かゞ)” の例文
上の者も恐れて山三郎には自然頭を下げる様になり、又弱い者は山三郎を見まして旦那様/\と遠くから腰をかゞめて尊敬いたします。
もう駄目だとさとつた私は、二つに割れた石板せきばん缺片かけらかゞんで拾ひながら、最惡の場合に處する爲めに、勇氣をふるひ起した。時は來た。
指折ゆびをかゞめて勘定かんじようして、今晩こんばんは、よるまをせば、九晩こゝのばんひるまをせば、十日とをか經過けいかいたしましたことよ。かういふおこたへをしたのです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
また同じことを繰り返へして、猪之介は馬鹿丁寧に小腰をかゞめつゝお光に挨拶してから、旦那に尻を向けて上り口に腰をかけた。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
其の物音に自分は沈思のうちから振向いて眺めやると、机の上のランプの光が斜めに流れて、かゞんで働いて居る小間使花の横顏を照す。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
(お休みの処を、済みません、)と丁寧に小腰をかゞめて挨拶あいさつをしたが、うっかり禁句とは心着かなかった。飯炊はつらを膨らして
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ウヰルソンの義弟といふのは、たけ七尺もあらうといふ背高男のつぽで、道を歩く時にはお天道様てんとうさまが頭につかへるやうに、心持せなかゞめてゐた。
勘次かんじ船頭せんどうわざ自分じぶんきのめしたものゝやうにかんじてひど手頼たよりない心持こゝろもちがした。かれ凝然ぢつかゞんで船頭せんどうあやつまゝまかせた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
鋭くしやんとした酒井と、重くかゞみ加減になつてる行田とはいつも兩人ふたりながら膝前をきちりと合はせて稽古の座敷の片隅に並んで座つてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
實際じつさいおもつたよりもはやく、それを半分はんぶんまないうちあいちやんはあたま天井てんじやうにつかへたのをり、くびれない用心ようじんかゞんで、いそいでびんした
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
さして立去たりあとに殘りし男はなほ内の樣子をうかゞひ居る故旅僧たびそうは見付られなば殺されもやせんといきこらへて車のかげかゞみ居る中此方の板塀いたべいの戸を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
目をばまさる鏡とせんとてわがかの水(人をしてそのなかにて優れる者とならしめん爲流れいづる)のかたに身をかゞめしその早さにはかじ 八五—八七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
背骨や腰が柳の枝でもたかねたやうにかゞんで来たけれど、私には何うしても同情することのできない気質をもつてゐた。
余震の一夜 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
後ろから覗くやうに小腰をかゞめたのは、その繼娘で小牧家の一粒種、かつては甥の傳七郎と娶合めあはせようとしたお優でせう。
噫世に誰か此フンの意味の能く解る人があらう。やがて身をかゞめて、落ちて居た櫛を拾ふ。抱いて居る兒はまだ乳房を放さない。隨分強慾な兒だ。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
と、蝋燭ろふそくの火をげて身をかゞめた途端とたんに、根太板ねだいたの上の或物は一匹いつぴきの白いへびに成つて、するするとかさなつたたヽみえてえ去つた。刹那せつな、貢さんは
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
道翹だうげうかゞめて石疊いしだゝみうへとら足跡あしあとゆびさした。たま/\山風やまかぜまどそといてとほつて、うづたかには落葉おちばげた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
顔をあからめてそれを拾はうとする時に、うしろから来た人はかゞんだ平井の身体からだを押したのでひよろひよろとした。
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
見れば、チエスタ孃が、うす暗い會衆席に、擴げ持つた手紙の上にかゞみながら、坐つてゐるのだつた。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
歌ふ僧の「ミゼレエレ」(「ミゼレエレ、メイ、ドミネ」、主よ、我をあはれみ給へ、と唱へ出す加特力カトリコオ教の歌をいふ)唱へはじむるとき、人々は膝をかゞめて拜したり。
尺蠖せきくわくは伸びて而もまたかゞみ、車輪は仰いで而も亦る、射る弓の力窮まり尽くれば、飛ぶ矢の勢変りかはりて、空向ける鏃も地に立つに至らんとす、此故に欲界の六天
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
彼等は皆同じ様に椀被わんかむり頭をして居た。そして、同じ様なこまかい双子縞の衣服に黒い小倉帯をしめ、黒い皮鼻緒の雪駄せつたを穿いてちやら/\と前かゞみに忙しさうに歩いて居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
時々とき/″\同室どうしつ者等ものらけて、ひとりまどところつて、なにかをむねけて、かしらかゞめて熟視みいつてゐる樣子やうすたれ近着ちかづきでもすれば、きまりわるさうにいそいでむねからなにかをつてかくしてしまふ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その先きは低い隧道すゐだうになつたので、己は腰をかゞめて進んだ。折々岩角が肩に触れる。暫く歩くうちに屈めた腰が疲を覚えて来た。己は推測した。多分此道はわざと難渋にしてあるのだらう。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
