あはれ)” の例文
それから數日間すうじつかん主人しゆじんうち姿すがたせなかつた。内儀かみさんは傭人やとひにん惡戯いたづらいてむしあはれになつてまたこちらから仕事しごと吩咐いひつけてやつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
つけるに外見みえを捨てその蝙蝠傘かうもりがさを借り遂に兩杖となりたるぞあはれなる道は捗取はかどらねど時が經てば腹は减りてまた苦を重ぬるを道人勇みを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
若者は名は杜子春とししゆんといつて、元は金持の息子でしたが、今は財産をつかつくして、その日の暮しにも困る位、あはれな身分になつてゐるのです。
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一 王を尊び民をあはれむは學問の本旨。然らば此天理を極め、人民の義務にのぞみては一向ひたすらなんに當り、一同の義を可事。
遺教 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
熟々つく/″\見て感心なし今の話しには母御の紀念かたみの此櫛と云はるゝからは片時も忘れ給はぬ孝心かうしんを天道樣もあはれまれ必ず御惠みなるならん能々父子てゝご
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
たゞをとこうらんでのろひ、自分じぶんわらひ、自分じぶんあはれみ、ことひと物笑ものわらひのまととなる自分じぶんおもつては口惜くやしさにへられなかつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
火元と認定せらるる鰐淵方わにぶちかた塵一筋ちりひとすぢだに持出もちいださずして、あはれむべき一片の焦土をのこしたるのみ。家族の消息はただちに警察の訊問じんもんするところとなりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
此方このはうからくといへ恥辱ちじよくにもなるじつにくむべきやつではあるが、情實じやうじつんでな、これほどまでみさをといふものを取止とりとめていただけあはれんでつて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼の眼にはかくも深い悔いが、彼の調子にはかくも眞實なあはれみがあり、彼の振舞ひにはかくも男らしい力があつた。
忽然こつぜん八十余名の大多数を議会に送ることを得たりしなり、独逸社会党の勝利は主義につながるゝ全兄弟けいていの勝利なり、独逸皇帝、彼はあはれむべき一個の驕慢児けふまんじなるのみ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
又罪を犯すもののゆるすべくして且あはれむべきを知りぬ、一挙手一投足わが運命に関係あるを知りぬ、「サツカレー」の小説を読んで正直なるものの馬鹿らしきを知りぬ
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あはれむべからずや。(中略)今日の如き、実に天地開闢かいびやく以来興治の機運なるが故に、海外の諸国、天理の自然に基き、開悟発明、文化の域に至らむとする者少からず。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
夫婦ふうふこゝろ正直しやうぢきにしておやにも孝心かうしんなる者ゆゑ、人これをあはれみまづしばらくが家にるべしなどすゝむ富農ふのうもありけるが、われ/\は奴僕ぬぼくわざをなしてもおんむくゆべきが
春でもないのに、お前はどうして鶯笛なんか吹くのか、と良寛さんは心の中でその子をあはれんだ。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
時々とき/″\くろいものがスツスツととほるが、いぬだか人間にんげんだか差別さべつがつかぬ……客人きやくじんへんつた、ちがつた、とこゑあざけるごとく、あはれごとく、つぶやごとく、また咒咀のろごとみゝはいる……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
六三かれは播磨の六四印南野いなみのの者なるが、親もなき身の六五浅ましくてあるを、いと六六かなしく思ひてあはれをもかけつるなり。我に捨てられなば、はた六七船泊ふなとまりの妓女うかれめとなるべし。
また何處いづこにかほかる事能はずして苦む目付めつきあり、げにあはれむに堪へたるかな。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
其後荊棘けいきよくの為めにこと/″\破壊はくわいせられ、躰をふべきものさらに無く、全身こぞりて覆盆ふくぼんの雨に暴露ばうろせらる、其状そのじやう誠にあはれむにへたり、衆相対してひらくもげきとしてこゑなく、あほぎて天の無情をたん
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
悲しむ兩馬見おろしてあはれ催すクロニオーン、 440
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
憎むべく、のろふべく、あはれむべく
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
さもこそと、あはれみ給へ
あはれ今 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そのすがたをばあはれみて
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
あはれがおのおとどひは
茴香 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
それを世間一般は、どう云ふ量見か黙殺してしまつて、あのあはれぢよ主人公をさも人間ばなれのした烈女であるかの如く広告してゐる。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
