かたはら)” の例文
七三君は賢弟と南おもてえきして遊ばせ給ふ。掃守かもりかたはらに侍りて七四このみくらふ。文四がもて来し大魚まなを見て、人々大いにでさせ給ふ。
かたはらなるバルザツク忽ちその語をさへぎつて云ひけるは、「君の我等に伍せんとするこそ烏滸をこがましけれ。我等は近代文芸の将帥しやうすゐなるを」
甲越の決戦を観望して、「かたはら毒龍有り、其蹷つまづくを待つ」の感があつた北條氏康は、元亀二年に歿し、こゝに均衡勢力の一端は破れた。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
福田氏の抄本を見るに、「十月」のかたはらに「原書のまま」と註してある。按ずるに福田氏も亦此「十」字に疑をさしはさんでゐるらしい。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
既にその顔を見了みをはれば、何ばかりのたのしみのあらぬ家庭は、彼をして火無き煖炉ストオブかたはらをらしむるなり。彼の凍えてでざること無し。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
テルモンド市のかたはらを流れるエスコオ河に、幾つも繋いである舟の中に、ヘンドリツク・シツペの持舟で、グルデンフイツシユと云ふのがある。
世話好せわずきなのが、二人ふたりつて、これかたはらかべけると、つばめでもがんでもなかつた。するところ樓臺亭館ろうだいていくわん重疊ちようでふとしてゆる𢌞めぐる、御殿造ごてんづくりの極彩色ごくさいしき
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たゞ絵解きが持つてゐる琵琶によつて、やはり琵琶法師の系統で、其は民間の祈祷をしつゝ歩いた者が、かたはら、琵琶法師をもしてゐたのであらう。
お伽草子の一考察 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
百樹もゝき曰、北越に遊びて牧之老人が家に在し時、老人家僕かぼくめいじて雪をこぐ形状すがたを見せらる、京水かたはらにありて此図をうつせり。穿物はくものは、○かんじきすかりなり。
そのかたはらには第二の巣を営みありき。呼ばれて答ふる第二の猿の声は直ちに聞えたり。余は同時に二疋の猿を殺すことを得べきを思ひて喜びゐたり。
(新字旧仮名) / ジュール・クラルテ(著)
かれは何方どちらかと言へば狭い一室のテイブルかたはらにある椅子に腰をおろして、さう大した明るいとは言へない光線のもとに、寝床ベツトの上に敷かれた白いシイトや
(新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
思はずかたはらを顧るに派手なる浴衣着たる若者あり。われと同じき思ひにて茫然と役人衆の後姿を見送れるていなり。われ其の男に向ひて独言ひとりごとのやうに
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
密語ひそめきの声は漸々だんだん高まつた。中には声に出して何やら笑ふのもある。と、孝子は草履の音を忍ばせて健のかたはらに寄つて来た。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
醉つた時にはおきまりで、かたはらに人無きが如き我儘を極める蟒は、外の客には目もくれずに、三田の前に坐つて、直ぐさまコツプ酒をあふりつけた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
元々此の短歌なるものは、生活のかたはらに生じた芸術といふ感じの強いものであつて、短歌が、一人の人間の全生命となるといふ風のものではなかつた。
新短歌に就いて (新字旧仮名) / 中原中也(著)
吾等われらまへつて、武村兵曹たけむらへいそうわたくしとのかほながめたが、左迄さまでおどろいろがない、目禮もくれいをもつてかたはら倚子ゐすこしけ、鼻髯びぜんひねつてしづかに此方こなた向直むきなをつた。
わが歩みは檜の日かげより丘のはづれの小亭へ、そのかたはらの径を下りて睡蓮科の生ひひたれる小さき池のほとりへゆく。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
何所迄どこまで恰当こうとうこしらへかたはら戸棚とだなけるとたなつてあつて、ズーツと口分くちわけいたして世辞せじの機械が並んでる。
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
といふのは、親切な牛飼は、牛のかたはらを腕を組んで歩いてゐるばかりで、牛の手綱を持つてゐるのは、十二、三にしか見えない男の子供だつたからである。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
哲は学校の風呂敷を店火鉢のかたはらで結んで居た。お末は甲斐々々しくそれを手伝つてやつて居た。暫くしてから
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
畫題ぐわだいは『自然しぜんこゝろ』と謂ツて、ちらしがみ素裸すつぱだかわかをんなが、新緑しんりよく雑木林ざふきばやしかこはれたいづみかたはらに立ツて、自分のかげ水面すゐめんに映ツてゐるのをみまもツてゐるところだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
黒檀こくたんの森茂げきこの世のはての老国より来て、彼は長久の座を吾等のかたはらに占めつ、教へて曰く『寂滅為楽』。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
愚老ぐらうにおはなしとは、どういふでござりますか。』と、玄竹げんちくさかづきかたはらいて、但馬守たじまのかみ氣色けしきうかゞつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
われは只だ衆のなすところにならひて、共に拍手したるのみ。少女をとめは又輕快なる舞の曲を彈じ出せり。男客をとこきやくの三人四人は、急にかたはらなる婦人をいざなひて舞ひはじめたり。
