さぐ)” の例文
けれ共、その心をさぐり入って見た時に、未だ若く、よろこびに酔うて居る私共でさえ面を被うて、たよりない涙に※ぶ様になる程であるか。
大いなるもの (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
甲に拠るか、乙をさぐるか、時代の先後によるか、その採択に迷う場合もしばしばあったが、それは編者が随意に按排あんばいすることにした。
中国怪奇小説集:01 凡例 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこでボンヤリながらもそうと気が付くと同時に吾輩は、ピッタリと講演を止めてしまって、爆弾漁業の本拠さぐりに没頭したもんだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
カピはまた主人のかくしをさぐって一本のつなを出し、軽くゼルビノに合図をすると、ゼルビノはすぐにかれの真向まむかいにをしめた。
公爵夫人はポケットをさぐって、何やらいっぱい書き込んだ油じみた着付を取出すと、つい鼻先まで持っていって、その検分にかかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
女はようやく首斬り台をさぐり当てて両の手をかける。唇がむずむずと動く。最前さいぜん男の子にダッドレーの紋章を説明した時と寸分すんぶんたがわぬ。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
背伸せのびをして、三じゃく戸棚とだなおくさぐっていた春重はるしげは、やみなかからおもこえでこういいながら、もう一、ごとりとねずみのようにおとてた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それでも自分はそれに気が変わってたもとから巻きたばこをさぐった。二三本吸ううちに来た男どもは村の者ではないらしかった。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
しづく餘波あまりつるにかゝりて、たますだれなびくがごとく、やがてぞ大木たいぼく樹上きのぼつて、こずゑねやさぐしが、つる齊眉かしづ美女たをやめくもなかなるちぎりむすびぬ。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
裁判官はさびのある声でおごそかに言った。そして、法の鏡に映る湯沢医師の言葉の真意をさぐろうとの誠意をめて静かに眼をつむった。
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「宜しう御座います、旦那、決して好い兒になつて居るつもりは御座いません。これでも半歳この方、八方に手を廻してさぐつて居ります」
これに反して俳句は、静かに落着いて物を凝視し、自然の底にある何物かをさぐろうとする如き、智慧ちえ深い観照の眼をもっている。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
これには、さすが野放図のほうずなお悦も、愕然と色を失った。夢ではないかと身内をまさぐっていたほど、それほど三伝の生存は信じられなかった。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
が、叱りつつ、彼は具足羽織の下から、何かさぐり出していた。そしてそれを手に丸め、紙つぶてとして、妻の姿へほうりつけた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地有れば泉有り、泉有れば必ず熱有り、全村にして四十五湯。なほ数ふれば十二勝、十六名所、七不思議、たれか一々さぐり得べき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それには、だれかひとをやって、よくその皇子おうじうえさぐってもらうにしくはないとかんがえられましたから、おともひとをそのくににやられました。
赤い姫と黒い皇子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いや私が書生仲間しょせいなかまには随分ずいぶんかようなる事に常々つねづね注意ちゅういし、当時の秘密ひみつさぐり出し、互にかたり合いたることあり、なおれたる事柄ことがらも多かるべし
「いいえ。」美沢の母は、ちょっと新子の心持をさぐるように、ジッと視線を合せて、新子の澄んだ静かな瞳にぶっつかると、安心したように
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あたかも蟻がその黒めるむれの中にてたがひに口を觸れしむる(こはその路とさちとをさぐるためなるべし)に似たり 三四—三六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
またこの書記官からいろいろの質問がありましたが、つまり私が日本の国事探偵ではないかということをさぐるためであった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
モン長 わしはもとより、したしいれにもさぐらせたれども、せがれめは、たゞもうそのむねうちに、何事なにごとをもかくして、いっかな餘人よじんにはらせぬゆゑ
わたくし何氣なにげなく衣袋ポツケツトさぐつて、双眼鏡さうがんきやう取出とりいだし、あはせてほよくその甲板かんぱん工合ぐあひやうとする、丁度ちやうど此時このとき先方むかふふねでも、一個ひとり船員せんゐんらしいをとこ
中の小坊の手に御盆おぼんを持たせて、誰それさん御茶おちゃあがれと言わせたり、または一つ一つ手を繋いだところをさぐって、ここは何門と尋ねる問答を重ね
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それからは、えないで、もりなかさぐまわり、くさべて、ただくしたつまのことをかんがえて、いたり、なげいたりするばかりでした。
無論むろん千葉ちばさんのはうからさとあるに、おやあの無骨ぶこつさんがとてわらすに、奧樣おくさま苦笑にがわらひして可憐かわいさうに失敗しくじりむかばなしをさぐしたのかとおつしやれば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
紳士はポケツトをさぐつて、原稿用紙と万年筆まんねんひつとを出した。外では歳暮せいぼ大売出しの楽隊の音がする。隣のテエブルでは誰かがケレンスキイを論じ出した。
