はな)” の例文
吉坊よしぼうは、両手りょうてあたまうえにのせて、きよちゃんがあちらへゆけば、そのほう見送みおくり、こちらへくればまたはなさずに、むかえていました。
父親と自転車 (新字新仮名) / 小川未明(著)
といいながら、はちをつかんでげますと、したから人間にんげん姿すがたあらわれたので、びっくりして、はなしてげていってしまいました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
勘作は背後うしろからそっと往って、今にも飛び込もうとしている女をしっかと抱き止めた。女は勘作の手をはなして飛び込もうとする。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一夜に庭をつくるはなわざを演じているが、武蔵は二十八で試合をやめて花々しい青春の幕をとじた後でも、一生碌々ろくろくたる剣術使いで
青春論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そのかは小六ころくさん、はゞかさま座敷ざしきてて、洋燈ランプけて頂戴ちやうだいいまわたしきよはなせないところだから」と依頼たのんだ。小六ころく簡單かんたん
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
引掻ひつかきさうな権幕けんまくをするから、吃驚びつくりして飛退とびのかうとすると、前足まへあしでつかまへた、はなさないからちかられて引張ひつぱつたはづみであつた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
まなこはなたず睥睨へいげいしてる、猛狒ゴリラ益々ます/\たけ此方こなたうかゞつてる、この九死一生きうしいつしやうわか不意ふいに、じつ不意ふいに、何處どこともなく一發いつぱつ銃聲じうせい
朝霧あさぎりがうすらいでくる。庭のえんじゅからかすかに日光がもれる。主人しゅじんきたばこをくゆらしながら、障子しょうじをあけはなして庭をながめている。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
つい先日、私の方の皇帝が、狩に出て、空飛ぶかりを矢をはなって射落したら、雁の足に、白い布に墨で書いたものがしばりつけてあった。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
其の内にもすっかり明けはなれましたから、親切な白翁堂はあかざの杖をついて、伴藏と一緒にポク/\出懸けて、萩原の内へまいり
帆村は、とうとう意を決して、警察側と全然はなれて、ちまたに単身、蠅男を探し求めて、機をつかめば一騎うちの死闘を交える覚悟をした。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
抱上いだきあげ今日より後は如何にせん果報くわはうつたなき乳呑子ちのみごやと聲をはなつてかなしむを近所の人々聞知りて追々おひ/\あつまり入來りくやいひつゝ吉兵衞に力を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そして一目見るとすぐに、すこしあけツはなしのてんのあるかはりには、こせつかぬ、おツとりとした、古風こふう顔立かほだてであることを見て取ツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
おちつけずや母樣はゝさまにはねがはんとてはなたまはず夫樣おくさままたくれ/″\のおほせにそのまゝの御奉公ごほうこう都會みやこなれぬとてなにごとも不束ふつゝかなるを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
不遇で長かった皇太子時代には、青年らしい奔放な恋もし、またうつはなつためには、後宮の女色漁りも人いちばいな方であった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
英文学に異彩をはなつと称せらるるかの有名なるミルトンの『失楽園パラダイスロスト』の主人公は、神を相手に謀叛むほんはたひるがえした悪魔の雄将サタンである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
おこのがはらったのはずみが、ふとかたからすべったのであろう。たもとはなしたその途端とたんに、しん七はいやというほど、おこのにほほたれていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「そりや、はあ、さうだが」たゞこれだけいつて寡言むくち卯平うへい自分じぶんたといふやう始終しじうくぼんだしがめてからは煙管きせるはなさなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
春になると、北上の河谷かこくのあちこちから、沢山たくさんの馬がれて来られて、の部落の人たちにあずけられます。そして、上の野原にはなされます。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一男は、縦横に組み上げられた鉄材の間から、遠く澄んだ空へ眼をはなった。上総かずさ房州ぼうしゅう山波やまなみがくっきりと、きざんだような輪廓りんかくを見せている。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
暁方あけがたまで読んだところが、あしたの事業にさまたげがあるというので、その本をば机の上にほうはなしにしてとこについて自分は寝入ってしまった。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
これもる長者が家の奉公人、山へ馬をはなしに行き、家に帰らんとするに一匹不足せり。夜通しこれを求めあるきしがついにこの鳥となる。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
黄金丸がつけし、まなこの光に恐れけん、その矢もはなたで、あわただしく枝に走り昇り、こずえ伝ひに木隠こがくれて、忽ち姿は見えずなりぬ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「え、何んだって、信玄の首? 冗談じゃあねえ、何を云うんだ。そんなはなわざが出来るものか。それにそんな怨みもねえ」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たとえば野獣やじゅう盗賊とうぞくもない国で、安心して野天のてんや明けはなしの家でると、風邪かぜを引いてはらをこわすかもしれない。○をさえると△があばれだす。
