おと)” の例文
その美しさにおとらざる悦びをあらはしわが方にむかひていふ。われらを第一の星と合せたまひし神に感謝の心をさゝぐべし。 二八—三〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
みちみち孔子と昨夜の老人とをならべて考えてみた。孔子の明察があの老人におとる訳はない。孔子のよくがあの老人よりも多い訳はない。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
綺麗さは二人におとらなかつたでせうが、これは働き者で親孝行で、お今、お三輪のやうに、浮いた噂などは微塵みぢんもなかつたのです。
この点にいたっては芸妓よりも多く人をあざむくもので、神仏しんぶつの目より見たら、恐らくは芸妓よりはるかにおとったものと思われましょう
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
赤心まごゝろばかりはびとにまれおとることかは、御心おこゝろやすく思召おぼしめせよにもすぐれし聟君むこぎみむかまゐらせて花々はな/″\しきおんにもいまなりたまはん
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
はしうへかはうへにぎはひを人達ひとたち仲見世なかみせ映画街えいぐわがいにもおとらぬ混雑こんざつ欄干らんかんにもたれてゐる人達ひとたちたがひかたあはすばかり。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
どちらもけずおとらぬえらいちからでしたから、えいやえいや、両方りょうほうあたまりこをしているうちに、けかかって、にわとりきました。
雷のさずけもの (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
共に祖先の口碑こうひをともにして、旧藩社会、別に一種の好情帯を生じ、その功能こうのうは学校教育の成跡せいせきにも万々ばんばんおとることなかるべし。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そこで余等も馬におとらじと鼻孔びこうを開いて初秋高原清爽の気を存分ぞんぶんいつゝ、或は関翁と打語らい、或はもくして四辺あたりの景色を眺めつゝ行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
女主人公じょしゅじんこうの熊野をつとめた婦人は、このお腰元にくらべていたく品形しなかたちおとっていたので、なぜあの瓢箪ひょうたんのようなのがシテをする。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
初鮏は光り銀のごとくにしてすこしあをみあり、にくの色べにをぬりたるがごとし。仲冬の頃にいたればまだらさびいで、にくくれなうすし。あぢもやゝおとれり。
けれどもその間にも、もしまた負けてしまつたら、いつか私は、以前の叛逆のことを今におとらず他日後悔させられるといふことを知つてゐた。
また鈍根どんこんの子弟をじしめて、小禽しょうきんといえども芸道の秘事を解するにあらずや汝人間に生れながら鳥類にもおとれりと叱咜しったすることしばしばなりき
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
此うなツては、幾らえらい藝術家も、やなぎ飛付とびつかうとするかはづにもおとる………幾ら飛付かうとして躍起やツきになツたからと謂ツて取付くことが出來ない。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
子供とたけくらべをすると、親はたしかに勝つ。しかし段々成長すると、親の身長がかえっておとることもあり得る。精神の面でも、無論その面が多い。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
こゝへもわたしきましたが、出來できまへのものより、すこおとるようでありますが、大體だいたいにおいておな調子ちようしであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
はる若葉わかば新緑しんりよくもりうつくしさとともに、なつ濃緑こみどりがすんだのちあきはやし紅葉もみぢ景色けしきも、いづれおとらぬ自然しぜんほこりです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
しめしは江戸四宿の内只此品川のみ然れば遊客いうきやくしたがつて多く彼の吉原にもをさ/\おとらず殊更ことさら此地は海にのぞみてあかつきの他所ほかよりも早けれど客人まろうど後朝きぬ/″\
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
二十九日、市中を散歩するにわずか二年余見ざりしうちに、著しく家列いえならびもよく道路も美しくなり、大町末広町なんどおさおさ東京にもおとるべからず。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そうして、日本人そのものはといえば、欧州人おうしゅうじんよりも体格はおとるし、有色ではあるし、言語も不自由であるから、自然軽蔑けいべつされたのも無理はありません。
国際射的大競技 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
もしそのひかりの中でならば、人のおごりからあやしい雲ときのぼる、ちりの中のただ一抹いちまつも、かみの子のほめたもうた、せいなる百合ゆりおとるものではありません
めくらぶどうと虹 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
すると、さすがにめずらしい宝石ほうせきだけあって、あかみどりあおむらさきかがやいて、どれがほかのものよりおとるということなく、とれずにはいられなかったのであります。
宝石商 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ぼくはにぎり飯をほうり出して、手についてる御飯つぶを着物ではらい落としながら、大急ぎでその人のあとからけ出した。妹や弟も負けずおとらずついて来た。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
こんな風だから部落民が非常に粗末な食事しかとれないのが当然で、御飯は私が今食べさせられているような挽割麦ひきわりむぎであるが、実はその監獄飯かんごくめしよりもおとっていた。
太田筑前殿は老巧者ろうこうものだ、我等が上にいただいてもあえて不足はないが、駒井は何者だ、あれは我々よりズット年下、しかも知行高ちぎょうだかも格式も以前は我々におとること数等
