落着おちつ)” の例文
日が小豆島のむこうに落ちたと思うと、あらぬかたの空の獅子雲が真赤まっかに日にやけているのを見る。天地が何となく沈んで落着おちついて来る。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
しかし段々だんだん落着おちつくにしたがって、さすがにミハイル、アウエリヤヌイチにたいしてはどくで、さだめし恥入はじいっていることだろうとおもえば。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しばらくのあひだまつた法廷ほふていうへしたへの大騷おほさわぎでした。福鼠ふくねずみしてしまひ、みんながふたゝ落着おちついたときまでに、料理人クツク行方ゆきがたれずなりました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
と、そこでかれの半信半疑はんしんはんぎが、やおら、うでぐみとなって、まじりまじりと落着おちつかない目で、小文治こぶんじと龍太郎の顔色を読みまわして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぐるツと取卷とりまかれてはづかしいので、アタフタし、したいくらゐ急足いそぎあし踏出ふみだすと、おもいものいたうへに、落着おちつかないからなりふりをうしなつた。
迷子 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ひんと心の惱みとにきたへぬかれた今(まだまつたくはぬけ切らぬけれども)やうやくある落着おちつきが私の心にを出しかけました。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
綺麗きれいつくつてからかへると、つま不図ふと茶道具ちやだうぐともなかとをわたしそばはこんで、れいしとやかに、落着おちついたふうで、ちやなどれて、四方八方よもやまはなしはじめる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
こわがるこたァねえから、あとずさりをしねえで、落着おちついていてくんねえ。おいらァなにも、ひさりにったいもうとを、っておうたァいやァしねえ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
粗末そまつきれ下衣したぎしかてゐないで、あしにはなにかず、落着おちついてゐて、べつおどろいたふうく、こちらを見上みあげた。
だが、結局、ミスター・Fというのは、中国人仏天青フォー・テンチン略称りゃくしょうであろうと気がついたので、ようやく心は一時落着おちついた。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なんだか今夜は変なんだ。っとも落着おちつかない。後から絶えず追いかけられているような気持だ。前にもこんな気持を
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
淋しい、焦々いらいらした日が三日、五日、十日とたち、世界は次第に夏らしくなりますが、あの落着おちついた青磁色の乙女は、それきり影も見せてはくれません。
与十の妻は犬に出遇った猫のような敵意と落着おちつきをもって彼れを見た。そして見つめたままで黙っていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
少し気が落着おちついてくると、おそろしさと不安ふあんとが、前の二ばいになって自分のむねにおしよせてきた。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
嬢様と國との間んとなく落着おちつかず、されば飯島様もこれを面倒な事に思いまして、柳島辺やなぎしまへんある寮を買い、嬢様におよねと申す女中を附けて、此の寮に別居させて置きましたが
何ともいえぬ苦しみだ、私はいて心を落着おちつけて、耳をすまして考えてみると、時は既に真夜半まよなかのことであるから、四隣あたりはシーンとしているので、益々ますます物凄い、私は最早もはや苦しさと
女の膝 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
「しめたぞ!」と大悦おほよろこびで、ぐツと氣を落着おちつけ、眼をつぶり、片手かたて後頭部こうとうぶを押へて息をらして考へて見る………頭の中が何か泡立ツてゐるやうにフス/\ツてゐるのがかすか顳顬こめかみに響く。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ロレ いや、ヹローナからは追放つゐはうぢゃが、世界せかいひろい、まゝ、落着おちついてござれ。
アンドレイ、エヒミチはひてこゝろ落着おちつけて、なんの、つきも、監獄かんごくれが奈何どうなのだ、壯健さうけんもの勳章くんしやうけてゐるではないか。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
かばんよごれたのが伊達だてなんですとさ。——だからあたらしいのを。うぞ精々せい/″\いためてくださいな。」う一つ落着おちついたのは
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あね小柄こがらの、うつくしいあいらしいからだかほ持主もちぬしであつた。みやびやかな落着おちついた態度たいど言語げんごが、地方ちはう物持ものもち深窓しんそうひととなつた処女しよぢよらしいかんじを、竹村たけむらあたへた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
船長は不服そうに、「此処ここは船底だぞ、その鉄板のもう一重ひとえ下は海だぞ」「そうでしょうか……」と落着おちついた声で答えた時、伊藤青年は思わずめた! と叫び
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
冗談じょうだんじゃごわせん。そいつをわすれちゃ、申訳もうしわけがありますめえ。——それそれ、んでまた、あらったきなさらねえ。おせんはげやしねえから、落着おちついたり、落着おちついたり
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
うまことつてら!』とてゝはとふたゝ落着おちつきました、あいちやんはくびえだからえだからみさうなので、出來できるだけもりなかかゞんでゐましたが、あるときには屡々しば/\あしめて
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
