さわ)” の例文
旧字:
「いま、さむかぜが、あちらのとおもりなかさわいでいる。」と、にわとりげますと、にわとりは、うなだれてからだじゅうをまるくしてちぢむのでした。
ものぐさなきつね (新字新仮名) / 小川未明(著)
お嬢さんはさわがしい人ごみの中にぼんやり立っていることがある。人ごみを離れたベンチの上に雑誌などを読んでいることがある。
お時儀 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
亀の子がなかなか掴まらぬのですっかり自信をなくし、胸が苦しくあせさわいで、半分泣いた。ふと、自分を呼ぶ声にうしろ向くと
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
けれどその途中とちゅうで、うちの子は授業料じゅぎょうりょう免除めんじょしてもらってるのだったっけ、と思い出した。さわぎをちあげるわけにかなかった。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
『ぼくと恋愛だって!』と、この男はさけびました。『そいつはさぞかし愉快ゆかいだろうな! 見物人は夢中むちゅうになってさわぎたてるだろうよ!』
第一装だいいっそうのブレザァコオトに着更きがえ、甲板かんぱんに立っていると、上甲板のほうで、「ふかれた」とさわぎたて、みんなけてゆきました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
鋭敏えいびん作用はたらきをすることがある………たとへば何か待焦まちこがれてゐて、つい齒痒はがゆくなツて、ヂリ/″\してならぬと謂ツた風にさわぎ出す。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
平常ふだんから天地の間に居候いそうろうをしているように、小さく構えているのがいかにもあわれに見えたが、今夜は憐れどころのさわぎではない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おッとッとッと、おせんちゃん。んでそんなにいそぎなさるんだ。みんながこれほどさわいでるんだぜ。えくぼの一つもせてッてくんねえな」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
うじゃ、立派りっぱなおみやであろうが……。これでそなたのようやかたまったわけじゃ。これからは引越ひっこしさわぎもないことになる……。』
船虫が蚊帳の外のゆかでざわざわさわぐ。野鼠のねずみでも柱を伝って匍い上って来たのだろうか。小初は団扇うちわで二つ三つ床をたたいて追う。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その夢の中で、天照大神あまてらすおおかみ高皇産霊神たかみむすびのかみのお二方ふたかたが、建御雷神たけみかずちのかみをおめしになりまして、葦原中国あしはらのなかつくには、今しきりにみださわいでいる。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
わたしは狂人きょうじんのように、ふらふら表を歩き回って、一刻も早くこんなさわぎがおしまいになってくれればいいと、そればかり待ち望んでいた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
われにぎつて、さうまなこあきらかにさいを、多勢たぜい暗中あんちゆう摸索もさくして、ちやうか、はんか、せいか、か、と喧々がや/\さわてるほど可笑をかしことい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
口笛くちぶえ、やじ、ののしり声、モンクスがすっかりおびえているので、アメリカ人が承知しないのだ。場内はたいへんなさわぎだ。
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
遠くのさわうた富貴ふうき羨望せんばう、生存の快楽、境遇きやうぐうの絶望、機会と運命、誘惑、殺人。波瀾はらんの上にも脚色きやくしよく波瀾はらんきはめて、つひに演劇の一幕ひとまくが終る。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かくよめれども、国あまた隔てぬれば、いひおくるべきつてもなし。世の中さわがしきにつれて、人の心も恐ろしくなりにたり。
移転いてんさわぎも一型ひとかたついて、日々の生活もほゞ軌道に入ったので、彼女は泣く/\東京に帰った。妻も後影うしろかげを見送って泣いた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
手前がこの紙を張って置いて、人さわがせにわめき立てたとおっしゃるので——? 聞えません。殿様、そいつア聞えません。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
このさわぎに、おりの中のひょうが、刺戟しげきを受けないはずはなかった。野獣は恐ろしいうなり声と共に立ち上がって、檻の中を右に左にけまわりはじめた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その忙しさの間に、園長をつかまえてきて、これも料理しスペシァルの御馳走としてぞう河馬かばなどにやらなきゃならんそうで、いやはや大変なさわぎですよ
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ああ。さわがしいやつらであったぞ。月のおもしろさはこれからじゃ。またふえでもいて聞かせい」こう言って、甘利は若衆のひざまくらにして横になった。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
近くあからさまな男女の話し声や子どものさわぐ声、のこぎりの音まきる音など、すべてがいかにもまた、まのろくおぼろかな色をおんで聞こえる。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
など打返うちかへそのむかしのこひしうて無端そゞろそでもぬれそふ心地こゝちす、とほくよりおとしてあゆるやうなるあめちか板戸いたどうちつけのさわがしさ、いづれもさびしからぬかは。
雨の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と、その時に無茶先生が怒鳴りますと、今まであわさわいでいた兵隊たちはみんな一時にピタリと静まりました。
