すご)” の例文
死ぬ少し前まで一日のうちの八時間は其処そこすごして、悲しいことも嬉しいことも其処そこに居る時の私が最も多く感じたところなんですから
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
幾月いくつきかをすごうちに、てき監視みはりもだんだんうすらぎましたので、わたくし三崎みさきみなとからとおくもない、諸磯もろいそもう漁村ぎょそんほうてまいりましたが
馴々なれなれしくことばをかけるぐらいせめてもの心遣こころやりに、二月ふたつき三月みつきすごうちに、飛騨の涼しい秋は早くも別れを告げて、寒い冬の山風が吹いて来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから三千代のる迄、代助はどんな風にときすごしたか、殆んど知らなかつた。おもてに女の声がしたとき、彼はむね一鼓動いつこどうを感じた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
痼疾こしつのあるのは別だが、そうでなくて年中あっちが悪い、こっちが悪いとぐずぐずしている人がある。多くは神経質で思いすごしの人に多い。
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかし道三はその次に、この友が事変の直前に、光秀と愛宕権現あたごごんげんで一夜をすごしていることについて、本気になってこう責めた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
送るさま側眼わきめで見てさへ不便ふびんなるに子の可愛かあいさの一筋に小半年ほどすごせしが妻のお久が病中より更に家業も成ぬ上死後しご物入ものいり何ややに家財雜具を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
母も悦び、大いに酒をすごして寝ます。夏のことでございますから八畳の間へ一杯に蚊帳かやを釣りまして夫婦の寝る処がちゃんときまって居ります。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今思出でつと言うにはあらねど、世にも慕わしくなつかしきままに、余所よそにては同じ御堂みどうのまたあらんとも覚えずして、この年月としつきをぞすごしたる。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ウェーゲナー教授がグリーンランドで一冬すごした時に、あの全島をおおっている氷山の裂罅クレバスの底で、洋酒のコップ型の結晶を見付けたことがある。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
あはれなるかな吾友わがともよ、我のラサ府にありし時、その身につみのおよばんを、知らぬこころゆわがために、つくせし君をわれいかに、てゝや安くすごすべき
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
たのみにして今日けふまでもすごせしなりとひたけれどじようさまのこひこひにもあさふかさのあるべきならずれまだ其事そのこと
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もっとも、僕はまだこの辺で敵のスパイを見たわけではありません。ひょっとしたらおもいすごしかも知れません。しかし、僕の直覚がそれを感じるのです。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あなたは自分の生活をつぐなはうと願ひ、あなたの餘生を、不滅の存在にもつとふさはしい方法ですごしたいと思ひます。
亭主はべつになにをするということもなくぶらぶらしていて、かみさんが通いでこの辺の家の家事の手伝いなどをして、それですごしているようであった。
日日の麺麭 (新字新仮名) / 小山清(著)
またそとに宿る牧人、そのしづかなる群のあたりに夜をすごして、野の獸のこれを散らすを防ぐことあり 八二—八四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
あるいは、それは、お前の言う通り、封建的倫理観から来る考えすごしかも知れぬし、また精神サクランかもわからぬ。しかし私には、そうは思えないのだ。
廃墟(一幕) (新字新仮名) / 三好十郎(著)
ただ厄をのがれるというだけの、然し、この厄をのがれるためにその半年如何いかに重苦しくすごしたか、私は新聞で日映の広告のマークを見ただけでゾッとした。
魔の退屈 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
もつともまだ人通りも少い時分で、死體は玉垣の横手の方にあつたのですから、夜が明けたといつても一とときや半刻は、知らずにすごせば過せないこともありません。
その週間の残りの日数ひかずだけはどうやらこうやら、長吉は学校へ通ったが、日曜日一日をすごすとその翌朝あくるあさは電車に乗って上野うえのまで来ながらふいとりてしまった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼等かれら平生へいぜい家族かぞくまじつて、その老衰らうすゐがどうしても自然しぜん壯者さうしやあひだ疎外そぐわいされつゝ、各自かくじむし無意識むいしきでありながらしか鬱屈うつくつしてものう月日つきひすごしつゝあるとき
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
どもたちをおもひあいすることによつて、わたしはわたしの苦惱くるしみにみちみてる生涯しやうがいきよく、そしてうつくしい日々ひゞとしてすごすでせう。これはおほきな感謝かんしやであります。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
何事ぞ、眞の武士の唇頭くちびるぼすもいまはしき一女子の色に迷うて、可惜あたら月日つきひ夢現ゆめうつゝの境にすごさんとは。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
ヂオゲンは勿論もちろん書齋しよさいだとか、あたゝか住居すまゐだとかには頓着とんぢやくしませんでした。これあたゝかいからです。たるうち寐轉ねころがつて蜜柑みかんや、橄欖かんらんべてゐればれですごされる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
……(同族の一老人に對ひて)いや、叔父御をぢご、ままこしおろしめされ、貴下こなたわし最早もう舞踏時代ダンスじだいすごしてしまうた。おたがひに假面めんけて以來このかた、もう何年なんねんにならうかの?
