とび)” の例文
懸賞百兩ときいて其日から河にどぶん/\とび込む者が日に幾十人なんじふにんさながらの水泳場すゐえいぢやう現出げんしゆつしたが何人だれも百兩にありくものはなかつた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
北をさすを、北から吹く、逆らう風はものともせねど、海洋のなみのみだれに、雨一しきり、どっと降れば、上下うえしたとびかわり、翔交かけまじって
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前岸むこうぎしはもとのままの湖の縁でとびとびに生えた白楊はこやなぎが黒く立っていて、その白楊の下の暗い処からそこここに燈の光が見えている。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
年頃としごろめで玉ひたる梅にさへ別れををしみたまひて「東風こちふかば匂ひをこせよ梅の花あるじなしとて春なわすれぞ」此梅つくしへとびたる事は挙世よのひとの知る処なり。
主人あるじの留守にことはりなしの外出、これをとがめられるとも申訳の詞は有るまじ、少し時刻は遅れたれど車ならばつひ一トとび、話しは重ねて聞きに行かう
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
孝「困りますな、みす/\鼻の先へかたきが出れば仕方がございませんから、立派な侍でもなんでもかまいません、とびついて喉笛のどぶえでも喰い取ってやります」
彼は、ギャッという様な、不思議な叫び声を発しながら、歯をむき出して、本物のゴリラそっくりの恐ろしい相好になって、係長にとびかかって来た。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ヒラリと身を翻すと、屏風岩から一足とびに降りて、あっと言う間もなく、小僧の影は杣道そまみちに消えました。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
彼は何かしゃべっているうちに、少年が少しでも油断して隙を見せたら、とびかかってピストルを奪い取ろうという考えなのです。しかし、少年はその手には乗りません。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
そへて此方へおくられ拙者迄せつしやまで落度おちどをさせ重々ぢう/\不調法ぶてうはふ斯樣かやう不埓ふらちにて御役がつとまるべきや不屆ふとゞ至極しごくなり揚屋あがりやいり申付るとりしかば同心とびかゝり粂之進くめのしん肩衣かたぎぬはねたちまちなは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
鉄の牢屋へ這入ってから、雲雀の国から蛙の国から、この口を利かない人間の国まで来る間、なんにもたべなかったおシャベリ姫は、もう今にもとびついて飲みたい位に思いました。
オシャベリ姫 (新字新仮名) / 夢野久作かぐつちみどり(著)
とびつチョ』とはいなごのことで、土工夫仲間では脱走の事をさう呼んでゐる、この蝗のやうにみごとに部屋を跳躍してしまつた、さうした出来事は山間の一飯場の出来事として、それを秘密にするとか
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
つばくろ反橋そりはしなりにとびにけり 助叟
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
我はとび他化自在天宮たけじざいてんぐう
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
とびの魚すべりてやすし。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
年頃としごろめで玉ひたる梅にさへ別れををしみたまひて「東風こちふかば匂ひをこせよ梅の花あるじなしとて春なわすれぞ」此梅つくしへとびたる事は挙世よのひとの知る処なり。
本流からわかれた一条ひとすじの流れがななめに来てかわらすそで岸の竹藪たけやぶに迫っていたが、そこには二三そうの小舟がとびとびにつないであった。四人はその小舟の方へ往った。
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ふうちに、とびかゝつて、三疋四疋さんびきしひき就中なかんづく先頭せんとうつたのには、停車場ていしやばぢかると、五疋ごひきばかり、前後ぜんごからびかゝつた。しつしつしつ! 畜生ちくしやう畜生ちくしやう畜生ちくしやう
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
えうなきむねいためけん、おろかしさよと一人ひとりみして、竹椽ちくえんのはしにあしやすめぬ、晩風ばんぷうすゞしくたもとかよひて、そらとびかふ蝙蝠かはほりのかげ二つ三つ、それすらやうやえずなりゆく
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
音「能く掃除仕やすねえ、墓の間の草ア取って、まてえで向うへ出ようとする時にゃアよく向脛むこうずねッつけ、とびけえるようにいてえもんだが、わけえに能く掃除しなさるのう」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
押伏おしふせ忽ち高手小手にくゝし上れば富右衞門はたましひ天外にとび茫然ばうぜんとしてあきれしが是はそも何科なにとが有て此繩目なはめ私し身に取ていさゝかも御召捕めしとりになるべきおぼえ無しと云せも果ず役人は富右衞門を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
相手がとび道具を持っていて、しかもそれが単なるおどかしでないことが分っていたものだから、私達は犯人を追跡するどころか、私も書生も婆やも、青くなってその部屋を逃げ出し
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ひかり白駒しろこまとびぐるま
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そのあたりにとびとびにえたベンチには、腰をかけている人の細ぼそと話す声もしていた。中には蛍火ほたるびのような煙草の火で鼻のさきを赤く見せている者もあった。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
