まこと)” の例文
すなわち花はまこと美麗びれいで、つ趣味にんだ生殖器であって、動物のみにくい生殖器とは雲泥うんでいの差があり、とてもくらべものにはならない。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
まことくんだって、なくすやい。昨日きのううわぐつをかたっぽおとしてきて、おかあさんにしかられていたから。」と、しょうちゃんはいいました。
ボールの行方 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「もし旦那様、何ともはやまこと申兼もうしかねましてございますが、はい、小用場こようばへはどちらへ参りますでございますか、どうぞ、はい。……」
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのこたうけたまはらずば歸邸きていいたしがたひらにおうかゞひありたしと押返おしかへせば、それほどおほせらるゝをつゝむも甲斐かひなし、まことのこと申あげ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「これはおことばまことおそれ入ります。私共はもう天上にも帰れませんしできます事ならこちらで何なりみなさまのお役に立ちたいと存じます。」
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
調子のよいときの武帝ぶていまこと高邁闊達こうまいかったつな・理解ある文教の保護者だったし、太史令たいしれいという職が地味な特殊な技能を要するものだったために
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
致しまことの修驗と相成て後當村へかへり其時にこそ師匠ししやう感應院の院を續度つぎたく存ずるなりあはれ此儀を御許おんゆるし下され度夫迄それまでの内は感應院へはよろしき代りを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一念の声、一念のいのり! いのらなくても、人のまことは天地をうごかすという……。だが、床下ゆかしたのやみは、しいんとしていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まことに着具合の良い外套である。相当時代物らしいがまだ毛もふかふかしている。大きな六角形の釦が六つ胸についている。釦の色は黄色だった。
(新字新仮名) / 梅崎春生(著)
佳き文章とは、「情こもりて、ことばび、心のままのまことを歌い出でたる」態のものを指していうなり。情籠りて云々は上田敏、若きころの文章である。
「露西亜との軍費をき上げて、之を菊三郎への軍費に流用する所、好個の外務大臣だ」まことや筆をつてはさぎを烏となし
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
お前も知ってるだろう、早船の斎藤さいとうよ、あの人にはお前も一度ぐらい逢った事があろう、お互いに何もかも知れきってる間だから、まことなしだ。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「ここは、たゞ、家屋の広い適当なやつがほかにない関係上、泊るだけだから、」当直士官は、まことしやかな注意をした。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
一時の太平にれて衣紋裝束えもんしやうぞく外見みえを飾れども、まこと武士の魂あるもの幾何かあるべき。華奢風流にすさめる重景が如き、物の用に立つべくもあらず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
フラア・トムマーゾの燃ゆるまこととそのふさはしきことばとは我を動かしてかく大いなる武士ものゝふきそめしめ 一四二—一四四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
考えて見るとまことにいやな話で、とても日本人などのもっともだとは思えないりくつであるが、それとは関係なしに、この昔話のおもしろかったのは
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「そうして、あの人の手は、女性おなごの血に染んでいるのでございますね。あの人は、足でおなごのまことに踏みつけて、立っていらっしゃるのでございます」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かれ曙立あけたつの王におほせて、うけひ白さしむらく一〇、「この大神を拜むによりて、まことしるしあらば、このさぎの池一一の樹に住める鷺を、うけひ落ちよ」
「とこしへに民安かれと祈るなる吾代わがよを守れ伊勢の大神おおかみ」。そのまことは天にせまるというべきもの。「取るさおの心長くもぎ寄せん蘆間小舟あしまのおぶねさはりありとも」
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
らず、この語まことしかるや。孟子曰く、否、これ君子の言に非ず、斉東の野人の語なり。ぎょう老いてしゅんせつせるなり。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
これはじつにはかばかしからぬ計画である、だが少年の共同一致のまことの力は十分に塩を製しうることができた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
エヽ此水指このみづさしまこと結構けつこうですな、それからむかうのお屏風びやうぶ、三ぷくつひ探幽たんにゆうのおぢくそれ此霰このあられかま蘆屋あしやでげせうな
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかるに、中根なかね危急ききふわすれてじうはなさず、くまでじうまもらうとした。あの行爲かうゐ、あの精神せいしんまさ軍人精神ぐんじんせいしん立派りつぱ發揚はつやうしたもので、まこと軍人ぐんじんかがみである。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
〔譯〕人心のれい太陽たいやうの如く然り。但だ克伐こくばつ怨欲えんよく雲霧うんむ四塞しそくせば、此のれいいづくに在る。故に意をまことにする工夫は、雲霧うんむはらうて白日をあふぐより先きなるはし。
また、まことで、一生を貫いて来ました。今、その正義と誠とで、あなたを殺し、ここに、一生の幕を閉じます
