はづ)” の例文
御蔭おかげられた品物しなものまたもどりましたよ」とひながら、白縮緬しろちりめん兵兒帶へこおびけた金鎖きんぐさりはづして、兩葢りやうぶた金時計きんどけいしてせた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それでもやつと呼鈴ベルを押すと、明りのさしてゐる障子が開いて、束髪そくはつつた女中が一人ひとり、すぐに格子戸の掛け金をはづしてくれる。
漱石山房の秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
言ひ換れば青年的勇気の漏洩に過ぎぬ運動遊戯の交際にはづれることを除けば、何人にも非難さるべきところの無い立派なものであつた。
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
あゝ、わかしうなにかい、つれのものが、何處どこ二次會にじくわい引張出ひつぱりださうとして、わたしなか引挾ひつぱさんだ、……れをはづしたのだとおもつたのかい。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
電車は佝僂せむしのやうに首をすくめて走つてゐたが、物の小半丁こはんちやうも往つたと思ふ頃、うしたはずみか、ポオルがはづれてはたと立ち停つた。
言下ごんか勿焉こつえんと消えしやいばの光は、早くも宮が乱鬢らんびんかすめてあらはれぬ。啊呀あなやと貫一のさけぶ時、いしくも彼は跂起はねおきざまに突来るきつさきあやふはづして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ドアに飛びついて、死物狂ひになつて錠前ぢやうまへを搖すぶつた。そとの廊下に跫音あしおとが駈けて來て、鍵がはづされて、ベシーとアボットが這入つて來た
「それが惡いのか、錢形の、——彌三郎殺しを新助の仕業と思つたのは俺の鑑識違めがねちがひだつたが、今度ばかりははづれつこのねえ證據がある」
隣の次男は其婿が朝早く草の生えた井戸端で、真鍮しんちう金盥かなだらひで、眼鏡をはづして、頭をザブザブ洗つて居るのを見たこともあつた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
差覗さしのぞきしと/\とまた歩行出あゆみだす折柄をりからばた/\駈來かけく足音あしおとに夫と見る間も有ばこそ聲をばかけ拔打ぬきうち振向ふりむくかさ眞向まつかうよりほゝはづれを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ですから道にはづれたことは、誓つてしないつもりでしたのに、たうとう、こんなことになつてしまつたんですわ。(泣く)
ママ先生とその夫 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
かれはそれでも煙管きせるして隙間すきまから掛金かけがねをぐつといたらせんさしてなかつたのですぐはづれた。かれくらしきゐまたいでたもと燐寸マツチをすつとけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
されば竹にさへづ舌切雀したきりすゞめ、月に住むうさぎ手柄てがらいづれかはなしもれざらむ、力をも入れずしておとがひのかけがねをはづさせ、高き華魁おいらんの顔をやはらぐるもこれなり。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
加之いろなら圖柄づがらなら、ただあつたかく見せる側の繪といふことがわかるだけで、何處に新機軸しんきじゆくを出したといふ點が無い。周三の覗ツたまとはすツかりはづれた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
たとへば鐵砲てつぽう彈丸たま遠方えんぽうばす原因げんいん火藥かやく爆發力ばくはつりよくであるが、これを實現じつげんせしめる副原因ふくげんいん引金ひきがねはづ作用さようである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
人間が見込をはづされてぽかんとしてゐる間に、いつしか十月に入り、十月も終りに近くなり、あの快い乾いた、いくらか冷えを感じさせるあかるい空気が
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
……と思つたから、最御崎寺の下から乗つて、真つ直に高知へ向ふ自動車の中で、ぼくは、脚絆をとり、手ッ甲をはづし、白衣をぬいで、洋服に着替へた。
にはかへんろ記 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
ばらばらに黒いくさびはづされたこの残留の街衢の中で、彼等の笑ふやうに、その笑ひが己の面上にあると思ふのか。
逸見猶吉詩集 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
私は何時いつにか座つて居ました。蚊帳も一隅がはづされて三角になつて居ました。灯のあかともつた隣の茶の間で
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
何だか少しジムバリストの後味ナハシユマツクに対して済まないやうにも感じたが、生まれてまだ一度もダンス場なるものを見た事がないので、かう云ふ機会をはづしては
私の社交ダンス (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
はづして、二十五燭のを使つてたよ。さうすると晝のやうに明るかつた。此方こつちでもさうするといゝ。一つで家中明るくならあ。そして長い紐で八方へ引張るさ。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
自由な無禮講のこととて、別に劍をはづしもせずに食卓に就き、食事半ばにして暑くなつたので、裘を脱いだ。
盈虚 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
公園をはづれようとするところにある交番の前へ來ると、かの女はその方をじろ/\見ながら、獨り手に巡査の立つてる方へ義雄を引ツ張つてゐるのであつた。
たとへばつちはづる〻とも青年せいねん男女なんによにして小説せうせつまぬ者なしといふ鑑定かんていおそらくはづれツこななるべし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
