ぽう)” の例文
このむらに、もう一人ひとり金持かねもちがありました。そのおとこは、むらのものが、一ぽう金持かねもちのうちにばかり出入でいりするのをねたましくおもいました。
時計のない村 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かたぽうでもいけなけりゃ、せめて半分はんぶんだけでもげてやったら、とおりがかりの人達ひとたちが、どんなによろこぶかれたもんじゃねえんで。……
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
復讐しかえしは簡単だよ。これから人間の画かきどもが何を描こうとも、おれ達はわざと気づかないふりをしてぽうを向いているんだ。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
いつかあかねいろの曠野こうやは、海のような青い黄昏たそがれとかわっていた。草をけって、いつ追われつする者たちには、十ぽうなにものの障壁しょうへきもない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そばにはしろきれせた読経台どきょうだいかれ、一ぽうには大主教だいしゅきょうがくけてある、またスウャトコルスキイ修道院しゅうどういんがくと、れた花環はなわとがけてある。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ぽうわたくしほうではそれとなく良人おっとこころはたらきかけて、あぶらつぼ断崖がけうえみちびいてやりましたので、二人ふたりはやがてバッタリとかおかおわせました。
僕はうも柄じゃないと思いましたが、今年は不景気で八ぽうふさがりだと言っていたところへ口がかかって来ましたから、ついフラフラと入ってしまったんです。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
今夜こんやこれからすぐてき本営ほんえい高松殿たかまつどのにおしよせて、三ぼうから火をつけててた上、かってくるてきを一ぽうけてはげしくてることにいたしましょう。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
石川家の定紋、丸に一の字引きを染めぬいた、柿色羽二重の大ぶろしきに、何やら三ぽうにのせた細長いものをそばにひきつけて、緊張した顔で広書院にすわっていた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いささかおどけたかおになつて、たたみをついてあやまつたが、一ぽう犯人逮捕はんにんたいほだい一の殊勲者しゅくんしゃ平松刑事ひらまつけいじは、あるのこと、金魚屋きんぎょやさん笹山大作ささやまだいさくの、おもいがけぬ訪問ほうもんをうけた。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
この偉大ゐだいちから分解ぶんかいしてると。一ぽうには非常ひぜう誇張こてうと、一ぽうには非常ひぜう省略しやうりやくがある。で、これより各論かくろんつて化物ばけもの表現へうげんすなは形式けいしきろんずる順序じゆんじよであるか、いまそのひまがない。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
このつぎ如何いかなるひとるだらうと、わたくし春枝夫人はるえふじんかたりながら一ぽう倚子ゐすりてながめてつたが、暫時しばらく何人たれない、大方おほかたいま鵞鳥聲がてうごゑ婦人ふじんめに荒膽あらぎもかれたのであらう。
一年とさだめたる奉公人ほうこうにん給金きうきんは十二箇月のあひだにも十兩、十三月のあひだにも十兩なれば、一月はたゞ奉公ほうこうするか、たゞ給金きうきんはらふか、いづれにも一ぽうそんなり。其外そのほか不都合ふつがふかぞふるにいとまあらず。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
ら、かんなたねえ大工でえくだ、のみぽうつちんだから」といつて勘次かんじ相手あひてもないのにわざとらしいわらひやうをして女房等にようばうらはうた。かれさうくびおこして數々しば/\ることを反覆くりかへした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それで此方こちらの役目はすみ、お金にもなることゝ、慾が手伝いましては義理人情も兎角にぽうへよって仕舞うもので、お部屋からの言付けだと、伊之吉は到頭お履物はきものにされまして二階をせかれ
ぽう、おばあさんは、ほんとうに居眠いねむりをしてしまいました。そして大事だいじ財布さいふを、むしろのしたれたことをわすれてしまいました。
善いことをした喜び (新字新仮名) / 小川未明(著)
『足場を取ったが、何で卑怯かっ。赤穂育ちは小藩ゆえ、小狭い所をお好みかしらぬが、清水一学流は十ぽう無碍むげ、さあ来いっ! 束になって』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美顔術師の所へ通う多くの婦人連は、途中でその美顔術師に遭つても、ぽうを向いて成るべく素知らぬ顔をする。そしてあとから直ぐ訪れて来て
が、一ぽうにかくうれしさがこみあぐると同時どうじに、他方たほうにはなにやら空恐そらおそろしいようなかんじがつよむねつのでした。
貴方あなたはどうしたらよかろうと有仰おっしゃるが。貴方あなた位置いちをよくするのには、ここから逃出にげだす一ぽうです。しかしそれは残念ざんねんながら無益むえきするので、貴方あなた到底とうていとらえられずにはおらんです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
評判娘ひょうばんむすめのおせんちゃんだ。両方りょうほうげてわるかったら、かたぽうだけでもようがしょう」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ここへ馬を乗りいれた源三郎をめがけて、銭撒ぜにまやくの峰丹波、三ぽうごと残りのお捻りを投げつけたのだが、偶然源三郎のつかんだ一つが、その、万人のねらう萩乃のおすみつきでありました。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