土塊どくわいごとうごかぬかれ身體からだからはあはれかすかなけぶりつてうてえた。わら沿びたとき襤褸ぼろかれ衣物きものこがしたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あはれ何時迄いつまで狂氣きやうきでも有まじ其内には正氣しやうきに成るべしとてつれ歸り是も隱居所いんきよじよへ入置つかはせしに追々おひ/\正氣に相成あひなりければ又々以前の如く産婦さんぷ取揚とりあげ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そんなら其子そのこくなつてか、可憐かわいさうなとおくさまあはれがりたまふ、ふく得意とくいに、此戀このこひいふもはぬも御座ござりませぬ、子供こどもことなればこゝろにばかりおもふて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
誰一人、彼女の地位や、雇入に就いて、話し合ふ者もなく、誰一人、彼女の獨居や、隔離をあはれむ者もなかつた。
よく廿にぢう三年の七月になると、妄執まうしうれずして、又々また/\江戸紫えどむらさきふのを出した、これが九号の難関なんくわんへたかと思へば、あはれむべし、としくれ十二号にして、また没落ぼつらく
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
夫婦ふうふこゝろ正直しやうぢきにしておやにも孝心かうしんなる者ゆゑ、人これをあはれみまづしばらくが家にるべしなどすゝむ富農ふのうもありけるが、われ/\は奴僕ぬぼくわざをなしてもおんむくゆべきが
さうして私の希臘ギリシア神話における知識もまたこれに劣らぬ程あはれなものなのに過ぎません。
『伝説の時代』序 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
父母、太郎夫婦、此の恐ろしかりつる事を聞きて、いよよ豊雄があやまちならぬをあはれみ、かつは妖怪もののけしふねきを恐れける。かくて三〇一やむをにてあらするにこそ。妻むかへさせんとてはかりける。
くわふるに寒風かんきを以てし天地まさに大にれんとす、嗟呼ああ昨日迄は唯一回の細雨さいうありしのみにして、ほとん晴朗せいろうなりし為め終夜熟睡じゆくすゐ、以て一日の辛労しんらうかろんずるを得たるに、天未だ我一行をあはれまざるにや
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
老人らうじんくちをあいてわらひ、いやめづらしくもない、まゝあること、にはかゆき降籠ふりこめられると、ともはなれ、ねぐらまよひ、行方ゆくへうしなひ、じきゑて、かへつてひとなづる、これは獵師れふしあはれんで、生命いのちらず、ひえ
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あはれみ給へ、收穫時とりいれどき病人びやうにんのやうに、小股こまたにて出て來る目付を。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
よきしゆくなりしならん大きな宿屋荒果あれはてあはれなりこゝに木曾義仲馬洗うまあらひの水といふ有りといへど見ず例の露伴子愛着の美人も尋ねずわづかに痩馬に一息させしのみにて亦驅けいだす此宿より美濃みの國境くにさかひ馬籠まごめまでの間の十三宿が即ち木曾と總稱する所なり誠に木曾にりしだけありてこれより景色けいしよく凡ならず谷深く山聳へ岩に觸るゝ水生茂おひしげる木皆な新たに生面を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
我我ははげしい愛や、憎しみや、あはれみや、不安を経験した。在来、我我のとりあつかつた人間の心理は、どちらかといへばデリケエトなものである。
あけぬれば月は空にかへりて名残なごりもとゞめぬを、すずりはいかさまになりぬらん、な/\影やまちとるらんとあはれなり。
月の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ちく一に白状はくじやうにはおよびされば殺害せしと思ふ當人を取逃とりにがし殊に御法度はつと一人旅ひとりたびとめ落度おちどの申譯立ちがたく罪は徳右衞門一人にし長き牢舍らうしやのうちあはれむべしかれ牢死ろうし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
春の色香いろかでたるはあはれむべく、打霞うちかすめる空に来馴きなるるひよのいとどしく鳴頻なきしきりて、午後二時を過ぎぬる院内の寂々せきせきたるに、たまたま響くは患者の廊下をゆるう行くなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かの両親ふたおやは夫婦よめの家に一宿とまりしとのみおもひをりしに、死骸しがいを見て一言ひとことことばもなく、二人ふたり死骸しがいにとりつきかほにかほをおしあて大こゑをあげてなきけるは、見るもあはれのありさま也。
僕がオリヴァさんの前であかくなつたり、顫へたりしても、僕は、僕をあはれまない。僕はその弱さを罵る。それは、いやしむべきこと、肉の熱に過ぎない、斷言しますが、魂の緊張ではない。
公庁おほやけに召され給ふと聞きしより、かねてあはれをかけつる隣のおきなをかたらひ、とみ二三四野らなる宿のさまをこしらへし。我をとらんずときに鳴神なるかみひびかせしは、まろやが二三五計較たばかりつるなり。
目前もくぜんそのしをれた姿すがたると有繋さすがあはれつてしかどころではなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あはれみ給へ、食事の時に迷兒まひごとなりしやうなる目付めつきを。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
これほどまでみさをといふものを取止めて置いただけあはれんで遣つてくれ、愚鈍ではあるが子供の時からこれといふ不出来ふでかしも無かつたを思ふと何か残念の様にもあつて
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さうしていづれが多くあはれむべきであるかと謂へば、間の無念はそもそもどんなぢやらうか、なあ、僕はそれを思ふんです。それを思うて見ると、貴方の苦痛を傍観するより外は無い。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼等の一人ひとり、僕をあはれんでいはく、「注射でもなすつたら、よろしうございませうに。」
病牀雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
神明かの男が実心まごゝろあはれみ、人々のいのりをも納受なふじゆまし/\けん、かの娘目のさめたるがごとくおきあがり母をよびければ、みな奇異きゐのおもひをなし、むすめのそばにあつまりていかに/\といふ。
が、何か僕自身をあはれみたい気もちもないわけではなかつた。
都会で (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)