饒舌 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、さぐるような視線を彼女に投げた。彼は、ふと、毎日学校に通っている、恭一のことを思い出したのである。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
新ちゃんと文子は暗がりをさぐって二階の正面に陣取った、写真は一向面白くなかった、がだんだん画面が進行するにつれて最初に醜悪と感じた部分も
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
でも折角せっかくたのみでございますから、かく家出いえでした女房にょうぼう行方ゆくえさぐってますと、すぐその所在地ありかわかりました。
彼は教授のめるのも聞かず、勇躍ゆうやく飛んで出ると、スイッチを真暗まっくらの中にさぐってパッとをつけた。たちまち室内しつないは昼をあざむくように煌々こうこうたる光にみちた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼女はそれ以上に、たづねもさぐりもしない。そして彼の正體に就いての、もつとはつきりした意見を掴みたがつてゐる私の望みを、明かにいぶかつてゐたのだ。
砂金を谷川の砂からさぐり出すにしても、岩石をうがって鉱石あらがねを掘り出すにしても、いずれもそれは山からである。
「見ろ。はっはっは、犯人ほし玄人くろだせ。急場にそこいらさぐったって、これじゃあおいそれたあ出ねえわけだ。」
博士は、ちつきをとりもどしていた。科学者かがくしゃらしく、ちみつに頭を働かし、このふしぎな透明人間とうめいにんげん秘密ひみつをできるかぎりさぐりだしてやろうと考えていた。
「どうも御馳走樣ごつゝおさまでがした」と義理ぎりべて土間どま下駄げたをがら/\さぐつてがや/\さわぎながらかへけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そもそ此氷川このひがは境内けいだいひろつた一破片はへんいまでも保存ほぞんしてあるが)これが地中ちちう秘密ひみつさぐはじめた最初さいしよかぎで、石器時代せききじだい研究けんきうおもつた動機どうきとはなつたのだ。
嫂たちの真剣な顔や、皮肉な応酬や、気持のさぐりあいなどを見ていると、しぜん、笑いがこみあげてくる。
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
ドゥチコフは、シューラ・ドリーニンが外套室がいとうしつで、人の外套がいとうのポケットをさぐっているのを、自分の目で見たともうてた。シューラは生徒監せいとかん部屋へやばれた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
大井は抜刀ばつたうを手にして新塾に這入はひつて来た。先づ寝所しんじよあたゝかみをさぐつてあたりを見廻して、便所の口に来て、立ちまつた。しばらくして便所の戸に手を掛けて開けた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
はづさず話しなば必ず縁談えんだんとゝのはんと彼の富澤町なる甲州屋吉兵衞の次男千太郎の身持みもちとくさぐりしに何所いづれとうてもよき若者なりと賛成ほめざる者の無かりしかば其趣きを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かしら、よろこんでくだせえ、こんどこそは、おれたち四にん、しっかり盗人根性ぬすっとこんじょうになってさぐってまいりました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
すはやとて両人衣服をぬぎすて水に飛入りおよぎよりて光る物をさぐりみるに、くゝり枕ほどなる石なり、これを取得とりえて家にかへり、まづかまどもとおきしに光り一室いつしつてらせり。
彼は爪先きでさぐって——階段のきざみを一つ一つ登った。粗末な階段はハネつるべのようなキシミを足元でたてた。彼は少し猫背の厚い肩を窮屈にゆがめた。頭がつッかえた。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
若郎子わかいらつこの兵士たちは、ぶくぶくとしずんだみことのお死がいを、かぎでさぐりあててひきあげました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
それからずっと上流の Mantesマント までをさぐったのは Daubignyドオビニイ である。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と考えて居りますと、片方かたっぽでは片手でさぐり、此処こゝあたり喉笛のどぶえと思う処を探り当てゝ、懐から取出したぎらつく刄物を、逆手さかてに取って、ウヽーンと上から力に任せて頸窩骨ぼんのくぼ突込つッこんだ。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「私は今くわしくさぐったのです。あの人は、私と同じ村の孟安仁もうあんじんという方ですわ。」
封三娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
アア口惜しの有様やとて、ほとんど自失せし様子なりしが、たちま小刀ナイフをポッケットにさぐりて、妾に投げつけ、また卓子テーブルに突き立てて妾を脅迫し、いて結婚を承諾せしめんとは試みつ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
今日けふ郡司大尉ぐんじたいゐ短艇遠征たんていゑんせいかうを送るに、ねて此壮図このさうと随行ずゐかうして其景況そのけいきやうならびに千島ちしま模様もやうくはしくさぐりて、世間せけん報道はうだうせんとてみづから進みて、雪浪萬重せつらうばんちよう北洋ほくやう職務しよくむためにものともせぬ
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
その実谷の奥をさぐれば無数の温泉が渓流けいりゅうの中に噴きで、明神みょうじんたきを始めとしていくすじとなく飛瀑ひばくかかっているのであるが、その絶景を知っている者は山男か炭焼きばかりであると云う。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)