晩方ばんがた)” の例文
おあいが身形みなりにもかまわず、小さな子供を負って、雪を分けて、森の家を指して行くのを、晩方ばんがた、戸口に立っていて見た人があった。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それ大雪おほゆきのために進行しんかうつゞけられなくなつて、晩方ばんがた武生驛たけふえき越前ゑちぜん)へとまつたのです。ひて一町場ひとちやうばぐらゐは前進ぜんしん出來できないことはない。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
晩方ばんがた、重右の屋敷へ忍び込んで見たものの話では、かれは何時いつものように普通の人なみに寝ていたが、しかし、得体のわからない陰気な顔をしていたと答えた。
天狗 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「出来ますとも。B町の農蚕学校の温室でね——。土曜日の晩方ばんがたに行けば、貴方あなた達にだって売ってくれますよ。……さあ、出来上りました。六十銭頂きます。ヘイ」
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
どうかした日の晩方ばんがた、川から帰りがけに、背負しょってるかごがいつもの晩より重く、押してる車が思うように動かないのさ。お前さんは、車の梶棒かじぼうの間へひざをついて倒れる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
晩方ばんがたになるとそのは半びらきにあきました。けれど、うちの中はとにかく、おもてにむいたへやだけはまっくらで、そのくせずっとおくのへやからは、おんがくがきこえました。
その日の晩方ばんがたおそく私たちはひどくまわりみちをしてうちへ帰りましたが東北長官とうほくちょうかんはひるころ野原へいて夕方まで家族かぞく一緒いっしょに大へん面白おもしろあそんで帰ったということを聞きました。
二人の役人 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
『——話し好きな年老としよりでな、それに、五、六年ほど、無音ぶいんのまま会わなかったのだから、離さぬのだ。済まないが、一足先きに行ってくれないか、宿をめておいて、晩方ばんがた、落ち合おう』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある晩方ばんがたあかふねが、浜辺はまべにつきました。そのふねは、みなみくにからきたので、つばめをむかえに、おうさまが、よこされたものです。
赤い船とつばめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
西のかたに山の見ゆる町の、かみかたへ遊びに行つて居たが、約束を忘れなかつたから晩方ばんがた引返ひっかえした。これから夕餉ゆうげすましてといふつもり。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「そう、晩方ばんがたですな。どうも不思議な気がするんです。」
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
またくる晩方ばんがたになりますと、そのおとこえてきました。そのおとは、にぎやかなかんじのするうちに、かなしいところがありました。
青い時計台 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一日あるひ晩方ばんがた極暑ごくしょのみぎりでありました。浜の散歩から返ってござって、(和尚おしょうさん、ちっと海へ行って御覧なさいませんか。綺麗きれいな人がいますよ。)
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おさくちゃんのいく、いいところがつかったぞ。」といって、おじいさんは、ある晩方ばんがた機嫌きげんよく、そとからはいってきました。
おさくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
初卯はつう母様おつかさん腰元こしもとを二人れて、まち卯辰うたつはう天神様てんじんさまへおまゐンなすつて、晩方ばんがたかへつてらつしやつた、ちやうど川向かはむかふの、いまさるところ
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おじいさんは、そのまえとおひとたちにかって、こえをからしていっていました。晩方ばんがたみちいそひとたちは、ちょっとたばかりで
千代紙の春 (新字新仮名) / 小川未明(著)
をしかな。すぐにもあとをたづねないで……晩方ばんがた散歩さんぽときは、見附みつけにも、おほりにも、たゞきりみづうへに、それかともおもかげが、たゞふたつ、つ。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まあ、そのご馳走ちそうるだけでもたのしみになります。明日あす晩方ばんがたくらくならないうちに、わたしが、いいところへご案内あんないしますよ。
からすとうさぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)
こういうと、何だか明方あけがただか晩方ばんがただか、まるで夢のように聞えるけれども、わたしを渡ったには全く渡ったですよ。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あざみは、なまずのくるしみつづけた最後さいご見守みまもりました。その晩方ばんがた、なまずは、しろはらしたきり、もうなおりませんでした。
なまずとあざみの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
まざ/\と譫言たはことく……われらをんなつたりや、とひますと、それらいでなにをする……今日けふ晩方ばんがた相長屋あひながや女房にようぼはなした。谷町たにまち湯屋ゆやうたげな。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そのうちに、とうとう、その晩方ばんがたとなりました。清吉せいきちは、あそびにそとへでて、ともだちと、みちうえで、ボールをなげていました。
考えこじき (新字新仮名) / 小川未明(著)
昨日きのふ晩方ばんがた受取うけとつてから以來いらいこれ跡方あとかたもなしにかたちすのに屈託くつたくして、昨夜ゆうべ一目ひとめねむりません。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おんなは、れるのをっていました。やがて、晩方ばんがたになると、まちへいってみました。もう八百屋やおや小僧こぞう夜店よみせしていました。
初夏の不思議 (新字新仮名) / 小川未明(著)
