけじめさへつかず、小舟は西の方を指して進むのである。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
いづれもそれ等印象派の画家がまだ名を成さない時代に買ひ集めたものが多いらしく、リユイル氏が愛蔵して売品としない物許ばかりである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
が、いづれにしてもみんなの口は、新任先生の下馬評ににぎはつて、ささやきとなり呟きとなり笑ひとなつて、部屋の空氣がざわめき立つてゐた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
此家こゝ世辞せじかひる者はいづれも無人相ぶにんさうなイヤアな顔のやつばかり這入はいつてます。これ其訳そのわけ無人相ぶにんさうだから世辞せじかひに来るので婦人
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
冷静れいせいなる社会的しやくわいてきもつれば、ひとしく之れ土居どきよして土食どしよくする一ツあな蚯蚓みゝず蝤蠐おけらともがらなればいづれをたかしとしいづれをひくしとなさん。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
いづれ僕は税率改正の意見を然るべき政治家に話す積りだ。無論同時に二三の新聞の記者にも話して遣る。彼等に敷衍ふえんさせて遣るのだね。
コロボツクルはいづれの仕方にしたがつて火を得たるか。直接ちよくせつ手段しゆだんにては到底たうてい考ふ可からず。コロボツクルの遺物中ゐぶつちうには石製の錐有り。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
パリス いづれも名譽めいよ家柄いへがらであらせらるゝに、ひさしう確執なかたがひをなされたはおどくでござった。ときに、吾等われら申入まうしいれたこと御返答ごへんたふは?
いかに時頼、人若ひとわかき間は皆あやまちはあるものぞ、萌えづる時のうるはしさに、霜枯しもがれの哀れは見えねども、いづれか秋にはでつべき。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
私は最早や、あの女を振捨てやうとも、又は世話しやうとも、いづれにも思ひ惱まぬ方がよいと思つた。振捨てるのは餘りに無情である。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
いづれの家も寝静まつた深夜の、寂寞せきばくの月をんで来るのが、小米である、ハタと行き当つたので、兼吉の方から名を呼びかけると
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
のつそり立ち上りざま「いづれ近日何等なんらかの沙汰をしようが、余りあてにしない方がよからう。」とていよく志望者を送り出してしまふ。
そのいづれの地に往つたかは、今考ふることが出来ぬが、「山館避暑」、「門外追涼」の二詩は蘭軒の某山中にあつたことを証する。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いづれにしても同氏が現文壇の批評家として名のある人である事と、且つ非道ひどい誤譯をする人だといふ以外には殆ど何も知る處が無かつた。
たゞ、それについては、おれにも少し、腑に落ちんこともあるし、いづれ、あとから、それとなく調べてみようと思つてゐたんだ。
秘密の代償 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
『ハ、然うでごあんす。いづ後刻あとでお話しようと思つて、受取つた訳でアごあんせん、一寸お預りして置いただけでごあんす。』
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
宗助そうすけ小六ころくあひだには、まだ二人ふたりほどをとこはさまつてゐたが、いづれも早世さうせいして仕舞しまつたので、兄弟きやうだいとはひながら、としとをばかちがつてゐる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
去程さるほど同心どうしん原田大右衞門松野文之助まつのぶんのすけの兩人いづれも旅裝束たびしやうぞくにて淺草三間町の自身番へ來りければ虎松も豫々かね/″\申付られしこと故支度したく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
主人土佐守へ御あいさつ被成べしなど、今日ハ申居候、いづレ此儀も又打こわれたれバ、一戦ニて候得ども、なにぶんおもしろき御事ニて候。
さてまた此大したお金を何ぞいことにつかたいと思ふにつけ、さき/\のかんがへが胸のうちに浮んで来ましたが、いづれも夢か幻のやうくうな考へでした。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
『咲きまじる花はいづれとわかねどもなほ常夏とこなつにしくものぞなき』子供のことは言わずに、まず母親の機嫌きげんを取ったのですよ。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
過去くわこ經驗けいけんれば、金解禁きんかいきん準備じゆんびをする場合ばあひには、世界せかいいづれからも日本にほん圓貨ゑんくわたいして思惑投機おもわくとうきおこなはれるのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
左なる二人の女は同楼の鴇手やりてと番頭新造にして、いづれも初花の罪をかばひしとがによりて初花と同罪せられしものなりと云ふ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
同じく其弟の源六は佐々さっさ成政の養子で、二人いづれも秀吉を撃取うちとりにかかった猛将佐久間玄蕃げんばの弟であったから、重々秀吉のにくしみは掛っていたのだ。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いづれの社界にも魔毒あり。流星怪しく西に飛ばぬ世の来らば、浅間の岳の火烟全く絶ゆる世ともならば、社界の魔毒全く其たいを絶つ事もあるべしや。
エイフツドクハク伊等イとう各國かくこく上等じやうとう船客せんきやくいづれも美々びゞしき服裝ふくさうして着席ちやくせきせる其中そのなかまじつて、うるはしき春枝夫人はるえふじん可憐かれん日出雄少年ひでをせうねんとの姿すがたえた。
辰馬が家を持つたと聞いたが、いづれあれも今度の絶交一件に関連して居るだらうから、尋ねて行くのも変なものだ。それに、第一まだ宿所の通知も無い。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
