ばかり)” の例文
あなたがんな動機から神話を譯して御覽になつたかはまだ解らないが、恐らく文學を研究する人の手引草てびきぐさとしてばかりではないでせう。
『伝説の時代』序 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
やがてニコ/\笑って居る恵比須顔えびすがおの六十ばかりの爺さんが来た。石山氏は彼を爺さんに紹介して、組頭の浜田さんであると彼に告げた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
刈安峠を踰えブナ坂を下り、だいらの小屋へは立ち寄らずに、越中沢(ヌクイ谷)を徒渉としょうして黒部川の河原に出で、十五分ばかりり休憩した。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
その内大君の利益は五十万元すなわち一週ごとに一万元ばかりなり。一週間この利益なしといえども御老中その不都合を覚ゆることなきを得べしや
尊攘戦略史 (新字新仮名) / 服部之総(著)
吾等われら喫驚びつくりして其方そなた振向ふりむくと、此時このとき吾等われらてるところより、大約およそ二百ヤードばかりはなれたもりなかから、突然とつぜんあらはれて二個ふたりひとがある。
兵卒は、巓近し、今一息に候と叫びて、我等をはげましたり。されど仰ぎ視れば山の高きこと始に異ならず。一時ばかりにして僅に巓に到りぬ。
十五分ばかりしてから京子が書斎に入って来た時千世子は待ちくたびれた様にぼんやりした顔をしてつるした額の絵の女を見て居た。
千世子(三) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それから先は両側の松林が幹を差替さしかわすばかりに遠くつづいて石畳の路をおおうている、奥にはほんのり暗くて何のあるのも判らない
八幡の森 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
彼は、今二階に寝させて来たばかりの病身の妻と、病気上りの痩せて浅黒い小さな我子の上に、少しの間でも気をゆるすことが出来なかった。
秋は淋しい (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
山地向陽の草間に生じて一株に一条ないし三条ばかりの茎が出て直立し斜めに縦脈のある狭長葉を互生し茎と共に手ざわりらき毛を生ずる。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
生中なまなかいぢくらずに置けば美しい火の色だけでも見られたものを、下手へたに詩にばかりもとの面白い感情が失はれたのと同じ様な失望を感じた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
袋中大徳たいちゅうたいとくの『神道記』を見ると、ヲウチキウという海神がある。長は一丈ばかり、きん大なり。縄を結んで肩にく。初めに那婆なはの町に現ず。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
よく母が町への出入ではいりにこの家へ立寄るのである。いつしかその桶屋の前へ来た。五つばかりの頭に腫物はれものの出来た子が立っていた。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、思ふと、向ふの低い窪地くぼち簇々むら/\と十五六人ばかりの人数があらはれて、其処に辛うじて運んで来たらしいのは昼間見たその新調の喞筒である。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
以上長四尺ばかりの半紙の巻紙に書いた書牘しよどくの全文である。蠧蝕としよくの処が少しあるが、幸に文字を損ずること甚しきに至つてゐない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
夏中上総のみなと海岸で廿名ばかりの子供れんを遊ばせてゐる少年臨海団といふ一つの団体がある。団長は例の裸頭跣足主義で名高い高木兼寛氏である。
硝盃コツプさきに水をれて、ポタリ/\とびんの口をけながらたらすのだが、中々なか/\素人しろうとにはさううま出来できない、二十てきと思つたやつが六十てきばかり出た。殿
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
梅子さん、ほんとに幸福と思つたのは、結婚後の一年ばかりでしたの、私の心が静実おちつくに連れて、次第に私を軽蔑けいべつする様になるんですよ——折々はネ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
保胤の兄保憲は十歳ばかりの童児の時、法眼ほうげん既に明らかにして鬼神を見て父に注意したと語り伝えられた其道の天才であり
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
就中なかんずく、丈、約七寸ばかりの美しい女の、袖には桜の枝をのせて、ちょっとうつむいた、慄然ぞっとするような、京人形。……髪は
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『嫌悪感——というもんは非道ひどいもんだな、鱗粉が触っただけで、皮膚が潰瘍かいようするばかりか、心臓麻痺まで起すんですね』
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
しかし、そのおおきさは矢張やはり五すんばかり蒼味あおみがかったちゃっぽい唐服からふくて、そしてきれいな羽根はねやしてるのでした。
先づ、雲に隠れた巨人のかしらを染め、ついで、其金色の衣を目もくらめばかりに彩り、やがて、あまねく地上の物又物を照し出した。朝日が山の端を離れたのである。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
玉を烹たるもの、そのゆゑをきゝかまふたひらきればすでに玉はなかばかれたり。其たまわたり一寸ばかりこれしん夜光やくわう明月のたまなり。俗子ぞくしやくせられたる事悲夫かなしきかなしるせり。
ぱっと点く電灯、ばらばらと走りこんだ警官十名ばかり、驚き呆れている理学士に手錠をはめてしまった。——松川博士の幽霊は? 幽霊はぽんとほうり出された。
幽霊屋敷の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
偽勅使で一杯引ッ掛けたタア真逆まさかに気も付くめエ、智慧の足り無エ癖に口ばかり達者にベラベラ喋りやがって、今に其舌の根ッ子オ引ン抜いてやるから待ってろヨ。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
今朝与謝野氏来訪、不折ふせつ書林太郎君墓銘数葉持参致し、誠によき出来に候。礼金は先づ筆墨料として×円ばかり投じては奈何いかんとの事に候。三十余枚も書き試みたる趣に候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