其処そこを出て暗くなって帰って来ましたが、木暮八郎の三階の八畳と六畳の座敷を借りて居る二人連れ、婦人の若いかたの女中がしゃくが起って、お附の女中が落着おちつく様に押してるが
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わざと自動車に乗るのをさけて、あらかじめ日本橋のさるビルディングの七階に借りている、秘密の事務所に運び、そこへ落着おちついた上、おもむろに後図こうとの計をめぐらそうとしたのです。
何方どちちかと謂へば、落着おちつついた、始終しじう やはらかなみたゝよツてゐる内氣うちきらしい眼だ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
その声からして大分だいぶ落着おちついてきたようです。「では全員集まれッ」
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そう気がつくと、自分はかえって、一時落着おちついたくらいであった。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
静のことばは明晰めいせきであった。その落着おちついた様を見すえて
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
アンドレイ、エヒミチはいてこころ落着おちつけて、なんの、つきも、監獄かんごくもそれがどうなのだ、壮健そうけんもの勲章くんしょうけているではないか。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しまつた、りものだ、とひやりとすると、ざつ、ざぶり、ばしやツ。よわつた。が、落着おちついた。緑蝶夫人ろくてふふじんぶりおもへ。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もつと落着おちついて防火につとめることもできたらうし、また不断から用意して、適当な設備もできた筈ですからね。
フアイヤ・ガン (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「おッとッとッと。そうのりしちゃいけない。垣根かきねがやわだ。落着おちついたり、落着おちついたり」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ふだんあんなに陽気で、罪のない悪戯いたずらをしては家中の者を笑わせていた千代子が、恐ろしい出来事のためにすっかりおびえ、美しいひとみは絶えず襲われているように落着おちつかなかった。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
えゝ命から次の大事なものでもよんどころない、ういう切迫詰せっぱつまりになって、人の手に観音様が入ってしまうのは、親子三人神仏かみほとけにも見離されたと諦めて、お上げ申さなければ話が落着おちつかねえではないか
少し落着おちついてからの話によると、北海道の生活にも飽きているところへ、札幌の会社は解散したので、とも角身一つで東京へやって来て、小杉卓二を頼りに、新しい仕事でも見付けたいというのです。
松川彼処かしこすまひてより、別にかはりしこともなく、二月ふたつき余も落着おちつけるは、いと珍しきことなりと、近隣きんりんの人はうはさせり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
アンドレイ、エヒミチはやつと一人ひとりになつて、長椅子ながいすうへにのろ/\と落着おちついてよこになる。室内しつない自分じぶん唯一人たゞひとり、と意識いしきするのは如何いか愉快ゆくわいつたらう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あまおほきかつた文壇的名声ぶんだんてきめいせいとらはれてゐたことも分明はつきりしてた。勿論もちろん学窓がくそうなどに落着おちついてはゐられなかつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ゆき子は車へ乗ってもそわそわと落着おちつかぬ様子で、何度も腕時計を見たり、口の内で独言ひとりごとを呟いたり、自分では気づかないらしいが額へじっとりと汗さえ滲ませていた。何か異常なことが起っている。
劇団「笑う妖魔」 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
飯「まア少し落着おちつけば風が這入はいって随分凉しくなります」
此處こゝ整然きちんとしてこしけて、外套ぐわいたうそであはせて、ひと下腹したつぱら落着おちついたが、だらしもなくつゞけざまにかへつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
アンドレイ、エヒミチはやっと一人ひとりになって、長椅子ながいすうえにのろのろと落着おちついてよこになる。室内しつない自分じぶんただ一人ひとり、と意識いしきするのは如何いか愉快ゆかいであったろう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
と、ひしはせた、兩袖りやうそでかたしまつたが、こぼるゝ蹴出けだやはらかに、つま一靡ひとなび落着おちついて、むねらして、かほ
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
貴方あなたなに間違まちがつておいでなのでせう、ひどわたしおこつてゐなさるやうだが、まあ落着おちついて、しづかに、さうしてなに立腹りつぷくしてゐなさるのか、有仰おつしやつたらいでせう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
毛布けつとねてむつくり起上おきあがつた——下宿げしゆくかれた避難者ひなんしや濱野君はまのくんが、「げるとめたら落着おちつきませう。いま樣子やうすを。」とがらりと門口かどぐち雨戸あまどけた。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一寸ちよつと……おはなしが……ありまして……」と落着おちついたのか、いきだはしいのか、ふゆふけをなまぬるい。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「ぢつとしておいで、あんばいがわるいのだから、落着おちついて、ね、気をしづめるのだよ、いかい。」
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はる川下かはしもはうにくらしく落着おちついたふうでゆつたりしてふわりとちるトたちまごとくにながした。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)