是に反しては、各自てんでんに體面を傷ツけるやうなものだ。でいづれもほてツた頭へ水を打決ぶツかけられたやうな心地こゝちで、一人去り二人去り、一と先づ其處を解散とした。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
新らしく植付けられた林檎や葡萄ぶだう実桜さくらんぼの苗はいづれも面白いやうにずん/\生長おひのびて行つた。下作したさくとして経営した玉葱たまねぎやキャベツのたぐひもそれ/″\成功した。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
自身の行く山の名も村の名も私はよく知らないのです。今でも知りません。いづれ国境の山なのでせうが、紀州境ひなのか、河内かはち境ひなのか知りませんでした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
見よ、四面の連山のさながら波濤の起伏するがごとく遠く高くつらなれるを。天下いづれの處にかこのおもしろき一そくとこの深奧なる無數の山谷とを見ることを得む。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
併しいづれも訳語や文体は仏蘭西フランス臭味をただよはせた、まづ少年読物と云ふ水準を越えないものばかりである。
草木土石の性質を会得して医道の祖となつたといはれて居るがいづれも神話中の人物で、もとより信ずべき筋のものではなく、長い間の経験と幾多の犠牲とを払ひ
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
うす気味わるやにたにたの笑ひ顔、坂本へいでては用心したま千住せんぢゆがへりの青物車あをものぐるまにお足元あぶなし、三嶋様の角までは気違ひ街道、御顔おんかほのしまりいづれもるみて
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
福音書ノいづレノ部分ニモ耶蘇やそノ面貌ヲ記載シタルコトナシ。サレバ、後人、耶蘇ノ像ヲ描カントスルモノ、ソノ想像ノ自由ナルト共ニ、表現ノ苦心尋常ニアラズ。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
但馬殿も我なから我をわすれられ候、さて上手かなと被申まをされ候つる、藤永、朝長、いづれも/\出来申候、不存候者之ぞんぜずさふらふものの目に、さあるべきやうに見申みまをすかよき上手と申候間
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やあ、方々かた/″\かうべあるとかうべなきといづれがきや。とき賈雍かよう從卒じうそつ、おい/\といてまをしていはく、かしらあるこそさふらへ。ふにしたがうて、將軍しやうぐんしかばねいてうまよりつ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其他そのほかいづれも断片だんぺんで、文句もんくもとより拙劣せつれつたゞおどるまゝにペンをはしらせたものとしかえぬ。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
すなはその二十分時ぶんじとは長針ちやうしんの十二ところいたまで二十分時ぶんじあるとふことにて、いづれも長針ちやうしんは十二もとにし盤面ばんめんにある六十のてんかぞへて何時なんじ何分時なんぶんじふことをるべし。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
「それではお前も承知をしてくれるな。それで私も多きに安心した。くはしい事はいづれ又寛緩ゆつくり話を為やう。さうしてお前の頼も聴かうから、まあ能く種々いろいろ考へて置くがいの」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かたちあらはされたもので、もつとふるいとおもはれるものは山東省さんとうしやう武氏祠ぶしし浮彫うきぼり毛彫けぼりのやうなで、これ後漢時代ごかんじだいのものであるが、その化物ばけものいづれも奇々怪々きゝくわい/\きはめたものである。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
かれ書物しよもつ女主人をんなあるじそりなか積重つみかさねて、軒下のきしたいたのであるが、何處どこからともなく、子供等こどもらつてては、一さつき、二さつ取去とりさり、段々だん/\みんないづれへかえてしまつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
午後零時四十分、峰の上に立つて見ると、其處は可成りに廣いひらで、未だ灌木帶の區域にも達せず、大樹がすく/\と立ち列んで、いづれが最高のだんか見透しする事も出來ない。
黒岩山を探る (旧字旧仮名) / 沼井鉄太郎(著)
英語えいごたまへ!』とつて小鷲こわしは、『そんなながッたらしいこと半分はんぶんわからない、いくつたつて駄目だめだ、いづれもしんずるにらん!』つて微笑びせうかくすためにあたまげました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
若し今の儘にて行を改めざる時は、ブレエメンに在る許嫁いひなづけの良人は定めて不幸に感ずるならむと存じ候。彼日フリツチイは某君なにがしくんと小生の妻を捨ておきて、いづれへか立去りし由に候。
いづれの停車場附近にも一種の明状し難い都会と田園とのアランジユメントがあつた。
新橋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
どちらでも宜い、何処へ行つても同じことだ、価値の等差がない、いづれを選んでもよい、だから選択に困る、本来ならば故郷へ帰るべきだ、だがもしも……それに京都にも未練がある
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
文久錢ぶんきうせんともふべきおあしんだのです、恰度てうどわたくし其節そのせつ其塲そのばりましたが、なに心得こゝろゑませんからたゞあわてるばかり、なに振舞ふるまいのあツたときですから、大勢たいぜいひとりましたが、いづれもあをくなり
ひろめる積りでごわす。さうなつたらいづれ嘉吉さんも此方をやめて来て貰はんにやなりますまい。われ/\兄弟仲間の力を借りて関西一の工場と云はれるやうにしたうごわすてなあお父さん。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
交通の女王たる鉄道はいづれの津々浦々にも、幾千の旅客を負ふて、ほとんど昼夜をめざる也、日本の文明は真個に世界を驚殺せりと云べし、三十年前、亜米利加アメリカのペルリが、数発の砲声を以て