のちに考えてこそ、翌朝あくるあさなんですが、そのせつは、夜を何処どこで明かしたか分らないほどですから、小児こども晩方ばんがただと思いました。この医王山のいただきに、真白な月が出ていたから。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある晩方ばんがたかれはさびしくおもいながら田舎路いなかみちあるいていますと、不思議ふしぎなことには、このまえじいさんにあったとおなじところで
どこで笛吹く (新字新仮名) / 小川未明(著)
たゝつたな——裏川岸うらがし土藏どざうこしにくついて、しよんぼりとつたつけ。晩方ばんがたぢやああつたが、あたりがもう/\として、むかぎしも、ぼつとくらい。をりから一杯いつぱい上汐あげしほさ。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「そんなら、あしたの晩方ばんがたそとていてごらん、きっと、あのうまとおるだろうから……。」と、二郎じろうは、にいさんやねえさんにいいました。
びっこのお馬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その翌日よくじつ——十六夜いざよひにも、また晩方ばんがた強震きやうしんがあつた——おびえながら、このをつゞる。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これは、なつ晩方ばんがた海面かいめんへ、たれさがるくものように、みずみずとして、うつくしかったので、こんどは、がそのほううばわれてしまいました。
太陽と星の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
さてこの十五夜じふごや當日たうじつも、前後ぜんごしておきやくかへると、もうそちこち晩方ばんがたであつた。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はる晩方ばんがたのこと、こうして、すもものはないたじぶんに、みんながランプのしたで、たのしく、おはなしをしたことだけをおぼえているのよ。
すももの花の国から (新字新仮名) / 小川未明(著)
ちら/\ゆき晩方ばんがたでした。……わたくしは、小児こども群食むらぐひで、ほしくない。両親りやうしん卓子ていぶる対向さしむかひで晩飯ばんめしべてた。其処そこへ、彫像てうざうおぶつてはいつたんですが、西洋室せいやうまひらきけやうとして
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なに、わたしにあのふねえないことがあるもんか。あのふね昨日きのう晩方ばんがた、あらしの最中さいちゅうにどこからかこのみなとうちげてきたのだ。
カラカラ鳴る海 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そののち晩方ばんがたの事だった。私はまた例の百人一首を持出して、おなじ処を開けて腹這はらばいで見ていた。その絵を見る時は、きっと、このねえさんは誰? と云って聞くのがおきまりのようだったがね。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そらあか晩方ばんがた、たいがれて、このむらりにきたときは、きっといいことがあるというので、むら人々ひとびとあらそって、そのたいをいます。
女の魚売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
玄関の下駄を引抓ひッつまんで、晩方ばんがた背戸へ出て、柿のこずえの一つ星を見ながら、「あの雀はどうしたろう。」ありたけの飛石——と言っても五つばかり——をそぞろに渡ると、湿けた窪地くぼちで、すぐ上がしのぶこけ
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ことにさんらんとして夕焼ゆうやけのする晩方ばんがたなどに、あざやかといってもいいくらい、はっきりと、なつかしいあにこえをきくことがあります。
兄の声 (新字新仮名) / 小川未明(著)
うへ好奇心かうきしんにもられたでせう。ぐにも草鞋わらぢはして、とおもつたけれども、彼是かれこれ晩方ばんがたつたから、宿やど主人あるじゐて、途中とちゆうまで案内者あんないしやけさせることにして、晩飯ばんめしすませました。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
このかみになんでも、おまえさんがたのしいとおもうものをいて、夕焼ゆうやけのした晩方ばんがたうみながせば、れることができる。
夕焼け物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
晩方ばんがたまた来るんだ。」
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのうちに、日数にっすうがたって、砂漠さばくとおりすぎてしまいました。ある晩方ばんがた二人ふたりは、前方ぜんぽうに、紫色むらさきいろうみたのであります。
トム吉と宝石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
晩方ばんがたまたるんだ。」
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はる雨催あめもよおしのするあたたかな晩方ばんがたでありました。少年しょうねんは、つかれたあしきずりながら、あるふるびたまちなかにはいってきました。
海のかなた (新字新仮名) / 小川未明(著)
なんでも、金色きんいろとりは、晩方ばんがたになるとあちらのやまほうかえってゆきましたから、青年せいねんは、そのやまほうへとゆき、たかやまのぼってまいりました。
三つのかぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)
そらいろのうすあかい、晩方ばんがたのことでありました。かれは、つかれたあしをひきずりながら、まちなかあるいてきますと、あちらにひとがたかっていました。
あほう鳥の鳴く日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして、晩方ばんがたになると、それらのからすは、一にちはたらきをえて、きれいなれつつくり、ひがしから、西にしへとかえっていくのでした。
からす (新字新仮名) / 小川未明(著)
晩方ばんがたちかく、小雨こさめるなかを、あには、たいへとかえりました。みんなが、門口かどぐちまで見送みおくりにると、ふりかえって挙手きょしゅれいのこしてりました。
兄の声 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのときは、ゆきさかんにっていました。北風きたかぜがヒューヒューとって、まちなかは、晩方ばんがたのように、うすくらかったのです。
角笛吹く子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なつ晩方ばんがたには、むら子供こどもらがおおぜい、この城跡しろあとあつまってきていしげたりおにごっこをしたり、またなわをまわしたりしてあそんでいました。
海のかなた (新字新仮名) / 小川未明(著)