はひ)” の例文
レイクランヅはハイカラな避暑地の目録にははひつてゐない。クリンチ川の小さな支流に臨むカンバランド山脈の低い支脈の上に在る。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
と、息切いきぎれのするまぶたさつと、めたちからはひつて、鸚鵡あうむむねしたとおもふ、くちばしもがいてけて、カツキとんだ小指こゆび一節ひとふし
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かれ生活せいくわつかくごとくにしていた。あさは八き、ふく着換きかへてちやみ、れから書齋しよさいはひるか、あるひ病院びやうゐんくかである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
言はれて内室ないしつはひつて見ると成程なるほど石は何時いつにか紫檀したんだいかへつて居たので益々ます/\畏敬ゐけいねんたかめ、うや/\しく老叟をあふぎ見ると、老叟
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ニコライのドオムに面したはうの窓から私は家の中へはひると云ふのでした。私は何時いつも源氏の講義をした座敷の壁の前に立つて居ました。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
彌次馬を別けてはひつて見ると、玉垣たまがきの下、紅白の鈴の緒でしばられた堂守の死體を前に、錢形平次は腕をこまぬいて考へて居るところでした。
それから足下おぬし深切しんせつがあるなら、門番もんばんにさううて、スーザンとネルをはひらせてくりゃ。(奧に向つて)……アントニー! ポトパン!
古い仏蘭西フランスの歩兵よ、老いた墓守よ、僕に取つてお前は今から墓へはひつたも同じだ。もう再び会ふ日は無いであらう。(二月五日)
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
かごなかには、青々あを/\としたふきつぼみが一ぱいはひつてました。そのおばあさんは、まるでお伽話とぎばなしなかにでもさうなおばあさんでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
おほきなそろへて、ふすまかげからはひつて宗助そうすけはういたが、二人ふたり眼元めもとにも口元くちもとにも、いまわらつたばかりかげが、まだゆたかにのこつてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ところが、何時となしに懇意になつた近所のある商家で、「はひりに來い。」と勸めて呉れたので、それを幸ひに貰ひ風呂をすることにした。
水不足 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
父はもう襖の外まで戻つてゐながら、室の中へはようはひらずに、耳を澄まして突ツ立つてゐるのが、自分にはよく分つてゐた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
その與吉よきちみなみ女房にようばうから薄荷はくかはひつた駄菓子だぐわしを二つばかりもらつた。うら垣根かきねから桑畑くはばたけえてあるきながら與吉よきち菓子くわししやぶつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
其中にも尤も深く予に印象を與へたものは此町に耶蘇教のはひつて來た沿革である。初めは小さい家に日曜日の夜々赤い十字の提灯が點された。
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
消えかけの火が、この長い空虚くうきよな部屋に彼女がはひつてくるのを示した。彼女は私の珈琲コーヒとパンを持つて來てくれたのだつた。
しかしあしわるいまちは、すぐにつかれるので、やがてしづかなカフエーかレストランドにはひらなければならなかつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
「別にお話を聽く必要も無いが……」と三百はプンとした顏して呟きながら、澁々にはひつて來た。四十二三の色白の小肥こぶとりの男で、紳士らしい服裝してゐる。
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
それもどうものぞみはないらしいですがね、それよりもかねことですよ。先刻さつきぼく此處ここはひらうとすると、れいのあの牧師ぼくしあがりの會計くわいけい老爺おやぢめるのです。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
ほんの三四品を待合式に膳に並べて、楼婢を相手に、何の変哲もない雑談半ばへ「今日は」とも何とも言はず、のつそりと無作法にはひつて来た女は三十五六の大年増。
斎藤緑雨と内田不知菴 (新字旧仮名) / 坪内逍遥(著)
ゆきした、堅い心も突きとほす執念しふねん深い愛、石に立つ矢、どんなに暗い鐵柵てつさくあみなかへもはひ微笑ほゝゑみ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
祖父ぢいさんの咄で、お祖父ぢいさんのお祖父さんが此淵ここへ沈んだ時は三日たつても死骸が上らず、とりはひつた番頭まで出られなくなつて、しまひには如何どうとかして擔ぎげたと聞いた。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
スタインホイザアの稿本は散逸さんいつして、バアトンの手にはひつたものは僅かであつた。
老婦人 あれが何か、大きな声で、しきりにあたくしに云ひつけてをりますのが耳にはひりながら、どうしたと云ふんでせう……あれで、一度か、二度、注意はしたと思ひますんですけれど……。
落葉日記(三場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「ございます。おはひりになるのでしたら、今ちよつと見させますから。」
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
人のはひられぬ樣に厚い枳殼垣からたちがきを繞らして、本丸の跡には、希臘か何處かの昔の城を眞似た大理石の家を建てて、そして、自分は雪より白い髮をドッサリと肩に垂らして、露西亞の百姓の樣な服を着て
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
