せま)” の例文
旧字:
「しかし、こんなに、みじかくては、よくべないだろう。それに、せまいかごのなかに、はいっていたので、羽先はさきがすれているから。」
自由 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ただ花の器官に大小広狭こうきょう、ならびに色彩しきさいの違いがあるばかりだ。すなわち最外さいがいの大きな三ぺん萼片がくへんで、次にあるせまき三片が花弁かべんである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
踊りはいつまでもつづき、時がたつにつれてその輪が大きくなり、あとでは、輪を二重にしなければ、室がせますぎるほどになった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
あのふさふさと巻いたかみが、あのせまくるしいはこの中に納められて、じめじめした地下のやみのなかにねむっているところを心にえがいた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
此次このつぎ座敷ざしきはきたなくつてせまうございますが、蒲団ふとんかはへたばかりでまだあかもたんときませんから、ゆつくりお休みなさいまし
いつものように学校がっこうってみると、袖子そでこはもう以前いぜん自分じぶんではなかった。ことごとに自由じゆううしなったようで、あたりがせまかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いずれも表の構えは押しつぶしたようにのきれ、間口まぐちせまいが、暖簾の向うに中庭の樹立こだちがちらついて、離れ家なぞのあるのも見える。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
然し彼が吾有にした十五坪の此草舎には、小さな炉は一坪足らぬ板の間に切ってあったが、周囲あたりせまくて三人とはすわれなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
やがてきついたところはそそりおおきないわいわとのあいだえぐりとったようなせま峡路はざまで、そのおくふかふか洞窟どうくつになってります。
ぷうんとは、やつとげるにはげたが、もうせま蚊帳かやなかがおそろしくつて、おそろしくつてたまらなくなりました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
大なるは七八けん、種々のかたちをなし大小ひとしからず、川のひろき所とせまき処とにしたがふ。あしたさけはじめてゆふべにながれをはる。
それとほとんど平行しながら通っているのだが、それらの二つの平行線をはすかいに切っている、いくつかのせまい横町があった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そう云う薄暗い堂内に紅毛人こうもうじん神父しんぷが一人、祈祷きとうの頭をれている。年は四十五六であろう。額のせまい、顴骨かんこつの突き出た、頬鬚ほおひげの深い男である。
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ようやれてたのであろう。行燈あんどん次第しだいいろくするにつれて、せまいあたりの有様ありさまは、おのずからまつろうまえにはっきりした。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
方二間位のプウルには、青々と水がたたえられ、船の動揺どうようにしたがって、れています。周囲にベンチが二つ、置かれてあるだけのせまい甲板です。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
二人は双方そうほうで互に認識したように、しだいに双方から近づいて来る。余が視界はだんだんちぢまって、原の真中で一点のせまき間にたたまれてしまう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
知る人の区域もはなはせまかりしが近時第一高等学校と在横浜米人との間に仕合マッチありしより以来ベースボールという語ははしなく世人の耳に入りたり。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
「ああ、あいてて……」ふくれかけた鼻提灯はなちょうちんが、急にひっこんで、その代りドン助はバネ人形のように起きあがった。そこはせまい狭い箱の中だった。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
理念的、観念的に受け取ろうとするのでなく、無碍むげ自在に神仏と人間が生活を営みあっていたかたちです。それからみると今日の寺院はせまき門です。
親鸞の水脈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大きな百貨店にはあらゆる品々が所せまきまでに並んでいますがその多くは誤魔化しものなのをかくすことが出来ません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
とづいとつと、逆屏風さかさびやうぶ——たしかくづかぜみだれたの、——はしいて、だん位牌ゐはい背後うしろを、つぎふすまとのせまあひだを、まくらはうみちびきながら
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかし目に見えない将来の恐怖きようふばかりにみたされた女親をんなおやせまい胸にはかゝ通人つうじん放任はうにん主義は到底たうていれられべきものでない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
およそ其半なるをたしかめたり、利根山奥は嶮岨けんそひとの入る能はざりしめ、みだりに其大を想像さう/″\せしも、一行の探検に拠れば存外ぞんぐわいにも其せまきをりたればなり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
細き橋を渡り、せまがけぢて篠田は伯母の軒端近く進めり、綿糸いとつむぐ車の音かすかに聞こゆ、彼女かれは此の寒き深夜、老いの身のほ働きつゝあるなり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しかし東京へ移ってから、子供が大ぜい生れたりして、家内やうちせまくなった上に、貯財も少し出来て来たので、夫人のすすめで売家を一軒買うことにした。
ところがだんだん進んで行くうちに僕たちは何だかおたがいの間がせまくなったような気がして前はひとりで広い場所を