自分達はこの地で明治天皇陛下の大葬の当日をすごした。折あしく風を帯びた寒い雨の降る朝であつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
第五 坐時すわりてをる起時たちてをる平均みならして、七歩しちぶ三歩さんぶすわくらゐにして、すわるにのみすごからざること
養生心得草 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
彼女かのぢよつとむ成長せいちやうたのしみすごした空想くうさうは、はからずもおそろしい不安ふあん彼女かのぢよむね暴露あばいつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
そこへ持って来て、左大臣が好意を示すようになってからは、その感激のせいでつい酒をすごし、酩酊めいていしてから床に這入るので、なおさらしつッこく手足にからみ着くようにする。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さいの河原はかなしい而して真実な俚伝りでんである。此世は賽の河原である。大御親おおみおやの膝下から此世にやられた一切衆生は、皆賽の河原の子供である。子供は皆小石を積んで日をすごす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
黄金丸はややありて、「かかる義理ある中なりとは、今日まで露しらず、まこと父君ちちぎみ母君と思ひて、我儘わがまま気儘にすごしたる、無礼の罪は幾重いくえにも、許したまへ」ト、数度あまたたび養育の恩を謝し。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
毎年まいねんイタリイを旅行りよこうするひと非常ひじようおほいのでありますが、イタリイ滯在たいざいなかばは、博物館はくぶつかんすごし、あとのなかばはローマだとかポムペイだとかの舊蹟きゆうせき巡遊じゆんゆうするといふありさまであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
京師けいしの、はなかざしてすご上臈じょうろうたちはいざらず、天下てんか大将軍だいしょうぐん鎮座ちんざする江戸えど八百八ちょうなら、うえ大名だいみょう姫君ひめぎみから、した歌舞うたまい菩薩ぼさつにたとえられる、よろず吉原よしわら千の遊女ゆうじょをすぐっても
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
骨董商はちょっと取片付とりかたづけて澄ましているものだが、それだって何も慈善事業で店を開いている訳ではない、その道に年期を入れて資本を入れて、それで妻子をすごしているのだから
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一体いったい夏菊という花は、そう中々なかなかしおれるものでない、それが、ものの二時間もあいだにかかる有様ありさまとなったので、私も何だか一種いやな心持こころもちがして、その日はそれなり何処どこへも出ずすごした
鬼無菊 (新字新仮名) / 北村四海(著)
親をすごすほどの芸も無くて、生意気な事ばかり言つて実は面目めんぼくも無いのです。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それがしに七人兄弟中に、拙者は罪人、芳は夭死ようし、敏は唖に否様ぶざまの悪い様なものなれど、またあと四人はかなりに世をすごせられ、特に兄様、そもじ、小田村は両人ずつも子供があれば不足は申されぬ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
とにかくその日の四五時間をすごした修道院のすべては、たとへばそこに住む修道士達の生活も、たんなる建物の感じそのものも、その建物をとり卷く自然の情景も、いや、眼にれ、耳に響き
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
しかし生徒の訳読に一応耳を傾けた上、綿密めんみつあやまりを直したりするのは退屈しない時でさえ、かなり保吉には面倒めんどうだった。彼は一時間の授業時間を三十分ばかりすごしたのち、とうとう訳読を中止させた。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
などというような詞が見えるが、予が生前に子規子から聞いた話などに比べて考えてみると、そんなことをいうは、あまり穿うがち過ぎた考えすごしでいわば余計な心配というものじゃあるまいかと思う
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
芝生しばふの上にころんで、ぼんやり日をすごしました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
女王樣ぢよわうさま微笑ほゝゑんですごされました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
この葬禮さうれいの夜をすごさせたまへ
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
お杉は駅尽頭しゅくはずれの蕎麦屋の娘で、飛騨小町と謳われる程の美人であったが、ういう訳か不思議に縁遠いので、三十に近いまで独身ですごした。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御家中の方々みな、主君のあなたへ御遠慮のように見うけらるるが、どうか其許そこもとよりお声をもってちとすごせと、おゆるしを
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すごしたり然共吾助は喜内をがいし奪ひ取し金も二百兩のうちおほくもつかはずかくし持しかば其の金のあるまかせて藤重ふぢしげこのむと云物を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
機會きくわいに、佐伯さへき消息せうそく折々をり/\夫婦ふうふみゝれることはあるが、其外そのほかには、まつたなにをしてらしてゐるか、たがひらないですご月日つきひおほかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おいおいたがいに無口になって、ときには無口の一日がすごされる。けれども心のつながりのい一日では無い。この人が眼で見よと知らする庭の初雪。
愛よ愛 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
北海道の長い冬休みを、子供たちとこの疎開先ですごした。遊び道具も本もない疎開先の生活で、とくに連日の吹雪の夜など、子供たちはよく私に話をせがんだ。
無下むげいやしきたねにはるまじ、つまむすめそれすらもらざりし口惜くちをしさよ、宿やどあるじ隣家となりのことなり、はば素性すじやうるべきものと、むなしくはなどすごしけん
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)