くるし)” の例文
それ三聲みこゑめにると、くやうな、うらむやうな、呻吟うめくやうな、くるしもがくかとおも意味いみあきらかにこもつてて、あたらしくまたみゝつんざく……
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なぜと云って、自分の足に合わない靴足袋ならば、決して不利な証拠ではないのです。何をくるしんで重りをつけて沈めたりしましょう。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それについては郷里くにの方へ何といって返事を出したらいいか、その事にくるしんでいる。尋常一様の返事ではとても承知する気支きづかえがなし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
煩悶の内容こそ違え、二葉亭はあの文三と同じように疑いから疑いへ、くるしみから苦みへ、悶えから悶えへと絶間なく藻掻もがき通していた。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
多「はい、お前さん何処から出た、わしア死ぬくるしみをして働く事は何とも思いやせん、有難うがんす、どうか置いておくんなせえよ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
父も家庭に対するくるしみ、妻子に対するくるしみ、社会に対するくるしみ——所謂いはゆる中年の苦痛くるしみいだいて、そのの狭い汚い町をとほつたに相違さうゐない。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
人は各人難問題を抱いてくるしむ。その時人の心は一の海である。動揺混乱底止する所を知らない。しかし人の御しがたき海を神は御し給う。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ほかの湯治客ほどに雨の日のつれづれにくるしまないのであるが、それでも人の口真似くちまねをして「どうも困ります」などといっていた。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それには好い部屋がないから四五日したら帰ると書いた。また病気が再発してくるしんでいると云う事はわざと知らせずにおいた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
南軍と北軍と、軍情おのずから異なることかくの如し。一は人えきくをくるしみ、一は人ようすをたのしむ。彼此ひしの差、勝敗に影響せずんばあらず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しゅうとめと嫁とが一緒に成って、国の方の話を始めると、きっしまいには両方で泣いて了う。二人は互に顔を合せているのもくるしかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いはんや漢語以外に幾多の特色あることを知る者ほとんどこれなきに至りては、彼らが蕪村を尊ぶ所以ゆえんを解するにくるしむなり。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そのとき船は阿弗利加アフリカ沖をはしっていたが、ガルールは仏領南亜米利加アメリカはギヤーヌの徒刑場へ流されたくるしい経験を思いだし
これにて「あゝ」とくるしみ、髻節もとどりをつかまへられしまま一つ廻る中に右の偏袒かたはだぬぎとなる。ここにてまた左の下腹につつこまる。
父在りし日さへ月謝の支出の血を絞るばかりにくるし痩世帯やせじよたいなりけるを、当時彼なほ十五歳ながら間の戸主は学ぶにさきだちてくらふべき急に迫られぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しか其麽そんなことは勘次かんじくるしめてのさもしいこゝろあるもの挽囘ばんくわいさせるちからいうしてないのみでなく、ほとんどなんひゞきをもかれこゝろつたふるものではない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
末の妹の生れる時、産褥さんじょくで母のあさましくくるしむのを見たり、その後もひよわくて年中両親に心配ばかりかけているその子の事を思うと心配だった。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
マーキュ はて、あの蒼白あをじろ情無じゃうなをんなのローザラインめが散々さん/″\やつくるしめるによって、はて狂人きちがひにもなりかねまいわい。
彼奴め頭の傷を説明する事が出来んで頭挿かんざしで突たなどとくるしがりやがるぞ此方は一目見た時からチャアンと見抜てある所持品の無い訳も分って居るは
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
然るに一月三ヶ日間は、祝として黍餅を雑煮として喰したりしに、三日の夜大に胃痛にてくるしめり。依て四日間は粥汁おもゆのみを喰して復常するを得たり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
『ではわたくしなどはいたずらくるしみ、不満ふまんならし、人間にんげん卑劣ひれつおどろいたりばかりしていますから、白痴はくちだと有仰おっしゃるのでしょう。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
西洋人がこの表題を見たら理解にくるしむであろう。元来関係語である以上、同じ国土を東の人は西と称し、西の者が東と称するは、猶太ユダヤの例を以ても知らる。
東西相触れて (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
製品の価格を不法に吊上つりあげ、大多数の消費者たる無産階級を層一層物価の暴騰ぼうとうに由ってくるしめる結果を生じます。
階級闘争の彼方へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
連日れんじつ晴天せいてんも一時にへんじて雪吹となるは雪中の常也。其ちからぬきいへくじく。人家これがためくるしむ事枚挙あげてかぞへがたし。
保は即座に承引して、「御遠慮なく奥さんやお嬢さんをおつれ下さい、追附おっつけ母も弘前から参るはずになっていますから」といった。しかし保はひそかに心をくるしめた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そは人々なかりせば、我は或は饑渇きかつの爲めにくるしめられけんも計り難きが故なり。我が人々の爲めに身にふさはしきわざして、恩義にむくいんとせしことは幾度ぞ。
癲癇病とは何の事一たい何處から聞て來たそし和主てまへは何處の者だサア云聞んと老婆の憤激ふんげき和吉はくるしいきさう被仰おつしやられては一言も御座りませねば申し升が何卒此手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
