景色けしき)” の例文
かれは、懐中かいちゅうから、スケッチちょうして、前方ぜんぽう黄色きいろくなった田圃たんぼや、灰色はいいろにかすんだはやし景色けしきなどを写生しゃせいしにかかったのであります。
丘の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おお、洋傘直し、洋傘直し、なぜその石をそんなにの近くまでって行ってじっとながめているのだ。石に景色けしきいてあるのか。
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
樣子やうすくと、汽船會社きせんぐわいしや無錢たゞ景物けいぶつは、裏切うらぎられた。うも眞個ほんたうではないらしいのに、がつかりしたが、とき景色けしきわすれない。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そうした場合には、往来へ塀越へいごしに差し出たの枝から、黄色に染まったさい葉が、風もないのに、はらはらと散る景色けしきをよく見た。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
紅葉もみぢうつくしさは、植物しよくぶつそのものゝ種類しゆるいと、その發生はつせい状態じようたいとでそれ/″\ちがひますが、一面いちめんには附近ふきん景色けしきにも左右さゆうされるものです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
そしてもう少しずつ紅葉もみじの色づいた絵のような景色けしきを右近はながめながら、思いもよらぬ貴族の家の女房になっていることを感じた。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
現界げんかい景色けしきくらべてべつ格段かくだん相違そういもありませぬが、ただこちらの景色けしきほうがどことなくきよらかで、そして奥深おくふかかんじがいたしました。
谷の中の景色けしきにはなにもわったものはなかった。それはそっくり同じに見えた。けむりまで同じようにえんとつから上がっていた。
わたしは父の顔をのぞきこみながら、何時いつもの頼みを持ちかけました。が、父は承知するどころか、相手になる景色けしきもございません。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
林太郎は、生まれてはじめて歩く道ですが、そういう景色けしきをながめながら歩いていると、そんなにさびしいともかんじませんでした。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
慶州けいしゆうには周圍しゆういひくやまがあつて、一方いつぽうだけすこひらけてゐる地勢ちせいは、ちょうど内地ないち奈良ならて、まことに景色けしきのよいところであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
そのうちもなく日がれて、よるになりました。けるにしたがって、もりの中はいよいよものすごい、さびしい景色けしきになりました。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
でも、この赤人あかひとといふひとは、かういふ傾向けいこう景色けしきうたひてをくして、だん/\自分じぶんすゝむべき領分りようぶん見出みいだしてきました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
ニールスは、せまい砂浜すなはまに立ちました。目の前にはかなり大きいみずうみがひろがっています。でも、あまり気もちのいい景色けしきではありません。
景色けしきおほきいが變化へんくわとぼしいからはじめてのひとならかく自分じぶんすで幾度いくたび此海このうみこの棧道さんだうれてるからしひながめたくもない。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
柔げて「来い/\プラト」と手招するに彼れ応ずる景色けしきなし「駄目ですよ、今申す通りわたくしか所天おっとの外は誰の言う事も聞きませんから」
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
このおさるさんのつてあるところはたかがけしたでした。はししたながれる木曽川きそがはがよくえて、ふかやまなからしい、景色けしきいところでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
まちは、まへに、すべての景色けしきえでもするかのやうに、一しんになつてなみだぐみながらふのであつた。すると、末男すゑをも、おなじやうに
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
その絵巻えまきひろげた川筋かわすじ景色けしきを、るともなく横目よこめながら、千きちおに七はかたをならべて、しずかにはしうえ浅草御門あさくさごもんほうへとあゆみをはこんだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
僕はよく岸に立ってその景色けしきを見渡して、いえに帰ると、覚えているだけを出来るだけ美しく絵にいて見ようとしました。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
海岸かいがん沿ふてこと七八ちやう岩層がんそう小高こだかをかがある、そのをかゆると、今迄いまゝでえたうみ景色けしきまつたえずなつて、なみおと次第しだい/\にとうく/\。
れよりモスクワ川向かはむかふまち景色けしきなどを見渡みわたしながら、救世主きうせいしゆ聖堂せいだうや、ルミヤンツセフの美術館びじゆつくわんなんどをまはつてた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
やがてさらしをはらんとする白ちゞみをさらすをりから、朝日のあか/\とさしのぼり玉屑平上ぎよくせつへいしやうつらねたる水晶白布すゐしやうはくふ紅映こうえいしたる景色けしき、ものにたとへがたし。
屋根ばかりしか見えない窓外の索寞さくばくとした景色けしきのなかで、特に私の眼をひくものといったら、それだけなのであった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
返來へんじをさへうちとけてひしことはなく、しひへばしさうな景色けしきるおたみきのどくさかぎりなく、何歳いつまでも嬰兒ねねさまでいたしかたが御座ござりませぬ
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
『おい、ペンペ、下界したろ。すばらしい景色けしきじやないか。おまへなんぞこゝらまでんでたこともあるまい。』
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
まくらの上でちょっと頭さえ動かせば、目に見える景色けしきが赤、黄、緑、青、鳩羽はとばというように変わりました。
宗匠そうしやう景色けしきを見ると時候じこうはちがふけれど酒なくてなんおのれがさくらかなと急に一杯かたむけたくなつたのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
太陽たいようはうらうらとかがやいて、小鳥は楽しそうにさえずっていました。お姫さまは、外の景色けしきでもながめようと思って、まどの方へ歩いておいでになりました。
遠洋航海なぞすると随分いい景色けしきを見るが、しかしこんな高い山の見晴らしはまた別だね。実にせいせいするよ。そらそこの左の方に白い壁が閃々ちらちらするだろう。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
こんなにすばらしい景色けしきのところへ来ても、みんなねむっていました。御者ぎょしゃはラッパを吹きならしました。
もう下の方を見まわしても、かさなった山やとおい野が少し見えるきりで、初めのようなうつくしい景色けしきにはいりませんでした。薄黒うすぐろくもがすぐ前をんで行きました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
霧笛は、ますます深く、人から景色けしきを奪う霧のように、その心から光と落ち着きとを奪うのであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
竹童ちくどうはそこでやっと落着いて、あたりの景色けしきを見直した。ところでここはいったいどこの何山だろう?
