ぶん)” の例文
そのひかりは、なかばつちにうずもれているためか、それほどのつよかがやきではなかったけれど、かれ注意ちゅういをひくに十ぶんだったのであります。
三つのかぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)
「一年越し世話をした女だ、ぶんに過ぎた事もしてやつてある。その恩も思はず、楊弓で主人の眼を射るとは、不都合と言はうか——」
くりけた大根だいこうごかぬほどおだやかなであつた。おしなぶんけば一枚紙いちまいがみがすやうにこゝろよくなることゝ確信かくしんした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「恐れ……恐多おそれおおい事——うけたまわりまするも恐多い。陪臣ばいしんぶんつかまつつて、御先祖様お名をかたります如き、血反吐ちへどいて即死をします。」
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その都度その金額ぶんだけこの動物のある部分を抵当にいれていくということは不便であり、じきに不可能になるだろう、というのだ。
ほとんあやふかつたその時、私達は自らすくふために、十ぶんにそのちからうたがひをのこしながらも、愛とその結婚にかくを求めようとしました。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
そして五人はかけました。一れつになって規則正きそくただしく進んで行きます。これくらいきちんとして出かければ、もうぶんはありません。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
林太郎はへんな気持きもちになりました。そしてそのむく犬がとてもなつかしくなりました。自分のきょうだいぶんのような気がしてきました。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
わたしの妹ぶんに当たるのに柄といい年格好といい、失礼ながらあなた様とそっくりなのがいますから、それのを取り寄せてみましょう。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これによりてこれを見れば一人前あるいは一人ぶんと称するは、統計学者が平均人と称するものとはだいぶおもむきを異にしているように思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
じつは昨晩、ご悲嘆のさまを、見るに見かね、おのれの身一つさえやッとな乞食法師のぶんもわすれて、つい浮世いろいろな苦患くげんばなし。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風間兵太郎にしても、清水粂之助にしても、いま仲間のひとりを斬った左膳のうで前を見ているから、十二ぶんにこころを配るべきはず。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これからわしもうすところをきいて、十ぶん修行しゅぎょうまねばならぬ。わし産土うぶすなかみからつかわされたそち指導者しどうしゃである、ともうしきかされた。
しかし、門外不出もんがいふしゅつ取扱とりあつかいには、十ぶん注意ちゅういしていましてね。わたしにしても、そうみだりに持出もちだすことはできない仕組しくみになつているんですから
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
されどもほしいままに謝張を殺し、みだりに年号を去る、何ぞ法を奉ずると云わんや。後苑こうえんに軍器を作り、密室に機謀を錬る、これぶんしたがうにあらず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
マーキュ うんうん引掻ひっかかれた/\。はて、これで十ぶんぢゃ。侍童こやっこめは何處どこにをる? 小奴やっこ、はよって下科醫者げくわいしゃんでい。
かれ平凡へいぼんぶんとして、今日こんにちまできてた。聞達ぶんたつほどかれこゝろとほいものはなかつた。かれはたゞありまゝかれとして、宜道ぎだうまへつたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
早速出かけて來て見ると、ぶんに過ぎた大きなやしきであつた。荒れ古びてこそをれ、櫻の木に圍まれて七百坪からの廣さがあつた。
樹木とその葉:04 木槿の花 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「悪くなれば休むぶんのことさ。今度の芝居はあまり気が進まないんだから、どうでもいい。いっそ休む方がいいかも知れない」
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は始めて空想の夢をさまして、及ばざるぶんあきらめたりけれども、一旦金剛石ダイアモンドの強き光に焼かれたる心は幾分の知覚を失ひけんやうにて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
中津の藩政も他藩のごとくもっぱぶんを守らしむるの趣意しゅいにして、圧制あっせいを旨とし、その精密なることほとんど至らざるところなし。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
およ本年ほんねんの一ぐわつすぎには解禁後かいきんご推定相場すゐていさうばである四十九ドルぶんの一乃至ないし四十九ドルぶんの三まで騰貴とうきすることはたしか算定さんてい出來できたのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
其故それゆゑわたくしじゆくではこの規則きそく精神せいしん規則きそく根本こんぽんかへつて、各個人かくこじん都合つがふといふところを十ぶん了解れうかいせしむるといふ方針はうしんとつるのであります。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
そして寿女は吩咐けられてクリスマスまでの一と月足らずの間に精を出して、二十足あまりのスリッパのぶんに刺繍を仕上げなければならない。
痀女抄録 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
さるころはがきにて處用しよようと申こしたる文面ぶんめんおとことほりにて名書ながきも六ざうぶんなりしかど、手跡しゆせき大分だいぶあがりてよげにりしと父親ちゝおやまんより
