ひん)” の例文
謙譲のつまはづれは、倨傲きょごうえりよりひんを備へて、尋常じんじょう姿容すがたかたち調ととのつて、焼地やけちりつく影も、水で描いたやうに涼しくも清爽さわやかであつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わしはあの優雅ゆうがみやこの言葉がも一度聞きたい。あの殿上人てんじょうびと礼容れいようただしい衣冠いかんと、そして美しい上﨟じょうろうひんのよいよそおいがも一度見たい。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
其跡そのあと入違いれちがつてたのは、織色おりいろ羽織はおり結城博多ゆうきはかたの五本手ほんて衣服きもの茶博多ちやはかたおびめました人物、年齢四十五六になるひんをとこ。客
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
そのころぎゅうなべをつつくのは、ひんのわるいものがやることで、いれずみをしたまちのごろつきと、適塾てきじゅく書生しょせいとにかぎられていました。
ひんよしとよろこぶひとありけり十九といへど深窓しんそうそだちは室咲むろざきもおなじことかぜらねど松風まつ ぜひゞきはかよ瓜琴つまごとのしらべになが春日はるび
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
りよ行の時にはもうこひ人のやうな伴侶はんりよで、撮影さつえい現像げんぞうつけ技量ぎれう自然しぜんと巧くなつて、學校での展覽會てんらんくわいでは得意とくいな出ひんぶつであり
おりおり余興に見せられる発声漫画などはこの意味ではたしかに一つの芸術である。ひんは悪いが一つの新しい世界を創造している。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
テムプル先生は、いつも彼女の容子に何か靜かなほがらかなものを、態度にどことない威嚴ゐげんを、言葉にはひんよく穩かなものを持つてゐた。
真葛まくずはら女郎花おみなえしが咲いた。すらすらとすすきを抜けて、くいある高き身に、秋風をひんよくけて通す心細さを、秋は時雨しぐれて冬になる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
途上のきずりに聞く英国婦人の言葉遣ひと違つて、英語もこの様に物優しい国語かと思ふ程美しくひんい発音をする人である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
手もとへよせて、怪力かいりき若僧わかそうが、また、虫でもつまむように引っとらえた時である。いつか、六部ろくぶのうしろまで進んできたひんよき公達きんだち
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金持かねもちは、かごのなかはいっているにわとりました。それは、ひくい、ごまいろの二雌鶏めんどりと、一のあまりひんのよくない雄鶏おんどりでありました。
金持ちと鶏 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しからば、天下てんかひんなんだ。まアいです』となぐさめたが、あるひまた兒島氏こじまし大瀧氏おほたきしところにも、天下てんかぴんとゞいてはせぬか?
「百萬兩の嫁に望まれただけあつて、良い娘でしたよ。おひんがよくて、やさしさうで、あつしなら、百萬兩とあの娘と、何方どつちを取ると言はれたら」
けもの雪をさけて他国へ去るもありさらざるもあり、うごかずして雪中に穴居けつきよするはくまのみ也。熊胆くまのいは越後を上ひんとす、雪中の熊胆はことさらにあたひたつとし。
池のまはりには、一面にあしがまが茂つてゐる。そのあしがまの向うには、せいの高い白楊はこやなぎ並木なみきが、ひんよく風にそよいでゐる。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
同じ荒物屋で売る品で感心するのはがまで編んだ雪沓ゆきぐつで、男のは白いフランネルで女のは赤いのでふちを取ります。編み方が丁寧で形にひんがあります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
精米所では、東京風のひんのいいかみさんが、家に引込ひっこみきりで、浜屋の後家ごけに産れた主人の男の子と、自分に産れた二人の女の子供の世話をしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
わたくしほどの芸人げいにんが、手前みそに狂言きょうげん功能こうのうをならべたり、一座いちざの役者のちょうちん持ちをして、自分からひんを下げるようなことはいたしませぬ。
すっきりした眉と肉のおちた頬に、或る淋しげなひんをもっていて、頣のまるみに、やさしい温良さが現われていた。
椎の木 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「そうともそうとも、酒手さかてきいていうんじゃねえが、太夫たゆうはでえいち、ひんがあるッて評判ひょうばんだて。江戸役者えどやくしゃにゃ、なさけねえことに、ひんがねえからのう」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
むもの、野にむもの、しぎは四十八ひんと称しそろとかや、僕のも豈夫あにそ調てうあり、御坐ございます調てうあり、愚痴ぐちありのろけあり花ならば色々いろ/\あくたならば様々さま/″\
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
びじゅつひんの好きな二十めんそうは、古い刀やよろいなどを、このへやにかざって、よろこんでいるのでしょう。
ふしぎな人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
心持俯向うつむいていらっしゃるお顔のひんの好さ! しかし奥様がどことなくしおれていらしって恍惚うっとりなすった御様子は、トントうれしかった昔を忍ぶとでもいいそうで
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
仏様だの、置き物だの、手間てまの掛かった、ひんの好い、本当の彫物ちょうこくをこしらえるんで、あんな、稲荷町の荒っぽいものとは訳が違うんだ。そりゃ上等のものなんだ。
ふりむいて見ますと、少しはなれたところに、まっ白な髪をしたひんのいいおじいさんが、二人の若い女の人をつれて立っています。ギンはこわごわそばへいきました。
湖水の女 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
