みね)” の例文
私は毎日のように夕方になるとこの町に最後の別れをするために、清水きよみず辺りから阿弥陀あみだみねへかけての東山ひがしやまの高見へ上っていました。
蝶が飛ぶ 葉っぱが飛ぶ (新字新仮名) / 河井寛次郎(著)
やがて、こぶみねのてッぺんにある、天狗てんぐ腰掛松こしかけまつの下にたった竹童ちくどうは、頓狂とんきょうな声をだしてキョロキョロあたりを見まわしていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
目下もくか日本大使館の安達あだちみね一郎氏が引受けて東京へ帰つて居るが、翁は東京の有島氏とも協議して便宜に取計らふやう予に依頼された。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
今日なら、もうほんとうに立派りっぱな雲のみねが、東でむくむくりあがり、みみずくの頭の形をした鳥ヶ森ちょうがもりも、ぎらぎら青く光って見えた。
さいかち淵 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
最早もはや最後さいごかとおもときに、鎭守ちんじゆやしろまへにあることに心着こゝろづいたのであります。同時どうじみねとがつたやうな眞白まつしろすぎ大木たいぼくました。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
またその身體からだにはこけだのひのき・杉の類が生え、その長さはたにみねつをわたつて、その腹を見ればいつもが垂れてただれております
「あのたかやまには、まだ、ゆきがあるな。」と、かれは、こおりをけずったような、さきのとんがった、かがやくみねとれていました。
雲のわくころ (新字新仮名) / 小川未明(著)
其れから長い金山道を上つて、金山上のコマツみねの鐵索の側に立つて、黒岩、鬼怒、臺倉だいぐら帝釋たいしやく、田代、鹽原の山、女貌等を泌々と眺めた。
黒岩山を探る (旧字旧仮名) / 沼井鉄太郎(著)
と少しもたいを崩さぬよう身構えて居りました。文治は其の夜二居ヶみねの谷々までこん限り尋ねましたが、少しも足が付きませぬ。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『あれ、むかうのみねかすめて、しろい、おおきな竜神りゅうじんさんが、にもとまらぬはやさでよこんでかれる……あのすごいろ……。』
見るさえまばゆかった雲のみねは風にくずされて夕方の空が青みわたると、真夏とはいいながらお日様のかたむくに連れてさすがにしのぎよくなる。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こんな所でもはえが多い。みね茶屋ちゃやで生まれたのが人間に付いて登って来たものであろうか。焦げ灰色をしたちょうが飛んでいる。
小浅間 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
たゞされしかば富右衞門の女房にようばうみね其子城富は申に及ばず親族しんぞくに至る迄みな大岡殿の仁智じんちを感じ喜悦きえつなゝめならずことさらに實子城富は見えぬなみだ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さうして、其くもみねをよく見ると、真裸まはだか女性によせう巨人きよじんが、かみみだし、身をおどらして、一団となつて、れ狂つてゐるやうに、うまく輪廓をらした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
初瀬はせの方から多武たふみねへ廻つて、それから山越しで吉野へ出て、高野山へも登つて見たいよ。足の丈夫なうちは歩けるだけ方々歩いとかなきや損だ。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
するともなく比良ひらみねから三上山みかみやまにかけてなん千というたまあらわれ、それがたいまつ行列ぎょうれつのように、だんだんとこちらにかってすすんでました。
田原藤太 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
茫然ぼうぜんと立って居ると、苅草かりくさいっぱいにゆりかけた馬を追うて、若い百姓ひゃくしょうが二人峠の方から下りて来て、余等の前を通って、またむこうみねへ上って往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
王はおんみずか太刀たちふるって防がれたけれども、ついにぞくのためにたおれ給い、賊は王の御首みしるしと神璽とをうばってげる途中とちゅう、雪にはばまれて伯母おばみねとうげに行き暮れ
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
瑞泉寺山から継鹿尾つがのおからすみね重畳ちょうじょうして、その背後から白い巨大な積雲の層がむくりむくりと噴き出ていた。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
匕首あひくちを使つても、少しは傷のハゼるものだ。あんな工合になるのは、剃刀かみそりのほかにないが、剃刀だつて、みねが邪魔になるから人の肉へ五分とは切り込めない。
行手を見れば、多武とうみね初瀬山はつせやま。歴史にも、風流にも、思い出の多い山々が屏風のように囲んでいる。
『ハあ、おみねがそう言ってよ、そしてね姉さんのお目が大変赤くなってれていましたよ。』文造はしばらく物思いに沈んでいたが、寒気さむけでもするようにふるえた。
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
はる川上かはかみの空のはづれに夏の名残なごりを示す雲のみねが立つてゐて細い稲妻いなづま絶間たえまなくひらめいては消える。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
さして行かんには此の峠など小さき坂とも見做すべし風越かぜごしみねといふも此あたりだと聞しかど馬士まごねから知らずかへつて此山にて明治の始め豪賊を捕へたりなどあらぬ事を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
上野の国の迦葉山かしょうざん、下野の国の二荒山ふたらさん、山城の醍醐だいごみね、河内の杵長しなが山、そして、なかでもこの高野山にすんでいるということは、大師のお詠みになった詩偈しげにもあって