運八の方では、まだそうでもない、隙を見てとびついて、一鏨、——そこへ掛けては手錬てだれだから——一息に銘を入れはしまいかと、袴の膝に、こぶしを握ってにらんでいる。
此村にかたあるゆゑ、水鳥かたしたひてきたり、山のくぼみとびきたり、かならず天の網にかゝる。大抵は𪃈あぢといふかもたる鳥也、美味びみなるゆゑ赤塚の冬至鳥とうじとりとてとほ称美しようびす。
あんたさまは何とハア御運のわりいお方だかえ、しかし今に勇助どんがけえって来たらとびけえるように悦びましょう、わしも附いて居やすから御心配ごしんぱえなさらねえでいらっしゃいましよ
合點がてんつたらかくかへれ、主人あるじ留守るすことはりなしの外出ぐわいしゆつ、これをとがめられるとも申譯まをしわけことばるまじ、すこ時刻じこくおくれたれどくるまならばひ一トとびはなしはかさねてきにかう
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
も云ず忽ち一人の盜賊の腕首うでくびつかんで瀬戸川へ眞逆まつさかさまに投込ば生死しやうしは知れず成にけり後に殘りし惡漢ども我等が仕事の邪魔じやまるなと兩人ひとしくとび掛るを彼男は引捕ひつとらへ汝等は往來にあみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
れかゝると彼方あつちひとならび、此方こつちひとならび縦横じうわうになつて、うめとび々にくらくなる。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
二人は笑いながられだって仁王門におうもんから出て、区役所のほうへ折れて往き、その傍にある小さなバーへ入った。六箇ばかりえた食卓テーブルに十人ばかりの客がとびとびに向っていた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
赤裸あかはだかになりて水にとび入りつゞをはづし、さけあればつゞのまゝ舟に入れさけをいだす。
容貌きりようのわるいつまつぐらゐ我慢がまんもなるはづ水呑みづのみの小作こさくとして一そくとびのお大盡だいじんなればと、やがては實家じつかをさへあえあはれて、ひとくちさがなし伯父そぢ伯母おば一つになつてあざけるやうな口調くてう
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いきなりとびかゝって、娘の上に乗し掛っている奴のふんどしの結び目と領首えりくび取捕とッつかまえてうしろの方へなげると、松の打附ぶッつけられ、脊筋せすじが痛いからくの字なりになって尻餅をき、腰をさすって居りまする。
(再び太刀たちを抜き、片手に幣を振り、とびより、あおりかかる人々を激しくなぎ払い打ち払うあいだ、やがて惑乱し次第に昏迷こんめいして——ほうほう。——思わずたもとをふるい、腰をねて)
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いつも威勢いせいよきくろぬりくるまの、それかどおとまつたむすめではないかと兩親ふたおや出迎でむかはれつるものを、今宵こよひつぢよりとびのりのくるまさへかへして悄然しよんぼり格子戸かうしどそとてば、家内うちには父親ちゝはゝあひかはらずの高聲たかごゑ
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ばったではないが、とびっかえるほどに思いそうろうと書け
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あに前様めえさま、学校で体操するだ。おたま杓子じゃくしで球をすくって、ひるてんのとびっこをすればちゅッて、手毬なんか突きっこねえ、)と、先生様の前だけんど、わし一ツ威張ったよ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いつもは威勢よき黒ぬり車の、それかどに音が止まつた娘ではないかと両親ふたおやに出迎はれつる物を、今宵こよひつぢよりとびのりの車さへ帰して悄然しよんぼり格子戸かうしどの外に立てば、家内うちには父親が相かはらずの高声
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
住職も非常に困って檀家だんか狩集かりあつめて見張みはるとなると、見ている前で、障子がめらめらと、燃える、ひゃあ、ととびついて消す間に、うつばりへ炎が絡む、ソレ、と云う内羽目板から火を吐出ふきだ
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三五らうるか、一寸ちよつときてくれ大急おほいそぎだと、文次ぶんじといふ元結もとゆひよりのよぶに、なん用意よういもなくおいしよ、よしきたがるに敷居しきゐとびこゆるときこの二タまた野郎やらう覺悟かくごをしろ、横町よこてうつらよごしめたゞかぬ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しばらくして、どつとおろいて、少年にとびかゝつて、顔の皮をむしりくらはんとするところを、一生懸命脇差わきざしでめくらきにして助かつた。人に介抱かいほうされて、のちに、所を聞くと、此の方は近かつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いそを横ッとびの時は、その草鞋わらじを脱いだばかりであったが、やがて脚絆きゃはんを取って、膝まで入って、静かに立っていたと思うと、引返ひきかえしてはかまを脱いで、今度は衣類きものをまくって腰までつかって、二
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わめくや否や、狼のように人立じんりつして、引包ひッつつんでとびかかった。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何、一度味をしめるととびついて露も吸いかねぬ。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まげのうへとびおりたからない。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
筆者は炬燵からとびしさった。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)