空腹くうふく)” の例文
二人ふたり空腹くうふく疲労つかれのために、もはや一歩いっぽうごくことができずに、おきほうをながめて、ぼんやりとかんばかりにしてっていました。
黒い旗物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
兵營へいえいからすでに十ちか行程かうていと、息詰いきづまるやうにしするよる空氣くうきと、ねむたさと空腹くうふくとにされて、兵士達へいしたちつかれきつてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
わたしは仲間なかまがこんなにひどい空腹くうふくめられているのを見て、そういう運命がわたしの上にも向いて来やしないかとおそれた。
いまかく空腹くうふくかんじて塲合ばあひに、あのさかなを一とらへたらどんなにうれしからうとかんがへたが、あみ釣道具つりどうぐのたゞこゝろいらだつばかりである。
茶釜ちやがまめてたのである。それほど空腹くうふくかんぜぬかれはしるのがいやになつた。かれ身體からだ非常ひじやうえてることをつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
三人目の人に珈琲コーヒの半分を遣つて、迫り來る空腹くうふくに堪へられないで、人知れず泣きながら、珈琲コーヒの殘りを呑み込むやうなことが幾度もあつた。
がたうはござりますが、不調法ぶてうほふでござりますし、それに空腹くうふくもよほしましたで。‥‥』と、玄竹げんちくはペコ/\になつたはら十徳じつとくうへからおさへた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
先生は昔の事を考えながら、夕飯時ゆうめしどき空腹くうふくをまぎらすためか、火の消えかかった置炬燵おきごたつ頬杖ほおづえをつき口から出まかせに
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
きみのおかげで、さむさからも空腹くうふくからものがれることができたよ。そのうえ、おちついてたばこをすうことまでできたんだ。まったく感謝かんしゃするよ。
二人は空腹くうふくかかえて一生懸命に駈け出した。さいわいに例の貨物自動車は、路面の柔いのに注意してか、ソッと動いている。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
醫者いしやかへつたあとで、宗助そうすけきふ空腹くうふくになつた。ちやると、先刻さつきけていた鐵瓶てつびんがちん/\たぎつてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
まくにてかへらんとせしに守る者木戸をいださず、便所べんじよは寺のうしろにあり、空腹くうふくならば弁当べんたうかひ玉へ、取次とりつぎ申さんといふ。我のみにあらず、人も又いださず。
「ははア、どうもさっきからきげんがわるいと思ったら、空腹くうふくのために、ふくれているんだな」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
皆之を押臥わうぐわし其上に木葉或はむしろきて臥床となす、炉をかんとするに枯木かれきほとんどなし、立木を伐倒きりたをして之をくすふ、火容易やうゐうつらず、寒気かんき空腹くうふくしのぶの困難亦甚しと云ふべし
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
つかひ盡しはや一錢もなくなりいと空腹くうふくに成しに折節をりふし餠屋もちや店先みせさきなりしがたゝずみて手の内を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
半時間はんじかん以上いじやうたねば人車じんしやないといて茶屋ちやゝあが今度こんどおほぴらで一ぽんめいじて空腹くうふく刺身さしみすこしばかりれてたが、惡酒わるざけなるがゆゑのみならず元來ぐわんらい以上いじやうねつある病人びやうにん甘味うまからうはずがない。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
空腹くうふくと心配でまっさきに泣きだしたコトエである。仲間はずれになりたくないばかりに、本の包みをやぶにかくして出かけたコトエは、船で送りとどけられたときにも、ひとり気がふさいでいた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
空腹くうふくで敏感になつたあいつの鼻面はなづら
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
かぜく、さびしいむらほうおとこかえっていきました。たとえ、わずかばかりのおかねであっても、空腹くうふくをしのぐことができたのであります。
窓の下を通った男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしがなにかゆかいな曲をハープでひいたら、きっと空腹くうふくを忘れることができるかもしれない。わたしたちはみんなひどく弱りきっている。
彼等かれら勞働らうどうから空腹くうふく意識いしきするとき一寸いつすんうごくことの出來できないほどにはか疲勞ひらうかんずることさへある。什麽どんな麁末そまつものでも彼等かれらくちには問題もんだいではない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
まくにてかへらんとせしに守る者木戸をいださず、便所べんじよは寺のうしろにあり、空腹くうふくならば弁当べんたうかひ玉へ、取次とりつぎ申さんといふ。我のみにあらず、人も又いださず。
はて艇舷ふなべり材木ざいもくでも打碎うちくだいて、にしてまんかとまで、馬鹿ばかかんがへおこつたほどで、つひれ、船底ふなぞこまくらよこたはつたが、その空腹くうふくため終夜しうやねむこと出來できなかつた。
前の日に殆んど何も食べてゐなかつたから空腹くうふくで殆んど病氣になる程だつたのだ。
しばらくあはせてゐたが、宗助そうすけはついに空腹くうふくだとかして、一寸ちよつとにでもつて、時間じかんばしたらといふ御米およね小六ころくたいする氣兼きがね頓着とんぢやくなく、食事しよくじはじめた。其時そのとき御米およねをつと
