おびたゞ)” の例文
庭下駄を突つかけて外へ出ると、庭から、土藏のあたり、裏木戸の材木を漬けた堀、おびたゞしい材木置場から、元の庭へ歸つて來ました。
ぱうは、大巌おほいはおびたゞしくかさなつて、陰惨冥々いんさんめい/\たる樹立こだちしげみは、露呈あらはに、いし天井てんじやううねよそほふ——こゝの椅子いすは、横倒よこたふれの朽木くちきであつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
爪長つめながく、おほきさは七しやく乃至ないしじやう二三じやくぐらいの巨鳥きよてうが、天日てんじつくらくなるまでおびたゞしくぐんをなして、輕氣球けいきゝゆう目懸めがけて、おそつてたのである。
それから考へても、境遇、社会などと言ふものは、人間を畸形にすることおびたゞしいものである。だから、脱却といふことは肝心だ。
脱却の工夫 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
おびたゞしい庭石や石燈籠いしどうろうるゐを積んだ大きな荷車を、たくましい雄牛に曳かして來るのにも逢つた。牛の口からは、だら/\とよだれが流れてゐた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
たとへば、吝嗇者りんしょくもののやうにたからおびたゞしうってをっても、たゞしうもちふることをらぬ、姿すがたをも、こひをも、分別ふんべつをも、其身そのみ盛飾かざりとなるやうには。
やが梅雨つゆおびたゞしく毒々どく/\しいくりはなくさるまではとしたのでをんなきたなげなやつれた姿すがたふたゝられなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
中は真っ暗で、たった今人の足音がしたように思えたのに、その辺には誰もいるらしくもなく、たゞおびたゞしい空薫そらだきの香が局のうちに一杯に満ちていた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
君もにはかに金なくてかなはぬ時、餘所にてそを借り給はば、二割三割などいひて、おびたゞしき利息を取られ給ふべし。さる時あらば、必ず我許に來給へ。
添毛そへげをするのに一層勝手が好いからであるらしい。前に云ふのを忘れたが、髪結かみゆひの店には白髪まじりの附髷つけまげかつらまつたく白いのなどもおびたゞしくあるのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ひとりはジユセッポをしこづりし僞りの女、一はトロイアにありしギリシアびと僞りのシノンなり、彼等劇しき熱の爲に臭き烟を出すことかくおびたゞし 九七—九九
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
あくる日になつて三隅氏は真青な顔をして下関駅の遺失物掛ゐしつぶつがかりを訪ねて来た。そしておびたゞしい忘れ物のなかから、自分のを捜し出して、大喜びで中をあらためて見た。
聖母の恩赦の祭日に本堂で夜のミサが執行しゆぎやうせられた。参詣人はおびたゞしかつた。そこで長老が儀式をした。セルギウスは自分の持場に席を占めて祈祷をしてゐた。
硝子ガラス戸越しにホカ/\する日光を受けた縁側へ、おびたゞしい書類をぶちけたように敷散らして其中で、庄司利喜太郎氏は舌打をしながらセカ/\と何か探していた。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
これは実際有りましたお話でございます。の辺は追々と養蚕がさかんに成りましたが、是は日本にっぽん第一の鴻益こうえきで、茶と生糸の毎年まいねんの産額は実におびたゞしい事でございます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
蟷螂かまきりや、けら、百足むかで、蜂、蜘蛛等がおびたゞしく居りました。土蜘蛛と申しまして木の根や垣根などに巣の袋をかけて置きましたが、鉱毒地には、只今一切居りませぬ。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
三十七ねんげつ大雪おほゆきがいと、その七月しちぐわつ疫疾えきしつために、牛馬ぎうばそのなかばうしなひたるの災厄さいやくあり。其他そのた天災てんさい人害じんがい蝟集ゐしふきたり、損害そんがいかうむことおびたゞしく、こゝろなやましたることじつすくなからざるなり。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
私は三ノ組のびりつこから三番目で、従つて私の名が呼ばれるまでにはおびたゞしい時間を要した。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
小生の古つゞらにたくはふる処は僅にスコツチの背広が一りやう、其れも九年前にこしらへたれば窮屈なることおびたゞしく、居敷ゐしきのあたり雑巾ざふきんの如くにさゝれて、白昼には市中をあるけぬ代物しろもの
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
なんつてもをんなですものくちはやいにつておつときのことなどははなしておかせくださるわけにはきますまい、げんいまでもかくしていらつしやることおびたゞしくあります、それは承知しようち
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
聖徳太子の飛鳥あすか時代以来、平安初期にかけての支那文物の渡来は、おびたゞしいものがあり、日本の美術、工芸、文物制度は、殆んど唐に劣らない程度に達してゐたのではないかと思はれる。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
段々だん/\追想つひさうして見ると、の九年間の硯友社けんいうしやおよ社中しやちう変遷へんせんおびたゞしいもので、書くき事も沢山たくさん有れば書かれぬ事も沢山たくさんある、なか/\面白おもしろい事も有れば、面白おもしろくない事も有る、成効せいかうあり
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こゝに新都が阪東に出来ることになつたから、景気の好いことはおびたゞしい。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
