)” の例文
「さっきから、あすこに、水の中にひれしておりますのが私の兄の口子くちこでございます」と、口媛くちひめは涙をおさえてお答え申しました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
信長のこういう顔つきと沈黙に出会って、おそさない将は幾人もいない。いや信長の一族を加えても、絶無だといってよいだろう。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのありなしの日照りの雨がれたので、草はあらたにきらきら光り、向うの山は明るくなって、少女はまぶしくおもてをせる。
マリヴロンと少女 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
もしも博士が逃げだすようすを見せたら、そのときはすぐうしろからとびついて、その場にねじせる覚悟をしている田口巡査だった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
姉上はそでもてわれをかばひながら顔を赤うしてげ入りたまひつ。人目なきところにわれを引据ひきすゑつと見るまに取つてせて、打ちたまひぬ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それはまるつかまへほうびて四角しかくになつたかたちで、ちょっとむかしくちひろつぼせて、よこからたようなかたちをしてゐるものであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
といいいい、てんでんのおしろてこもって、為朝ためともめてたら、あべこべにたたきせてやろうとちかまえていました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
老人ろうじんは、以前いぜんとちがって、すでにぜいたくにれてしまったから、むかしのように、やまたり、野原のはらすことができなかった。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
勘次かんじわざ卯平うへいせつけるやうとやいたときとりかごせて、戸口とぐち庭葢にはぶたうへに三も四いたのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
最初のやうな、若しくはそれに類似した少し激しい震動が来るならば、いつでもぐしやりと地にのめしさうに思はれた。
余震の一夜 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そのうちたけまばらになると、何本なんぼんすぎならんでゐる、——わたしは其處そこるがはやいか、いきなり相手あひてせました。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
号鐘ベルつて、講師は教室からて行つた。三四郎は印気いんきの着いた洋筆ペンつて、帳面ノートせ様とした。すると隣りにゐた与次郎が声を掛けた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かえって視線のやり場に困った鬱陶うっとうしい顔をしているのをみると、あなたは、面をせ、くるりとうしろを向き、ひとりで、バスに乗ってしまった。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
晏子あんし莊公さうこうし、これこくしてれいしかのちるにあたつて、所謂いはゆる(七二)さざるはゆうもの
と、忽ち剣の面、煌々こうこう明々陽に輝き、四方一面天地をこめて虹の如き光りほとばしると見るや「うん!」とばかりに悶絶して五右衛門は地上にたおれた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かくるがらきぞとてしみ/″\と物語ものがたりつお八重やへひざをなげしてくしもやらぬ口説くどきごとにお八重やへわれを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
このときなみだはらはらといてた。地面ぢめんせ、気味きびわるくちびるではあるが、つちうへ接吻せつぷんして大声おほごゑさけんだ。
或ときはむかし別れし妹にひたる兄の心となり、或ときは廃園にたおしたるヱヌスの像に、ひとり悩める彫工の心となり、或るときはまた艶女えんにょに心動され
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
すると、ふしぎなことには、先生のいつもの端然たんぜんたる静坐の姿勢がいくらかくずれている。顔をすこしせ、そのまゆの間には深いしわさえ見えるのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
烈女の名は世に現われる機会がなく、したがって手本とする前代の婦人の、大多数はけんしているのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さうでないと、簀子すのこうへたゝせて、引摺ひきずってかうぞよ。おのれ、萎黄病ゐわうびゃうんだやうなつらをしをって! うぬ/\、ろくでなし! おのれ、白蝋面びゃくろうづらめが!