蛆の効用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
岩飛びをする里人は、平生この辺でりをしたり、耕したりしていて、たまたま旅人の通る者があれば、早速さっそく勧誘して得意のはなわざを演じて見せる。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
よく、仲間の一人が、片っ方のほっぺたを指の先で押さえ、急にそれをはなすと、そこへ白い跡が残り、やがて、そいつが、見事な赤い色でおおわれる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
気違いか? イヤイヤ気違いにこんな秩序あるはなわざが演じられるものではない。彼奴あいつは正気なのだ。正気でこのべら棒ないたずらをやっているのだ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
寺の本堂ははなされて、如来様にょらいさまの前に供えられた裸蝋燭はだかろうそくの夜風にチラチラするのが遠くから見えた。やがて棺はかつき上げられて、読経どきょうが始まった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
その室の特長として映るものは自分の家とはまるでかけはなれた明るさをもち、新しさをもち、その上掛軸や活花いけばなが整然として飾られているように思われた。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そして、駅を出ると、まるで火でもはなったようなはりつめた顔をして、すぐ駅前の、交番の前へ立ったのである。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
一首の意は、勾の池にはながいにしていた禽鳥きんちょう等は、皇子尊のいまさぬ後でも、なお人なつかしく、水上に浮いていて水にくぐることはないというのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そしておたがいに長いつるぎをずらりとはなして、それを海の上にあおむけにき立てて、そのきっさきの上にあぐらをかきながら、大国主神おおくにぬしのかみに談判をしました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そうして、「このリスたちをハシバミのやぶへつれていって、はなしてやってください。」と、言いました。
はなった障子しょうじ隙間すきまからはおにわもよくえましたが、それがまた手数てかずんだたいそう立派りっぱ庭園ていえんで、樹草じゅそう泉石せんせきのえもわれぬ配合はいごうは、とても筆紙ひっしにつくせませぬ。
定紋じょうもんはなごま博多はかたの帯を締めて、朱微塵しゅみじん海老鞘えびざやの刀脇差わきざしをさし、羽織はおりはつけず、脚絆草鞋きゃはんわらじもつけず、この険しい道を、素足に下駄穿きでサッサッと登りつめて
永年ながねんさがしてきたほんもののお高に会ってことばまでかわしながら、頭から別人と思いこんで、そのままはなしてやって、いまだに、預かっている財産を渡すために
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「オイ、三公、義公よしこう」と呼んだら、二人は変装している自分を、知ってか知らずにか、振り返って近づいて来た、と、二人は「宮本利平だ!」と、冷たく云いはなって
(新字新仮名) / 徳永直(著)
(七八)夏桀かけつきよ(七九)河濟かせいひだりにし、(八〇)泰華たいくわみぎにし、(八一)伊闕いけつ其南そのみなみり、(八二)羊腸やうちやう其北そのきたりしが、まつりごとをさむることじんならず、たうこれはなてり。
僕はひとりで金堂の石段にあがって、しばらくそのはなしの円柱のかげを歩きまわっていた。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
うごきもせぬ大食おおぐいな、不汚ふけつきわま動物どうぶつで、始終しじゅうはなくような、むねわるくなる臭気しゅうきはなっている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
両人たいまつをふりてらしてこゝかしこをみるに光るものさらになく、またあやしむべきをみず、さては人のいふは空言そらごとならん、いざとてかへらんとしけるに、水上にはか光明くわうみやうはな
腰をひねって抜きはな……いや待て、えい、もうひと息——八百助は気の毒そうにきいた。
俊寛 (驚きのためまっさおになる。何か言いかけてくちびるをひきつける。やがてつくづく有王を見る)有王だ! (有王にきつく。やがて反射的に有王をはなし顔をおおう)
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
愉快な心持ちと言ったのは、わたしが彼女の生活からはなれてしまっているからである。
私の作品の中には自分の惑乱と弱点とが多くはいっていますので、時としますと、それらの悪魔の群れを世にはなって悪い行ないをしてるように、我ながら思われることがあります。
をんなすこひややかにいひはなつと、あをざめて俯向うつむいた。二人ふたりあひだに、しばら沈默ちんもくつゞいた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
やがて、早くも夜が明けはなれて、村の人達は沼狩ぬまがりを始めました。しかしもう正覚坊がいなくなった後のことです。いくら狩り立てても取れません。一同は諦めて帰って行きました。
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
馬鹿め、やかましいは、拳殺すぞ。あんまり分らねへ、親分。馬鹿め、それ打つぞ。親分。馬鹿め。放して。馬鹿め。親分。馬鹿め。放して。馬鹿め。親。馬鹿め。はな。馬鹿め。お。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
わたくしにも説明せつめいのしやうがないんです。くところでは、宿やどでも問題もんだいになつてゐるらしいんです。このころそとれば、きつとれてあるいてゐますが、宿やどでもすこしもはなさないやうです。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)