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
彼は青天白日のもとに、尋常の態度で、相手に公言し得る事でなければ自己のまことでないと信じたからである。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そんなつまらぬかんがえ打消うちけすと、結局けっく夢中にそんな所も過ぎるので、これまことによいことだと自分は思う。
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
まこと欲しいなら一億金出すか、僕の右足で牽き来り得る限り袋に金を入れてくれるかと言うべしと教えた。
まことに彼はその研究所へ一度も足を踏み入れたことがないのであるから、今夜はぜひ入って調べてみたい。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
われらにしてもしまことの心の底から、ミューズやヴェヌスの神に身を捧げる覚悟ならば、われらは立琴ハルブいだくに先立っておきてきびしいわれらが祖国を去るにくはない。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかしその声には、人の心をまことがこもっていた。声にしてかんがえているのかと思えるほどだった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
瓜生ノ衛門 へえ、まことに気恥しくて申し上げにくい話なんでございますが、……実は手前……瓜生の里には四十年前に云い交した許婚いいなずけがひとり待って居るんでございます。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
燕王信のまことあるを見、席を下りて信を拝して曰く、我が一家を生かすものはなりと。信つぶさに朝廷の燕を図るの状を告ぐ。形勢は急転直下せり。事態は既に決裂せり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
毎日まいにち安泰あんたいくらさせていただきましてまこと難有ありがとうございます。何卒なにとぞ明日あす無事ぶじ息災そくさいすごせますよう……。』むかしはこんなあっさりしたのがたいそうおおかったものでございます。
だが疑い深い私は、この彼のまことしやかな、さも優しげな弁解を、容易に信じようとはしなかった。恥しいことだけれど、私は諸戸の腕の中で、まるで駄々子だだっこの様に振舞った。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、まこと都合つがふ哲學てつがくです。さうして自分じぶん哲人ワイゼかんじてゐる……いや貴方あなたこれはです、哲學てつがくでもなければ、思想しさうでもなし、見解けんかいあへひろいのでもい、怠惰たいだです。自滅じめつです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
まことにどうもお内儀かみさん」かれ財布さいふおびからいてしたときひどつてしまつたやうにかんじて、財布さいふそとから一寸ちよつとくびかたぶけた。かれまた財布さいふそこぜにつかしてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「念仏申すこそまことに末通りたる慈悲にてや候ふべき」というのはじつに深い心持ちである。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
葉子はありもしない事をまことしやかに書き連ねて木村のほうから送金させねばならなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あれはまったくのところ、きりょうしではございませぬ。しかしまこと性質せいしつをもっておりますし、およぎをさせますと、ほか子達こたちくらい、——いやそれよりずっと上手じょうずいたします。
それともそちのその言葉がまこと真実であるならば、その仇の名を云うて見よ! そちを殺したその後でそちに代ってこの甚五衛門が必ず仇を討ってやる。さあ仇の名を云うがよい!
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
若童うまれさせ給由承候たまひしよしうけたまはりさふらふ。目出たく覺へさふらふまことに今日は八日やうかにてさふらふも、かれいひこれいひ所願しよぐわんしほ(潮)の指す如く、春の野に華の開けるが如し。然れば、いそぎいそぎをつけたてまつる。
月日つきひともきず疼痛いたみうすらぎ、また傷痕きずあとえてく。しかしそれとともくゐまたるものゝやうにおもつたのは間違まちがひであつた。彼女かのぢよいまはじめてまことくゐあぢはつたやうながした。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
おも羽毛はねしろすゝつめた健康すこやか病體びゃうたいめたねむり! あゝ、りのまゝとはおなじでないもの! ちょう其樣そのやうせつないこひかんじながら、こひまことをばかんぜぬせつなさ!……なんわらふンぢゃ?
かういふ傳記でんき一部いちぶつて諸平もろひらうたむと、まことおもふかいところがかんじられます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
其いさめをいれ玉ひよろこばせ給ひて御衣を賜ひたるを、此配所はいしよにもちくだりて毎日御衣にのこりたる余香よかうはいすと、 みかどをしたひ御恩を忘れ玉はざる御心のまことを作り玉ひたるなり。
また傍観者の歌とせんか、秘密中の秘密に属するのろひ釘を見る事もことさらめきてまことしからず、はた「惑へりと自ら知りて」とその心中まで明瞭に見抜きたるもあるべき事ならず。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ちろッちろッと走っているさまは、まことに、ものすさまじいばかりの景色でした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
しかし、私のような年輩でも一生懸命になれば物の形が彫れるものでありましょうか、あるいはまた到底手をつけることも出来ないものでありましょうか……と後藤氏は心のまことめてのお話。
最う誰も居ませんから目「やれ/\、あゝ夫は困ッたなア実にこまった、己よりもア内儀がさぞかし失望する事だろう、困たなア」と頭を掻く其様如何にもまことしやかなり、下女は何事かと怪しむ如く
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)