おく)” の例文
旧字:
あちらで、それをおくさまは、おんなはだれでも、かがみがあれば、しぜんに自分じぶん姿すがたうつしてるのが、本能ほんのうということをらなそうに
だまされた娘とちょうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして、その郡の大領(郡長)のおくさんであった。あるとき、主人の郡長のために、あさの布を織って、それを着物に仕立てて着せた。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
もりおくまいには、毎日まいにち木枯こがらしがいて、ちつくすと、やがてふかゆきもりをもたにをもうずめつくすようになりました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
やがて盗賊とうぞくどもは、生人形いきにんぎょうおくからってきましたが、くびはぬけ手足はもぎれて、さんざんな姿すがたになっていました。それも道理もっともです。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
大河無門の近眼鏡のおくに光っている大きな眼は、特異な眼ではあったが、それもふだんと変わった表情をしているとは思えなかった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ここだろうと、いい加減に見当をつけて、ごめんご免と二返ばかり云うと、おくから五十ぐらいな年寄としよりが古風な紙燭しそくをつけて、出て来た。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、おくへいって持ってきたのは、ふるい二つの仮面めんである。あおい烏天狗からすてんぐ仮面めん蛾次郎がじろうにわたし、白いみこと仮面めんを竹童にわたした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
背伸せのびをして、三じゃく戸棚とだなおくさぐっていた春重はるしげは、やみなかからおもこえでこういいながら、もう一、ごとりとねずみのようにおとてた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
やがて目がさめてみますと、どうやら谷間のおくにいるようでした。あたりを見まわしても、大ワシのゴルゴの姿すがたがどこにも見えません。
は一こく友人ゆうじん送別会席上そうべつかいせきぜう見知みしりになつたR国人こくじんであつたので、わたしはいさゝか心強こゝろつよかんじて、みちびかるゝまゝにおくとほつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
町のおくさんになって、気持のよい、楽しいくらしをしていたのです。よそへ出かけるときには、ちゃんと、帽子ぼうしをかぶって行ったものです。
青ひげは、ある日、おくがたにむかって、これから、あるたいせつな用むきで、どうしても六週間しゅうかん、いなかへ旅をしてこなければならない。
青ひげ (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
往還わうくわんよりすこし引入ひきいりたるみちおくつかぬのぼりてられたるを何かと問へば、とりまちなりといふ。きて見るに稲荷いなりほこらなり。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
(おっかさんねむられないよう。)とっしゃりまする、須利耶すりやおくさまは立って行ってしずかに頭をでておやりなさいました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
をりからきこえはじめたのはどツといふ山彦やまひこつたはるひゞき丁度ちやうどやまおくかぜ渦巻うづまいて其処そこから吹起ふきおこあながあいたやうにかんじられる。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
子どもたちがふしぎがるそのわけを、一ばんよく知っている男先生のおくさんは、ひそかに心配して、それとなく男先生を助けようとした。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
二つも三つも掛けてもらっていましたが、ぼくが洋装をした田舎の小母おばさん然たるおくさんに、にこにこ笑いながら掛けて貰ったレイの花は
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
やがてきついたところはそそりおおきないわいわとのあいだえぐりとったようなせま峡路はざまで、そのおくふかふか洞窟どうくつになってります。
彼は食い荒されたにしんの背骨をひとさらせていたが、おくへ通ずるドアを後ろ足で閉めながら、突拍子とっぴょうしもない声でいきなり
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
心のそこでは、小父のほうただしいとわかっていた。ゴットフリートの言葉がむねおくきざみこまれていた。彼はうそをついたのがはずかしかった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
なんとも珍妙な風態だけれど、いつものことだから、行きおく女中、茶坊主、お傍御用の侍たちも、さわらぬ神にたたりなしと、知らん顔。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「いかにもいささか会得してござる……俗称は天狗飛切りの術、武道における名称は、小太刀潜入飛燕術! これこそそれがしおくでござる」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
千穂子は今は一日が長くて、住みづらかった。しゅうとめぜんをつくっておくへ持って行くと、姑のまつは薄目うすめを明けたままねむっていた。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
山門の所からはすぎ森は暗いほどにしげり、おくへ行くにしたがってはだがひやりとするような寒い風が流れるようにいて来た。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
「これは水気が来ておりますから、……綿わたふくませたせいもあるのでございましょう。」——おくさんはぼくにこういった。
滝田哲太郎君 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おくでは殿様とのさま手襷掛たすきがけで、あせをダク/\ながしながら餡拵あんごしらへかなにかしてらつしやり、奥様おくさまは鼻の先を、真白まつしろにしながら白玉しらたまを丸めてるなどといふ。