惣領の彌太郎の入れられて居る座敷牢の外へ來ると、嚴重な格子の中の雨戸が締つて、窓の外、霜解けの軒の下にはおびたゞしい足跡です。
令史れいしけたことおびたゞし。あきれてあかすに、やまふかうしてひとず。みちたづぬればいへることまさ八百里程はつぴやくりてい三十日さんじふにちからうじてかへる。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
弦月丸げんげつまるには、めづらしく澤山たくさん黄金わうごん眞珠しんじゆとが搭載とうさいされてます、眞珠しんじゆ黄金わうごんとがおびたゞしく海上かいじやう集合あつまる屹度きつとおそたゝりがあります。
夕暮になると、おびたゞしい蚊が軒に蚊柱を立てた。へやの中を歩いても、それがバラ/\と顔に当るほどである。かれは思つた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
汗………おびたゞしい人間の汗が、蒸し蒸しゝた空気の中へ絶えず発散して其処辺そこいら一面に漂い、到る所の壁だの板だのにべとべととこびり着いて居るらしかった。
恐怖 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
裝飾さうしよくといつても夜目よめあざやかなやうに、饅頭まんぢうものつゝしろいへぎかはおびたゞしくくゝけてくのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ある男が由緒ゆいちよのある古いお寺にまゐつた事があつた。そこには壁一面におびたゞしい金ぴかの額が懸つて、額のなかには各自てんでにぐつと気取つた人達の顔がいてあつた。
あゝ不器用長二かというように名高くなりまして、諸方からおびたゞしく注文がまいりますが、手伝の兼松は足のきずで悩み、自分も此の頃の寒気のため背中の旧疵ふるきずいた
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
貞を上海シャンハイに売飛ばしたと答えたが、それからそれへと追求急で、署長の手から石子、渡辺両刑事の手に渡される時分には、彼の答弁はしどろもどろで、辻棲の合わぬ事おびたゞしく
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
これでは今までおびたゞしく流された勤皇志士の犠牲の血は、全く無駄ではなからうか。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
其都度そのつど紛失物ふんしつもの出來できますやら品物しなもの破損はそんなどはおびたゞしいことで、うすれば此樣こんなに不人情ふにんじやうものばかり寄合よりあふのか、世間一體せけんいつたい此樣このやう不人情ふにんじやうなものか、それともわたし一人ひとりなげかせやうといふので
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あゝ、おびたゞしいはくさ金石きんせきどものその本質ほんしつこもれる奇特きどくぢゃ。
半日の馬上に足腰おびたゞしく痛めば、見物を廃して休養す。
一歩退いて見ると、路地の方には、穴から一尺ほど離れた下水へかけて、おびたゞしい血潮が、昨夜の殺しの凄慘さを物語つてをります。
いさゝか平常ふだん化粧けしやうたがふことなかりしとぞ。いま庇髮ひさしがみ、あのおびたゞしくかほみだれたるびんのほつれは如何いかにはたしてこれなんてうをなすものぞ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その折おびたゞしい歓迎人の中から、生粋の米国婦人と思はれる一にんの貴夫人がづかづかと一行の前に出て来た。
中程からおびたゞしく荒れて、赤灘の瀬戸あたりに行つた時には、島の徙崖しがいがすぐ眼のまへに見えて居りながら、容易にその中に入ることが出来なかつたことを思ひ起す。
隠岐がよひの船 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
河内介は、誰か続く味方はないかとそのあたりを見廻したけれども、眼に入るものはおびたゞしい土煙と、その煙の向うに怒濤どとうの如く寄せては崩れる集団の影ばかりであった。
しろけて其處そこぢうおびたゞしく散亂さんらんした。煙管きせるとりからさらつよ戸口とぐちしきゐつてにはつちとまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
其後そのご幾年月いくねんげつあひだ苦心くしん苦心くしんかさねた結果けつくわ一昨年いつさくねんの十一ぐわつ三十にちわたくし一艘いつそう大帆走船だいほまへせんに、おびたゞしき材料ざいれうと、卅七めい腹心ふくしん部下ぶかとを搭載のせて、はる/″\日本につぽん
節々ふし/″\の痛みがおびたゞしく毛穴が弥立よだって、五臓六腑悩乱のうらん致し、ウーンと立上るから女房は驚いて居ると、喜助は苦しみながら台所へ這い出してガーと血の塊を吐いて身を震わして居る。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
敷居に流し込んだおびたゞしい水が、二月初旬の珍らしい寒さに凍つて、雨戸はまさに地獄の門のやうに嚴重に閉されて居るのでした。
その道筋みちすぢに、おびたゞしくしづめたる材木ざいもくは、あたか退けるごとくに、さんみだしてさつ左右さいうわかれたのである。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
小橋氏は口のなかで讃美歌をうたひながら、大跨おほまたに町を歩いた。町にはおびたゞしい人が出てゐたが、皆他人らしい顔つきをして南京鼠のやうに忙しさうに走り廻つてゐた。
人足等の総数は二十五萬人に達し、醍醐だいご山科やましな、比叡山雲母坂きらゝざかより大石を引き出すことおびたゞしく、堀普請などは、幾つにも区分けをして奉行衆が代る/″\人夫を督励し
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
の紋付の羽織にちやんとはかまを着けたハイカラの若い綺麗な紳士が、銀のの光つたステッキをつきながら、村長につれられておびたゞしく荒廃したその無住の寺の山門へと入つて来た。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
お久は其の上へ転んで、ズブリ膝の下へ鎌の先が這入ったから、おびたゞしく血が流れる。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)