半年はんとし)” の例文
都会とかいのあるくつてんへ、奉公ほうこうにきている信吉しんきちは、まだ半年はんとしとたたないので、なにかにつけて田舎いなかのことがおもされるのです。
風雨の晩の小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし嫁の身になっても見るがいい。結婚して半年はんとしも立たないうちにおっとは出征する。ようやく戦争が済んだと思うと、いつのにか戦死している。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「うんうん。旅に出ると干物なぞが頂けて食べ物がよろしいのでな。そちも半年はんとし見ぬまにずんと美しゅうなったのう」
七八つの時分じぶんから、からすんだつるだといわれたくらい、いろしろいが自慢じまんれていたものの、半年はんとしないと、こうもかわるものかとおどろくばかりのいろっぽさは
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
このひとにたのんで、おてらにやっかいになりましたが、半年はんとしほどのちには、やはり壱岐いきのせわで、砲術研究家ほうじゅつけんきゅうか山本物次郎やまもとものじろうというひといえで、はたらきながら
半年はんとしほど過ぎてから、あるいは一年ほど過ぎていたかも知れぬ。私はその頃日記をつけていなかったので確な事は覚えていない。或日再び小石川を散歩した。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
縁附えんづきてよりすで半年はんとしとなるに、なに一つわがかたみつがぬは不都合ふつがふなりと初手しよて云々うん/\の約束にもあらぬものを仲人なかうどなだむれどきかずたつて娘を引戻ひきもどしたる母親有之候これありそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
勘次かんじさん駄目だめだよ、學校がくこつちや半年はんとしたあはんねえから、下手へたんすつといま子奴等こめらにやめられつちやからおとつゝあつてつかなんちあれたつて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
半年はんとしばかりたつたのち、彼等は東京へ移ることになつた。勿論猫も一しよだつた。しかし彼等は東京へ移ると、いつか猫が前のやうに鼠をとらないのに気づき出した。
貝殻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼女かのぢよは、片山かたやま同志どうしのKうちせて、かれ居所ゐどころさがしてゐたが、そのかれが、I刑務所けいむしよ未決監みけつかんにゐるとわかつたのは、行方不明ゆくへふめいになつてから、半年はんとしもののちだつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
それに東京には、去年の八月來半年はんとし會はない、慕はしい澄子さんが待つてゐる。私が上京したら、いつもの通り晴々しい笑顏を持つて、義兄の家へ訪ねて來るに相違ない。
受験生の手記 (旧字旧仮名) / 久米正雄(著)
このときはちょうど七年たっていたのですが、それが半年はんとしぐらいにしか思われませんでした。
かれ半年はんとし無職むしよく徘徊うろ/\してたゞパンと、みづとで生命いのちつないでゐたのであるが、其後そのご裁判所さいばんしよ警吏けいりとなり、やまひもつのちしよくするまでは、こゝつとめつてゐたのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いまじやあもう半年はんとしつたらう、あつさの取着とつつき晩方頃ばんかたごろで、いつものやうにあそびにつて、ひと天窓あたまでゝやつたものを、業畜がふちく悪巫山戯わるふざけをして、キツ/\といて
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
嫁入よめいつて丁度てうど半年はんとしばかりのあいだせきせきやとしたへもかぬやうにしてくださつたけれど、あの出來できてからとものまる御人おひとかはりまして、おもしてもおそろしう御座ござります
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
およそ半年はんとしあまり縮の事に辛苦しんくしたるは此初市のためなれば、縮売ちゞみうりはさら也、こゝにあつまるもの人のなみをうたせ、足々あし/\ふまれ、肩々かた/\る。よろづ品々しな/″\もこゝにみせをかまへ物をる。
さうして物覺ものおぼえのよい但馬守たじまのかみがまだ半年はんとしにもならぬことを、むざ/\わすれてしまはうとはおもはれないので、なに理由わけがあつてこんなことをふのであらうと、玄竹げんちくこゝろうなづいた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
実は俺は日曜毎にお前を連れて出たいんさ。おまへの来た当座はさうであつたぢやないかね。子供を産んでから、さう、あれから半年はんとしばかりつてからだよ。余り出なくなつたのは。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
我國わがくに野球界やきゆうかい覇王はわうともいふだい高等學校かうとうがくかう撰手せんしゆ打破うちやぶつたことは、わたくしこのしま漂着へうちやくする半年はんとしほどまへ英國えいこく倫敦ろんどんでちらとみゝにした、れはもういまから三四ねんまへことだが、じつ殘念ざんねん次第しだいである。
ごくわかいのはやっと半年はんとしから一ねん、二ねんというようなのが、このうちにまじっている。このみなとへはいってくるほどのふねわたしかおらないものはない。
カラカラ鳴る海 (新字新仮名) / 小川未明(著)
よし次の十日間を私が受け合うにしたところで、次の一カ月、次の半年はんとしの兄さんを誰が受け合えましょう。私はただ過去十日間の兄さんを忠実に書いただけです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
若槻わかつきはまたこうもいうんだ。あの女はこの半年はんとしばかり、多少ヒステリックにもなっていたのでしょう。
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さてわが新聞記者たりしもわづか半年はんとしばかり社員淘汰のためとやらにて突然解雇の知らせを得たり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かれ半年はんとし無職むしょく徘徊うろうろしてただパンと、みずとで生命いのちつないでいたのであるが、その裁判所さいばんしょ警吏けいりとなり、やまいもっのちにこのしょくするまでは、ここにつとめっていたのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