松村は寒さうに肩をすぼめてはひつて来た
瘢痕 (新字旧仮名) / 平出修(著)
⦅先生 中さはひつてもいがべすか⦆
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
ものやさしくかたうごくと、らふが、くだん繪襖ゑぶすまあなのぞく……が、洋燈ランプしんなかへ、𤏋ぱつはひつて、ひとつにつたやうだつた。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「酒は好きだが、勝負事は嫌ひだつたさうで、多分大きな仕事でも請負うけおつて、手金がはひる話だらう、つて居酒屋のおやぢは言つてましたが」
細君は怒つて先に部屋へはひつて仕舞しまふ。隣の部屋からさきの夫人のマドレエヌが手燭てしよくを執つてあらはれ一人残つたモリエエルを慰める。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ぼく不幸ふかうにして外國ぐわいこく留學りうがくすることも出來できず、大學だいがくはひることも出來できず、ですからぼく教育けういく所謂いはゆる教育けういくなるものは不完全ふくわんぜんなものでしよう。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
丁度ちやうど、おとなりで美濃みのくにはうから木曽路きそぢはひらうとする旅人たびびとのためには、一番いちばん最初さいしよ入口いりぐちのステエシヨンにあたつてたのが馬籠驛まごめえきです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
何卒どうぞ是非ぜひ一ついていたゞきたい、とふのは、じつ然云さういわけであるから、むしろきみ病院びやうゐんはひられたはう得策とくさくであらうとかんがへたのです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
其晩そのばん宗助そうすけゆめには本多ほんだ植木鉢うゑきばち坂井さかゐのブランコもなかつた。かれは十時半頃じはんごろとこはひつて、萬象ばんしやうつかれたひとやういびきをかいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
正月六日朝早く千人風呂にはひつて、その硝子窓から伊豆の沖の美くしい日の出を見ました。今日の快晴は疑ふべくも無い。
初島紀行 (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
れはうでほそかつたが、このなかには南蠻鐵なんばんてつ筋金すぢがねはひつてゐるとおもふほどの自信じしんがある。ほそきにいてゐるてのひらが、ぽん/\とつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
乳母 ま、名譽事めいよごとといの! わしばかりがちゝげたのでかったなら、その智慧ちゑちゝからはひったともひませうずに。
二個の長い食卓しよくたくには、何かしらあたゝかい物のはひつてゐる鉢から煙が出てゐた。ところが、面喰めんくらつたことには、食慾を起させるどころか、大變な臭氣を發してゐた。
それかられは傭人やとひにんにもいてやれないのだからおまへがよければつてつてあきにでもなつたら糯粟もちあはすこしもかへせと二三はひつた粳粟うるちあはたわらとを一つにつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
多緒子は、はひつて來た夫の手から幸子をとつて抱きしめた。幸子は大聲で泣きながら、彼女の乳をさぐつた。多緒子は涙ぐみながら、夢中になつて乳を與へた。
(旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
『エイブラム師』は水車場の戸を押し開いて、靜かにはひつて行つた。そして、不審さうにぢつと立ち止つた。彼は中で誰かの悲しさうな泣聲を聞いたのである。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
横井はその時分醫學專門の入學準備をしてゐたのだが、その時分下宿へ怪しげな女なぞ引張り込んだりしてゐたが、それから間もなく警察へはひつたのらしかつた。
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
汚い戲場と視官を刺すやうな色斑らな看板繪——大阪にはまだ淺草のやうに安いペンキ繪ははひつて居ない——三味線、太鼓及びクラリオネツト、かくて春日座の「兵營の夢」
京阪聞見録 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
『懸けようと思つたさ。然し何しろ四間も五間も、離れてるしね。中へ入つて行かうたつて、の通りぎつしりだからはひれやしないんだ。汗はだく/\流れるしね。よく彼んな處の中央まんなかへ入つてるもんだと思つたよ。』
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
すべては循環論法にはひつてくる。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
やがて、合方あひかたもなしに、落人おちうどは、すぐ横町よこちやう有島家ありしまけはひつた。たゞでとほ關所せきしよではないけれど、下六同町内しもろくどうちやうないだから大目おほめく。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
祖母おばあさんのかぎ金網かなあみつてあるおもくらけるかぎで、ひも板片いたきれをつけたかぎで、いろ/\なはこはひつた器物うつはくらから取出とりだかぎでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
はじめの幕は文豪の書斎である。モリエエルは机にむかつて脚本「良人学校りやうじんがくかう」に筆を着けて居る。其処そこへ小娘のアルマンがはひつて来る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
血腥ちなまぐさい事件の豫感に、平次は一寸ちよつと憂欝いううつになりましたが、直ぐ氣を變へて、ぞんざいに顏を洗ふと、びんを撫で付け乍ら家へはひつて行きました。
不好いやところへいや/\ながらかけてくのかとあやしまるゝばかり不承無承ふしようぶしようにプラツトホームをて、紅帽あかばう案内あんないされてかく茶屋ちやゝはひつた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)