莞爾につこり)” の例文
兎角とかく一押いちおし、と何處どこまでもついてくと、えんなのが莞爾につこりして、馭者ぎよしやにはらさず、眞白まつしろあを袖口そでくち、ひらりとまねいて莞爾につこりした。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此うなるとお房の方でも剛情がうじやうで、恰で眼底めのそこ粘付ねばりついたやうになつて、何うかすると、莞爾につこりわらつて見せる。いや、ひつこいことだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
五十前後の歯を黒く染めた主婦は這入つて来た裕佐に莞爾につこりとお辞儀をし乍ら「お寒う、おあたり。」と云つた後で、又二人にかう訊いた。
『は。』と言つて智惠子は莞爾につこり笑つた。そして、矢張り跣足はだしになり裾を遠慮深く捲つて、眞白な脛の半ばまで冷かな波に沈めた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「いや願念寺は動きません、罷り出でたるは願念寺の住職隆法にて候。」なぞと戲れをば、莞爾につこりとも笑はずに、口を尖らして願念寺は言つた。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
盃形さかづきがた薔薇ばらの花、口をつけて飮みにかかると、齒の根が浮出す盃形さかづきがた薔薇ばらの花、まれて莞爾につこり、吸はれて泣きだす、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
わだかまりもなく言つて、俯向うつむき加減に莞爾につこりします。こんな無禮な仕打は、日頃の家光には見ようつたつて見られません。
お光は茶の間の前の通庭に此方を向いて立つて笑つて居るのであつた。彼は母の顔を見ると直ぐ莞爾につこりと笑つて見せた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
はるたといつては莞爾につこりなにたといつては莞爾につこり元来ぐわんらいがあまりしつかりしたあたまでないのだ。十歳じつさいとき髪剃かみそりいたゞいたが、羅甸ラテン御経おきやうはきれいに失念しつねんしてしまつた。
かけられしとは更に合點がてんの參らぬ事なり此は貴殿の異見いけんをもきか徒骨むだぼねをりしを嘲弄てうろうさるゝと思はれたりと云へば大膳は莞爾につこり打笑うちゑみいなとよ此大膳なにしにいつはりを申べき仔細しさい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「サア何でも御馳走しますとも、坊樣何がう御座いますか」と女は優しく言つて莞爾につこり笑つた。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「よう効目ききめがありまつせ——」向うにゐた三十先きの女が莞爾につこりしながら戯談じようだん半分に言つた。
浴室 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
女は何か思ひ出したらしく莞爾につこりしながら、おれと並んで長椅子へ腰を掛けて
素描 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
自分は終に默つてゐた。やがて彼はまた立ち上つた。少し所を變へて再び竿を動かしてゐる所へ、その背後うしろの方からまた一人竿を持つて人が來た。傳造である。彼等父子は顏を見合つて莞爾につこりした。
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
みじかしとくらこゝろ如何いかばかり長閑のどけかるらんころ落花らくくわの三ぐわつじんちればぞさそあさあらしにには吹雪ふゞきのしろたへ流石さすがそでさむからでてふうらの麗朗うら/\とせしあまあがり露椽先ぬれゑんさき飼猫かひねこのたまかるきて首玉くびたましぼばなゆるものは侍女こしもとのお八重やへとてとし優子ゆうこに一おとれどおとらずけぬ愛敬あいけう片靨かたゑくぼれゆゑする目元めもとのしほの莞爾につこりとして
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
稻束いなづかたてに、や、御寮ごれう、いづくへぞ、とそゞろにへば、莞爾につこりして、さみしいから、田圃たんぼ案山子かゝしに、さかづきをさしにくんですよ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『ハイ。』と、生徒の方も嬉しさうに莞爾につこりして、活溌に一礼して出て行く。健の恁麽こんな訓導方しつけかたは、尋常二年には余りにきびすぎると他の教師は思つてゐた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
齒ぎれの良い調子、莞爾につこりすると、漆黒しつこくの齒がチラリと覗いて、啖呵たんかのきれさうな唇が、滅法めつぽふ阿娜あだめいて見えます。
斷行だんかうさ。もう何も考へてゐることあ有りやしない。此の上愚圖ぐづついてゐたら、俺は臆病者おくびやうものよ、加之お房のことを考へたつて………」と思はず莞爾につこりして
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「可愛うて、仕樣のない子やなア。」と、山吹は溜息とともに、撫で肩をすぼめつゝ言つて、莞爾につこりと笑つた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
はらしたく思ふをりから云々とはれて大きにこゝろに喜び其うへならず母親も留守るすと云るはついでよしと早くも思案しあん莞爾につこりみ夫はさぞかし面白ふ御座りませうが甲夜よひのうちは親父おとつさんも起きてを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と我が事の様に嬉しさうに、莞爾につこりしながら言つた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
はねへたうつくしいねえさんはないの)ツていたとき莞爾につこりわらつて両方りやうはうから左右さいうでおうやうにわたし天窓あたまでゝつた
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
『ハイ。』と、生徒の方も嬉しさうに莞爾につこりして、活溌に一禮して出て行く。健の恁麽訓導しつけ方は、尋常二年には餘りに嚴し過ぎると他の教師は思つてゐた。
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
平次は場所柄にも似ず、莞爾につこりとしました。ガラツ八の書いた字を、お君が拙いと言つたので可笑しかつたのです。