そこで、今迄いまゝで毎月まいげつ三銭さんせんかの会費くわいひであつたのが、にはかに十せん引上ひきあげて、四六ばん三十二ページばかり雑誌ざつしこしらへる計画けいくわくで、なほひろく社員を募集ぼしうしたところ、やゝめいばかりたのでした
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そうしてなお位田と位禄の対比から、「一町を封八戸ばかりこうしたる(1)」ことを認めている。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
今の庵主は五十ばかりの品のよい老女で、この老女がこの頃になって何か胸に思い余ることがありげに、しきりに心を苦しめているのが、そう思って見れば他目よそめにも見えます。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
五年ばかり以前のことだが、某官省の不用銅鉄品払下げの見積の時、市治郎が贈賄の嫌疑で拘引されたことがある。このことには権右衛門も三亀雄も関係無しとはいえなかった。
俗臭 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ぐたぐたとなってしまったばかりではなく、令嬢の愛が自分にないと知ると、自分の身を犠牲にして、恋の敵手あいてと云ってもよい高田と、自分の恋人とを、仲介しようとするような
神の如く弱し (新字新仮名) / 菊池寛(著)
黒縮くろちりつくりでうらから出て来たのは、豈斗あにはからんや車夫くるまやの女房、一てうばかりくと亭主ていしが待つてて、そらよと梶棒かぢぼう引寄ひきよすれば、衣紋えもんもつんと他人行儀たにんぎようぎまし返りて急いでおくれ。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
ゆめ一個ひとり風采ふうさい堂々だう/\たる丈夫ますらをあらはれて、自分は石清虚せきせいきよといふものである、けつして心配しんぱいなさるな、君とわかれて居るのは一年ばかりのことで、明年八月二日、あさはや海岱門かいたいもんまう見給みたま
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
さかりと咲亂さきみだれえも云れぬ景色けしきに寶澤は茫然ばうぜんと暫し木蔭こかげやすらひてながめ居たり此時はるかむかうより年頃四十ばかりの男編綴へんてつといふをまと歩行あゆみ來りしがあやしやと思ひけん寶澤に向ひて名を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
間も無く、「万歳」声裡せいりに、又一本を挙げたる者ありしが、少しも喜べる色なく、「何だ緋鯉か。誰にかやらう」といふ声の下より、十歳ばかりの小児、「伯父さん私に頂戴」と乞ふ。
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
黄袗くわうしんは古びてあかく、四合目辺にたなびく一朶いちだの雲は、垂氷たるひの如く倒懸たうけんして満山をやす、別に風よりはやき雲あり、大虚をわたりて、不二より高きこと百尺ばかりなるところより、これかざ
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
此処ここで聞いたはなしに、ある時その近在のさる豪家ごうかの娘が病気で、最早もう危篤という時に、そのの若者が、其処そこから十町ばかりもある遠野町へ薬を買いに行った、時はもう夜の九時頃のことで
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
夜引よびきすつときにや人間にんげんねむつたくりやうまねむつたくつてな、石坂いしざかだから畜生等ちきしやうらがくたり/\はあ、なんぼにもあるかねえな、そんときにや、おうい一つどうだねつゝけちやあとばかりでなあ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
このお温習さらい程私の嫌いな事はなかったが、之をしないと、じきポチをすてると言われるのが辛いので、渋々内へ入って、かたの如く本を取出し、少しばかりおんにょごおんにょごとる。それでおしまいだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
其間およそ一里ばかり。尤も往きと帰りとでは、同じ一里が近く思はれるもので、北国街道の平坦たひらな長い道を独りてく/\やつて行くうちに、いつの間にか丑松は広濶ひろ/″\とした千曲川ちくまがはほとりへ出て来た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
一行が準備じゆんびせらるる十日間の食糧しよくれう到底とうてい其目的そのもくてきを達せず、ことに五升ばかりの米をふをめいぜられて此深山しんざん険崖けんがい攀躋はんさいする如きは、拙者のあたはざる所なりと、だんじて随行をこばむ、衆相かへりみて愕然がくぜんたり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
つかはさるべくはつかはしたけれど、七萬石ひちまんごく先祖せんぞ勳功くんこうたひし、皇室くわうひつ藩屏はんべいといふたいし、このことばかりはなしがたきに表立おもてだちてはひめやしきおきがたけれど、れには一人ひとりいもと、ことに兩親りやうしん老後らうごにて
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
不思議と時計を見ると成程なるほど最早もう十二時二十分ばかり過ぎていたのだ。
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
此上の事ばかりハ先、幕か蘭か小倉か其罪をうけずしてハすまず。
どうも、そうさんもあんまり近頃ちかごろ御出おいででないし、わたし御無沙汰ごぶさたばかりしてゐるのでね、つい御前おまへこと御話おはなしをするわけにもかなかつたんだよ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
右に折れて下り気味に一町ばかり行くと、広い鞍部が竜バミ谷の方面へ豁然と開けて、程よく配置された若い唐松の林などが目をよろこばせる。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
客は柱文銀(「コロンナアトオ」といふ、その文樣もんやうに依りて名づく、我二圓十五錢ばかりに當る)一塊若くは數塊を一色の上に置く。
る裏町にある小橋こばしの四方を雑多な形の旧いすゝばんだ家が囲んで、橋の欄干の上に十人ばかり腰を掛けて長い釣竿を差出した光景が面白かつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
空は飽迄あくまで灰色であった、三尺ばかり上は灰色の厚い布で張詰られているような気がした。外へ出たが誰をたずねて見ようという考えは別になかった。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)