かり)” の例文
旧字:
霎時しばらく聞かせたまへ。我今かりかたちをあらはしてかたるといへども、神にあらず仏にあらず、もと一〇五非情ひじやうの物なれば人と異なるこころあり。
それは戦時中だが、長政の父久政のかりの葬儀が営まれ、次の日にいたるまで、本丸の奥のほうで、読経どきょうの声がもれていたからである。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うちの女房は、戸籍のほうでは、三十四歳という事になっていますが、それはこの世のかりの年齢で、実は、何百歳だかわからぬのです。
女神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
背山のかた大判司清澄だいはんじきよずみ——チョボの太夫の力強い声によび出されて、かり花道にあらわれたのは織物の𧘕𧘔かみしもをきた立派な老人である。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かりに西洋の原書を離れて、これにうるに日本流の落語滑稽を以てせんとして、その種類を集めたらばいかなるものをべきや。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それはわたし権内けんないいことなのです。まあ、かんがえて御覧ごらんなさい、わたしかり貴方あなたをここからだしたとして、どんな利益りえきがありますか。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
さて我山中に入り場所ばしよよきを見立みたて、木のえだ藤蔓ふぢつるを以てかり小屋こやを作りこれを居所ゐどころとなし、おの/\犬をひき四方にわかれて熊をうかゞふ。
豊野より汽車に乗りて、軽井沢にゆく。途次線路のやぶれたるところ多し、又かりつくろいたるのみなれば、そこに来るごとに車のあゆみをゆるくす。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
とドノバンがシャツのそでをちぎって、くるくるとゆわえた。見る見る鮮血せんけつかりほうたいをまっかに染めた。ドノバンはじっとそれをみつめた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
しか労力らうりよく仕払しはらふべき、報酬はうしうりやう莫大ばくだいなるにくるしんで、生命いのちにもへて最惜いとをし恋人こひびとかりうばふて、交換かうくわんすべき条件でうけんつる人質ひとじちたに相違さうゐない。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こまったものだな。うっちゃっておくわけにもいかない。かりにも観音かんのんさまにおねがもうしているというのだから、せめてものだけはやることにしよう。」
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
れ馬琴が腔子裏こうしりの事なりといえども、かりに馬琴をして在らしむるも、が言を聴かば、含笑がんしょうして点頭てんとうせん。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これために無けなしの懐裏ふところを百七十円ほどいためて、うんと参つた、かり小文学せうぶんがくをも硯友社けんいうしや機関きくわんかぞへると、それが第七期、これが第八期で、だ第九期なる者が有る
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
千里ちさとのほかまでと思ひやるに添ひても行かれぬものなれば唯うらやましうて、これをかりに鏡となしたらば人のかげもうつるべしやなど果敢はかなき事さへ思ひ出でらる。
月の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その歴史がこういう歴史であったとかりさだめてごらんなさい……この教会を建てた人はまことに貧乏人であった、この教会を建てた人は学問も別にない人であった
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
かりに盥ほどもある大きい硝子ガラスかたまりだったとしたら、そいつは私の眼にもうつらないで、この室から外へ抛げることが出来たでしょう。その外に解きようがありません。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
田端の画室のかりけいこ場へ登場して、御家庭にも親しんでみたいと思っておりましたが、なかなか家を出ないのがわたくしの癖で、そうしなければと思っているうちが
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
○この頃の暑さにもかねて風を起す機械を欲しと言へば、碧梧桐のみずから作りて我が寐床の上にりくれたる、かりにこれを名づけて風板といふ。夏の季にもやなるべき。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
(中略)なんぢがあふて見度みたしと思ふ女のねんごろにする男のふところの中に入れば、その男の魂ぬけいで、汝かりに其男に入れかはりて、相手の女を自由にする事、又なき楽しみにあらずや
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そういうことまでを説明した書物は、まだ出ていないようであり、かりにこういうわけだろうと言った人があったところで、たしかだと思うことができなければ役には立たぬ。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
えらびました。培養液として選んだのは第二村木液とかりに私が命名している生理液です
人造人間 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
けだし当時の王と称する者、皆いわゆる仁義をかりはかる者なり。これをもってその法王にねいする、彼がごとくついに世を救うゆえんのものをもって、民を土炭とたんおとしいるるに至る。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
おれにゃ、うそ坊主ぼうずあたまァいえねえよ。——かりにもおんなじ芝居しばいものが、こんなことを、ありもしねえのにいってねえ。それこそ簀巻すまきにして、隅田川すみだがわのまんなかへおッまれらァな
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そしてまたみやこへお帰りになろうとなさいますと、その出雲の国をおあずかりしている、国造くにのみやつこという、いちばん上の役人が、かわの中へかりのお宮をつくり、それへ、細木ほそきんだ橋を渡して
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
この少年しょうねんは、られなかった。わたしかりにケーとづけておきます。
眠い町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「アツセ・アングレエズ」、「サラド・ルツス」其れからサンドヰツチを油で揚げた様な物で名がわからないからかりに梅原が名を附けた「サンドヰツチ・ムネ・シユリイ」に「タルト」と云ふ菓子。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