まもなく木谷桜所があらわれ、ひんのいい声と身ぶりで、一とつづりの記事を木内桜谷に渡し、いい瓦版になりますよと云って、いかにも品のいい身ぶりで去っていった。
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
木村のお父さんは所謂いわゆる、高位高官の人であるが、どうもひんがない。眼つきが、いやらしい。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
紫陽花色あぢさゐいろ薔薇ばらの花、ひんい、心の平凡なたのしみともいふべく、新基督教風しんキリストけうふう薔薇ばらの花、紫陽花色あぢさゐいろ薔薇ばらの花、おまへを見るとイエスさまも厭になる、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
なみ江丸えまる本島ほんたうはこんでしよひんうちにあつたのでたゞちに着手ちやくしゆしたが、其爲そのためすくなからぬ勞力ほねをりと、諸種しよしゆ重要ぢゆうえうなる藥品等やくひんとうつひやしたは勿論もちろん海底戰鬪艇かいていせんとうてい内部ないぶ各室かくしつ裝飾用さうしよくようにと
かおだちのひんのいいところや、手足てあししろいところをると、百姓ひゃくしょう子供こどもとはおもわれません。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「お嬢さまのような丸味では、ああいう野獣派フォーブの赤はいけませんわ。いっそ赤鉛筆色レッド・レッドになすったら。いくぶん弱いですが、あれならおひんもよろしいし、ヴァリュウも出ますから」
だいこん (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
父はそのときほどお遊さんが大きくひんよくみえたことはなかったと申すのでござります。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
友禅菊という、葉や、咲きかたや色の今めかしいひんのない花だが、芒のかげに一叢になっているのは、邪魔にもならないのでそのままにしてあるが、初元結はつもとゆいにはとてもおよばない。
しかし十貫目を荷うににがい顔せず、喜んでにないたい。になうさまを綺麗グレースフルにし、あるいは荷うものの品質をよくし、ただ十貫目かつげといえば、なるべくひんよいものをかつげというのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
省作は無頓着むとんちゃくで白メレンスの兵児帯へこおびが少し新しいくらいだが、おはまは上着は中古ちゅうぶるでも半襟はんえりと帯とは、仕立ておろしと思うようなメレンス友禅のひんの悪くないのに卵色のたすきを掛けてる。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
言葉が表わしているように、上品とは品柄のすぐれたもの、下品とは品柄の劣ったものを指している。ただしひんの意味は一様ではない。上品、下品とはまず物品に関する区別であり得る。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
ひたいでるとこおりの様につめたいが、地蔵眉の顔は如何にも柔和で清く、心の美しさもしのばれる。次郎さんをはじめ此家の子女むすこむすめは、皆小柄こがらの色白で、可愛げな、そうしてひんい顔をして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そして母に対する勝利の分捕ぶんどひんとして、木部は葉子一人のものとなった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
一人は、若い侍で、背後うしろ姿ではあったけれど、何とも言えないひんがその体に備わっていた。もう一人は、六十を過ごしたくらいの、頑丈らしい老武士であったが、これも品位を備えていた。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
でっぷりふとったひんのいいお殿様と、泰軒先生との友達づきあいの会話のあいだに、このお方こそほかならぬ南のお奉行様と知るや、ここで待つようにと泰軒に言われた縁下の地面に土下座して
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
○米国は市俄古シカゴ紐育ニューヨークいづこも暑気非常なる故龍動ロンドンまたは巴里パリーの如くひんき風俗は堪難たえがたし。我国夏季の気候は、温度は米国に比すれば遥に低けれど、湿気あつて汗多く出るをもて洋服には甚不便なり。
洋服論 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
とみと云るが姉妹はらから共に心操こゝろばえやさしく何處となくひんよき生質うまれつきなれば如何なる貴人きにんの娘といふともはづかしからずかゝる在所には珍しき者にて殊に兩人ふたりとも親思おやおもひの孝行かうかう者なればいまちゝ十兵衞が年貢ねんぐの金に差詰さしつまり身を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あまりひんくない竜神りゅうじんさんでぎっしりつまっていました。
なる子 ひんがいゝわ、第一……。
雅俗貧困譜 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
ひんのいいかた、静かなかた
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ときに、先客せんきやく一人ひとりありましてみぎました。氣高けだかいばかりひんのいゝとしとつたあまさんです。失禮しつれいながら、先客せんきやく邪魔じやまでした。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
七宝しっぽう夫婦釦めおとボタンなめらか淡紅色ときいろを緑の上に浮かして、華奢きゃしゃな金縁のなかに暖かく包まれている。背広せびろの地はひんの好い英吉利織イギリスおりである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「すべて陶器とうきは、かるい、薄手うすでのをたっとびます。ちゃわんのおもい、厚手あつでのは、まことにひんのないものでございます。」と、役人やくにんはおこたえしました。
殿さまの茶わん (新字新仮名) / 小川未明(著)
顔に小じわは寄つて居るが、色の白い、目の晴やかに大きい、伯爵夫人と言つても好い程のひんのある女である。博士も何か謡曲の一せつうたはれた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)