創立以来勤続三十年といふ漢文の老教師は、癖になつてゐる鉄縁の老眼鏡を気忙きぜはしく耳にはさんだりはづしたりしながら、相好さうがうくづした笑顔で愛弟子まなでしの成功を自慢した。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
しかしてのちある義士ぎし一撃いちげきたほれたりとかば事理分明じりぶんめいにして面白おもしろかるべしといへどもつみばつ殺人罪さつじんざいは、この規矩きくにははづれながら、なほ幾倍いくばい面白味おもしろみそなへてあるなり。
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
この黄金機会をはづさず」といふ一句へ来升と、書物を下へ置いて、母の顔をのぞき、質問いたしました。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
一寸期待がはづれたやうな、安心したやうな気持になつてゐた。その内に、母を見送りの男性は、一人増え二人加つた。が、かの青年は何時まで待つても見えなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
ロミオ はて、そのねらひはづれた。戀愛神キューピッド弱弓よわゆみでは射落いおとされぬをんなぢゃ。處女神ダイヤナとくそなへ、貞操ていさうてつよろひかためて、こひをさな孱弱矢へろ/\やなぞでは些小いさゝか手創てきずをもはぬをんな
兼吉が執つた婦人に対する最後の手段は、無論正道をばはづれてたでせう、が、生まれてかくの如き清浄な男児の心を得、又た其の高潔なる愛情の手に倒れたと云ふことは
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
此處をはづれるともう車がないので、千代松は殘念さうにしながら振り返つて車夫を手招きした。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
誰か一寸まづい顔でもすると、自分の事のやうにこの兄は座をはづして、姿を隠してしまつた。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
燠につたほだの呟き。——わたしの脊椎せきつゐはづしとつてする「洗骨式せんこつしき」を、……でなければ、肉体の髄をきつくしてする「風葬祭ふうさうさい」を、……そんな末枯うらがれた夢見もするわな。
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
その聲は相變らず低かつたが、聞いてゐる内に時々聞き慣れない調子はづれの音がまじつた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
流石さすが氣根きこん竭果つきはてけん茫然ばうぜんとしてたちつくすをりしも最少もすこまゐると御座ございませうとはなごゑしてくろかげうつりぬ、てんあたひとこそつれはづすまじといさたつすゝればはてなんとせん
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
墨股すのまたの戰ひに少しく會稽の恥をすゝぎたれども、新中納言(知盛)軍機ぐんきしつして必勝の機をはづし、木曾のおさへと頼みしじやうの四郎が北陸ほくりくの勇をこぞりし四萬餘騎、餘五將軍よごしやうぐん遺武ゐぶを負ひながら
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
さひわひにも艇中ていちうには端艇たんてい本船ほんせん引揚ひきあげるとき使用しようする堅固けんごなる鐵鎖てつぐさりと、それに附屬ふぞくして鉤形つりばりがたの「Hookフツク」がのこつてつたので、それをはづして、フツク只今たゞゐま小鰺こあぢつらぬいてやをら立上たちあがつた。
それにたまにしか帰つて来ない田舎のことだし、私自身は不評判な息子なのだからと思ふと、せいぜい世俗的な丁寧さをもつてくる私の挨拶を見て、弟はあてがはづれたといふ顔をしてゐたし
亡弟 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
死骸の頭へ頭陀袋づだぶくろ位掛けられたからつて御苦労さんに土ん中の棺桶の蓋をひつぺがして迄はづさなくつたつてよさ相なもんぢやねえか。頭陀袋一つで亡者が浮ばれねえつて訳でもあるめえに。
あいちやんがこのことひとはなさうとめるうちに、料理人クツク圍爐裏ゐろりから肉汁スープなべはづして、手當てあた次第しだいなにはじめました、公爵夫人こうしやくふじんとゞほどでしたから無論むろんぼツちやんにもあたりました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
然れど宋儒の如く何もも天理と説きて、天地風雨の事より人倫上の事爲まで、皆一定不拔の天理存して、此れよりはづるれば皆天理に背くと定むるは、餘りに措大の見に過ぎたりと謂ふべし。
尚白箚記 (旧字旧仮名) / 西周(著)
奥さんと母と私とが、この部屋の寝台や椅子を動かして大掃除をしたのです。部屋はひどく簡素で、何の風景画も掛つてゐませんでした。主人が安つぽい油絵を取りはづさせてしまつたのださうです。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
一口に言へば、彼は、今までは村に無くて不自由をして居た産婆を副業にする妾を蓄へたのだ。それから自分の家の離れ座敷をとりはづして、彼の屋敷からはすぐ下に当るところへ、それを建て直した。
鼻眼鏡ロルニヨンの金利生活先生達は、奏楽の、調子のはづれを気にします。
「おい、母衣ほろはづしてくれ。」と車の上で突然湯村が叫んだ。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
「おのづからはづるゝ水には、何もたまらず流れたり……」
武者窓日記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
そこで右大臣うだいじんもすっかりてがはづれました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
まだ兵車より單蹄の軍馬をはづすこと勿れ
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
むらはづれのおばにきく
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
「とう/\雪子ゆきこけた」とせきはづして、宗助そうすけはういたが、「うですまた洞窟とうくつへでもみますかな」とつてがつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)