そのはまるで半狂乱はんきょうらん頭髪かみみだして階段かいだんもとしまろび、一しょう懸命けんめいなが祈願きがんするのでした。——
とおかあさんは道のわきに行って、草むらと草むらとの間のぬまの中へ身をせて心の底からいのりました。
その行方ゆくえを目で追うた時、覚えず紀昌は石上にした。あしはワナワナとふるえ、あせは流れてかかとにまで至った。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
王成の鶉は王の鶉が来ると、鶏の怒ったようなふうで身をせて待った。王の鶉が強い喙でつッかかって来ると、王成の鶉は鶴のかけるようなふうでそれを撃った。
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
私はそこに強く心をかれるとともにへ難いやうな離愁りしうを感じて、そのままひとみひざせてしまつた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
道の行きどまりに小さなほこらがあった。いつもは、その前を何べん通りすぎても、特に気をとめて見たこともない。しかし、私はその前にひざまずいておがんだ。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
子供をだますようにして説きせられ、やっと礼服を新調したけれども、やはり少しも着ようとしない。
して祖訓をるにえることあり、ちょうに正臣無く、内に奸悪あらば、すなわち親王兵を訓して命を待ち、天子ひそかに諸王にみことのりし、鎮兵を統領して之を討平せしむと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
向こうに、おわんをせたような大月球が、そびえています。敷地の三方のすみには月世界行きのロケットの発着所があり、大ぜいの見物たちが順番を待っています。
電人M (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
甲州へは帰れもすまい、どこへ落着いて誰を頼る——お浜の頭はまだそこまで行っていないので、ただ無暗むやみに口惜しい口惜しいでしつまろびついきどおり泣いているのです。
翌朝、津村と私とは相談の上、ようやくめいめいが別箇行動を取ることにめた。津村は自分の大切な問題を提げて、話をまとめて貰うように昆布家の人々をせる。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
庄司の人々にたすけられて三八五ここにいたり給ひ、口のうち三八六つぶつぶと念じ給ひつつ、豊雄を退しりぞけて、かの袈裟とりて見給へば、富子は三八七うつつなくしたる上に
中断された話の続きを持ち出しもしないで、黙ったまま少しし目になってひかえていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しておもう、混淪こんりんの二気、初めて天地の形を分つや、高下三歳、鬼神の数を列せず。中古より降って始めて多端をはじむ。幣帛へいはくを焚いて以て神に通じ、経文を誦して以て仏にへつらう。
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ある松はうつ向きにせられ、起き上ろうとすればいやでも地上をうような形のままで、勢いをためされていた、しかもある松はいきなりたおれかかるような位置をつづけ
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ジナイーダは、きっとせ、くちびるみしめて、だまって父の言葉に耳を傾けていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
むちは持たず、せをしたように頭を低めて、馬の背中にぴたりと体をつけたまま、手綱たづなをしゃくっている騎手の服の不気味な黒と馬のどうにつけた数字の1がぱっと観衆のにはいり
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
おせんは、次第しだいくちびるせて菊之丞きくのじょうかおうえに、なみだともしてしまった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それからそれへとご吹聴ふいちょう下され、にぎにぎしくおはやばや、ぞくぞくとご光来こうらい観覧かんらんえいをたまわらんことを、一座いちざ一同になりかわり、象の背中せなかに平にしておんねがいたてまつるしだぁい。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
商人は、かわいそうに、ふるえ上がって、怪獣の前にぺったりひれしながら
なし或はし山にし修行をする故に山伏やまぶしとは申なりさてまた山伏の宗派しうはといツパ則ち三わかれたり三派と云は天台宗てんだいしうにて聖護院宮しやうごゐんみやを以て本寺となしたう眞言宗しんごんしうにて醍醐だいご寶院はうゐんの宮を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それでその兄が八年もの間、かわしおしました。そこでその兄が、き悲しんで願いましたから、そののろいの物をもとに返しました。そこでその身がもとの通りに安らかになりました。
下に谷川あり、(登り川といふのみなもとなり)そのかた屏風びやうぶをひらきてたてまはしたるがごとし。岩のいたゞして川におほひたる下は四五十人してせまからぬほどにて、やねあるがごとし。
色眼鏡いろめがねをかけて顔いっぱいに鬚髯ひげをはやしていましたから、こいつ胡散うさんな奴だと思ってせにかかりますと、先方もさるもの、猛然として私をつきのけようとしましたので、次の瞬間、ドタン
紅色ダイヤ (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
明子がさえぎらうとしたとき、村瀬の手は案外もろくがくりと垂れた。がそれと、棚から一冊のねずみ色の本がページひるがえしてベッドにさつて落ちたのとは全く同時だつた。村瀬はすばやくその本をつかんでゐた。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
うウむ!——と、鉄より強いじょうかなしばりだ。神尾喬之助のうなり声を耳にすると、台所の片すみにうずくまって、さっきからこの問答を聞いていたお妙が、このとき、わッ! としたのだった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
早苗の顔を見ていうと、早苗はだまってかぶりをふり、目をせた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
くわを振りあげて、自分の老齢ろうれいと非力を嘆じたわけだが、ともかく掘った。腕はしびれるようにつかれ、地にして休息した。隣家の庭のひのきに火がついて、マッチをすったあとの軸木じくぎのように燃え果てる。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
勧めたくなるのよ。あたしのせいではなくて、多分、あなたがどこかにせている気持ち——何だか不満のような気持ちがあたしにひびいて来るんじゃなくって、そしてあたしに云わせるんじゃなくて
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)