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
うろにのぞんでたきたてしに熊はさらにいでず、うろふかきゆゑにけふりおくいたらざるならんと次日つぎのひたきゞし山もやけよとたきけるに
そのあいだにも花前はすこしでも、わが行為こうい緊張きんちょうをゆるめない。やがて主人はおくきゃくがあるというので牛舎ぎゅうしゃをでた。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
大空の神のお子よ、ここからおくへはけっしてはいってはいけませんよ。この向こうにはらくれた神たちがどっさりいます。今これから私が八咫烏やたがらす
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
種吉では話にならぬから素通りして路地のおくへ行き種吉の女房にょうぼうけ合うと、女房のおたつは種吉とは大分ちがって、借金取の動作に注意の目をくばった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
私が大和やまとの吉野のおくに遊んだのは、すでに二十年ほどまえ、明治の末か大正の初めころのことであるが、今とはちがって交通の不便なあの時代に、あんな山奥
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
注意をしてそれらの店のおくすわっている花屋の主人たちに目を止めた者は、一層のおどろきのためにその眸をもっと大きくせずにはいられなかったであろう。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
さりながら人気じんき奴隷どれいとなるも畢竟ひつきやう俗物ぞくぶつ済度さいどといふ殊勝しゆしようらしきおくがあればあなが無用むようばゝるにあらず、かへつ中々なか/\大事だいじけつして等閑なほざりにしがたし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
いつか僕のいる方を向て、「ナニ、おくさまがナ、えらい遠方へ旅にいらしッて、いつまでも帰らっしゃらないんだから、あいいッてよびによこしなすったよ」
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
到来とうらいものやなんかがおおくって、おくでめし上がらなかったもんで、しまっといてくさらしちゃったのさ。」
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
三日のもちでも祝って、立派なおくかたになってから、公然と皆のものをうらやましがらせようと云う気持なのです。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
車におくれじと千三も走った、かれが医者の玄関に着いたとき、おくではやはり囲碁いごの音が聞こえていた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
礼に往って見ると、おくは正月前らしく奇麗にかれて、土間どまにはちゃんと塩鮭しおざけの二枚もつるしてある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「いやです。私はまず井戸を掘らんければなりません。でないと夏分のお客さんは水にこまるし、あのかわいそうなおくさんと子ども衆もいなくなってしまいますからね」
道子みちこ廊下らうか突当つきあたりにふすまのあけたまゝになつたおくへ、きやくともはいると、まくらふたならべた夜具やぐいてあつて、まど沿壁際かべぎは小形こがた化粧鏡けしやうかゞみとランプがたのスタンドや灰皿はひざら
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
おとめはもとよりこの武士がわかいけれども勇気があって強くってたびたびの戦いで功名こうみょうてがらをしたのをしたってどうかそのおくさんになりたいと思っていたのですから
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
大衆はのっけに打ってかかってもいいようなものの、昭青年の意気込みには、鯉魚と答える一筋のおくに、男が女一人を全面的にかばって立った死物狂しにものぐるいの力がこもっています。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
れいの通りおく一間ひとまにて先生及び夫人と鼎坐ていざし、寒暄かんけん挨拶あいさつおわりて先生先ず口を開き、このあいだ、十六歳の時咸臨丸かんりんまるにて御供おともしたる人きたりて夕方まではなしましたと、夫人にむかわれ
やがて、わたしがその林のしげみをわけてずんずんおくへはいって行くと、そこからほど近い林のあいだのあき地で、百姓ひゃくしょうがたったひとりではたけを起している音が聞えてきました。
三人がいきをころしてドアを見つめていると、おく部屋へやから、ひょいとトーマスが頭をだし
すでに他の波斯兵の掠奪にあった後であることは、一見して明らかである。古いほこりのにおいが冷たく鼻をおそう。やみおくから、大きな鷹頭神の立像が、かたい表情でこちらをのぞいている。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
これほどに思っている自分親子をも胸のおくの奥ではそでにしている源三のその心強さがうらめしくもあり、また自分が源三にへだてがましく思われているのが悲しくもありするところから
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私はとこの上に起直おきなおって見ていると、またポッと出て、矢張やっぱりおくの方へフーと行く、すると間もなくして、また出て来て消えるのだが、そのぼんやりとした楕円形だえんけいのものを見つめると
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
あとの試合には頓着とんちゃくなく、机竜之助は、いったん控えの宿へ引取って着物を着換え、夕餉ゆうげを済ましてから、また宿を出て雲深き杉の木立を分けておく宮道みやみちの方へブラリと出かけました。
母は家庭向かていむきのおくさんというたちの人で、うちの中の用事にかかりっきりだった。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)