りながらをりふし地方遊説ちはうゆうぜいなどゝて三つき半年はんとしのお留守るすもあり、湯治塲たうぢばあるきのれとことなれば、此時このときにはあまゆることもならで、たゞいたづらの御文通ごぶんつうたがひのふうのうちひとにはせられぬことおほかるべし。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
半月はんつき一月ひとつき三月みつき、ものの半年はんとし住馴すみなれたのはほとんどあるまい……ところけるでもなく、唯吉たゞきち二階にかいから見知越みしりごしな、時々とき/″\いへあるじも、たれ何時いつのだか目紛めまぎらしいほど、ごつちやにつて
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
やっと、半年はんとしばかりまえに、そこから汽車きしゃってった、まち停車場ていしゃばくと、もうまったくくらくなっていました。そしてゆきもるうえに、まだっていました。
真吉とお母さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
かえりみるとその時からもう半年はんとし以上経過していた。いつか空想はついに空想にとどまるらしく見え出して来た。どこまで行っても現実化されないものらしく思われた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのころ半年はんとしあまり足繁あししげかよつてくるおきやくなかで、電話でんわ周旋屋しうせんやをしてゐる田中たなかをとこが、行末ゆくすゑ表向おもてむ正妻せいさいにするとふはなしに、はじめはそのをとこのアパートに
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
彼は翌年の七月には岡山おかやま六高ろっこうへ入学した。それからかれこれ半年はんとしばかりは最も彼には幸福だったのであろう。彼は絶えず手紙を書いては彼の近状を報告してよこした。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ほゝゝ、色男いろをとこや、貴女あなた馴染なじんでからちやう半年はんとしりますわね。御新造ごしんぞ馴染なじんでからも半年はんとしよ。貴方あなたわたしもとるうちは、何時いつでも此方こちらたの。あら、あんなかほをしてさ。一寸ちよいと色男いろをとこ
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これはあるいは象徴かも知れない。いつか情熱を失った彼の恋愛の象徴かも知れない。彼は三重子に忠実だった。が、三重子は半年はんとしの間に少しも見知らぬ不良少女になった。
早春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
パレスのはう借金しやくきんかへしてしまふし、御礼奉公おれいぼうこうもちやんと半年はんとしゐてやつたんだから、かアさんがきてればうちかへつて堅気かたぎくらすんだけれど、わたし、あんたもつてるとほ
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
ねんとき宗助そうすけ大學だいがくらなければならないことになつた。東京とうきやううちへもへれないことになつた。京都きやうとからすぐ廣島ひろしまつて、其所そこ半年はんとしばかりらしてゐるうちにちゝんだ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、そうしたあそびごとも、南国なんごくだからされるのである。こちらのように、半年はんとしふゆ半年はんとしなつというようなくにには、そんなとりもすんでいなければ、めずらしいはないていない。
珍しい酒もり (新字新仮名) / 小川未明(著)
(彼はそれから半年はんとしほどのち天然痘てんねんとうかかって死んでしまった。)僕等は明るい瑠璃燈るりとうしたにウヰスキイ炭酸たんさんを前にしたまま、左右のテエブルにむらがった大勢おおぜい男女なんにょを眺めていた。
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あなたたちの一にちは、わたしたちの半年はんとしよりも、もっとおもしろく、愉快ゆかいに、らしがいがあるのですから、そんなことを心配しんぱいすることはありません。まだ、あなたたちは、おわかいのです……。
北海の波にさらわれた蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それから半年はんとしばかりして、叔父をぢ自筆じひつで、うちはとう/\れたから安心あんしんしろと手紙てがみたが、幾何いくられたともなんともいてないので、かへしてあはせると、二週間しうかんほどつての返事へんじ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
福井 まだ、やっと半年はんとしです。
何しろ千枝子は結婚後まだ半年はんとしと経たない内に、夫と別れてしまったのだから、その手紙を楽しみにしていた事は、遠慮のない僕さえひやかすのは、残酷ざんこくな気がするくらいだった。
妙な話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
年子としこは、先生せんせい姿すがたえないのを、もどかしがっていると、おかあさんは、おちついた態度たいどで、しずかに、先生せんせいは、もうこのひとでないこと、なくなられてから、はや、半年はんとしあまりにもなること
青い星の国へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼はかれこれ半年はんとしのち、ある海岸へ転地することになった。それは転地とは云うものの、大抵は病院に暮らすものだった。僕は学校の冬休みを利用し、はるばる彼を尋ねて行った。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
半年はんとしは、ぎ、一ねんは、たちました。
北の少女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
女はその当座昼も夜も気違いのように泣き続けました。いや、当座ばかりじゃありません。それ以来かれこれ半年はんとしばかりは、ほとんど放心同様な月日さえ送らなければならなかったのです。
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
まあ、このすみで半年はんとしねむるんです。
ガラス窓の河骨 (新字新仮名) / 小川未明(著)
保吉は爾来半年はんとしばかり、学校へ通ふ往復に度たびこの店へ買ひ物に寄つた。もう今では目をつぶつても、はつきりこの店を思ひ出すことが出来る。天井のはりからぶら下つたのは鎌倉のハムに違ひない。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)