なほ)” の例文
しかし、其は我々の想像の領分の事で、しかも、歴史に見えるより新しい時代にも、なほ村々・国々の主権者と認められた巫女が多かつた。
国文学の発生(第二稿) (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
御身おんみの位地として相当の準備なくてはかなはず、第一病婦の始末だに、なほきがたき今日の場合、如何いかんともせんやうなきを察し給へ。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
およそ雪九月末よりふりはじめて雪中に春をむかへ、正二の月は雪なほふかし。三四の月にいたりて次第にとけ、五月にいたりて雪全くきえ夏道なつみちとなる。
「お父さんはもうあんなに遠くまでお出でになりましたよ。あそこに。」と、おくみは家の門口でなほしばらくあちらを見送つてゐた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
平次はなほも家の中を搜しましたが、やがて、奧の一と間の床下に、嚴重な蒸籠せいろうを組んで、其處に千兩箱が三つあることを發見しました。
こそならべてたしとわれすらおもふに御自身ごじしんなほなるべしおよぶまじきこと打出うちだして年頃としごろなかうとくもならばなにとせんそれこそはかなしかるべきを
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ですけれど、あの、おまねかれたら、懐中ふところへならなほことだし、冥土めいどへでも、何処どこへでもきかねやしますまい……と真個ほんとうおもひました。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
モン長 なう、なさけなや、我君わがきみ! 我子わがこ追放つゐはう歎悲なげきあまりにおとろへて、つま昨夜やぜん相果あひはてました。なほ此上このうへにも老人らうじんをさいなむは如何いかなる不幸ふかうぢゃ。
詮ずるところ人間主義の小説界に入りしは、十九世紀に於ける特相といふも誣言ふげんにあらじ。なほいとをさなきほどの顯象なり云々。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
要するにすたれて放擲られた都會の生活のかす殘骸ざんがい………雨と風とに腐蝕ふしよくしたくづと切ツぱしとが、なほしもさびしい小汚こぎたないかげとなツて散亂ちらばツてゐる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
なほまたぱうからかんがへると、投機思惑とうきおもわく圓貨ゑんくわむかつておこなはるれば、それだけ爲替相場かはせさうば急激きふげきあがるとふことは當然たうぜんであり、急激きふげきあが場合ばあひには
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
我見るに、今より後程なく來る一の時あり、この時到らばほかのカルロは己と己がやからの事をなほよく人に知らせんとてフランスを出づべし 七〇—七二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
黎元れいぐわん撫育むいくすることやや年歳としを経たり。風化ふうくわなほようして、囹圄れいごいまむなしからず。通旦よもすがらしんを忘れて憂労いうらうここり。頃者このごろてんしきりあらはし、地しばしば震動す。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
とゞめ此處にてもなほ種々いろ/\に療治せしかば友次郎のやまひは全くこゝろよくなりければ夫よりは忠八と諸倶もろとも所々しよ/\方々はう/″\めぐり敵の行方ゆくへ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
才人の官、しんの武帝にはじまり、宋時に至つてなほ之を沿用す。然れども才子を才人と称しても差支へなきは勿論なり。辞源にも「有才之人曰才人。猶言才子なほさいしといふ
念仁波念遠入礼帖 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あたし何だか氣味が惡くなつて來て、「だつて、これは姐さんのでせう。」つて、ふところから紙入を出して見せたの。すると姐さんはなほと恐い顏になつてよ。
梅龍の話 (旧字旧仮名) / 小山内薫(著)
それかといつて、貴方あなたのやうなお母さんの秘蔵息子をだませばなほ罪が深いでせう。先のある人を、学校でもしくじらせてごらんなさい、それこそ大変だわ。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
なほ其前そのまへさかのぼつてまうしますると、太閤殿下たいかふでんか御前ごぜんにて、安楽庵策伝あんらくあんさくでんといふ人が、小さいくは見台けんだいの上に、宇治拾遺物語うじしふゐものがたりやうなものをせて、お話をたといふ。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
なほ化物ばけものに一の必要條件ひつえうぜうけんは、文化ぶんくわ程度ていど非常ひぜう密接みつせつ關係くわんけいいうすることである。化物ばけもの想像さうざうすることにあらずしてぜうである。はしると化物ばけもの發達はつたつしない。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
彼はこの色を売るの一匹婦いつひつぷも、知らずたれなんぢに教へて、死にいたるまでなほこのがたき義にり、守りかたき節を守りて、つひに奪はれざる者あるに泣けるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
なほらざるとき全身ぜんしん冷水れいすゐそゝぎてそのいたみまつたりしゆゑに、其後そのご頭痛づつうおこごと全身ぜんしん冷水灌漑れいすゐくわんがいおこなひしが、つひ習慣しふくわんとなり、寒中かんちゆうにも冷水灌漑れいすゐくわんがいゆるをたり。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
それをふのである。なほ今雑誌を調べて見ると改造に出した歌をアララギでは少しづつ直してゐる。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
かくなしてなほ貧民等は市街を横行なせる事は日を追つてさかんなりしが、其頃品川宿に於て施行せぎようを出すを左右かにかくと拒みたる者ありとて忽ち其家を打毀うちこはせしより人気いよいよ荒立あらだつ