人間にんげん修行しゅぎょうもなかなかつらくはあろうが、竜神りゅうじん修行しゅぎょうとて、それにまさるともおとるものではありませぬ。現世げんせには現世げんせ執着しゅうじゃくがあり、霊界れいかいには霊界れいかい苦労くろうがあります。
タイムは、それにもかかわらず、遊んでいるような外国クルウに比し、全然、おとっておりましたが、ぼく達は、努力しすぎて負けることを、少しもはじとせぬいさぎよい気持でした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
冗談じょうだんじゃござんせんぜ、若旦那わかだんな。こいつを間違まちがえたんじゃ、まつろうめくらいぬにもおとりやさァ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
むすめでございますか? むすめ眞砂まさごとしは十九さいでございます。これはをとこにもおとらぬくらゐ勝氣かちきをんなでございますが、まだ一武弘たけひろほかには、をとこつたことはございません。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ヴェスヴィオ噴火ふんかによるポムペイ全滅ぜんめつ慘事さんじまさるともおとることなきほどの出來事できごとであつた。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
ああ物質ぶっしつ新陳代謝しんちんたいしゃよ。しかしながら不死ふし代替だいたいもって、自分じぶんなぐさむるとうことは臆病おくびょうではなかろうか。自然しぜんにおいておこところ無意識むいしきなる作用さようは、人間にんげん無智むちにもおとっている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
山嵐もおれにおとらぬ肝癪持かんしゃくもちだから、負けぎらいな大きな声を出す。控所に居た連中は何事が始まったかと思って、みんな、おれと山嵐の方を見て、あごを長くしてぼんやりしている。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
くまばちふる土塀どへい屋根やねしたのやうなところにおほきなをかけますが、地蜂ぢばちもそれにおとらないほどの堅固けんごなもので、三がいにも四かいにもなつてて、それがうるしはしらさゝへてあります。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
四方の山々の中に最もひいでたるを早池峯はやちねという、北の方附馬牛つくもうしの奥にあり。東の方には六角牛ろっこうし山立てり。石神いしがみという山は附馬牛と達曾部たっそべとの間にありて、その高さ前の二つよりもおとれり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
というのは、神尾喬之助に生きうつしの、まさるともおとらぬ美青年の茨右近。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
わしが生きている間、わしをいかにぐうしたか。それをわしは永劫えいごうに忘れぬぞ。この世界はゆがめる世界だ。善が滅び悪が勝つ世界だ。あゝ、なきにおとる世界だ。かかる世界は悪魔の手に渡すがいい。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
いっぽうは太刀たちの名人、いっぽうは錬磨れんまやり、いずれおとらぬさきに秘術のみょうをすまして突きあわせたまま、松風わたる白砂の上に立ちすくみとなっているのは、白衣びゃくえ木隠龍太郎こがくれりゅうたろう朱柄あかえの持ち主
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
監獄の防空室にくらべると、たいへんおとる。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
昔の人にやおとるべき
県歌 信濃の国 (新字新仮名) / 浅井洌(著)
しかしてかくいたくおとりて見ゆる分のわれらに與へられたるは、われら誓ひを等閑なほざりにし、かつ缺く處ありしによるなり。 五五—五七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
二人はそれでも負けずおとらずぢ合ひました。あまりに咄嗟とつさの出來事で、遠ざけられた近習達が、驅け付ける暇もなかつたのです。
随分軍隊と同じような組織で、きびしゅう御座います。実にある点は高尚で完全ですが、またある点はおとって居る処もありますよう思われます。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
てよ。雖然けれども自分じぶん製作こしらへたざうだ、これが、もし価値ねうちつもつて、あの、おうらより、はるかおとつてたらうする。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかし思慮するに参考とすべき種々の観察を下し、あるいはこれが材料を集むることは決して男子におとるものでない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
こんどのいくさまえときおとらず随分ずいぶんくるしい戦争せんそうでしたけれど、三ねんめにはすっかり片付かたづいてしまって、義家よしいえはまたひさりでみやこかえることになりました。
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
フランスのみやこパリにも、またロンドンにおとらないほどのおほきな博物館はくぶつかんがあります。それはルーヴル博物館はくぶつかんです。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
その間柄とうものはまことに骨肉の兄弟にもおとらず、父の死後私の代になって、栗園りつえん先生は福澤の家を第二の実家のような塩梅あんばいにして、死ぬまで交際して居ました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
びきは年も同じなら大きさも大てい同じ、どれも負けずおとらず生意気で、いたずらものでした。
蛙のゴム靴 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
精神的には導かれ守られる代りに、世俗的な煩労はんろう汚辱おじょくを一切おのが身に引受けること。僭越せんえつながらこれが自分のつとめだと思う。学も才も自分は後学の諸才人におとるかも知れぬ。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
火をつけるすべも知っています。そのほか一通りの悪事だけは、人におとらず知っています。——
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)