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえまた、兄さんの百年の後においても、この美しい景色けしきをもった故郷こきょうをどうして見すてることができましょう。翠緑すいりょくにつつまれた山、紺碧こんぺきの水をたたえた谷。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
と云ったその言葉は極めて簡単であったが、打水の涼しげな庭の景色けしきを見て感謝の意をふくめたような口調くちぶりであった。主人はさもさもうまそうに一口すすって猪口ちょくを下に置き
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
揉事もむことに非ず早々何處いづこへか行きて居れとしかり付いざお光殿是へ御座れとおくの一間へ喚込よびこめば女房は彌々いよ/\つのはゆべき景色けしきにて密男まをとこは七兩二分密女まをんなに相場はないつぶやきながら格子戸かうしど
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いやに熱苦あつくるしい、南風がなお天候の不穏を示し、生赤なまあかい夕焼け雲の色もなんとなく物すごい。予は多くの郵便物を手にしながらしばらくこの気味わるい景色けしきに心を奪われた。
水籠 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そこで安心して、徐々そろ/\仕事の支度に取懸ると、其處そこらには盛に螢を呼ぶ聲が聞える。其の聲を聞くと、急に氣が勇むで來て、愉快でたまらない。それに四方あたり景色けしきかツた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
夢の中の景色けしきは、映画と同じに、全く色彩を伴わぬものであるのに、あのおりの汽車の中の景色けは、それもあの毒々しい押絵の画面が中心になって、紫と臙脂えんじかった色彩で
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二股ふたまたの道を右へ取り、六田の淀の橋の上へ来て、吉野川の川原かわら景色けしきを眺めたものである。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
巧みな日和見ひよりみだと言われてるクンツは、おごそかに空を見調べて——(彼もまたシュルツと同じく、自分らの小さな土地の晴れ晴れとした景色けしきをクリストフに見せたかったのである)
その法林道場のずっと上手うわてを見ますと巌山がんざん突兀とっこつそびえて居て、その岩の間に流水が日光に映じた景色けしきは実に美しく、そういう天然の景色に人為的雅味がみを付け加えたのですから
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
いつもとかわらぬしずかな景色けしきだったが、しばらく耳をすませていると、ちょうど、『ぎんねこ』酒場さかばのあたりで、がやがやとさわぐただならない人声ひとごえが、風にのってきこえてきた。
うめいて、紫色むらさきいろ雑木林ざふきばやしこずゑが、湿味うるみつたあをそらにスク/\けてえ、やなぎがまだあら初東風はつこちなやまされて時分じぶんは、むやみと三きやく持出もちだして、郊外かうぐわい景色けしきあさつてあるくのであるが
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
僕はここでよく夕方この景色けしきに見とれてしまいます。人が明りをつけるということは実際神秘な感じのものですね。ただくらくなると明りをつけるという以外に、深い意味を持っています。
蜒々えんえんとしたなぎさを汽車はっている。動かない海と、屹立きつりつした雲の景色けしきは十四さいの私のかべのように照りかがやいて写った。その春の海を囲んで、たくさん、日の丸の旗をかかげた町があった。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
私等は、日本という国ほど景色けしきのいい所は世界中ないような心もちがします。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
貞任が陣屋じんやかまえしあととも言い伝う。景色けしきよきところにて東海岸よく見ゆ。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
だが、それから六年後の今、このやわらかい景色けしきや水音を聞いても、かれはかえって彼のかたくなになったこころを一層枯燥こそうさせる反対の働きを受けるようになった。彼は無表情のを挙げて、崖の上を見た。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)