前にもいうた通り我々はかたき同士ではないのだ。俺は初めから君が好きであった。だから俺は君をくるしめたくないけれども、君が俺に敵対する以上はやはり仕方がない。
あのとき此奴こいつは、兄さんにくるしめられたのです。兄さんは護身用ごしんように、携帯感電器けいたいかんでんきをもっていらっしゃる。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ソノくるしミヤおもフベシ。蘆野あしや駅ニ飯ス。ここニ至ツテ路平坦へいたん。雨モマタム。田塍でんしょう数百けい未収穫ニ及バズ。稲茎わずかニ尺余。穂皆直立シ蒼蒼然トシテ七、八月ノ際ノ如シ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし僕等を最も力ける芸術は、僕等と同じ時代に、僕等と共にくるしみ、共に踠 もがいて、最もよく現代を領解し、最もよく未来を見越した芸術家に期待せねばならぬ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それだから何方どっちが会心の作か一寸判断にくるしむが、兎に角僕の成長をこれほどまで祝してくれたかと思ったら嬉しかった。実際僕は筍のように伸びる。親類へ行っても
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
稽古の窓に向つて三諦止觀さんたいしくわんの月を樂める身も、一てう折りかへす花染はなぞめ幾年いくとせ行業かうげふを捨てし人、百夜もゝよしぢ端書はしがきにつれなき君を怨みわびて、亂れくるし忍草しのぶぐさの露と消えにし人
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
しかこのは、無論むろん空腹くうふくまゝれて、ゆめも、始終しじう食物しよくもつことゆめみるといふ次第しだい翌日よくじつになるとくるしさはまた一倍いちばい少年せうねん二人ふたりいろあをざめて、かほ見合みあはしてるばかり
またたとへば、父母ふぼはととさま、ははさまんですこしもつかへなきのみならず、かへつ恩愛おんあいぜうこもるのに、なにくるしんでかパパさま、ママさまと、歐米おうべい模倣もはうさせてゐるものが往々わう/\ある。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
かくの如き事を考ふれば、私の如く信仰といふこともなく、安心立命とは行かぬ流義の人間にても、多少世間の事にくるしめらるることなくなり、自得じとくするやうなる処も有之やう存候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
ついの自分で勝手にくるしんで勝手に色々なことを、馬鹿な訳にも立たん事をかんがえてるもんですから、つい見境もなく饒舌しゃべるのです。いいえだれにもんなことを言った事はないのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
こと庭男にはをとこなどにはずなければ、最初はじめより艷書ふみりては、たまふかいな其處そこまことにあやふし、如何いかにせんと思案しあんくるしみしが、れよ、人目ひとめにふるヽはみちおなじこと
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
スルト私はどちらでもよろしい、義不義、口のきで自由自在、君が義士と云えば僕は不義士にする、君が不義士と云えば僕は義士にして見せよう、サア来い、幾度来てもくるしくないといっ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
尾花たか生茂おいしげれる中に、斜めにたてる石仏いしぼとけは、雪山せつざんに悩む釈迦仏しゃかぶつかと忍ばる。——見ればこけ蒸したる石畳の上に。一羽の雉子きぎす身体みうち弾丸たまを受けしと覚しく、飛ぶこともならでくるしみをるに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
お宅のは勃然むっくり起きましてな、キリキリと二三遍廻って、パタリと倒れると、仰向きになってこう四足よつあしを突張りましてな、尻尾でバタバタ地面ちべたを叩いたのは、あれは大方くるしがったんでしょうが
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
世人が史学に注目するに至れるはすこぶる喜ぶべきの観あり。然れども思へよ、史学の根底は正確なる事実にあり。而も在来の伝説史籍、謬説世を誤り訛伝かでん真を蔽ひ炯眼の士なほかつ之が弁別にくるしむ。
史論の流行 (新字旧仮名) / 津田左右吉(著)
少しひでりがつゞくと河筋にゆとりが無いから水落が早くていけないといふ實に手前勝手をめたもので、コンナ殆んど出來ない相談といふをぼやいて一年中泣いたり笑つたり、くるしんだりして居る。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
是れ彼が無惨の死に終りし動力モチイブなり、源因なり、伏線なり。別言すれば彼は術語の罪過を犯せしものなり。孔子の饑餓きがくるしめられしことあるも、孟子まうし轗軻かんか不遇に終りしも、帰する所は同一理なり。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
「戦争に全勝せよ、れど我等は益々くるしまん」との微風の如き私語さゝやきを聴く、去れば九州炭山坑夫が昨秋来増賃請求の同盟沙汰伝はりてより、同一の境遇に同一の利害を感ずる各種の労働者協同して
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
危岩突兀とつこつまさに頭上にちんとす、進退たにまりあへて良策をあんするものなく、一行叢中に踞坐こざして又一語なし、余等口をひらきて曰く、すすむもかた退しりぞくも亦かたし、難は一なりむしすすんでくるしまんのみと
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
彼等もくるしんだんだねえ。
赤げっと 支那あちこち (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かつはくるしみかつ悶え
不可能 (旧字旧仮名) / エミール・ヴェルハーレン(著)
戦地では身体を冷すためよく痔疾じしつが起ってくるしむものです。痔の出血をとめるにも今のゼラチンを食べるのが一番良いとしてあります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
網でったと、釣ったとでは、たいの味が違うと言わぬか。あれ等をくるしませてはならぬ、かなしませてはならぬ、海の水を酒にして泳がせろ。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)