卯平うへい患者くわんじやの一にんでさうしておしないへなやんでた。おしなはゝ懇切こんせつ介抱かいはうからかれすくはれた。かれはどうしても瀕死ひんし女房にようばうかたはら病躯びやうくはこぶことが出來できなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼の僧は春が來れば茫然として開いて散る花を眺め、夏が來れば烈しい日光ひかげまなこを閉ぢ、冬が來れば暖爐のかたはらから暗い日の過ぎ行くのを悲し氣に見送るのであらう。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
僕は最初の日に、手足の驚くほど細い、たゞ無暗むやみと泣いてゐる赤ん坊を母親のかたはらに見て、第一にあゝ大変だと思つたからだ。こんなに弱々しくてどんなものだらう。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
かたはらに来合せた巡査に日本の汽船が碇泊して居るかと聞いたら、一昨日をととひ常陸丸が出て仕舞しまつたと語つて
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
九郎はまだ私の装束に気づかず、かたはらの酒徳利をつかむと同時に、いきなり私の頭をポカリと叩いた。——音だけは聞えたが、私は徳利が頭に触れたのも感じなかつた。
鎧の挿話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
その右のかたはらに藤森淳三(その頃の新進評論家、今は日本画の評論家)が一人しよんぼり立つてゐた。
此遺書を発見する人は、小生が之を認め候時、かたはらの室にて妻の安眠し居たりしことを承知せられ度候。良心に責めらるる如き人はかくの如く安眠することはあらじと存じ候。
吹落ふきおとしければ思はず兩人はかほ見合みあはせける此時兵助聲をかけ汝は山口六郎右衞門ならずやわがかく零落れいらくせしも皆汝が仕業しわざぞとかたはらにある竿竹さをだけとつて突て掛る六郎右衞門も心得こゝろえたりと身を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かたはらに直下数丈の瀑布ばくふありてはばすこぶひろし其地のいうにして其景のなる、真に好仙境こうせんきようと謂つべし、ちなみに云ふ此文珠岩はみな花崗岩みがけいわよりりて、雨水のくは水蝕すゐいつしたるなり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
ところがわたしがさう気が附いた時には、もう二人はわたしの掛けたベンチのかたはらを通り過ぎて、わたしに背を向けて歩いてゐます。実は、兄いさん、わたし今少しで口笛を吹く所でした。
(新字旧仮名) / グスターフ・ウィード(著)
そのあひだ彼女かのぢよは、無産者むさんしや××同盟どうめい支部しぶはたらかたはら、あるデパート專屬せんぞく刺繍ししう工場こうぢやうかよつて生活せいくわつさゝへた。そのうち、三・一五事件じけんとして有名いうめいな、日本にほん×××ゐん全國的ぜんこくてき大檢擧だいけんきよおこなはれた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
十一月中旬なかばの夜は既にけ行きぬれど、梅子はいまだ枕にもかざるなり、乳母なる老婆はかたはら近く座を占めて、我がかしらにも似たらん火鉢の白灰はひかきならしつゝ、梅子をうらみつかき口説くどきつ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
こひしかるべきものをといまこひしく、とこものおもふ令孃ひめ甚之助じんのすけ暫時しばしかたはらはなれず、今宵こよひ此處こヽんとひしを、明日あすあさ邪魔じやまなればと母君はヽぎみ遠慮ゑんりよして、かれしあとのなほさらさびしく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
われはおのれ生涯しやうがいのあまりきよくないこと心得こゝろえてゐる、みちかたはら菩提樹下ぼだいじゆか誘惑いうわくけたことつてゐる。たま/\われにさけませる会友くわいいうたちの、よく承知しようちしてゐるごとく、さういふもの滅多めつた咽喉のどとほらない。
井のかたはらなる壁に基督きりすとサマリヤの婦人をんなに語り玉ふ小さき画額を掲ぐ。
二十錢の代價だいかふたゝきみかたはらかへつて來ること受合うけあひだと言ふ。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
若き友ひとりかたはらに来つつ居りこの友もつひにやまひを持てり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
その水陣のかたはらに我れ安んじて、さまよひき。 260
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
強い石のかたはらの弱々しいスミレのやうに
かたはらより遠ざけ給はで
江木鰐水がくすゐは頼山陽を状したが、山陽が歿した時かたはらにあつたものでは無い。それゆゑわたくしは傍にあつたもののことを聞かむことを欲する。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
互に歩み寄りて一間ばかりにちかづけば、貫一は静緒に向ひて慇懃いんぎんに礼するを、宮はかたはらあたふ限は身をすぼめてひそか流盻ながしめを凝したり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
第一は宣伝を目的としたものと、第二に文芸を造るかたはら宣伝するものとがある。第二の部類にはシヨオの作など這入はいると思ふ。
プロレタリア文学論 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ひかけて、ぐつとつまると、しろのづぼん、おなじ胴衣どうぎのたけこれにかなつて風采ふうさいがつた、しや代表だいへう高信たかのぶさん、かたはらよりすゝでゝ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、青年の言葉を、噛しめてゐる中に、美奈子はかたはらの渓間へでも突落されたやうな烈しい打撃を感ぜずにはゐられなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
百樹もゝき曰、北越に遊びて牧之老人が家に在し時、老人家僕かぼくめいじて雪をこぐ形状すがたを見せらる、京水かたはらにありて此図をうつせり。穿物はくものは、○かんじきすかりなり。