看板かんばん)” の例文
翌日よくじつあさ番頭ばんとうは、そとて、ゆっくり看板かんばんようとしてあおぐと、あっ! とこえをたて、おどろきました。かれは、あわててうちへはいると
生きている看板 (新字新仮名) / 小川未明(著)
町の人たちは、あの馬鹿ばか甚兵衛がたいそうな看板かんばんをだしたが、どんなことをするのかしらと、面白半分おもしろはんぶん小屋こやへはいってみました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
やれ理想、やれ人格、信仰だの高尚こうしょうだのと、看板かんばんさわぎばかり仰山ぎょうさんで、そのじつをはげむの誠心せいしんがない。卑俗ひぞくな腹でいて議論に高尚がる。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「ひらめやかれいに附き合ひはないよ。うなぎといふ字と、くぢらといふ字なら看板かんばんで見て知つてるが、それでも間に合せるわけには行かねエのか」
そしてその森のなかで、小さな家を見つけますと、その家には「ここには、だれでもただで住めます」と、書いた看板かんばんがかかっていました。
こんな看板かんばんけたうちが一けんしかないほどたうげちいさなむらでした。そこに人達ひとたちはいづれもやまうへたがやすお百姓ひやくしやうばかりでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
今日こんにち不図ふと鉄道馬車てつだうばしやの窓より浅草あさくさなる松田まつだの絵看板かんばん瞥見致候べつけんいたしそろ。ドーダ五十せんでこんなに腹が張つた云々うん/\野性やせい遺憾ゐかんなく暴露ばうろせられたる事にそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
かたりと荷車にぐるまがとまりました。ぶたは、はつとわれ にかへつてみあげました。そこには縣立けんりつ畜獸ちくじう屠殺所とさつじよといふおほきな看板かんばんかゝかつてゐました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
かん高に叫んでいたももわれの娘。桟橋さんばし前「しまや」という看板かんばんをおぼえてかえり、手紙を出してみたが、返事はこなかった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
往来おうらいの人たちは、ふしぎな看板かんばんとおもしろそうな口上こうじょうられて、ぞろぞろ見世物小屋みせものごやめかけてて、たちまち、まんいんになってしまいました。
文福茶がま (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
つて、間拍子まびやうしけた、看板かんばんをぶらりかさしたつてせた。が、地方ゐなかこととて、番號ばんがうもなくばつしろい。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
へい、え、あの、御門ごもんところに、お汁粉しるこ看板かんばんりましたが、あれはお長家ながやであそばしますのでげせうか。
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
右に分業といったが、すなわち、花盤かばん上にある小花はもっぱら生殖をつかさどり、周辺にある舌状ぜつじょう小花は、昆虫に対する目印めじるし看板かんばんあわせて生殖を担当たんとうしている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
上野近くを歩くと田村屋の煙管だとか、十三屋のくしだとか、道明どうみょう組紐くみひもだとか今でも古い看板かんばんを降ろしません。浅草の「よのや」も櫛で見事なものを売ります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「あすこでござんすよ。あの筆屋ふでやまえから両替りょうがえ看板かんばんしたとおってゆく、あの頭巾ずきんをかぶった後姿うしろすがた。——」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
むかしのとほりでなくとも田中屋たなかや看板かんばんをかけるとたのしみにしてるよ、他處よそひと祖母おばあさんをけちだとふけれど、れのため儉約つましくしてれるのだからどくでならない
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
またこれとは反對はんたいに、一尺いつしやくにもちかをのがありますが、これもまだどうも實用じつようには不適當ふてきとうです。おそらく寶物ほうもつか、あるひは石斧せきふつくいへ看板かんばんであつたかもれません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
誰も平気にうそをつく。然し看板かんばんを出した慾張り屋の与右衛門さんは、詐を云わぬ、いかさまをせぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
今やおそしと待居たり既に其暮近くれちかき頭一人足輕あしがる八ツ字蔦じつたと云字の目引めひきこん看板かんばんたる者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其頃そのころわたし山田やまだうちを出て四番町よんばんちやう親戚しんせき寄寓きぐうしてましたから、石橋いしばしはかつて、同益社どうえきしや真向まむかう一軒いつけんいへりて、これ我楽多文庫がらくたぶんこ発行所はつかうしよ硯友社けんいうしやなる看板かんばんを上げたのでした
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
未決中無事に三年を打ち過ぎしほどなれば、そのあいだ随分種々の罪人にいしが、その罪人の中にはまたかかる好人物もあるなり、かかる処にてかかる看板かんばんを附けおらざりせば
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
と、落とした財布さいふでも見つけたように、さけびました。なるほど、その小路こうじのなかほどに、あかと白のねじあめの形をした、床屋とこや看板かんばんが見えました。——克巳の家は床屋さんでした。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
その頃、神田の帯屋小路おびやこうじに、「喧嘩渡世」という不思議な看板かんばんを上げた、いきな構えの家があった。喧嘩渡世と筆太ふでぶとに書いた看板の横には、小さく一行に「よろづ喧嘩買い入れ申し候」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なんじは人の前に立ち、少しでもよく自分を思われたいと、自分の真価以上に看板かんばんをかけたい了簡りょうけんなるか、相手の人にめられたいと思っておりはせぬか、あるいは何か求むる所があって
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
なぜなら、そのうちの前には小さなしんちゅうの看板かんばんが二まいぶら下がっていて、それがどうしたって音楽の先生の看板ではなかった。そのうちはどう見ても床屋とこやの店のていさいであった。
「まあ野々宮さんのところつて、御談義を聞いてい」と云ひ棄てゝ、相手は池の方へ行き掛けた。三四郎は愚劣ぐれつ看板かんばんの如く突立つゝたつた。与次郎は五六歩つたが、又笑ひながら帰つてた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
作家 冗談じようだんを云つては困ります。雑誌社が原稿を買ひに来るのは、商売に違ひないぢやありませんか? それは或主張を立ててゐるとか、或使命を持つてゐるとか、看板かんばんはいろいろあるでせう。
売文問答 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
豈夫まさかパレツトを看板かんばんにしてフリ賣もして歩けないじやないか!