とお三ぽうを持って身構えた。僕達は皆腹這いになって待っている。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ぽうでは、のむちでたれて、くるうように、はげしいかぜが、くらく、あおざめた、よるそらくるしそうなさけびをあげて、いていました。
戦争はぼくをおとなにした (新字新仮名) / 小川未明(著)
原士はらしの中で、有名な使い手だけあって、難波なんばぽうりゅうと覚しき太刀筋はたしかなもの。弦之丞とて、迂濶うかつにはあしらえない。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると今度は英軍の塹壕から、一シルリングの銀貨が一つ空にり上げられた。独軍の塹壕で矢庭に小銃のぜる音がしたが、弾丸たまぽうへ逸れてしまつた。
わたくし地上ちじょうったころ朝廷ちょうていみなみきたとのふたつにわかれ、一ぽうには新田にった楠木くすのきなどがひかえ、他方たほうには足利あしかがその東国とうごく武士ぶしどもがしたがい、ほとんど連日れんじつ戦闘たたかいのないとてもない有様ありさまでした……。
「八ぽうふさがりだね」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
きみたちのいうことは、よくわかった。一ぽうは、理科りか知識ちしきるためだというのだし、一ぽうはかわいそうだからたすけるというのだ。
眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ぽう自在じざい妙槍みょうそうをひッかかえ、馬にあわをかませながら、乱軍のうちを血眼ちまなこになって走りまわっていたのは小文治である。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一寸内証ないしようで言つておくが、これは亭主にとつても同じ事で、女房に好かれようと思つたら、途中で自分の連合つれあひに出会つても、成るべくぽうを向いてゐる事だ。
役場やくばつとめてからも、まじめ一ぽうはたらくばかりでした。しかし、なにか、うまいものがかれはいると、だれのまえもはばからず、きっと
万の死 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「よけいなことはいわんでもよい。さ、一ぷくったら八ぽうへ手を分けて、まず第一に間道かんどうらしい洞穴ほらあなをさがしてみろ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、うつかり口を滑らすと、領事は苦味丁幾クミチンキを飲んだやうに苦い顔をして、ぽうを向いた。そして
今夜こんや、六からあつまる。」と、いいわしても、一ぽうのものは、おつ金持かねもちの時計とけいが六になると会場かいじょうあつまりましたが、一ぽうのものは
時計のない村 (新字新仮名) / 小川未明(著)
四つの眼が衝突ぶつつかつた時、男は霊魂たましひまで焼かれるやうな気持がしたので、そつとぽうに視線をそらした。
その快実は、両宮の床几に近い所まで来ると、ほこらしげに、六ぽうおどりの足踏み鳴らしながら
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ、わたし人形にんぎょうかおくときに、一ぽう気持きもちよく、一ぽうは、なにかこころなかにものらなさをかんじていたというまでです。
気まぐれの人形師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
京都は三ぽう山に囲まれてゐるので、夏になると雷が多い。空がごろごろ鳴り出すと、京都の女はチヨコレエトを食べさして、かひこのやうにぶるぶるつと身体からだふるはせる。
どこの草葺くさぶき屋根にも、この防風林がつきもので、十ぽう碧落へきらくのほか何ものも見えない平野にあっては、時折、気ちがいのようにやッて来る旋風つむじかぜや、秩父颪ちちぶおろしの通り道のようになっている地形上
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、一ぽうからくるくるまは、それによって、ゴウッとはしし、一ぽうからくるくるまは、それによって、ぴたっとまりました。
はととりんご (新字新仮名) / 小川未明(著)
その証拠には、電車が尼崎あまがさきに着いて、直ぐ前に空席が出来ても、氏は素知らぬ顔をしてぽうを向いてゐたが、車掌に尻を小突かれて、やつと不承不承に其処そこに腰を下した。
ぽうやまで、としたようになって、一ぽうふかふかがけであります。そのがけしたには、おおきななみせていました。
初夏の空で笑う女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
馬丁べつたうは素知らぬ顔でぽうを向いてゐたが、馬はそこに突立つて一足も前に乗り出さうとしなかつた。で、馬丁べつたうは無けなしの財布から幾らかつまみ出して貧乏人の掌面てのひらに載つけてやつた。
ところが、そのむらがったなかから、したように、ぽつ、ぽつと、まちをはなれて、いくつかずつさびしい野原のはらの一ぽうっていくのでした。
縛られたあひる (新字新仮名) / 小川未明(著)
ちょっと眼をぽうに逸らした時に、ちゃんと閉じられているということだ。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
そんな場合ばあいには、こうあか帽子ぼうしかぶり、おつしろ帽子ぼうしかぶりましたが、一ぽうは、さくらみぎに、一ぽうさくらひだりにというふうに、陣取じんどりました。
学校の桜の木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
将軍家はおつの菓子を貰ひ損ねた子供のやうに、わざぽうを向いた。
ばたんとあかると、一ぽうからくるくるまがみんなまって、いままで、じっとしていたくるまが、ながれるようにつづきました。
はととりんご (新字新仮名) / 小川未明(著)
いつもぽうから珈琲皿のやうな円い顔をによつきりとのぞけた。
無学なお月様 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)