あた)” の例文
旧字:
そこにはかれの父も母もいるし、そうしてかれはなにかしれない力をあたえてくれるものもあるような気がしたからです。(昭3・1)
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
しかもけっして既成きせいつかれた宗教しゅうきょうや、道徳どうとく残滓ざんしを、色あせた仮面かめんによって純真じゅんしん心意しんい所有者しょゆうしゃたちにあざむあたえんとするものではない。
ぼくはそのかおながめた時、おもわず「ずいぶんやせましたね」といった。この言葉ことばはもちろん滝田くん不快ふかいあたえたのにちがいなかった。
滝田哲太郎君 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それで、わしかんがえたすえに、いいにおいをあたえたのだ。それからは、みんなのにとまるようになった。人間にんげんはおまえさんたちをあいした。
すみれとうぐいすの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そうして単にその説明だけでも日本の文壇ぶんだんには一道の光明を投げあたえる事ができる。——こう私はその時始めて悟ったのでした。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
でも、わたくしぬるまで三浦家みうらけ墳墓ふんぼはなれなかったということは、その領地りょうち人民じんみんこころによほどふか感動かんどうあたえたようでございました。
なおその上にもう一つ、彼の詩的人生観に一層の深まりや柔軟じゅうなん屈折くっせつあたえたものとして、彼の生れや育ちの事情も忘れてはなりますまい。
「はつ恋」解説 (新字新仮名) / 神西清(著)
玄関番げんくわんばん書生しよせい不作法ぶさはふ取扱とりあつかひけると、其処そこ主人迄しゆじんまでがいやになる。著米ちやくべい早々さう/\始末しまつは、すくなからず僕等ぼくら不快ふくわいあたへた。(四月三日)
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
就寝しゅうしんの時刻についても、十時半になったらきちんと電燈でんとうを消すことになっているから、そのつもりで、という注意があたえられただけだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
あへてものほしきにもあらず正月あそびの一ツなり、これ一人のみにあらず、児輩こどもおの/\する事なり。これにあたふるものは切餅あるひは銭もあたふ。
さからえば、せっかく手術した大脳に、よくない影響をあたえるだろう。逆らうことが、あの手術の予後よごを一等わるくするのだ。
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたしは言葉少なに応答しながら、細かな点はどしどしはぶいて、全体として大いに無邪気むじゃきな感じをあたえるようにつとめた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
君の錦衣君の壮屋君の膳の物君の「ホーム」(もし「ホーム」なるものを君も有するならば)はこの高尚無害健全なる快楽を君にあたえるや否や
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
悪魔あくまいまにくほつする、もとむる……ほとけ鬼女きぢよ降伏がうぶくしてさへ、人肉じんにくのかはりにと、柘榴ざくろあたへたとふではいか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
肉体の生命せいめい奇蹟的きせきてき無事ぶじだったかわりに、あの少年の精神せいしん狂気きょうきあたえられたのではないか? 少女たちはにじ松原まつばらからめいめいのみやこへ帰った。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
周辺あたりはなしにはまれ立入たちいるのみで、質問しつもんをされたらけっして返答へんとうをしたことのい、ものも、ものも、あたえらるるままに、時々ときどきくるしそうなせきをする。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あたう。男は無言で坐り込み、筒湯呑つつゆのみに湯をついで一杯いっぱい飲む。夜食膳やしょくぜんと云いならわしたいやしいかたの膳が出て来る。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
(評釈) 説明の言葉は簡単だが,この一章は人生の問題に触れてり、貴重なる教訓をわれ等にあたうるものである。
店のいそがしいときや、面倒めんどうなときに、家のものは飯をにぎり飯にしたり、または紙にせて店先からあたえようとした。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あね小柄こがらの、うつくしいあいらしいからだかほ持主もちぬしであつた。みやびやかな落着おちついた態度たいど言語げんごが、地方ちはう物持ものもち深窓しんそうひととなつた処女しよぢよらしいかんじを、竹村たけむらあたへた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
それでも、人々はシャクの話の面白さにかれていたので、働かないシャクにも不承無承ふしょうぶしょう冬の食物を頒けあたえた。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
この場所が霊感れいかんあたえたのです。わたしは思わずも、鼻息あらく、たてがみをなびかせつつ走り去るアラビアの野馬を思いださずにはいられませんでした。
その人が身につけている物を、死んでまだはだのあたたかいうちにはぎとって、それをおのれの妻にあたえるなぞと、まあ、よくもそんなひどいことができたね
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
なやましいばかりの羞恥しゅうちと、人に屈辱くつじょくあたえるきりで、なんやくにも立たぬかたばかりの手続てつづきをいきどお気持きもち、そのかげからおどりあがらんばかりのよろこびが、かれの心をつらぬいた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
その男というのは、ほかの人に影響えいきょうあたえるなどとは自分でも思っていなかったし、たれても平凡へいぼん人間にんげんだった。——それはクリストフの母親ははおやルイザの兄だった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
銃架じうかよ、おまへはおれの心臓しんざう異様いやう戦慄せんりつあたへる——のやうな夕日ゆふひびておまへ黙々もく/\すゝむとき