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
氷室の看板かんばんかけるペンキのはこび眺むるごとく
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
電柱でんちゅうに、「ほねつぎもみ療治りょうじ」と看板かんばんのかかっているところから、路次ろじがると、たりに表側おもてがわ西洋造せいようづくりにした医院いいんがあります。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
引きちがいに立てた格子戸こうしどまいは、新しいけれど、いかにも、できの安物やすものらしく立てつけがはなはだわるい。むかって右手みぎて門柱もんちゅう看板かんばんがかけてある。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
甚兵衛は、みやこの一番にぎやかな場所ばしょに、ただちに小屋こやがけをしまして、「世界一の人形使い、ひとりでおどるひょっとこ人形」というれい看板かんばんをだしました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
として、しろいところにくろふといてある看板かんばんは、とうさんたちにもつてやすんでけとふやうにえました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
最初から私が乘出して、曲者に用心させるより、八の野郎を看板かんばんにして蔭であやつつた方が、反つて仕事が運びます
とき袖崎そでさきつゞいて、背後うしろからならんでた五六だいくるまが、がら/\と川縁かはべりを、まちして通過とほりすぎる。看板かんばん薄黄色うすきいろが、まくけた舞臺ぶたいはしおもむきえた。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ちやんと麦酒ビール看板かんばんだね、西洋酒せいやうしゆのビラがさがつてる所が不思議ふしぎだね、ばアさんはなんですか。民
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
はき是れどうしても泥棒どろぼうと云ふ看板かんばんを掛て居る樣なものだサア此方へ來いと直樣坂本の自身番へ引上しに出役岡村七兵衞馬籠まごめくら十郎の兩人ひかへ居る前へ久兵衞を引きすゑまづ雜物ざふもつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
福島は都でありますから、町を歩くと、塗屋ぬしやだとか紙屋かみやだとか土地出来の品を置くよい店を見出します。古風な看板かんばんを今もはずさない店があるのは、伝統の残るのを語ります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
書籍御預り申候の看板かんばんが目につくほどとなっては、得てあの里の儀式的文通の下に雌伏しふくし、果断は真正の知識と、着て居る布子の裏をいで、その夜の鍋の不足を補われるとは
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
すなわち目にくその白い色を看板かんばんにして、昆虫を招いているのである。昆虫はこの白看板しろかんばんさそわれて遠近から花にきたり、花中かちゅうに立っている花軸かじくの花を媒助ばいじょしてくれるのである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
をんなならぬお客樣きやくさま手前店てまへみせへおかけをねがひまするともふにかたからん、御方便ごはうべん商買しようばいがらを心得こゝろゑ口取くちと燒肴やきざかなとあつらへに田舍いなかものもあらざりき、おりきといふは此家このやの一まい看板かんばん
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
みずくきのあとも細々ほそぼそと、ながしたようにきつらねた木目もくめいた看板かんばんに、片枝折かたしおりたけちた屋根やねから柴垣しばがきへかけて、葡萄ぶどうつる放題ほうだい姿すがたを、三じゃくばかりのながれにうつした風雅ふうがなひとかま
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
すると、神さまの天使てんしがあらわれて、お妃さまをある小さな家へつれていってくれました。みれば、その家には、「ここには、だれでもただで住めます」と、書いた小さな看板かんばんがかかっています。
ところが今度は親方がきれいな看板かんばんのかかっている宿屋へはいった。
なんとか云ふ独逸出来ドイツできの本に、化け物のばかり集めたのがある。その本の中の化け物などは、大抵たいてい見世物みせもの看板かんばんに過ぎない。まづ上乗と思ふものでも何か妙に自然を欠いた、病的な感じをともなつてゐる。
支那の画 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
濁りたる看板かんばんを、入り残る窓の落日いりひを。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「あれかい、賣藥くすり看板かんばんさ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
このつら看板かんばん
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あるのこと、まち菓子屋かしやから使つかいがきて、みせ看板かんばんえるから、ひとつ趣向しゅこうらして、いいものをいてくれとたのまれたのです。
生きている看板 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やがて町の祭礼さいれいとなりますと、甚兵衛じんべえは一番にぎやかな広場に小屋こやがけをしまして、「世界一の人形使い、ひとりでおどるひょっとこ人形」という看板かんばんをだしました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)