みねを手のひらに挟んで構えるが早いか! 奇声とともに投げ放った本朝でいう手裏剣の稀法きほう
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
三里弱の山坂を登つてきりみねのヒユッテへ著いた時分には、靴も帽子もびしよ/\でヒユッテの風呂と炬燵で暖まらなかつたら、肺気腫はいきしゆといふ持病のある私は或は肺炎になつて
霧ヶ峰から鷲ヶ峰へ (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
さうすると落ち毛が皆一寸五分位の長さばかりであるのに気がついた。また昨日きのふの朝八みねの人形の毛が抜けたと云つて此処ここへ来て泣いて居たのを思ひ出した。頭が重い日である。
六日間:(日記) (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
このしま出發しゆつぱつしたらもうしめたものだ、一時間いちじかん百海里ひやくかいり前後ぜんご大速力だいそくりよくは、印度洋インドやう横切よこぎり、支那海シナかいぎ、なつかしき日本海につぽんかい波上はじやうより、あほいで芙蓉ふえうみねはいすることとほことではあるまい。
欄干らんかんって見あげると、東南につらなるとうみねや観音山などが、きょうは俄かに押し寄せたように近く迫って、秋の青空がいっそう高く仰がれた。庭の柿の実はやや黄ばんで来た。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
此處こゝ三十へだてなれどもこゝろかよはずは八がすみ外山とやまみねをかくすにたり、はなちりて青葉あをばころまでにおぬひもとにふみつう、ことこまなりけるよし、五月雨さみだれのきばにれまなく人戀ひとこひしきをりふし
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
邇邇芸命ににぎのみことはそれらの神々をはじめ、おおぜいのお供の神をひきつれて、いよいよ大空のお住まいをおたちになり、いくともなくはるばるとわき重なっている、深い雲のみねをどんどんおし分けて
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
また、もしかすると、人間の肉体と理知の現在のような分裂状態はその二つのもののより高い統合というみねにのぼる直前の、ふかい谷底の風景かもわからない。……いろいろのことが考えられます。
抵抗のよりどころ (新字新仮名) / 三好十郎(著)
そこには、黒々としたモミの森と、褐色かっしょくぬまと、こおりにおおわれたみずうみと、青みがかった山のみねとが見えるばかりです。ニールスは、いつかマッツの話していた、昔からの言いつたえを思いだしました。
妻君のおみねと一人娘の千草ちぐさと、あとは雇人が十人近くいた。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
絹笠きぬがさみねちかくして長崎の真昼を告ぐるはうきこゆ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
春山の名もをかしさやたかみね
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
くもみねの句を比較せんに
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
ずやへさきにあをみね
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
みねてらせる光なりけり
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
二つのみねは清らなり
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
雪難之碑せつなんのひ。——みねとがつたやうな、其處そこ大木たいぼくすぎこずゑを、睫毛まつげにのせてたふれました。わたしゆきうもれてく………身動みうごきも出來できません。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
武州ぶしゅう高尾たかおみねから、京は鞍馬山くらまやま僧正谷そうじょうがたにまで、たッた半日でとんでかえったおもしろい旅のあじを、竹童ちくどうはとても忘れることができない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この、のどかな、ゆったりとした気持きもちは、おじいさんとやまおなじでありました。むらさきあかと、みねたにうつくしくいろどられていました。
とうげの茶屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
みね茶屋ちゃやから第一の鳥居をくぐってしばらくこんもりした落葉樹林のトンネルを登って行くと、やがて急に樹木がなくなって、天地が明るくなる。
小浅間 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
部屋をる時、振り返つたら、紺青こんじやうなみくだけて、白く吹きかへす所だけが、くらなか判然はつきり見えた。代助は此大濤おほなみうへ黄金色こがねいろくもみねを一面にかした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ペネタ形というのは、蛙どもでは大へん高尚こうしょうなものになっています。平たいことなのです。雲のみねはだんだんくずれてあたりはよほどうすくらくなりました。
蛙のゴム靴 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
たまたまきこりにえばみちき、おに岩屋いわやのあるという千丈せんじょうたけひとすじにざして、たにをわたり、みねつたわって、おくおくへとたどって行きました。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
見上ぐれば、蝦夷松椴松みねみねへといやが上に立ち重なって、日の目もれぬ。此辺はもうせき牧場ぼくじょうの西端になっていて、りんは直ちに針葉樹の大官林につゞいて居るそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
立退たちのく道は宇都宮の明神様の後山うしろやまを越え、慈光寺じこうじの門前から付いて曲り、八幡山わたやまを抜けてなだれに下りると日光街道、それより鹿沼道かぬまみちへ一里半けば、十ろうみねという所