そんな風に、私がちょっとでも彼女からはなれている間に、私なしに、彼女がこの村で一人きりで知り出しているすべてのものが、私にばくとして不安をあたえるのだった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「君が腹の満ちた恰好かっこうで、一ツのものを夫にあたえるのは、それアむかしの美談だよ。一ツしかなかったら、二ツに割って食べればいいだろう、何もなかったら、二人でえるさ」
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
我心は天のあたうるもの、万物の理は心内に在り、心内思考一番すれば、一切の理を認識すべしと——ところが陽明先生であるが、その象山の学説よりおこり、心即理、知行合一
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そとはいいて二百文を擲出なげだあたうれば、味噌もなしこんずもなしという。また五十文を与う。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
寺務じむいとまある日はうみに小船をうかべて、網引あびきつりする泉郎あまに銭をあたへ、たる魚をもとの江に放ちて、其の魚の遊躍あそぶを見ては画きけるほどに、年を細妙くはしきにいたりけり。
しかもこの本は、月が絵かきに物語る話という形を取ってはいるものの、その特徴とくちょうとするところは絵画の素材をあたえるための、まぐるしいばかりの場面の展開にあるのではない。
絵のない絵本:02 解説 (新字新仮名) / 矢崎源九郎(著)
一見他に意味いみなきがごとくなれども、ロセツの真意しんいは政府が造船所ぞうせんじょ経営けいえいくわだてしその費用の出処しゅっしょに苦しみつつある内情を洞見どうけんし、かくして日本政府に一種の財源ざいげんあたうるときは
孔子こうしも子は父のために隠し、父は子のために隠すと教えたごとく、かくすことが国家に危害きがいあたうるならいざ知らず、会社の内幕うちまくを語りいたずらに他に告ぐるがごときは裏切り同然で
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
水死人は社会的の現象としては、極くありふれた事である。新聞社に居る啓吉はよく、溺死人できしにんに関する通信が、反古ほご同様に一瞥いちべつあたえられると、直ぐ屑籠くずかごに投ぜられるのを知っている。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「探して御覧なさい。求めよ、さらばあたえられん。門を叩けよ、さらば開かれん」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
にんこゝろざしをたて国家こくかため其身そのみをいたせば、満都まんとひとな動かされて梅の花さへ余栄よえいたり、人は世にひゞわたるほどの善事よきことしたきものなり、人は世に効益かうえきあたふる大人君子たいじんくんしむかひては
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
その夜のあなたは、また、薄紫うすむらさき浴衣ゆかたに、黄色い三尺帯をめ、髪を左右に編んでお下げにしていました。化粧けしょうをしていない、小麦色のはだが、ぼくにしっとりとした、落着きをあたえてくれます。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
しかしここにある乱立相鬩あいせめいでいる松どもは、淋漓りんりたる悲しいものを人間からあたえられていないものはない、普通の樹木に決して見られない人くさいものが、立派な形の奥の方でもだえているのだ
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そこで二人は大家へ行つて部屋へや様子やうすをきき正した。私達わたしたちはもう家そのものはどうでも良かつた。たゞ自分達じぶんたちつかれた身体からだに一時も早く得心とくしんあたへるために直ぐその家を借りようといふになつた。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
亦長凡一里の伏流ふくりう発見はつけんしたり、そのなる一は一行の疲労ひらうするにり、一は大に学術上のたすけあたへたり、つゐに六千呎の高きにいたりて水まつたく尽き、点々一きくの水となれり、此辺の嶮峻けんしゆん其極度にたつ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
もし、そのはなってあたえたら、二と、そのはなくことがなかったからです。それほど、えだは、ほそく、ちいさかったのです。
花と少女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
むしろかれらをおどろかしたのは、生活にうるおいをあたえるような行事が、かなりの程度に、りこまれていることであった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
あへてものほしきにもあらず正月あそびの一ツなり、これ一人のみにあらず、児輩こどもおの/\する事なり。これにあたふるものは切餅あるひは銭もあたふ。
彼女はすばやくわたしの方へ向き直って、両手を大きくひろげると、わたしの頭をきしめて、熱いキスをわたしにあたえた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
死んでこの竜は天上にうまれ、後には世界せかいでいちばんえらい人、お釈迦様しゃかさまになってみんなに一番のしあわせをあたえました。
手紙 一 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
教場のしくじりが生徒にどんな影響えいきょうあたえて、その影響が校長や教頭にどんな反応をていするかまるで無頓着むとんじゃくであった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただうみに一そう漁船ぎょせんもなく、またおかに一けん人家じんかえないのが現世げんせちがっているてんで、それがめになにやら全体ぜんたい景色けしき夢幻ゆめまぼろしちかかんじをあたえました。
わたしちちわたし立派りっぱ教育きょういくあたえたです、しかし六十年代ねんだい思想しそう影響えいきょうで、わたし医者いしゃとしてしまったが、わたしがもしそのときちちとおりにならなかったなら
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
本器は賭博マニアにあたうるときは、従来生じたる如き一切の不幸不孝の数々よりのがるものにして、ひいて家庭円満を来たすこと、火を見るより明かなり。
発明小僧 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)