其の女は、前で結んだ美しい帶を、白い手で撫でながら、かう言つて、莞爾につこりと笑つた。其の顏には小じわが多くて、ツンと高い鼻の側面に一かたまりの菊石みつちやが、つくねたやうになつてゐた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
かなへる樣に致しますれば必ずおあんじ成されますなと言ば長三郎は莞爾につこりわらひ忠兵衞何分なにぶん能き樣にといふより外に言葉なきを聞流しつゝ奧へ至り主個あるじ夫婦に今日の始末しまつ箇樣々々かやう/\と話しけるに夫婦ふうふの者もひざ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
婦人ふじんたちの、一度いちどをさましたとき、あの不思議ふしぎめんは、上﨟じやうらふのやうに、おきなのやうに、稚兒ちごのやうに、なごやかに、やさしくつて莞爾につこりした。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『好し。』と言つて、健は莞爾につこりして見せる。『それでは一同みんな歸しても可い。お前も歸れ。それからな、今先生が行くから忠一だけは教室に殘つて居れと言へ。』
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
莞爾につこりとすると又片靨かたゑくぼの寄る捨吉、極り惡さうに手を振つて見せるのは、子供は皆んな源助のだ——と言ふ意味でせう。それにしても、この男の美しさも尋常ではありません。
「お駒どんお召しだすで。」と千代松は莞爾につこりした。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
おそろしく鐵拐てつか怒鳴どなつて、フトわたし向合むきあつて、……かほて……雙方さうはう莞爾につこりした。同好どうかうよ、と前方さきおもへば、知己ちきなるかな、とひたかつた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『好し。』と言つて、健は莞爾につこりして見せる。『それでは一同みんな帰しても可い。お前も帰れ。それからな、今先生が行くから忠一だけは教室に残つて居れと言へ。』
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
鐵童は莞爾につこりとして手桶を置きました。
玄竹げんちく莞爾につこりともしないでつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ときに、若旦那わかだんなて、つゆうるししたるごとき、ぱつちりとしたひとみかへして、額髮ひたひがみはら/\といろめつゝ、流眄ながしめ莞爾につこりした。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『皆樣お上手よ。私なんか今迄餘り歌留多も取つた事がないもんですから、敗けて許り。』と莞爾につこりする。ほつれた髮が頬に亂れてる所爲か、其顏が常よりも艶に見えた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
莞爾につこりして、草鞋わらぢさき向直むきなほつた。けむり余波なごりえて、浮脂きら紅蓮ぐれんかぬ、みづ其方そなたながめながら
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『あら智惠子さんと。然うでしたか! よくお解りになりましたね。』と莞爾につこり、何氣なく言つた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「へい、何方どちらで、」とふのが、あかがほひげもじやだが、莞爾につこりせた、ひとのよささうな親仁おやぢうれしく
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
藤野さんは唯一人、戸の蔭に身を擦り寄せて立つてゐたが、私を見ると莞爾につこり笑つて、『まあ、裸足はだしで。』と、心持眉をひそめた。そして急がしく袂の中から、何か紙に包んだ物を出して私の手に渡した。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
莞爾につこりして、かぜみだれる花片はなびらも、つゆらさぬ身繕みづくろひおびおさへたパチンどめかるひとつトンとてた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
藤野さんは唯一人、戸の蔭に身を擦り寄せて立つてゐたが、私を見ると莞爾につこり笑つて、『まあ、裸足で。』と、心持眉をしかめた。そして急がしく袂の中から、何か紙に包んだ物を出して私の手に渡した。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ちよいと見向みむいて、すゞし御覧ごらんなすつて莞爾につこりしてお俯向うつむきで、せつせとつてらつしやる。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
といつて笑顔ゑがほをなすつたが、これはわたし悪戯いたづらをして、母様おつかさんのおつしやることかないとき、ちつともしからないで、こはかほしないで、莞爾につこりわらつておせの、それとかはらなかつた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「いや、さかんだな。」と、火鉢ひばちを、鐵火てつくわにおめしまたはさんで、をかざしながら莞爾につこりして、「後藤君ごとうくん、おらくに——みなみなよ、おれわり一杯いつぱいやらう。」殿樣とのさま中間部屋ちうげんべやおもむきがある。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おもてめた姿すがたである。皓齒しらはひとつも莞爾につこりほころびたら、はらりとけて、おび浴衣ゆかたのまゝえて、はだしろいろさつむらがつてかう。かすみはなつゝむとふが、をんなはなかすみつゝむのである。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其処そこで、人形にんぎやうやら、おかめのめんやら、御機嫌取ごきげんとりこしらへてつて行つては、莞爾につこりさせて他愛たあいなく見惚みとれてたものでがす。はゝゝ、はじめのうち納戸なんど押入おしいれかざつての、るなるな、とふ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
轆轤首ろくろくびさ、引窓ひきまどからねてる、見越入道みこしにふだうがくわつとく、姉様あねさまかほ莞爾につこりわらふだ、——切支丹宗門キリシタンしうもんで、魔法まはふ使つかふとふて、おしろなかころされたともへば、行方知ゆくへしれずにつたともふ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
小父をぢさんだの、とこかい。……ぢやいや。」と莞爾につこりした。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)