もど)” の例文
達二たつじは早く、おじいさんの所へもどろうとしていそいで引っかえしました。けれどもどうも、それは前に来た所とはちがっていたようでした。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
マルバ村へもどる で、もと来た路を後戻りしてその夜はキミイに一宿し、その翌日カリガンガーの河岸のツクという村に宿りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
御蔭おかげられた品物しなものまたもどりましたよ」とひながら、白縮緬しろちりめん兵兒帶へこおびけた金鎖きんぐさりはづして、兩葢りやうぶた金時計きんどけいしてせた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その晩、母屋もやの方へもどって行く半蔵を送り出した後、吉左衛門はまだ床の上にすわりながら、自分の長い街道生活を思い出していた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しな塔婆たふばまへにそれから其處そこら一ぱい卵塔らんたふまへ線香せんかうすこしづゝ手向たむけて、けてほつかりとあかつた提灯ちやうちんげてもどつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
是までに思い込まれし子を育てずにおかれべきかと、つい五歳いつつのお辰をつれて夫と共に須原すはらもどりけるが、因果は壺皿つぼざらふちのまわり
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それが更に一歩進めばまた客観描写にもどる。花や鳥を描くのだけれども、それは花や鳥を描くのでなくて作者自身を描くのである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
あしの長いおやじに似た秋彦は、また、鄭重ていちょうに頭を下げた。民さんと村さんは用件の話が済むと、したしい背後姿うしろすがたを見せてもどって行った。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
これらのしな日本人につぽんじん美術びじゆつ價値かちらない時代じだい海外かいがいつてしまつたものであつて、いまでは日本につぽんもどすことも出來できないのです。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
かへりのおそきをはゝおやあんしてたづねにてくれたをば時機しほうちへはもどつたれど、はゝものいはず父親てゝおや無言むごんに、一人ひとりわたしをばしかものもなく
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そなたはしきりに先刻さっきから現世げんせことおもして、悲嘆ひたんなみだにくれているが、何事なにごとがありてもふたた現世げんせもどることだけはかなわぬのじゃ。
銀公が酒と佃煮を取りに来たことも、彼がそれらを持って三十二号船へもどっていったことも、もう誰の頭にも残ってはいなかった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
きんねこの鬼」は、やがてへやもどつてきました。見ると、コノオレの子供がゐません。見まはしてみると、金の猫がありません。
金の猫の鬼 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
やせまつろうふたた春重はるしげかおもどったとき春重はるしげはおもむろに、ふところから何物なにものかを取出とりだしてまつろうはなさきにひけらかした。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
馬士まごもどるのか小荷駄こにだが通るか、今朝一人の百姓に別れてから時の経ったはわずかじゃが、三年も五年も同一おんなじものをいう人間とは中をへだてた。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大原はもどかしそうに「イイエ貴嬢のお拵えなすったのが何よりです」と言葉に力をこめて言えど娘はよくも聞取らずして台所へ立って行く。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
われ/\は子供こども時分じぶんにはをしへられた。最初さいしよ地震ぢしんかんじたなら、もどしのないうち戸外こがい飛出とびだせなどといましめられたものである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
そうしたならあなたを引きもどすことが出来ましょう、という程の歌で、強く誇張していうところに女性らしい語気と情味とが存じている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
もらひ請其儘我が家へもどり翌日返書は小夜衣へとゞけしが此機について何か一仕事しごとありさうな物と心の内に又もや奸智をめぐらして急度きつと一ツの謀略はかりごと
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「あのふかみずたまりの中に、自分じぶんたちをつきとしてころすつもりではないか。」と気味悪きみわるおもいながら、ぼうさんはもどって
人馬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
いったい何新聞だろうと、その時まで気にも留めないでいた第一面を繰りもどして見ると、麗々れいれいと「報正新報」と書してあった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
みんながもどすだらうとおもつて、あいちやんがあとかへつてると、おとろくまいことか、みんなで急須きふすなか福鼠ふくねずみまうとしてました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
医者の凡ての意志は、病人を再び健康にもどそうとするにあります。または病気に犯されないように準備することにあります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それとともに新しく連れて来られた自分の周囲をしみじみとながめまわして見る心の落着きをも彼は取りもどしたのであった。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