身を前にかゞめて、狡猾らしく笑ふのは、素焼の城持ちの貴婦人である。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
わたくし二人ふたり案内あんないしたがつて、鐵門てつもんくゞつたが、はじめ十ばかりのあひだかゞめてあゆほどで、ひろくなつたとおもふと、まへには、いわきざんでまうけられたけわしい階段かいだんがある、その階段かいだんつくすと
家の下部しもべが、かゞ
かさぬ宿 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
スウプと魚とはもう出すばかりになつてゐて、料理番は逆上のぼせきつて、身も心も燃えだしさうになりながら、鍋の上に身をかゞめてゐた。
男か女か分りませんが、しきりと手を出しておいで/\をしてお竹を招く様子、腰をかゞめて辞儀をいたし、また立上って手招ぎをいたします。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
もん左側ひだりがはに、井戸ゐど一個ひとつ飮水のみみづではないので、きはめてしほからいが、そこあさい、かゞんでざぶ/″\、さるぼうでらるゝ。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
立出たちいで見れば水はなく向ふのいへに話しの老人らうじん障子をひらきて書をよみゐたるに是なる可しと庭口にはぐちより進み入つゝ小腰こごしかゞまことに申し兼たれどもおみづ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
みつはと振り返へると、横のこみちからくはかついで來た百姓に小腰をかゞめつゝ、物をいてゐたが、やがて嬉しさうな顏をして小走りに小池に追ひ付き
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
死者は死するに生者は生くるに異ならず、まのあたり見し人なりとて、わがかゞみて歩める間に踏みし凡ての事柄を我よりよくは見ざりしなるべし 六七—六九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「へへへ……」客は海老のやうに腰をかゞめて恐縮した。「実はその、先生、私どもの職業しやうばいは天麩羅屋なんでしてね。」
「こうれ、この阿魔奴あまめ、しらばくれやがつて、どうしたんだよ」勘次かんじかゞんだまゝのおつぎをぐいといた。おつぎはころがりさうにしてやうやつちいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
嗚呼東京に來たのだつけと思ふと、昨晩ゆうべの足の麻痺しびれが思出される。で、膝頭を伸ばしたりかゞめたりして見たが、もう何ともない。階下したではまだ起きた氣色けはひがない。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ロダンの作で有名な「思想家」が入口の正面の空地あきちに円い屋根、円い柱の大伽藍を背負ふ様に少しかゞんで、膝の上の片肱に思慮と意志との堅実さうな顔を載せて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
うまことつてら!』とてゝはとふたゝ落着おちつきました、あいちやんはくびえだからえだからみさうなので、出來できるだけもりなかかゞんでゐましたが、あるときには屡々しば/\あしめて
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
小腰をかゞめるのを見ると、二十四五の、これは本當に良い男振りでした。
背の高い山崎は少し身をかゞめるやうにして黒子ほくろの女に云つた。
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
薄暗闇うすくらがりの中から、後光ごくわうにつゝまれた顏を現はして、不思議な憐れみをこめて、私の上にかゞみかゝりはしないかと、心配になつて來たから。
今權六がかゞんで見て居りますと、犬がグック/\と苦しみ、ウーンワン/\といやな声でえる、暫くもがいて居りましたが
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
此女このをんなうへすわつて、むらさきをんなが、なゝめになよ/\とこしけた。おとしたもすそも、かゞめたつまも、痛々いた/\しいまでみだれたのである。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さても吉兵衞はもとよりとめる身ならねば乳母うばかゝゆべき金力ちからなく情け有家へ便たよこしかゞめて晝夜をわかたず少しづつもらなし又はちゝの粉や甘酒あまざけと一日々々を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
はるかにぽつり/\とえる稻刈いねかり百姓ひやくしやう㷀然ぽつさりとしたかれからかくれようとするやう悉皆みんなずつとひくかゞめてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
我等をティチオにもティフォにも行かしむる勿れ、この者よく汝等のこゝに求むるものを與ふるをうるがゆゑに身をかゞめよ、顏をしかむる勿れ 一二四—一二六
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
北満洲の秋の野にはいなごや蛙が飛んだり、跳ねたりしてゐたが、新調の軍服を見ると、急に地面ぢべたかゞんでしまつた。軍服は大手をつて、その前を通り過ぎた。
ナンシイ市を過ぎて仏蘭西フランスの国境を離れた汽車の中で二人は初秋はつあき夜寒よさむを詫びた。自分は三等室の冷たい板の腰掛の上で良人をつとの膝を枕に足をかゞめてからうじて横に成つて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
『痛くねえす。』とお定は囁いたが、それでも忠太がまだ何か話欲しさうにかゞんでるので
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
今年三十三の小池が、指をかゞめて數へてみると、お光は二十四になつてゐる。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)