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
昼過ひるすぎからすこ生温なまあたゝかかぜやゝさわいで、よこになつててゐると、何処どこかのにはさくらが、霏々ひら/\つて、手洗鉢てあらひばちまはりの、つはぶきうへまでつてる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
もちろんただ上記の二つの例をもって、米国には社会党のさわぎもなく、政治上の腐敗ふはいもなく、自治の精神が完全無欠むけつに発達しているというは僕の意ではない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
むらものおおぜいはちをかぶったむすめいて、がやがやさわいでいるところをとおくからをおつけになって
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
旧暦は盂蘭盆うらぼんの十五日、ちょうど今夜は満月である。空ははれ、風はさわやかに、日の光は未だ強い。その良夜りょうやの前の二、三時間を慌ただしい旅の心がさわめきやまぬ。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
立ちどまっている子どもが五人になり、七人にふえたと思うと、その姿はしだいに大きくなり、がやがやさわぎとともに、ひとりひとりの顔の見わけもつきだした。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「えらいさわぎだなあ。おれ自分じぶん部屋へやいていたが、まるで、お前達まえたちのはいじゃないか。」
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今までの静謐せいひつとは打って変わって、足音、号令ごうれいの音、散らばった生徒のさわぐ音が校内に満ち渡った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
実際、東のそらは、お「キレ」さまの出る前に、琥珀こはく色のビールで一杯いっぱいになるのでした。ところが、そのまま夏になりましたが、ばけものたちはみんなさわぎはじめました。
怪物かいぶつははじめに、ものさびしい田舎いなかにあらわれた。それからまもなく、あちこちの町にも出没しゅつぼつするようになったのである。たいへんなさわぎになったことは、いうまでもない。
なにかにつけては美学びがく受売うけうりをして田舎者いなかものメレンスはあざやかだからで江戸ツ子の盲縞めくらじまはジミだからでないといふ滅法めつぱふ大議論だいぎろん近所きんじよ合壁がつぺきさわがす事少しもめづらしからず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
それをみせ小僧こぞう見付みつけて、土左衛門どざゑもんいてゐます土左衛門どざゑもんいてゐますとつてさわぐ。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
一年ひとゝせせきといふ隣駅りんえき親族しんぞく油屋が家に止宿ししゆくせし時、ころは十月のはじめにて雪八九尺つもりたるをりなりしが、夜半やはんにいたりて近隣きんりん諸人しよにんさけよばはりつゝ立さわこゑねふりおどろか
うちたをり多武たむ山霧やまきりしげみかも細川ほそかはなみさわげる 〔巻九・一七〇四〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
群衆は、自分達の好奇心が、満足し得る域境に達したと見え、以前よりも、大声を立てながらさわいでいる。が、啓吉には、水面に上っている屍体は、まだ少しも見えなかった。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あんまりさわがなくなった四五日前から前よりも一層ひどく髪が抜ける様になった。
秋毛 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それで式のある日などには、夫人が無理におさえつけ、女中までが手伝ってさわぎながら、まるで駄々ッ子を扱うように、あやしたりすかしたりして、いやがるのをいて着せねばならなかった。
ついに三味線をかかえたまま中二階の段梯子だんばしごを転げ落ちるようなさわぎも起った。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
であるから學校がくかう歸途かへりみちには大勢おほぜいそのくづおちかべいのぼつてワイ/\とさわぐ、つやら、はやすやら、はなはだしきは蜜柑みかんかはげつけなどして揄揶からかうのである。けれどもなん效果きゝめもない。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
見物人けんぶつにんおどろいたのおどろかないの、それはたいへんなさわぎになりました。「人形がいた」という者もあれば、「あれはさるき声だ」という者もあるし、一に立ちあがってはやし立てました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
君正しからず一国正しからずと知らば、潔く身を退くべきに、身の程をも計らず、区々たる一身をもって一国の淫婚いんこんを正そうとした。自ら無駄に生命をてたものだ。仁どころのさわぎではないと。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
このさわぎの中に阪井が青い顔をしてのそりとあらわれた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「目がまわりそうだとさ。あんまりさわぐと泣きだすぜ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれえると患者等かんじゃら囂々がやがやってさわす。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
三 みゆきむせびぬ 風さえさわぎて
七里ヶ浜の哀歌 (新字新仮名) / 三角錫子(著)
しらなみの寄せてさわげる
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)