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ハテナ!——と与の公、橋の下をのぞくと、せま河原かわら、橋くいのあいだにむしろを張って、おこもさんの住まいがある。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
で子供が眼を覺ました時のやうに、眼をひツこすツてゐると、誰かギシ/\音をさせて、せま楷梯はしごのぼつて來る。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
せま前庭まえにわに敷いた石に、しっとりと打ち水がしてあって、れた石のいろが、かえってわびしかった。
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
押入れのはめこみの中の仏壇ぶつだんの前に、姑のまつが寝たっきりであった。その次に与平の寝床、真中まんなかは子供二人の寝床。それでもうせまい部屋はいっぱいになってしまう。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
で、やがて娘はみち——路といっても人の足のむ分だけを残して両方からは小草おぐさうずめている糸筋いとすじほどの路へ出て、そのせまい路を源三と一緒いっしょに仲好く肩をならべて去った。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
といって二十日も一月も晴天が続くと川の水が減少して鮎のせまくなりますのに硅藻があま生長せいちょうすぎこわくなりますから鮎はやっぱり餌に飢て味が悪くなります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
また三つには、国際生活の緊密化に伴って、政治家もせまい一国の限界をえて、大地域的または国際的な行動力と組織力を得ることが、たいせつな資質となりつつある。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
日本においてワグナーのレコードが、必ずしも商業的に歓迎されないのは、まことにやむを得ないことではあるが、なんとはなしに、肩身のせまさを感じないわけにはいかない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
門から右のほうへ、港にそってのびているせまい陸地には、古い建物がならんでいます。青銅の人は、かべのひくい、四角い窓と大きな屋根のある建物のところへ歩いていきました。
そんなことをいった日には世間がせまくなるばかりだから一つ気を大きく持たせるべし。
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それでも、ほこを失ったものは車輻しゃふくってこれを持ち、軍吏ぐんり尺刀せきとうを手にして防戦した。谷は奥へ進むに従っていよいよせまくなる。胡卒こそつは諸所のがけの上から大石を投下しはじめた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
清三はまたいっそう快活になった友だちに対してなんだか肩身がせまいような気がした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
よろいを着ると三十銭あがりだった。種吉の留守にはお辰が天婦羅を揚げた。お辰は存分に材料を節約しまつしたから、祭の日通り掛りに見て、種吉は肩身かたみせまい想いをし、鎧の下をあせが走った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
老婦人は息子むすこ召使めしつかいたちに親しげにうなずいてみせました。それから、人々は老婦人をせまい暗い小路こうじの中の、とある小さな家へ運んで行きました。そこにこの老婦人は住んでいました。
それでいて足音あしおとしずかで、ある様子ようす注意深ちゅういぶか忍足しのびあしのようである。せま廊下ろうかひと出遇であうと、まずみちけて立留たちどまり、『失敬しっけい』と、さもふとこえいそうだが、ほそいテノルでそう挨拶あいさつする。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
こんなせまっくるしい竹藪たけやぶん中で遊んだって、ちっとも面白かねえや! 都へ行きゃ、綺麗きれい御所車ごしょぐるまが一杯通ってるんだぞ! 偉い人はみんな車に乗って御殿に行くんだ! 綺麗きれいな着物を着て
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
角楼は石階いしきだせまわきのぼる高壁たかかべ内外うちと雪こごり積む
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
村といつてもせまいもの。
このは、まちは、いつもとことなって、いろいろの夜店よみせが、大門だいもん付近ふきんから、大通おおどおりにかけて、両側りょうがわにところせまいまでならんでいました。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
土間につづいた三畳敷の部屋が、それだろうとも思ったが、それにしては少しせますぎた。その次に、もう一つかなりの広い畳敷があった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
茶の間に近き六尺は膳椀ぜんわん皿小鉢さらこばちを入れる戸棚となってせまき台所をいとど狭く仕切って、横に差し出すむき出しの棚とすれすれの高さになっている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何処どこまで歩いて行つても道はせまくて土が黒く湿しめつてゐて、大方おほかた路地ろぢのやうにどまりかとあやぶまれるほどまがつてゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
太夫たゆうめておどったとて、おせんの色香いろかうつるというわけじゃァなし、芸人げいにんのつれあいが、そんなせまかんがえじゃ、所詮しょせんうだつはがらないというものだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
内緒部屋ないしょべやの障子のさんには、絶えず波の影が揺らいでいた。すぐ裏手が、晩には猪牙ちょきの客を迎えるせまい河だった。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)