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天神様
初卯の
日、
母様が
腰元を二人
連れて、
市の
卯辰の
方の
天神様へお
参ンなすつて、
晩方帰つて
居らつしやつた、ちやうど
川向ふの、いま
猿の
居る
処で
古代の人のような
帽子——というよりは
冠を
脱ぎ、
天神様のような服を着換えさせる間にも、いかにも
不機嫌のように、
真面目ではあるが、
勇みの無い、
沈んだ
一直線の
堀割はこゝも同じやうに
引汐の
汚い
水底を見せてゐたが、遠くの
畠の
方から吹いて来る風はいかにも
爽かで、
天神様の
鳥居が見える
向うの
堤の上には
柳の
若芽が美しく
閃いてゐるし