考えていると、だんだんつまあらなくなったので、私はむくりと起き上ってこっちもあんまり口をかないでもどって来た。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
汽車に乗せたらとって、荻窪おぎくぼから汽車で吉祥寺きちじょうじに送って、林の中につないで置いたら、くびに縄きれをぶらさげながら、一週間ぶりにもどった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
要するにまあ、あまやかされ放題の純血種ピュール・サンらしく振舞ふるまったわけである。父はなかなかもどって来なかった。川からは、いやに湿しめっぽい風がいてきた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
今さらのように自分の着ている小倉の洋服の脂垢あぶらあかに見る影もなくよごれたのが眼につく、私は今遠方シグナルの信号燈ランターンをかけに行ってそのもどりである。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
「おや、こんな大きな沼があるようでは……こちらでもなかッたと見えますねエ、しかたがない、後へもどりましょう」
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
「平田さん、お草履を召していらッしゃい」と、お梅はもどッて上草履を持ッて、見返りもせぬ平田を追ッかけて行く。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
子路が再び衛にもどってみると、衛侯父子の争は更に激化げきかし、政変の機運のただよっているのがどことなく感じられた。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
よろこんだの、よろこばないのつて、のんべえ はころげるやうに、よろこんでそのやまからいへもどりました。てみるとかゝあどももだれもゐません。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
……彼は小川に沿うてきつもどりつしている。おさだまりの月の光が、ちらちらと動いて、女の編針あみばりのように入り交る。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
なんとしてその誓約ちかひふたゝ地上ちじゃうもどらうぞ、そのつまはなれててんから取戻とりもどしてたもらずば?……なぐさめてたも、をしへてたも。
お幸はまた最初の考へにもどつて、大津は此処から云へば三里も隔つて居ない所だけれども、泉南泉北せんなんせんぼくと郡が別れて居て村の人などはめつたに往来しない。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ちんまりした鼻の頭にあせき、もどって来ると、ぼくのに、写真をわたし、また駆けて行ってしまいました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
気味がわるくて……さっきから何度も呼んでみたのですけれど、中から妙な笑い声しかもどってこないのですもの
鏡地獄 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
番兵殿ばんぺいどの手前てまへをもう一らうへおもどしを願ひます。—余程よほど不作ふさくと見えまする。それたお話がございます。
詩好の王様と棒縛の旅人 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ときは、警察けいさつ飛込とびこんでもみたさうですけれど、大久保おほくぼさんのおつしやることが、やはり真実しんじつらしくきこえたものでせうか、そのときもどされてしまひました。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
今日こそ全く失調時代です。したがって私どもはなんとしても一日も早く和をとりもどさなくてはなりません。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
即ちその一者ひとりは、善意よきおもひもどる者なき處なる地獄より骨に歸れり、是抑〻そも/\生くる望みのむくいにて 一〇六—一〇八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
くじらなんてやつも東西に逃げ走って、漁の船も、やあれ、おきなが来たぞう、と叫び合って早々に浜にもどり、やがて、おきなが海の上に浮んで、そのさまは
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いくらつても望生ぼうせいもどつてぬ。これに心配しんぱいしながら二人ふたりつてると、大變たいへんだ。殺氣立さつきだつてる。
隊長たいちょうはこう言うと、ばたきして飛びたちました。けれど、すぐまたもどってこなければなりませんでした。だって、ほかのものたちが、あとにつづかないのです。
与平はシャツを着て、着物をかたに羽織ると、炉端ろばたに上って安坐あぐらを組んで煙草たばこを吸った。人が変ったように千穂子が今朝けさもどって来てからと云うもの、むっつりしている。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
万一、それがいやだというなら、三箇月のうちに、お前がかならず、もどってこなければならないぞ。
都会の中央へもどりたい一心からゆめのような薫少年との初恋はつこい軽蔑けいべつし、五十男の世才力量にのぞみをかけて来た転機の小初は、翡翠型の飛込みの模範もはんを示す無意識の中にも
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
じくをしめ、またややもどし、軽弄けいろう漫撚まんねんいとのしらべにしきりと首をかしげているのを見て、ふと、おなじ部屋の片すみから、法師の母の尼が、小机ごしに、眸だけで
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は一たん跫音あしおとを立てて向かふへいつてしまつたが、すぐ跫音をしのばせて、いほりの方へもどつて来た。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
それでもきよ年一昨年あたりはまたせう興味けうみもどつて來て、一週間しうかんに一ぐらゐの程度ていどで和田英作畫伯ぐわはくや小宮豐隆先生と時々手あはせの出來る近しよ球突塲たまつきばへ通つてゐたが
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)