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あきになってれをするころになると、人にしたほうはあたりまえ出来できでしたが、自分じぶんぶんつくったほうたいそうよくみのりました。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
横川景三おうせんけいさん殿の弟子ぶんの細川殿も早く享徳きょうとくの頃から『君慎』とかいう書を公方にたてまつって、『君行跡しければ民したがはず』
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
けだし彼はおのれのぶんを知るがゆえに、たとえ何事が起ころうと、彼は責任を問わるべきではないからであります。
わがいふ秩序の中に自然はすべて傾けども、そのぶんことなりて、己が源にいと近きあり然らざるあり 一〇九—一一一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
いま社會しやくわいは一回轉くわいてんした。各個人かくこじん極端きよくたん生命せいめいおもんじ財産ざいさんたつとぶ、都市としは十ぶん發達はつたつして、魁偉くわいゐなる建築けんちく公衆こうしゆ威嚇ゐかくする。科學くわがくつき進歩しんぽする。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
火星の表面へうめんは地きう引力いんりよくの五ぶんノ二しかない だから人は地球にゐるときより二ばい半は高くべるが しかし、それ以上いじやう高くは飛べるはずがないのぢや
「なかなか暑いじゃアございませんか? このぶんじゃア、この梅雨は乾梅雨からつゆでげしょうか、な? 困ります、な」
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
聞かれ夫は奇特きどくなる申ぶん夫さへ得心とくしんせぬは合點がてんゆかぬ奴なり手錠てぢやう申付明日より三日の内に三十兩調達致せと猶々なほ/\嚴敷申渡されけり是ひとへに淡路守殿勘兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それで始めはここ一か年休学して養生ようじょうせねばと思っていたのを、このぶんならば差しつかえもあるまいという気になり、取りあえず手紙で大木に相談すると
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そのばんあつさをはら凉雨れううた、昨夜ゆうべねこのために十ぶんられなかつたあはせに今夜こんや熟睡じゆくすゐしようとおもつた。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
宿の人達にでも洩らそうものなら、その人達はいうだろう、街道筋の馬子風情が、油屋の板頭と契るとは、ぶんに過ぎた身の果報だ。捨てられるのが当然だと。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しアヽーうもこのふすまなんどす、銀錆ぎんさびで時代が十ぶんに見えますな、此方こツちや古渡更紗こわたりさらさ交貼まぜはりで、へえーうも此位このくらゐお集めになりましたな、へい、いたゞきます
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ぶんほどのうちに彼は左舷の排水孔のところへ行って、一巻きの綱の中から、柄までも血塗れになっている長いナイフ、というよりもむしろ短剣を取り出した。
左には広きひらあり。右にも同じ戸ありて寝間ねまに通じ、このぶんは緑の天鵞絨びろうど垂布たれぎぬにて覆いあり。窓にそいて左のかたに為事机あり。その手前に肱突ひじつき椅子いすあり。
彼はあたかも此の好機逸すべからずと、死の谷の方へ脱兎だっとの如くに早く駈け出して行ったのだった。多ぶん始めから脱走する心算つもりだったらしい、と一同の意見は一致した。
科学時潮 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
ぶん入院料にふゐんれう前金まへきんをさめろですつて、今日けふ明日あすにもれない重態ぢうたい病人びやうにんだのに——ほんとに、キリストさま病院びやうゐんだなんて、何處どこまち病院びやうゐんちがところがあるんだ。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
たん持と見えて、息がはずむたびに鶏のやうに顔を真つ赤にして咳き込みました。「こんなものをいただいては、せつかくお譲り申さうとした親爺の一ぶんが立ちませぬ」
小壺狩 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
大隈侯おほくまこうひとりのぶんがそれだけあるとすれば、日本全國にほんぜんこく使つかはれる年始ねんし葉書はがき大變たいへんかずだらうなア。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
とにかく、彼らは、一死をぶんとして満足・幸福に感じて屠腹した。その満足・幸福の点においては、七十余歳の吉田忠左衛門も、十六歳の大石主税ちからも、同じであった。
死刑の前 (新字新仮名) / 幸徳秋水(著)
緑雨は死の瞬間までもイイ気持になって江戸の戯作者の浮世三ぶん五厘の人生観を歌っていたのだ。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
行列に参加した人々は皆ぶん相応に美しい装いで身を飾っている中でも高官は高官らしい光を負っていると見えたが、源氏に比べるとだれも見栄みばえがなかったようである。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
死刑しけいをば十ぶん利用りようしなければならぬといふ議論ぎろんてさせ、着々ちやく/\それを實行じつかうしようとした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
御上おうへぶんしたの分とわけた御膳籠ごぜんかごもは入附添の手代より目録もそれ/\行渡り役目すめば御祝酒の𢌞りて女子供おなこどもにざれかゝり大聲立て、ばあやにゝらまれこそ/\と出行跡いでゆきしあと
うづみ火 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
〔譯〕賢者はぼつするにのぞみ、まさに然るべきを見て、以てぶんと爲し、死をおそるゝをぢて、死をやすんずるをこひねがふ、故に神氣しんきみだれず。又遺訓いくんあり、以てちやうそびやかすに足る。
君臣のぶん日星の如く明らかに、臣の君につかうるや、その情誼じょうぎ、もしくは利害のためのみならず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)