鬼怒川きぬがは土手どて繁茂はんもしたしのまつはつてみじか鴨跖草つゆぐさからくきからどろまみれてながらなほ生命せいめいたもちつゝ日毎ひごとあはれげなはなをつけた。こほろぎ滅入めいやうかげいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
大きにさうかも知れない。然しこの間違つた、滑稽な、ぬえのやうな、故意こいになした奇妙の形式は、しろ言現いひあらはされた叙事よりも、内容の思想をなほ能く窺ひ知らしめるのである。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
何となれば其の作中に現れたる理想は馬琴、京伝の描きたる理想、言ひ換ふれば多くは過去の理想を再現したるに過ぎざれば也、(弦斎の作にはなほ読者をく他の一面あれど)
国民性と文学 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
格闘はなほ続いた。組み合ひながら、座敷中をのたくつてゐる恐ろしい物音が絶えなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
そこで内心ないしん非常ひじやうおどろいたけれどなほも石を老叟らうそうわたすことはをしいので色々いろ/\あらそふた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
水がれて細く——その細い溝の一部分をなほ細く流れて男帯よりももつと細く、水はちよろちよろあへぎ喘ぎ通うてゐた。じめじめとした場所を、一面に空色の花の月草が生え茂つて居た。
天は不幸なるこの重右衛門にこのわづかなる恩恵めぐみをすら惜んで与へなかつたので、尋常よりもなほ数等愚劣なるかれの妻は、この危機に際して、あらう事か、不貞腐ふてくされにも、夫の留守を幸ひに
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
といひながらも、そこらにもしや魚が来て居るかとなほきわ湖水の面へ顔をさし出して、しきりにながめて居り升たが、見える物とては自分の小さなポツチヤリした丸顔の、水に映るところばかりでした。
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
なほ能く聞くと、北の廊下の雨戸でも明けて、屋外そとながめて居るものらしい。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
又其唇を開けり「君等には篠田主筆の心が知れないか、先生が……先生が貧苦を忍び、侮辱を忍び、迫害を忍び、年歯ねんし三十、なほ独身生活をまもつて社会主義を唱導せらるゝ血と涙とが見えないか——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
深井の二君は精密せいみつなる地図をせいせられたり、利根河上流の模様もやうは将来すこぶる改正をえうするなり、上越国界にいたりても同じく改正を要すれども、なほ精確せいかくを得んには向後尚一国上越及岩代の三ヶ国より
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
なほ堪へ難く思はれることは町で金魚を見ねばならぬことであつた。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
此には、一つ前の民謡の型として、なほ勢力を持ち続けて居た結集ケツジフ唱歌出身の旋頭歌セドウカの口拍子が、さうした第三句游離の形と発想とを誘うたのである。
御月番の御老中へあて急飛きふひを差立らるこゝに又天一坊の旅館りよくわんには山内伊賀亮常樂院赤川大膳藤井左京等なほ密談みつだんに及び大坂は餘程よほどとむなり此處にて用金ようきん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ヂュリ さうしてゐてしいから、わたしゃなほわすれませう。一しょにゐたい、といふことばかりはわすれずに。
彼等はその無分別をぢたりとよりは、この死失しにぞこなひし見苦しさを、天にも地にもさらしかねて、しも仰ぎも得ざるうなじすくめ、なほも為ん方無さの目を閉ぢたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
おくみはそれからなほ三十分ばかり青木さんの方のいろんなお話しを聞いた後、そこ/\においとまをした。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
内證ないしよう婦人ふじんなどおたはむれで、それで座敷ざしきとほせぬのであらう。ならなほことたつてとおつしやる。
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なほまた財政ざいせい膨脹ぼうちやう中央政府ちうあうせいふかぎらず、地方ちはう公共團體こうきようだんたい財政ざいせいはより以上いじやう膨脹ぼうちやうしてつて
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
「皇太后御入内後も薫子は特別の御優遇を賜つたが、明治十四年に讃岐さぬきの丸亀において安らかに歿し、その遺蹟は今もなほ残つてゐる」と書かれて居るが、その拠る処をあきらかにしがたい。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
なほも追及するやいば、それは實に火の出るやうな激しさですが、平次はたくみに逃げて
弁ずるものははく、詩材は必しも国民の美質に限れりとは言はず、唯〻しかするにあらざれば以て国民的性情を満足せしむる、能はざるが故のみと、されど吾人はなほ問ふことを得べし
国民性と文学 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
なほも、瞳を見据ゑると——さうすると眉と眉との間が少し痛かつたが——其処には、小さな小さな一寸法師が居て、腰をかがめては蠢動しゆんどうしながら、せつせとその緑色を収穫して居るのであつた。
将来なほ如何なる惨状を呈するに至るやもはかり知るべからず。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
虫干の縁先にはなほいろ/\の面白いものがあつた。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いまこゝおれくとなほ沢山たんともらへるわけだが。
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
なほ、日の御子の御職分としては、色々の聖なる行事のあつたことは考へられるが、其すべてをこめて、食国政と云ふ立場から解決してゐたのは、事実だ。