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一同はお浜御殿はまごてんの石垣下まで漕入こぎいつてから空腹くうふくを我慢しつゝ水の上の全く暗くなるのを待ち船宿の桟橋へあがるや否や、店に預けて置いた手荷物を奪ふやうに引掴ひつつかみ、めい/\あとをも見ず
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ゆきははげしくりだし、寒さと空腹くうふくはたまらなくぼくをせめたてるんだ。ぼくはただ雪の中からのがれて、屋根やねの下でゆっくりとやすんで、はらいっぱい食べたいと、そればかり考えていたよ
家内の者より初めて承まはり實に驚き入しゆゑ早速くやみに參らんと存じ旅行りよかうまゝ草鞋わらぢとか空腹くうふくに付食事を致し居り候所へ御捕方とりかたの人々參られ御召捕に相なりし次第にて勿々なか/\人を殺し金子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
火がなくて、沖合おきあいへのろしもあげられないとなれば、いやでもとうぶんこの島にこもっている外ない。そうなれば食事のことを考えなければならない。何か空腹くうふくをみたすような果物かなんかを
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
母犬おやいぬは、自分じぶんが、空腹くうふくかんじているときでも、なにかものつければ、すぐに子供こどもたちのいるところへってきました。
森の中の犬ころ (新字新仮名) / 小川未明(著)
最初さいしょはなつかしいバルブレンのおっかあから、それからヴィタリス親方から、わたしは犬とさるといっしょに空腹くうふくで、みじめなままてられた。
かれ老躯らうく日毎ひごと空腹くうふくから疲勞ひらうするため食料しよくれう攝取せつしゆするわづか滿足まんぞく度毎たびごと目先めさきれてるかれらつしてところみちびいてるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しかこのは、無論むろん空腹くうふくまゝれて、ゆめも、始終しじう食物しよくもつことゆめみるといふ次第しだい翌日よくじつになるとくるしさはまた一倍いちばい少年せうねん二人ふたりいろあをざめて、かほ見合みあはしてるばかり
なかつてもう氣が遠くなつた私は、味なんぞ考へないで、私の分を一さじさじむさぼり食べたが空腹くうふくのせつない苦痛が和らいで見ると、實に不味まづい食物を手に持つてゐることがはつきりして來た。
空腹くうふくを感じていると見え
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
地獄ぢごくほとけあふたる心地なし世にもなさけあるおことばかなと悦び臺所だいどころへ到りて空腹くうふくの事ゆゑ急ぎ食事しよくじせんものと見ればいづれも五升も入べき飯櫃めしびつ五ツならべたりめし焚立たきたてなりければ吉兵衞は大きに不審ふしん此樣子このやうすでは大勢おほぜいの暮しと見えたれども此程の大家に男は留守るすにもせよ女の五人や三人はをるべきに夫と見えぬは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「おまえ水をかい出すにどのくらいかかるか、勘定かんじょうしていたじゃないか。だがとてもまに合いそうもないぜ。おれたちは空腹くうふく窒息ちっそくで死ぬだろう」
ほんとうに、わたしが、わるかったのです。いま自分じぶんが、こうした境遇きょうぐうになって、空腹くうふくかんじていますと、よく、あのときのあなたに同情どうじょうができるのです。
小ねこはなにを知ったか (新字新仮名) / 小川未明(著)
てられて、くるしみを経験けいけんしたねこは、そのときのおそろしさと、たよりなさと、空腹くうふくのつらさと、かなしさとをいつまでもわすれることができなかった。
小ねこはなにを知ったか (新字新仮名) / 小川未明(著)
それにしても、子どもたちの話では、おまえはまた旅芸人たびげいにんになると言っているそうだが、おまえもう、あの寒さと空腹くうふくで死にかけたことをわすれたのかえ
いままでは、空腹くうふくということをらず、おじょうさんや、ぼっちゃんたちにかわいがられていたことをかんがえると、それは、どんなに幸福こうふくなことであったろうか。
小ねこはなにを知ったか (新字新仮名) / 小川未明(著)
そしてぼくのすることはそのにえたつのを見るだけだ。ぼくはスープのにおいをかいでいる。だがそれだけだ。スープのにおいでははららない。どうしてよけい空腹くうふくになる。
彼女かのじょは、子供こども無事ぶじだったのをよろこび、ってきたえさあたえました。そして、みずからの空腹くうふくわすれたほどほそくして、子供こどもべるのを満足まんぞくしたのでした。
どこかに生きながら (新字新仮名) / 小川未明(著)
もはや、かれは、空腹くうふくかんずるどころでありません。ただ、うとうととして、苦痛くつうをこらえて、けたりじたりして、えだにしがみついているばかりでした。
温泉へ出かけたすずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
空腹くうふくのねずみは、あぶらげのこうばしいにおいをかいで、我慢がまんがしきれなかったものでした。ねずみは、そのせまい金網かなあみなかで、よるじゅう出口でぐちをさがしながら、あばれていました。
ねずみの冒険 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あかぼうは、それをどんなによろこんでいたでしょう。母親ははおやが、いまどんなにつかれているか、また空腹くうふくなやんでいるか、そんなこともらずに、無邪気むじゃきにつるをってわらっていました。
千羽鶴 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おとこは、空腹くうふくかかえながら、まちなかをさまよわなければなりませんでした。
窓の下を通った男 (新字新仮名) / 小川未明(著)