すべてがかりで、わびしく、落ち着かなかった。吉左衛門は半蔵に力を添えて、大工を呼べ、新しい母屋の絵図面を引けなどと言って、普請工事の下相談もすでに始まりかけているところであった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
色と動と音と千変万化の無尽蔵たる海洋のほとり。野にいた彼には、此等のものが時々まぼろしの如く立現われる。然しながらかりにサハラ、ゴビの一切水に縁遠い境に住まねばならぬとなったら如何どうであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
類焼るいしょうの跡にてその灰をき、かりに松板を以て高さ二間ばかりに五百間の外囲そとがこいをなすに、天保てんぽう時代の金にておよそ三千両なりという。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
さけこゝにいたりて激浪げきらうにのぼりかねて猶予たゆたふゆゑ、漁師れふしどもかり柴橋しばはしかけわたし、きしにちかきいはの上の雪をほりすてこゝに居てかの掻網かきあみをなす。
約束がきまって、男は三両の金を渡したので、孫十郎はかり請取うけとりをかいて渡した。帰るときに、男は念を押して云った。
半七捕物帳:42 仮面 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
穴山梅雪のかりやかたでは、もうしょくをともして、侍女こしもとたちが、ことをかなでて、にぎわっているところだった。そこへひとりの家臣が、こう取りついできた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かりにも先生せんせいんだ貴下あなたむかつて、うそへません。……一度いちどやう、是非ぜひたい。うまれない以前いぜんから雪枝ゆきえ身躰からだとは、許嫁いひなづけ約束やくそくがあるやうな土地とちです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
君が今日家の子をしやうじ給ふにでて、翁が思ふ三四こころばへをもかたりなぐさまんとて、かりかたちあらはし侍るが、十にひとつもやうなき閑談むだごとながら、三五いはざるは腹みつれば
みんなはあの三にんのおじいさんは、住吉すみよし明神みょうじんさまと、熊野くまの権現ごんげんさまと、男山おとこやま八幡はちまんさまがかり姿すがたをおあらわしになったものであることをはじめてって、不思議ふしぎおもいながら
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
またはき魂のかりの姿かもしれぬといって、いかなる悪太郎あくたろうも捕獲をさし控えさせられる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
桂木先生と誰れも褒めしが、下宿は十町ばかり我が家の北に、法正寺と呼ぶ寺の離室はなれかりずみなりけり、幼なきより教へを受くれば、習慣ならはしうせがたく我を愛し給ふこと人に越えて
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そうして各人かくじん正当せいとうおわりであるとするなれば、なんため人々ひとびと邪魔じゃまをするのか。かりにある商人しょうにんとか、ある官吏かんりとかが、五ねんねん余計よけい生延いきのびたとしてところで、それがなんになるか。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
飛んだことでお気の毒だが、これア、何かおかみの間違いに違いあるまい。お前さんのようなお人がかりにもお奉行所へ呼び出されるなんてことは、ほんとの災難だ。——だが心配は無用にさっしゃい。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
橋流れて水流れず、橋流れて水流れず、ハテナ、橋流れて水流れず、と口の中で扱い、胸の中でんでいると、たちまち昼間渡ったかりそめの橋が洶〻きょうきょうと流れる渓川たにがわの上に架渡かけわたされていた景色が眼に浮んだ。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ぼくどもは枯枝かれえだをひろひ石をあつめてかりかまどをなし、もたせたる食物を調てうぜんとし、あるひは水をたづねて茶をれば、上戸は酒のかんをいそぐもをかし。
あたまは、きれいに剃髪ていはつしており、それもこんどは、かりでなく、真光寺の内で得度とくどをうけていたのである。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かりに、もし、これことことことが、極度きよくど到着たうちやくしたとき結晶体けつしやうたいが、衣絵きぬゑさんの姿すがたるべき魔術まじゆつであつても、けて煮爛にたゞらかしてなんとする! ……
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
故に今かりに古人の言に従って孝を百行の本とするも、その孝徳を発生せしむるの根本は、夫婦の徳心に胚胎はいたいするものといわざるを得ず。男女の関係は人生に至大しだい至重しちょうの事なり。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それから諸国をめぐりあるいて江戸へはいって来たのは、ことしの花ももう散りかかる三月のなかばであった。彼は下谷辺のある安宿をかりの宿として、江戸市中を毎日遍歴した。
半七捕物帳:19 お照の父 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
勝連かつれん文化と私はかりに呼んでいるのだが、その勝連文化と首里・那覇を中心とした文化、すなわち浦添うらそえ文化とでも言うべきものとの間には、系統上の相異があったのではなかろうか。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かりに其の詞をれて、つらつら経久がなす所を見るに、九六万夫ばんぷゆう人にすぐれ、よく士卒いくさ習練たならすといへども、九七智を用ふるに狐疑こぎの心おほくして、九八腹心ふくしん爪牙さうがの家の子なし。
さりながらなふべきことならず、かりにもかゝるこゝろたんは、あいするならずしてがいするなり、いでいまよりは虚心きよしん平氣へいきむかしにかへりてなにごとをもおもふまじと、斷念だんねんいさましくむねすゞしくなるは
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そんなことはい、たとえば御覧ごらんなさい、貴方あなた中風ちゅうぶにでもかかったとか、あるいかり愚者ぐしゃ自分じぶん位置いち利用りようして貴方あなた公然こうぜんはずかしめていて、それがのちなんむくいしにんでしまったのをったならば
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ぼくどもは枯枝かれえだをひろひ石をあつめてかりかまどをなし、もたせたる食物を調てうぜんとし、あるひは水をたづねて茶をれば、上戸は酒のかんをいそぐもをかし。